調査レポート
研修効果検証に関する実態調査
人材開発担当の声から知る研修効果検証の実態
- 公開日:2016/10/03
- 更新日:2024/03/06
人材育成の成果に期待が高まるなか、企業の人材開発担当は、研修の効果検証をどのように行っているのだろうか。
本社部門や事業部門で従業員の人材開発に関わる管理職415名にアンケート調査を行い、その実態を探った。
- 目次
- 調査概要
- 「多くの研修で効果検証を行っている」は半数近く
- オープンスキルの評価には人事評価や360度サーベイが有効か
- 約9割が「今後、もっと検証すべき」
- 最大の課題は客観的な測定が難しいこと
- PDCAサイクルを回し議論を深める
調査概要
2016年6月、従業員数500名以上の企業で教育制度や教育プログラムの企画・開発・運用に携わっている管理職を対象に、研修効果に関する調査を実施した(図表1)。
管理職を対象としたのは、自組織が担当する研修全般についての実態を把握した上での回答を得たかったためである。また、回答者が人事・スタッフ部門で人材開発に携わっているのか、事業部門で携わっているのかによって回答傾向が異なる可能性を考え、両者ができるだけ均等になるようデータを収集した。企業規模についても、偏りが生じないよう、統制を行った。
「多くの研修で効果検証を行っている」は半数近く
研修効果検証の実施状況については、図表2のとおり、全体では「すべての研修で実施している」(8.9%)、「多くの研修で実施している」(35.9%)という結果となり、半数近くが積極的に効果検証を行っていることが分かった。「どちらかというと多くの研修で実施している」(36.4%)まで合わせると約8割となる。一方、「まったく実施していない」と回答したのは、1.0%にすぎなかった。
また、経営陣が教育制度や教育プログラムに期待していると思う企業ほど、研修効果検証を盛んに行っている傾向が見られ、「とても期待していると思う」場合、「すべての研修で実施している」(30.1%)、「多くの研修で実施している」(52.1%)を合わせて8割を超えており、全体の2倍に迫る結果となった。
人事・スタッフ部門では「すべてあるいは多くの研修で実施」が49.4%、事業部門では同38.2%と、人事・スタッフ部門の方がやや多く効果検証を行っていることが分かった。
次に、効果検証の内容について尋ねたところ、図表3のとおり、特に多く行われているのは「研修満足度「」学習到達度」の確認で、「すべて」および「多くの研修で実施」がそれぞれ61.6%、 53.9%だった。また、研修で学んだことを実践で生かせているかの検証にあたる「職場での行動変化・態度変化「」成果創出や業務推進の程度」も、「すべて」および「多くの研修で実施」がそれぞれ45.5%、44.1%と、半数近い企業で積極的に実施されていた。
オープンスキルの評価には人事評価や360度サーベイが有効か
では、具体的にはどのような測定方法を用いて検証を行っているのだろうか。回答者に「特に効果検証に力を入れている研修」を1つ選んでもらい、研修内容と測定方法を尋ねた。研修内容は、オープンスキル(状況に応じて適応的に発揮されるスキルで、効果が測定しにくい)を主に扱うか、クローズドスキル(ルールや手順が1つに定められており、効果が測定しやすい)を主に扱うかによって分類した。
結果、図表4のとおり、受講者本人へのアンケートが、オープンスキル(73.7%)、クローズドスキル(70.6%)のいずれでも最も多く使われており、次いで受講者以外(上司・部下・同僚・顧客)へのアンケート(同48.0%、 47.5%)が多いことが分かった。受講者や受講者以外へのインタビュー・面談も、それぞれ30~45%程度で実施されていた。また、「人事評価」「360度サーベイ」「組織サーベイ」は、クローズドスキルよりオープンスキルでよく使われる傾向が見られた(カイ二乗検定で有意)。
具体的な指標の記述を求めたところ、オープンスキルを主に扱う研修では「研修前2年間と研修後2年間の行動実績と契約実績の比較(コンサルティング営業力向上)」「1年後の企画提案数(社内企業家育成)「」顧客アンケートの高評価の割合(顧客対応)(」カッコ内は研修内容)など業務成果に直結する指標を活用する例が見られた。また、クローズドスキルでは、「TOEIC点数(英語)」「理解度テスト(新製品理解)」「履行状況の聞き取り調査(法令順守)」などにより、知識定着のテストや確認を行っている例が見られた。
約9割が「今後、もっと検証すべき」
効果検証の今後の実施意向はどうだろうか。6段階で質問した結果を、ポジティブ群とネガティブ群に2分したところ、ポジティブ群(もっと検証すべきだと思う)は85.5%だった(図表5)。
その理由としては、「経営的に教育の費用対効果が重視されており、投資判断のために必要」といったコメントが多く見られた。本特集冒頭(p.5)でも紹介したとおり、効果検証の報告を求める経営者が以前と比べて増加傾向にある(「より求めるようになった」43.6%)ことが影響しているだろう。同時に、「成果を指標化・数値化することで、会社全体に研修の重要性を理解してもらいたい」「職場実践や業績向上につながっているか確認し、次の研修に生かしたい」というように、研修企画担当として効果検証を戦略的に活用しようとするコメントも多く見られた。
反対に、ネガティブ側(もっと検証すべきだとは思わない/14.5%)の理由としては、「研修の効果は長期で見るべきで、すぐに結果が表れる研修が必ずしも良いとは限らない」「研修の効果は本人次第であり、会社が効果を出す責任をもつものではない」というように、積極的には「必要ない」とするものが見られた。その他、「検証しなくても見ていればだいたい分かる」「検証に費用や時間をかけるのがもったいない」「余力がない」といった効率やコストの問題、「何を成果とするか明確になっていない」「測定の方法が分からない」といった研修設計や検証方法の問題も挙げられた。
最大の課題は客観的な測定が難しいこと
効果検証の実施に前向きな群にとっても、障害や課題はある。「効果検証をする上で障害となっていること、知りたいこと」への自由記述内容を整理したところ、測定方法に関する課題が最も多く、次いで資源に関する課題、周囲の理解に関する課題が挙げられた(図表6)。
測定方法では「定量化するのが難しい」が最も多く、意識の変化など、投資効果を数値で測りにくいものを数値化する難しさが挙げられた。また、「受講者の本音・実態が把握しにくい」については、「受講者が評価を気にして本音を出さない」「現場が研修に前向きでなく、おざなりの回答しか得られない」という背景も挙げられ、「アンケートでは本音が分かりにくい部分もあるので、デプスインタビューなども実施してみたい」というコメントも見られた。
周囲の理解では、「経営上、研修の即効性を求め、効果が即見えないと投資を控えようとする考え方が障害となる」「受講者に効果検証の負担までかけるのは理解が得にくい」などがあった。
PDCAサイクルを回し議論を深める
研修の効果検証の実態に関する調査は、これまでほとんど行われてこなかった。研修効果に関心の高い人の回答が多かった可能性も考えられるが、今回の調査からは、現状では、アンケートやインタビューなどにより、何らかの効果検証を行っている企業が大半であること、今後、力を入れていきたいとする企業も85.5%と9割近く存在することが分かった。
しかし同時に、何を効果としどう測定するのかが、大きな課題となっていることも確認できた。また、人の育成は本来長期的な視野で見るべきものだとの考えと、短期的な効果を検証していくことの折り合いがつかず、障害となるケースがあることも再認識した。
教育とは信じて待つこと、とはよくいわれることである。研修の成果が表れるタイミングや形は、人それぞれであろう。必ずしもすべてが短期的に数値化できるものでもない。しかし、何もせずに待っているわけにはいかない。仮説的に数値指標を置き検証してみる、質の高い定性情報を求め活用する、などによりPDCAサイクルを回すことができれば、今の段階で必要な対策が何かを議論することができる。
測定の指標や方法については、他社事例を知って参考にしたい、とのコメントも複数見られた。人材開発を担当する多くの人が、何とか真実に近づこうとさまざまな試行をしている。本調査でも具体的な評価指標をいくつか掲載した。前掲の企業事例とあわせて、少しでも参考になれば幸いである。
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.43 特集1「研修効果を高める―実践につながる研修デザイン」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
執筆者
技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
研究員
佐藤 裕子
リクルートにて、法人向けのアセスメント系研修の企画・開発、Webラーニングコンテンツの企画・開発などに携わる。その後、公開型セミナー事業の企画・開発などを経て、2014年より現職。研修での学びを職場で活用すること(転移)、社会人の自律的な学び/リスキリング、経験学習と持論形成、などに関する研究や、機関誌RMS Messageの企画・編集などに携わる。
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