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調査レポート

会社・上司への信頼に関する実態調査

551名の実態調査から見る、テレワーク環境下における会社・上司への信頼の変化と現状

  • 公開日:2020/11/30
  • 更新日:2024/06/03
551名の実態調査から見る、テレワーク環境下における会社・上司への信頼の変化と現状

一気に広がりを見せたテレワーク環境下で、職場の信頼はどうなっているのだろうか。会社や上司への信頼の現状(2020年9月中旬時点)と、新型コロナウイルス感染症拡大前からの変化について、実態調査を行った。

調査概要
約半数が会社・上司を信頼
会社信頼変化は約4割 上司信頼変化は約3割
健康・安全の重視度合いが、信頼の変化に影響
同じ施策でも、過程によって信頼への影響は異なる
金銭的補助と成果の評価への期待
会社信頼・上司信頼が高いほど、自らの働きかけも重要視

調査概要

調査対象は、20代から50代の会社勤務・正社員で、従業員規模300名以上の会社に入社して半年以上経っている一般社員である。半年間テレワークをまったく行っていない人は対象外とした。新型コロナウイルス感染症対策の地域差への考慮から首都圏在住者に限定して、性別・年齢層が均等になるように回収した。有効回答数は551名である(図表1)。

今回の調査では、職場の信頼のうち、テレワーク環境下におけるマネジメントのあり方に関係していると思われる、勤務している会社に対する信頼(以下、会社信頼)と、直属の上司に対する信頼(以下、上司信頼)について聞いた。

<図表1>調査概要「会社・上司への信頼に関する実態調査」

調査概要「会社・上司への信頼に関する実態調査」

約半数が会社・上司を信頼

まず、現在の会社信頼・上司信頼について、それぞれ4項目に対する回答を得た(図表2)。おおむね、約半数が肯定的な回答(「そう思う」「ややそう思う」)であった。

<図表2>現在の会社信頼・上司信頼

現在の会社信頼・上司信頼

以降の分析では、それぞれの4項目を平均して算出した会社信頼得点、上司信頼得点(「そう思わない」1点~「そう思う」5点)を、選択肢の意味合いと得点の分布の双方から高・中・低の3群に分けたものを用いた(高群:4点以上、低群:2.75点以下)。高・中・低群の出現率は、会社信頼は28.7%、47.2%、24.1%、上司信頼は26.9%、51.2%、22.0%である。

まず、仕事のやりがいなどの適応感との関係を確認しておこう(図表3)。会社信頼・上司信頼とも、信頼感と適応感との間に、総じてポジティブな関係が確認された。特に、会社信頼の方が、その傾向が顕著であった。

<図表3>会社信頼・上司信頼と適応感との関係

会社信頼・上司信頼と適応感との関係

それでは、会社信頼・上司信頼とテレワーク頻度との関係はどうだろうか(図表4)。緩やかに、高・中群は「ほぼ毎日」「月の半分程度」の割合が高く、低群は「現在は行っていない」の割合が高い。ただし、統計的に有意な差ではなかったため、参考情報として見ておくことにする。

<図表4>現在の会社信頼・上司信頼とテレワーク頻度との関係

現在の会社信頼・上司信頼とテレワーク頻度との関係

会社信頼変化は約4割 上司信頼変化は約3割

前述した現在の信頼は、調査回答時点(2020年9月中旬)でのものであるが、新型コロナウイルス感染症拡大前と比べて、変化したのか。「上がった」から「下がった」までの5段階で回答してもらった(図表5)。

<図表5>会社信頼・上司信頼の変化

会社信頼・上司信頼の変化

いずれも、「上がった」「下がった」のは少数であるが、「どちらかといえば」まで含めると、会社信頼が上がったのは23.2%、下がったのは19.6%、上司信頼が上がったのは15.3%、下がったのは16.4%である。足し合わせると、会社信頼が変化したのは42.8%、上司信頼が変化したのは31.7%だった。なお、「どちらともいえない」と回答した人の現在の信頼の内訳を見ると、高・低群が各2割ずつで、もともと高い・低いままという人も一定数いるようだ。

テレワーク頻度との関係を見ると、会社信頼・上司信頼とも、「上がった」に「ほぼ毎日」がやや多く、「下がった」に「現在は行っていない」がやや多い(図表6)。これは会社信頼のみ統計的に有意な差であった。

<図表6>会社信頼・上司信頼の変化とテレワーク頻度との関係(%)

会社信頼・上司信頼の変化とテレワーク頻度との関係(%)

健康・安全の重視度合いが、信頼の変化に影響

信頼の変化に何が影響しているのだろうか。まず、会社信頼の変化に影響していると思うものを選んだ結果が図表7である。

<図表7>会社信頼の変化に影響していること

会社信頼の変化に影響していること

会社信頼が「上がった」群は、「社員や関係者の健康や安全の重視度合い」を約6割、「雇用の安定」を約5割が選択していた。一方、「下がった」群は、「社員や関係者の健康や安全の重視度合い」「会社・事業の業績」を過半数が選択していた。「社員や関係者の健康や安全の重視度合い」について、両群とも過半数が選択していたのは、今回のタイミングならではの傾向だといえる。「上がった」群に特徴的なのは「雇用の安定」、「下がった」群に特徴的なのは「会社・事業の業績」「経営層の人柄」「職場の人間関係」だった。

続いて、上司信頼の変化に影響していることについては図表8のとおりである。

<図表8>上司信頼の変化に影響していること

上司信頼の変化に影響していること

上司信頼が「上がった」群は、会社信頼の場合と同様に、「上司による部下や関係者の健康や安全への配慮」が最多で7割近くが選択していた。「上司による部下へのメンタル面のサポート」「上司による部下への業績面のサポート」「上司の人柄」も4割以上が選択している。一方、「下がった」群でも、多く選ばれた項目は「上がった」群と同様で、「上司による部下への業績面のサポート」「上司の人柄」「上司による部下や関係者の健康や安全への配慮」「上司による部下へのメンタル面のサポート」が、4割以上選択されていた。

上司信頼の変化は、テレワーク環境下での上司コミュニケーション頻度の変化と関係があるのだろうか。上司信頼が「下がった」群では、コミュニケーションが「減った」という人が約4割だった(図表9-1)。コミュニケーションが減って信頼が下がったのか、その逆なのかはこの結果だけでは分からないが、上司信頼の変化とコミュニケーション頻度の変化との間には関係があるようだ。ただし、現在の上司信頼別では上司コミュニケーション頻度の変化に違いが見られなかった(図表9-2)。おおむね半年間でのコミュニケーション頻度の変化やそれにまつわる出来事が信頼の変化と関係している人と、頻度そのものは信頼の変化と関係がない人と両方いることが推察される。

<図表9>上司コミュニケーション頻度の変化

上司コミュニケーション頻度の変化

同じ施策でも、過程によって信頼への影響は異なる

それでは、具体的にどのような出来事が会社信頼・上司信頼に影響しているのだろうか。自由記述結果を図表10に紹介する。信頼の分類は研究分野によってもさまざまであるが、何に対する信頼かという対象によって、ここでは大きく「能力」「誠意」の2つのカテゴリで分類した。

<図表10>会社信頼・上司信頼に影響した出来事

会社信頼・上司信頼に影響した出来事

会社信頼に影響した出来事では、ポジティブ面、ネガティブ面共に、方針策定・実行といった能力的な側面では、テレワークなど施策導入の意思決定スピードに関するものが多く挙げられていた。あわせて、方針・中長期的視点の明確さや、経営トップからのコミュニケーション、情報開示に関するコメントが多く見られた。経営層の従業員に対する姿勢や企業倫理など誠意に関する側面では、健康・安全への配慮に関するコメントが非常に多かった。また、雇用の安定や経営者の人柄などに関するものも複数見られた。

同じようにテレワークを導入している場合でも、そのタイミングや付帯するメッセージによって、好意的にも否定的にも捉えられるということのようだ。施策にどのようなメッセージを込めるのか、意思決定の根拠などとあわせて伝えることの大切さが再認識される結果である。また、経営層の人柄については図表7でもネガティブな影響としての選択の方が多かったところだが、こうしてコメントを読むと、一般社員にとって、日頃距離感があるトップからのコミュニケーションが、こういうときこそ気になったり、心象に影響したりしている様子がうかがえた。

上司信頼は、テレワーク環境下で、上司が意図してコミュニケーションを積極的にとろうとしていることが信頼につながっているとのコメントが多かった。これは先の図表9-1で信頼変化と上司コミュニケーション頻度との関係にも通じるところである。コミュニケーション頻度というよりは、配慮などコミュニケーションの内容が信頼形成に影響しているというコメントも多く確認された。図表9-2で現在の信頼と上司コミュニケーション頻度との間に関係がなかったのは、こういうところなのかもしれない。

一方、ネガティブ面では、能力、人柄に対する不信感に関するエピソードが複数見られた。日頃からの信頼がないのに、急に態度を変えてもそれがポジティブに受け入れられない様子も垣間見られた。上司信頼は会社信頼に比べると、もともとあった信頼関係のベースは大きくは変わらないところでの、信頼が上がった・下がった出来事が書かれていたという印象を受けた。

金銭的補助と成果の評価への期待

テレワーク環境下で、仕事を円滑に進めることや職場の信頼構築に役に立つ仕組み・制度はどのようなものだろうか。図表11によると、「オンライン会議ができるツール」については、現在導入、役に立つと思うもの共に、選択割合が高かった。両者の間でギャップが最も大きかったのは、「リモートワークのための金銭的補助」である。現在導入が18.0%に対して、59.0%が役に立つとして選択していた。金銭的補助がないことへの不満は、図表10で紹介したコメント以外にも、同様の記載が多くあった。「労働時間よりも、仕事の成果がきちんと評価される仕組み・制度」も、現在導入が25.8%に対して、役に立つと思うという回答が47.7%だった。「労働時間が、正しく管理・評価される仕組み・制度」とあわせての導入の期待が見てとれる。

<図表11>職場の信頼構築に役に立つ仕組みや制度

職場の信頼構築に役に立つ仕組みや制度

会社信頼・上司信頼が高いほど、自らの働きかけも重要視

最後に、職場の信頼構築に関する意識について、2つの結果を紹介する(図表12)。「テレワークで、職場での信頼関係を構築するのが大変なときがある」と回答したのは6割弱だった(「とてもあてはまる」~「ややあてはまる」)。大変かどうかの程度には個人差があるようだ。また、「職場での信頼を獲得するには、自分からの働きかけが重要だと思う」は、8割弱もいた。

<図表12>職場での信頼関係構築に関する働きかけ

職場での信頼関係構築に関する働きかけ

なお、会社信頼・上司信頼の高群ほど、自分からの働きかけが重要だという回答の割合が高かった(図表13)。会社信頼・上司信頼が醸成されている状態というのは、会社や上司の能力や配慮に対して、信頼を受動的に感じているだけでなく、自らも信頼獲得の必要性を認識して働きかけていることの相互作用の結果であることがうかがえる。

<図表13>会社信頼・上司信頼別 職場での信頼関係構築に関する働きかけ

会社信頼・上司信頼別 職場での信頼関係構築に関する働きかけ

具体的にはどのようなことを心がけているのだろうか。先の自由記述と同様に、2つのカテゴリで分類して抜粋したのが図表14である。まず、能力面では、成果のアピール、コミュニケーション上の工夫、主体性を発揮した行動について多くのコメントがあった。もともと意識していたことに加えて、テレワークだからこそのコミュニケーション上の配慮や工夫、主体的な援助要請、学びの還元など、仕事内容は異なっても同じような心がけをしていることが散見された。配慮、誠実・一貫性に関する内容は、普段から意識していることが多く挙げられている印象だった。

<図表14>職場での信頼獲得のために意識していること<自由記述結果を基に抜粋>

職場での信頼獲得のために意識していること<自由記述結果を基に抜粋>

今回、先行研究でもさまざまな定義や切り口で検討されてきた信頼という複雑な概念について、非常に簡単な形ではあるが意識調査を試みた。それでも、今この瞬間でしかおさえられない生の声を確認できたことは有意義だった。テレワーク実施の頻度そのものというよりは、そこに至る意思決定のスピードや根拠、コミュニケーションのあり方が影響していたし、会社・上司から人として大事にされていると思えるかどうかが、信頼に大きく関係することが確認できた。

本調査については、企業属性や職場の特徴、年齢層や職種、一般的信頼傾向などの個人特性との関係含めて、継続的に分析を進めていきたい。また、上司信頼に関しては、上司・部下コミュニケーションについて、同時期に、より詳細な調査も実施している。お互いの期待値によってもすれ違うコミュニケーション。従前からあった課題とテレワークだからこそ浮き彫りになる問題と、両方ありそうである。こちらも後日紹介したい。

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.60 特集1「リモート時代の職場の信頼」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

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主任研究員

藤村 直子

人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)、リクルートにて人事アセスメントの研究・開発、新規事業企画等に従事した後、人材紹介サービス会社での経営人材キャリア開発支援等を経て、2007年より現職。経験学習と持論形成、中高年のキャリア等に関する調査・研究や、機関誌RMS Messageの企画・編集・調査を行う。

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