調査レポート
新規事業創造に関する人事の実態調査
イノベーション推進における人事の役割
- 公開日:2016/02/08
- 更新日:2024/03/26
人事担当者自身は、イノベーションの推進にあたり、何ができると思っているのか。
実際に人事が取り組んでいること、人事の役割について、定量調査の結果を紹介しながら、人事担当者自身の認識について探っていきたい。
- 目次
- 調査概要
- 新規事業創造関連施策の企画・実行が自分の役割であるのは全体の5割弱
- 人事の関与度合いが最も高い施策は蛸壺化を避けるための人材交流・計画的異動
- 課題は発想力と挑戦的な風土
- 人事にできることは多い まずは配置から
- さいごに
調査概要
2015年9~10月、従業員数300名以上の企業で人事業務に従事している正社員を対象に定量調査を実施した。調査概要は図表1のとおりである。
回答者の選定においては、自社の人事施策について一通り理解していると回答した者を対象とした。所属部署や人事における担当業務については、制約を設けなかった。その結果、採用、人材開発、制度設計、労務、ライン(事業部門)人事など、さまざまな立場からの回答を得ることができた。
また、全社施策に対する人事の関与度合いは、企業の従業員規模によって異なる可能性を想定して、所属する従業員規模については、300名以上1000名未満、1000名以上5000名未満、5000名以上の3群がほぼ均等になるようにデータを収集した。
なお、本調査では、回答者の認識ができるだけばらつかないようにするために、「イノベーション」ではなく「新規事業創造」という表現を用いた。「新規事業創造」については、「新規ビジネスや、既存の事業にとらわれない新しい商品・サービスの創造」と提示して回答を求めた。
新規事業創造関連施策の企画・実行が自分の役割であるのは全体の5割弱
まず、人事が、新規事業創造にどれくらい関わっているのかを見ていく。新規事業創造の推進主体の実態として、大括りに「経営主導」「現場主導」のいずれかをたずねた結果が図表2である。「経営主導」が過半数を占め、「推進していない」との回答も2割弱あった。従業員規模別には、規模が大きいほど経営が主導して推進している様子がうかがえた。次に、本来誰が中心となって担うべきと思っているのかについて、製造業・非製造業別に確認した(図表3)。自ら「人事」と選択した回答は、製造業で14.3%、非製造業で10.6%だった。製造業・非製造業とも「経営企画」「経営者」「新規事業開発の専任部門」との回答が多かった。製造業については「研究・開発部門」が、非製造業については「営業部門・マーケティング部門」がそれに次いだ。
ここまでの結果は、ある程度想定通りのものであるが、実際に人事は、個々人の仕事において、新規事業創造につながる施策の企画や実行に、どれくらい携わっているのだろうか。現在、自らの仕事上のミッション(役割)に入っているかどうかたずねたところ、全体の5割弱から入っているとの回答を得られた(図表4)。役職別には、事業部長・部長クラスが6割を超え、一般社員においては3割弱であった。業種別には、情報処理・ソフトウェアが62.5%と最も多く、医薬品が23.1%と最も少なかった。本人の職務権限の大きさや、事業のライフサイクルにより傾向が異なることが示唆された。
人事の関与度合いが最も高い施策は蛸壺化を避けるための人材交流・計画的異動
それでは、人事として、どのような新規事業創造のための取り組みに関与しているのだろうか。人事関与の有無にかかわらず、会社として新規事業創造のために取り組んでいる施策の選択率と、その施策に人事が関与していると回答した割合(「人事関与度」)について表したのが図表5である。
まず、自社の取り組み施策としては「新規事業創造のための専任部門の設置」が全体の半数弱で最も多く実施されていた。続いて、「評価制度への新規事業創造を推奨する観点の導入」が3分の1強の実施だった。一方、人事関与度を見てみると、「部門の蛸壺化を避けるための人材交流・計画的異動」が最も高い選択率となっていた。他、「新規事業創造を担える人材の積極的な採用」「新規事業企画・開発に関する研修」についても人事関与度は高かった。図表中に記載していないが、実施している取り組み施策に対して人事の関与は1つもないという回答は21.7%(製造業17.0%、非製造業24.5%)だった。会社として取り組んでいる施策があっても人事が関与していないという回答は5分の1にとどまった。
課題は発想力と挑戦的な風土
続いて、人事が自社の新規事業創造上の障害をどのように認識しているか、その回答結果を見ていく(図表6)。「新たなアイディアを生み出す」「アイディアを形にする・新規事業開発を推進する」の2つのフェーズごとに選択肢を挙げたところ、「生み出す」フェーズの方が障害として認識されているようだ。なかでも、「社員の関心・力量の不足」「組織の風土・体質」については製造業、非製造業ともに約半数が選択していた。製造業においては「組織間の連携不足」、非製造業においては「経営の力量不足」が続いて多い結果となった。
また、自社内の人材が、新規事業を創造する上で強化していく必要があることは何かたずねたところ、「新たな発想を生み出す思考力」が最も多く、「リスクを恐れず、新たな挑戦に前向きなエネルギー」がそれに続いた(図表7)。先の障害に関する回答結果と符合するものであるといえる。
人事にできることは多い まずは配置から
最後に、本題である「人事に何ができるか」に対する回答結果をご紹介したい。非常に多くの具体的なコメントを得ることができた(図表8)。
自由記述コメントを分類したところ、「配置」に関するコメントが最も多く、4割弱が何らかの配置に関するコメントを記述していた。内容については、適正配置や適材適所の人事異動、推進にあたっての人員確保、適任者の選定や人材の発掘などの目利きに関するもの、社内の流動化促進が主なものである。
次に回答の多かった「育成」については、新規事業に関連する能力開発のほか、外部のセミナー・研修のアドバイスなどの記述があった。
「採用」については、新規事業経験者や当該事業経験者などの経験者採用や、新たな風を吹き込む外部からの採用などである。
「評価・報酬」については、回答数は1割にも満たなかったが、内容としては3つのポイントが確認された。挑戦的な風土を醸成するための評価制度、モチベーションに配慮したインセンティブ、採用力向上のための中途採用者の処遇についてである。その他、組織の再構築や、人事スキルを活用したサポート、社内外のネットワークづくりに関するコメントが見られた。一方、「ない・分からない」と明確に回答した者も一定数いることが確認された。
さいごに
今回、人事自身がイノベーション推進に対してどのような意識をもっているのか、その一部を確認することができた。もちろん、経営環境や経営方針によって、会社としてのそもそもの推進意欲や推進状況は異なる。それに伴い、組織課題や経営からの人事への期待も違ったものとなるであろう。
そのようななかではあるが、自由記述コメントなどから、人事としてこういうことをやるべきだというような思いも感じ取れるような調査となった。本調査報告が、イノベーション推進における人事の役割を検討する一助になれば幸いである。
※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.40特集1「新しい価値を生み出す人・組織づくり」より抜粋・一部修正したものである。
執筆者
技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
主任研究員
藤村 直子
人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)、リクルートにて人事アセスメントの研究・開発、新規事業企画等に従事した後、人材紹介サービス会社での経営人材キャリア開発支援等を経て、2007年より現職。経験学習と持論形成、中高年のキャリア等に関する調査・研究や、機関誌RMS Messageの企画・編集・調査を行う。
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