調査レポート
人事評価制度に対する意識調査
働きがいを高める人事評価とコミュニケーションの鍵とは?
- 公開日:2017/05/26
- 更新日:2024/03/11
会社員は、人事評価制度をどう思っているのだろうか。正社員519名に調査を行った。
本報告では、特に評価者である上司と部下のコミュニケーション場面に注目してみる。
- 目次
- はじめに
- 調査概要
- 8割は人事評価を重視 半数は制度に不満を感じる
- 不満の理由はあいまいさ
- より良い評価制度への期待 仕組みもコミュニケーションも
- 不満の放置リスク 組織への貢献意欲に差が生じる
- MBOをめぐる 上司と部下の会話の実態とは
- 評価をめぐる 上司とのコミュニケーションで意欲が上がる瞬間・下がる瞬間
- 最後に─ 人事評価という個と組織の結節点をデザインする
はじめに
一定規模の企業の多くには人事評価制度が存在する。人が組織のなかで成果を上げていくために、必要な仕組みだからだ。しかし現実には「評価制度が好きだ」という会社員は稀なのではないか。人事評価制度は、会社員にとってどうあるべきなのか。本稿は人事評価制度に対する会社員の意識調査の集計結果を報告する。
調査概要
2016年12月、「自社に人事評価制度がある」と回答した20代~40代の正社員(管理職を除く)を対象に、人事評価制度に対する意識調査を行った。調査の際は、従業員規模や、職種が偏らないよう調整を行った。
8割は人事評価を重視 半数は制度に不満を感じる
まず、そもそも働く個人は、自分の人事評価の結果をどの程度重視しているのだろうか。「自分の人事評価をどの程度重視しているか」という設問に対しては、約8割が「重視」(「とても重視」「重視」「どちらかといえば重視」の選択率の合計)と回答した(図表2)。
しかし、「現在の人事評価制度に対して満足しているか」との質問に「満足している」(「とても満足」「満足」「どちらかといえば満足」合計)と回答したのは約半数にとどまる結果となった(図表3)。なお、職種別に比較すると、営業系の満足群の割合が最も高く、6割程度が満足していた。
不満の理由はあいまいさ
何が、満足と不満足を分かつ原因となっているのだろうか。その理由を確認したのが図表4である。
まず、「満足している」と回答した群は、その理由として、「会社が評価制度について具体的な情報を開示しているから」(44.6%)、「何を頑張ったら評価されるかが明確だから」(41.0%)を選択する率が高かった。
対象的に、「不満足である」と回答した群は、その理由として「何を頑張ったら評価されるのかがあいまいだから」(54.4%)、「評価基準があいまいだから」(47.6%)を選択する率が高い結果となった。
さらに、「努力しても報われないから」(31.5%)なども選択されており、評価において、「自分は何に向けて頑張ったらいいのか」があいまいになってきたとき、不満を感じるようだ。基準・手続きの公正さが重要とする先行研究結果に追従しつつも、加えて努力すべき方向性の明確さを求めているようにも見える。
より良い評価制度への期待 仕組みもコミュニケーションも
この「あいまいさ」への不満は、どうしたら解消できるのか。今回、人事評価制度に対して「改善してほしいこと」を自由記述で回答してもらった。コメントとして多かった観点は、「評価内容・基準の改善」「透明性・制度理解の促進」「評価者・上司への不満の解決」の3つである(図表5)。
評価制度そのもののみならず、その運用方法、特に上司との接点場面の改善への期待が高いことが分かる。
不満の放置リスク 組織への貢献意欲に差が生じる
では、人事評価制度に対する不満が生じると、どのような影響があるのか。
今回、人事評価制度に対する満足度の結果から、満足群(とても満足・満足・どちらかといえば満足)/不満足群(とても不満足・不満足・どちらかといえば不満足)に分けて、仕事や職場に対する意識を確認した。得点は「1.まったくあてはまらない」~「6.とてもあてはまる」の6段階の平均値である(図表6)。
まず仕事・キャリアに関する意識は、2群間に差は見られず、全体としては、ポストよりも、金銭的安定や自身の成長・才能の発揮を重視する傾向が見られた。しかし、会社・組織への貢献意欲・満足度については、差が見られた。人事評価制度への満足度が、会社への貢献意欲ややりがいなどと関係が深いことが示唆される結果である。
MBOをめぐる 上司と部下の会話の実態とは
「自分は、何を頑張るのか」という目標を自らデザインし、組織とすり合わせ、評価を行っていくことのできる制度が、目標管理制度(MBO制度)である。運用上、さまざまな課題が指摘されているものの、人の意欲と企業の成果をつなぐ重要な仕組みである。人事に対して行ったある調査によれば、企業における導入率は9割と高い(「人事評価制度の実態と運用に関する調査」(『労政時報』第3873号、2014年)。
その制度の運用において、今回は特に目標や評価結果をめぐる上司と部下のコミュニケーションの実態を確認した。 「自社に目標管理(MBO)制度がある」と回答した206名に対し、目標管理制度をめぐる上司とのコミュニケーションの有無を確認した結果が図表7である。
まず、実施している度合いが高かったのは、期初に自ら目標を立てる、上司とすり合わせるというアクション、および、最終評価のフィードバックである。
「必ずある」「たいていある」と回答したのは全体の8割以上であった。
一方で、相対的にコミュニケーションの実施度合いにばらつきが見られたのが、期中の調整と、最終結果を踏まえた業務遂行に関するアドバイス、今後の能力開発やキャリア開発に向けたコミュニケーションである。
能力開発に向けた会話が「必ずある」と回答したのは2.5割、「たいていある」を含めても6割にとどまり、残り4割は、評価結果を踏まえた次へのステップについて、会話ができていないことが多いという結果だった。なお、日々の業務改善よりも、本人の能力開発やキャリアについての会話の実施度がわずかながら低かった。
「何を頑張ったらいいのか分からない」という不満は、必ずしも、現在の業務遂行上の改善点にとどまらない。これからの中期的な能力開発やキャリア設計に対しても思いを馳せるのが自然なことだ。こういったコミュニケーションがなされないと、本人が、現在の会社・職場に所属しているという機会を用いて、より前向きに貢献・成長していきたいという気持ちももちにくくなってしまうリスクがある。なお、評価制度への満足度が低い群は、能力開発のコミュニケーションを行っている度合いも低い傾向が確認されている(図表8)。
評価をめぐる 上司とのコミュニケーションで意欲が上がる瞬間・下がる瞬間
では、評価をめぐってどのようなコミュニケーションを積み重ねれば、人は意欲が上がるのだろうか。
評価をめぐる上司とのコミュニケーションで、意欲が上がった瞬間、意欲が下がった瞬間、それぞれを自由記述で回答してもらった(図表9、10)。
まず、意欲が上がった瞬間については、当然、高い評価そのものに意欲が上がったと答えた人もいたが、それよりももっと多かったのは、承認の実感である。
さらに、「自分を見てくれている」ことそのものへの喜びや、次なる成長に向けた「効果的なフィードバック」を挙げるコメントも多数見られた。なお、フィードバックについては、承認や期待とセットで伝えられたことを示すコメントが複数見られた。
一方で、意欲が下がった場面は、評価基準や結果の根拠の説明に納得がいかないことが、不満につながっていることがうかがえるコメントが多数見られたが、同程度に「ダメ出し」などの否定的なコミュニケーションに関するコメントが多かった。効果的なダメ出しやアドバイスは意欲が上がる理由にも挙げられていることから、ネガティブフィードバックの方法や内容によって、受けとめ方が大きく変わることが、改めて確認された。また、上司が自分を見ていない・人として尊重されない・期待が分からない……などのコメントも多数見られた。組織のなかで自分の存在価値が否定されたと感じたときに、意欲が低下することがうかがえる結果である。
なお、評価の高低、またその結果としてのポストや金銭的報酬と同程度、またはそれよりも多く、存在価値の承認や成長に関して多くのコメントが見られたことは興味深い。ある組織で働くことを通じて、自分が価値ある存在であると実感し、そして今よりさらに良くなりたいといった人の根源的な欲求が叶う瞬間を増やしていくことに、人の働きがいにつながる人事評価制度の本質があることを、改めて感じる結果である。
最後に─ 人事評価という個と組織の結節点をデザインする
目標と評価は、個人と組織をつなぐ結節点であり、それをめぐるコミュニケーションは、個人と組織が信頼関係を構築するための「真実の瞬間」である。
調査からうかがえたことは、その瞬間のデザインが非常に重要でありながら、成否の分かれ目が紙一重でデリケートなものであるということだ。
このデザインを、現場の上司だけで何とかしようとするのは現実的ではないだろう。業績を上げること自体、複雑で難易度が高い昨今の環境において、部下個人の意欲や成長の側面も踏まえながら、上司が自力でデザインしていくのは負荷が大きい。上司自身が、過去に被評価者として良い経験を積んだことがなければ、なおのことである。
ではどうするか。コミュニケーションは、双方の関係性のなかで成り立つため、互いの主体的関わりは肝となる。よって、被評価者である部下にも、目標と評価をめぐるコミュニケーションを、上司と共にデザインするものとして、捉えなおしてみてもらうのも一案だ。例えば、自らのこれまでの貢献や今後の成長目標について上司に問いかけるなどだ。
その際人事は、このプロセス全体をデザインする存在として、運用の手続きの詳細を伝えるというよりも、評価を通じたコミュニケーションの意味や起こしたい状態像や、そうなるためのスキルやノウハウを伝えていくことが、時に現場の指針になるかもしれない。評価の本質をにらんだ、個と組織を生かす接点のデザインに、挑戦してみたい。
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.45 特集1「心理学からみる人事評価」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
執筆者
サービス統括部
HRDサービス推進部
トレーナーマネジメントグループ
シニアスタッフ
荒井 理江
ソリューションプランナー、広報・販促・ブランドマネジメントを担当ののち、2011年より「組織行動研究所」研究員として組織・人材マネジメントの各種調査・研究、機関誌「RMS Message」の企画・編集に従事。その後、経営企画部にて人材開発を主導、またベンチャー企業向け新規事業開発、サービス開発マネジャー兼プロダクトマネジャーを経て、現職。人材開発トレーナーの養成を担う。
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