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調査レポート

オープン・イノベーションに関する実態調査

人・組織の視点から見る、社外連携を成功させるポイント

  • 公開日:2019/04/08
  • 更新日:2024/03/15
人・組織の視点から見る、社外連携を成功させるポイント

新規事業開発、新技術開発、新商品・サービス開発において、外部の経営資源をいかに効果的に活用するかというオープン・イノベーションの議論が盛んである。では、実際に新規開発の担当者は、何を課題と捉え、オープン化という手法にどのような期待や手ごたえを見出しているのだろうか。334名へのアンケート調査をひもといていきたい。

目次
調査概要
企業の成長とイノベーション
オープン化の理由
リスクをとった探索活動と 外部に開いた組織デザインが鍵
自社の明確な戦略とオーナーシップ 社外との対等なパートナーシップ
専門・業務外の情報や社会への関心とやり遂げるエネルギー

調査概要

業員規模300名以上の企業において、新規事業開発、新技術開発、新商品・サービス開発(以降、新規開発と記述)に、自らの業務として携わっている方を対象にアンケート調査を行い、334名から回答を得た(図表1)。新規開発の対象を技術などに限定せず、従事する開発フェーズ(複数回答)も「0⇒1」44.3%、「1⇒10」67.7%、「10⇒100」37.4%、「縮小・撤退」3.3%と幅広い。イノベーションに向けた新規開発活動の範囲を広く捉えた調査としてご覧いただきたい。

調査概要

企業の成長とイノベーション

そもそも、イノベーションは企業の成長にとって必要なものなのだろうか。また、どの程度身近に起こっているのか。この10年(あるいは10年以内の創業から今日まで)に、「自社の有力製品・サービスを根本から変えるような、新規事業、新技術、新商品・サービスの数」が、同業他社と比べて多く生まれているとする回答は全体の35.9%である。

イノベーションの創出数と営業利益成長率には相関関係が見られる(図表2)。業界水準より高い営業利益成長率を維持できている企業は、業界水準を超えるイノベーションを生み出してきた回答者群では71.3%を占めるのに対し、業界水準と同程度以下の群では24.9%、業界水準未満の回答群に絞るとわずか7.4%にまで落ち込む。イノベーションと企業の成長との関連は強いといえそうだ。

イノベーションの創出数と営業利益成長率の関係

では、イノベーションを生み出す新規活動において、外部の資源を活用するオープン化はどのような意味をもつのだろうか。実際に新規開発に携わる現場社員の視点から、オープン化の潮流と意義を検討していく。

オープン化の理由

新規開発の現場で、イノベーションプロセスのオープン化(外部の組織と連携し、その経営資源を活用すること)はどの程度推進され、どのような効果や難しさを生み出しているのだろうか。担当する新規開発業務においてオープン化が推進されているとの回答は64.4%(図表3)。新規開発において社外連携による成果が見られる企業が3分の2、自前主義を貫いている企業は3分の1であり、多くの企業でオープン・イノベーションの活動が見られる。

オープン・イノベーションの推進状況

オープン・イノベーションを推進する/しない理由をそれぞれ図表4にまとめた。担当業務または全社的にオープン化が推進されているとした回答者をオープン化推進群(236名)として分析を進めていく。

オープン・イノベーションを推進する/しない理由

推進群では、オープン化は、結果を出すスピードを速める、新しい技術を取り入れる、用途や市場の開拓、技術的課題の解決などの役に立つ、と考えられている。連携先候補が具体的に見つかったためとする回答は少なく、オープン・イノベーションは連携先の探索から開始されることが考えられる。

一方、非推進群がオープン化を推進しない理由としては、自社の知識・技術の流出懸念が強いようだ。

オープン化推進群の市場環境と重点課題を図表5から読み取ることができる。「競争状態が非常に激しい」「市場の成長率が高い」との認識がより強く、リスクをとってでもオープン化を図り、スピードを志向する理由がうかがえる。また重点課題として、ブランド創造や効果的なマーケティング・販売プロセスの開発、新規顧客基盤の開拓、デジタル技術の進展への対応を挙げる割合が高く、社外に求めるのはそのような技術や資源への期待と考えられる。

オープン・イノベーション推進状況別担当する新規開発領域の市場環境と重点課題

リスクをとった探索活動と 外部に開いた組織デザインが鍵

オープン化推進群の約半数、56.4%が、社外連携は総じて順調(11.9%)/どちらかといえば順調(44.5%)と回答している。オープン化を成功させる鍵は何だろうか。

外部の知識・技術や連携先の探索活動には、社外連携の順調群とそうでない群とで異なる点が見られる(図表6)。順調群では探索活動が全体的に活発である。「探索は行っていない」との回答はわずか3.0%であり、非順調群の17.5%とは大きな開きがある。また、自社のニーズや課題、自社が開発した技術を公開するリスクを積極的にとっている(項目5、6)。日本企業が従来強みとしてきた系列企業を通じた探索などに加え、よりリスクをとった新たな連携先開拓が、順調な社外連携につながっている可能性がうかがえる。

また、社内を集約し外部とつなげる専門部署の設置(項目7)、技術フォーマットを統一した開発プラットフォームの提供(項目9)、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(項目10)など組織デザインにも違いが見られた。

外部の知識・技術や連携先の探索方法

探索活動の違いも反映されているようだ。社外連携の順調群の方が連携先の種類が多く、大学・研究所、ITベンチャーに加えて、IT以外のベンチャーや異業種・同業他社に対しても積極的に新規性の高い連携を実現している(図表7)。

連携している外部パートナー

自社の明確な戦略とオーナーシップ 社外との対等なパートナーシップ

意思決定や人材マネジメントなど組織プロセスに関するものを中心に、現場社員の考えるオープン・イノベーションの成功要因を図表8にまとめた。「1.新規事業開発および新商品開発に関する戦略の明確さ」「2.自社の強みの明確さ」「3.自社の意思決定のスピード」が成功要因であると半数以上が回答。「4.自社内の意思決定者が明確で、強いオーナーシップがあること」「5.チャレンジ精神・失敗奨励の組織風土」が約4割で続く。

社外連携の順調群と非順調群で差が見られたのは「6.撤退判断までの時間軸を長くとり、成功するまでやりぬくこと」である。「9.アイディアを精査・選抜する仕組み」「10.社外の連携先に関する情報収集」といった探索活動に関する項目、「12.社外の連携先の意思決定のスピード」「15.自社優位・優先でなく、対等なパートナーシップの意識」といった社外連携先との関係性に関する項目にも差が見られる。

非順調群の回答率が順調群を上回ったのは、「16.担当者の熱意」「17.現場への権限委譲」「18.運・タイミング」の3項目であった。全体としての回答率は高くないが、イノベーション不振の現場における担当者の権限不足と孤軍奮闘の表れとも解釈できる。

オープン・イノベーションを成功させる要因と思うもの

戦略や自社の強みが明確であるから、自社や連携先企業の意思決定のスピードを速めることができる。現場に権限を渡しつつ責任は押し付けない。自社のオーナーシップと社内外の対等で自律した関係性があるから、成功するまでやりぬくことができる。そのような組織像を描くことができそうである。オープン化の苦労や成功体験の声などをまとめた図表9もあわせて参照されたい。

 オープン化に関しての苦労や成功体験および意見

オープン・イノベーションに向いた組織風土というものもありそうだ。「協働や助け合い」「自由裁量」「競争」の風土はいずれも、社外連携の順調群に多い。形式主義的な風土に苦労することに違いはない様子で、順調/非順調群に明確な差は見られない(図表10)。

担当する新規開発を推進・主管している部門の風土

専門・業務外の情報や社会への関心とやり遂げるエネルギー

担当者自身の社外連携のなかでの経験や、新規開発を担当する人材が、強化していく必要があるものについても聞いた。約半数が個人的な学びや収穫を実感しており、順調群の方が、楽しさや社内での影響力を実感する傾向が見られる一方、プロジェクト推進の苦労も順調群の回答率が高かった。

強化すべき行動や能力についての回答を図表11にまとめた。発想力や論理的に思考・説明する能力、他者の巻き込み力などが共通して挙げられる(項目1、3、4)。

順調群では「2.専門外の知識の豊富さ・業務外の情報への関心」への重視度が高い。探索活動同様、いかに自社の慣習の外にある知識や連携先にアクセスするかが重視されているようだ。また、「8.苦難を乗り越え、最後までやり遂げるエネルギー」「11.社会の課題を解決したいという強い思い」など、図表8で見たオープン・イノベーションの成功要因と同様、やり遂げることを強調する傾向が目を引く。

非順調群では、「10.社内外の技術・アイディアの目利き力」「12.既存事業・商品との軋轢を恐れないこと」が順調群を上回って選択されており、慣習の外に出て新しいものを生み出す難しさが、別の側面から語られている。

新規開発を担当する人材が、強化していく必要があるもの

以上、イノベーションの意義、オープン化推進有無の理由を概観した上で、社外連携を成功させるポイントを組織デザイン、組織プロセス、組織風土、人材の能力などの側面から分析してきた。変化が速く不確実性の高い時代に、組織の境界や慣習の外に出て新しいものを生み出そうとする活動に、本調査が1つの参考となれば幸いである。

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.53 特集1「オープン・イノベーションを成功させる組織のあり方」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

執筆者

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組織行動研究所
客員研究員

藤澤 理恵

リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所主任研究員を経て、東京都立大学経済経営学部助教、博士(経営学)。
“ビジネス”と”ソーシャル”のあいだの「越境」、仕事を自らリ・デザインする「ジョブ・クラフティング」、「HRM(人的資源管理)の柔軟性」などをテーマに研究を行っている。
経営行動科学学会第18回JAAS AWARD奨励研究賞(2021年)・第25回大会優秀賞(2022年)、人材育成学会2020年度奨励賞。

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