職場での「適材適所」に関する実態調査 一般社員、管理職492 人に聞く、従業員自身が認識する「適材適所」の実態

執筆者情報
組織行動研究所
主任研究員
藤村 直子

従業員はどのような状態であれば自分にとっての適材適所だと思えるのか。上司は部下の適材適所のために何を行っているのか。職場における適材適所の実態を明らかにするために調査を実施した。


調査概要

「適材適所」は企業側の言葉ではあるが、従業員自身も、自分に合った職場に配属されているか、仕事に就いているかというような、組織や仕事に対する適合度を認識しているものである。適材適所を実現するための配置・異動施策に関する企業調査は散見されるが、本調査では、従業員の声をもとに職場における適材適所の実態を明らかにすることを試みる。従業員自身が認識する組織や仕事に対する適合度やそれらを促進・阻害する要因に加え、上司による部下への支援行動について明らかにし、従業員にとっての適材適所とは何かを考えるヒントを得ていきたい。

調査概要は図表1のとおりである。組織や仕事への適合度やこれまでの異動経験を聞くことから、社会人経験3年目以降の20代半ばから40代の正社員を対象とした。分析に際しては、適合度や要因の認識は一律ではなく、属性や志向によって傾向が異なることも考慮し、グループ別集計も行っている。特に差が見られたものを中心に紹介していきたい。

適材適所の実現状況

まず、自分にとっての適材適所の実現状況はどれくらいだと思っているだろうか。会社、職場、仕事、上司それぞれについて、その適合度をたずねたところ、いずれも「とても合っている」との回答は1割にも満たなかった(図表2)。なかでも、上司との適合度が最も低く、積極肯定群(「とても合っている」「合っている」の合計)は会社、職場、仕事に対しては3割を超えるのに対して、上司に対しては2割強であった。「どちらかといえば合っている」を加えても6割強にとどまり、3人に1人は上司と自分は合っていないと考えているようだ。

属性別には、一般社員よりも管理職の方が仕事への適合度がやや高く、職務系統別には、会社への適合度について、サービス系より事務系の方が高いことが特徴的だった。

適材適所のために重視していること

それでは、どのような状況下で、適合度は高まると考えているのだろうか。一般社員と管理職とで傾向の違いが確認されたため、その結果を紹介したい。図表3は、自分に合った会社、仕事を考える観点として「まったく重視していない」(1点)から「とても重視している」(6点)までの回答の平均値を一般社員・管理職別に集計したものである。

「4.人間関係の良い職場」「10.希望する年収、給与」「11.希望する働き方」は両者ともに重視度が高かったが、「2.自分のやりたいことに合っている」「3.自分の成長につながる」「7.周囲から必要とされる」「8.ビジョンや理念に共感できる経営者」「9.社会的に意義のある事業や仕事」の5項目は管理職の方が統計的に有意に高かった。

他の属性別での平均値の比較についても、いくつか興味深い結果が得られた。性別では女性の方が「4.人間関係の良い職場」「6.職場の雰囲気や仕事の進め方」「11.希望する働き方」を重視していた。年齢層では、20代において「4.人間関係の良い職場」を重視する傾向が顕著に見られた。また、志向別では、家庭重視志向【*1】が高い群は「7.周囲から必要とされる」「11.希望する働き方」を、専門性志向【*2】が高い群は、仕事に関するもの(1〜3)や、「7.周囲から必要とされる」「8.ビジョンや理念に共感できる経営者」「9.社会的に意義のある事業や仕事」を重視していた。

*1 家庭重視志向:「仕事よりも趣味や家庭を大事にしたい」への回答
*2 専門性志向:「仕事上で、積み上げていきたい専門領域がある」への回答

適材適所の障害

続いて、何が本人にとっての適材適所の障害となっていると思っているのかを見ていきたい(図表4)。自分に合った仕事で働く上で、障害になっていることとして、約4割が「1.異動は会社要請で決まる」と認識しており、最も高い選択率であった。次に多く選ばれていたのは「2.個人の意志を反映できる制度がない」「4.異動希望を出しても経営・人事が実現してくれない」である。

志向別には、専門性志向が低い群では、「9.力量の限界」や自己理解不足に関すること(10、11)が多く選ばれていた。キャリア意識【*3】が高い群では、異動希望が実現されないこと(3、4) を、低い群では、自己理解不足に関すること(10、11)を障害と感じていた。職務系統別には、技術系において、社内で他の可能性を考えにくいこと(6、7)や「9.力量の限界」が多く選択されていた。

*3 キャリア意識:志向の明確さ、キャリア形成への見通し、市場価値への意識など6項目の平均値

異動経験

ここからは、適材適所にも密接に関連する異動についてたずねた結果を紹介する。現在の勤務先で異動経験を経験しているのは492名中313名(63.6%)で、そのうち、異動回数は1回が29.4%、2回が22.4%、3回以上が48.2%だった。

異動経験のある313名にさらにたずねたところ(図表5)、「1.職種・業種が変わる異動」を36.4%が経験していた。また、「2.自己申告」で異動が実現した人は 16.6%いたが、「3.社内公募」では5.1%にとどまった。

苦労した経験としては、「6.上司との人間関係」が23.6%、「5.自分の適性と合わない仕事」が17.6%と多く、「8.異動後に職場や人事からのフォローがなかった」も14.4%いた。職務系統別には、事務系と技術系において「5.自分の適性と合わない仕事」が多かった。人間関係については、「7.同僚との人間関係」は事務系に、「6.上司との人間関係」はサービス系に多く見られた。

今となっては良かった経験

本人にとって不本意な異動、人間関係での苦労など、ネガティブな感情に直面することもある異動であるが、後になって振り返ると良い経験だったと思えることもあるだろう。職場や仕事への適合感が変化する可能性に着目して、「着任当初は、不本意だったり、うまくいかなくて困ったけれど、今となっては良かったと思える経験」にはどのようなものがあるのかをたずねてみた。自由記述回答を分類した結果が図表6である。

最も多かったのは、「コミュニケーションの大切さを理解した」というような、ものの見方の変化や視野の広がりを感じた経験である。他には、成長・やりがいを感じられるようになった人や、仕事の幅が広がった、知識・スキルを習得した、人脈が広がったというように今後の仕事につながる経験ができたので良かったと捉えている人も多かった。自社についての理解が深まった、変化に対する適応力が向上した、新たな適性の発見につながったというような、ローテーション人事の効用としても捉えられている観点に触れた経験も複数見られた。また、「その他」に挙げたような、学びの機会や家族との時間の増加など、直接仕事経験から得たものだけではないものを理由とするコメントもあった。一方、そのような経験はない、不本意なまま変わらないというコメントも一定数見られた。

制度の役立ち状況

異動に関する勤務先企業の制度や仕組みとしては、「1.定期異動・ローテーション」「2.自己申告」は4割強、「7.キャリア開発研修」は3割強、「3.社内公募」は3割弱があるとの回答だった(図表7)。そのうち役に立っている割合としては、「3.社内公募」は16.5%と最も低かった。ただし、志向別に見ると、40代後半、専門性志向が高い群、キャリア意識が高い群では、社内公募の役立ち度合いが相対的に高かった。一方、制度がある割合は低いものの役に立っている割合が高いのは、「12.副業OK」「6.異動者のための支援プログラム」だった。

上司の支援活動

ここまで従業員自身の認識について見てきたが、最後に、管理職が部下の適材適所をどのように支援しているのか、その回答結果を紹介する(図表8)。「1.部下に合った仕事の割当」「2.部下の強みや弱みを理解」は積極肯定群(「とてもあてはまる」「あてはまる」の合計)が5割前後と多く行われていた。「3.部下の志向を理解」「4.キャリアについて話し合う」は、それよりもやや少なく4割弱だった。「5.異動支援」まで行っているのは2割強だった。ただし、図表8-2のとおり、上司本人のキャリア意識が高いと、「2.部下の強みや弱みを理解」「3.部下の志向を理解」「4.キャリアについて話し合う」といった、部下理解やキャリアに関する支援行動が多くとられていることが分かった。女性管理職にも同様の傾向が見られた。「6.不本意な異動をしてきた部下の指導・育成に苦労した」については、「ややあてはまる」も含めると3分の2が苦労した経験を有していた。「7.成果をあげている部下を異動させたくない」という管理職は、「ややあてはまる」も含めると半数以上いた。

上司が異動してきた部下に困っていること

上記のとおり、3分の2の管理職が異動してきた部下の指導・育成に何らか苦労した経験があるが、具体的にはどのようなものだろうか。図表9のとおり、「1.力量が足りない」が最多で半数以上の管理職が経験していた。異動してきた部下への対応で、特に困った経験、苦労した経験を聞いた自由記述回答(グラフ横に抜粋して記載)においても「業務多忙の時期で対応できなかった」「即戦力にならなかった」など、能力・スキル面に関するコメントが多く見られた。続いて多い「3.不本意な異動でやる気がない」「4.本人の適性理解と自分の認識が異なる」「2職場の風土に合わない」についても、自由記述回答で同様のコメントが複数見られた。

職務系統別には、「3.不本意な異動でやる気がない」はサービス系が最も多かった。「2.職場の風土に合わない」は技術系が最も多く、知識・スキル重視4. 部下の今後のキャリアについて、話し合う機会をもつようにしているで配置することの弊害も推察される。

おわりに

従業員にとっての適材適所の実現、適合感の向上のために、本人が重視していることには、属性や志向による個人差が見られた。筆者が転職相談を行っていた際にも常々感じていたことだが、重視する程度やその優先順位には個人のなかで濃淡があり、本調査でも、キャリア意識、専門性を重視する程度、ワーク・ライフ・バランスに関する意識、経験年数や世代によっても異なる可能性が示唆された。

だからといって、必ずしも最初から本人の希望どおりに異動を行えばよい、ということでもない。異動が会社意向であることが適材適所を実現する上での障害であるとの声が聞かれたが(図表4)、自由記述コメント(図表6)でも紹介したように、最初不本意でも、経験してみて初めて得られるものもあるからだ。

一方、本人の組織や仕事への適合度の認識と、成果発揮や適応感・満足度との間には、正の相関があることが先行研究でも明らかになっている。本論では触れなかったが、本調査でも同様の傾向が確認された。適合度を高めることには効果があり、そのための複合的かつ個別的なプロセスが必要になるということだろう。例えば、キャリア意識の高い人には、社内公募などの仕組みも用いながら本人の意向も汲む機会を設けること、能力・スキルだけでなく職場の人間関係にも配慮した異動を行うこと、異動後には上司が期待を伝え、必要とされている感覚をもてるようにすることなどが求められそうだ。さらには、受け入れ側の上司に対するフォローも必要かもしれない。

適合度が高まっていくプロセスは、経験を通じて本人が成長していく格好のチャンスともなる。制度、上司、本人の意識などさまざまな変数があり、多くの従業員がいるなかですべてを満たすことは難しいかもしれないが、今回の調査が従業員視点での適材適所を考えるヒントになれば幸いである。


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.49 特集1「適材適所 偶発をデザインする」より抜粋一部修正したものである。
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