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特集

部長に求められる役割を考える

~経営人材として活躍できるために部長職で求められるチャレンジ~

  • 公開日:2011/11/07
  • 更新日:2024/05/31

近年、次代を担う経営人材の育成に多くの企業の関心が集まっています。ミドル(課長)層を中心とした選抜教育にすでに何年も前から取り組んでいる企業も数多くあります。共通する問題意識は、「現在の経営陣の次を担えるような幹部が育っていないように感じる」というもので、多くは現経営陣からそうした言葉が漏れるようです。

弊社ではここ数年、優れたリーダーやマネジャーはどのように育つのかをテーマとして数多くの企業のご協力をいただきながら調査研究を進めてきました。そして、マネジャー育成において次の二つの前提条件を確認するに至りました。 一つは、ロワー、ミドル、シニアそれぞれのマネジメントのステージ(段階)で求められる役割と直面するチャレンジが異なること。もう一つは、各ステージで直面するチャレンジにうまく対処し、乗り越える経験(チャレンジからの学習)がマネジャーをさらに次のステージに向けて成長させるということです。こうした、マネジャーとしてのキャリアの「トランジション(移行)」については、過去のレポートでも述べてきました。

今回、シニア・マネジメントのステージである「部長」に着目するのは、このステージでのチャレンジが、次世代経営人材としての重要な能力開発機会であるにも関わらず、他の階層(例えば課長層や役員層)に比べて、任用時の役割認識や能力開発の支援がさほどなされていないという問題意識からです。

部長昇格時に直面するチャレンジ
経営人材への入り口としての部長
部長としての「真価が問われる」3つの活動~その1~
部長としての「真価が問われる」3つの活動~その2~
部長としての「真価が問われる」3つの活動~その3~
定量調査の考察

部長昇格時に直面するチャレンジ

私たちが行った日本の代表的な製造業6社計23名の執行役員・事業部長(グローバルレベルのマネジメント経験者9名を含む)へのインタビュー調査、ならびにその後の製造・非製造業7社への定量調査(64名の現役部長と17名の現役事業部長)から、経営人材として活躍するリーダーの多くが部長職昇格時にマネジャーとしての大きな変化に直面したと感じていることが分かっています。
《参照》研究レポート「Transition(マネジメント階層への移行)」にともなう変化と成長(第2回)

調査結果をもとに、部長昇格に伴って直面する変化を要約すると次の3点にまとめることができます。

1.管轄組織の規模が広がり、責任のレベルが格段に上がる

部長昇格にともなって管轄することになった組織規模は11~50名が44%と最も多く、次いで51~100名(27%)、101~300名(13%)と続きます。課長昇格時では60%が10名以下であることを踏まえると、格段に規模の大きな組織を管轄する立場となることが分かります。多くの場合、組織内に複数の異なる職能組織(例えば営業とSEなど)が存在します。同時に、担当組織が担う業績責任が全社、あるいは事業部に及ぼす影響も大きくなります。それはときに担当組織の業績が事業計画を左右するレベルのものです。また、特定の機能組織の最高責任者として、組織が担う機能の中長期戦略に関与することとなり、対外的な説明責任も発生します。

調査では、昇格時に直面し、かつ対処が困難だったこととして、「利益・コストなど業績達成に対する上位者からのプレッシャーが急に強まった」「現場の最高責任者として対外的な矢面に立つことが増えた」といった項目が上位にあがっています。

2.事業経営の当事者として意思決定しなければならない

部長は、管轄する機能組織の最終的な意思決定者となります。課長時代と大きく異なるのは、判断にあたって上司に相談できる機会というのはきわめて少なくなること、そして部下から判断を求められたときにその場で自ら判断しなければならない場面が増えるということです。さらに、意思決定の結果がもたらす影響は広範囲に及ぶため、考慮すべき変数はきわめて複雑、かつ不確実性の高いものになります。多くの場合、意思決定すべき事柄には利害の対立やトレードオフ(二律背反)が含まれています。

「上司に相談することなく、自分で意思決定しなければならないことが増えた」「事業戦略や経営戦略を理解・考慮しなければ、判断の難しい事柄が増えた」「スタッフとライン、経営と現場、自社と顧客など、利害が対立する場面やトレードオフの状況での意思決定が増えた」などは、昇格時に多くの部長が「困難だった」としているチャレンジです。

3.個人ではなく「組織」を動かさなければならない

課長時代には、現場の一人ひとりと直接コミュニケーションをとって動かしていくことができましたが、部長になるとそれは困難になります。部下である課長層を通じて部という組織全体を動かしていかなければなりません。この「組織を動かす」というのも部長のステージで直面するチャレンジです。ここでも部署間の利害対立や資源の制約が内在します。また、短期的な業績達成だけでなく、管轄する機能組織に求められる中長期の課題も推進しなければなりません。現場に無理を承知で要望しなければならない場面も増えてきます。

「たとえ抵抗があっても、必要なことは進めていく強さが求められるようになった」「自組織の将来を考えて、課長層や核となる従業員の再配置を行う必要に迫られた」「社内の他部門と折衝し、各部門を動かしたり、自ら資源調達をしなければならないことが増えた」などは調査で上位にあがったチャレンジです。ここでは、ある意味現場の目線から離れることが求められます。「現場とともに喜んだり悩んだりすることからは一歩引いて、3年先、5年先を見て判断していかなければならない」というのは、インタビューからも多く聞かれたコメントです。また、自組織だけでなく他部門を動かすのも部長の直面するチャレンジであることが分かります。

経営人材への入り口としての部長

以上、述べてきたような「部長昇格に伴って直面するチャレンジ」から、私たちは部長職の役割には二つの側面があると考えます。一つは「組織管理の側面」。もう一つは「事業経営の側面」です。「組織管理の側面」は担当組織の業績責任の達成に向けて、方針、計画を徹底し、成員を実行に向かわせるという組織を統制する役割です。「事業経営の側面」とは所属事業の将来を見据え、中長期的な戦略の実現に向けて関係者を巻き込み、現状を変えていくという組織を変革する役割をさします。

【部長の2つの役割】

【部長の2つの役割】

ミドル・マネジャーがどちらかというと当面の業績達成に向けた実行管理を担うのに対し、シニア・マネジャーである部長は当面の業績達成に加えて、事業の中長期課題の実現とそのための現状変革の責任も同時に担うことになるわけです。そして、部長のステージでのチャレンジの多くは、「事業経営の側面」に関するものです。この側面の役割は部長職になって初めて現実的なものとして登場し、マネジャーとしての意識と視点をそれまでとは異なるレベルへ引き上げることを要求します。このステージで、「事業経営の側面」の役割行動を開発することが、次期経営人材としての活躍の道を開きます。反対に「組織管理の側面」のみにとどまってしまうと、いわゆる“大課長”的な状態に陥ってしまうことになります。この点で部長職は、次期経営人材としての能力を開発できるかどうかの分岐点となるステージであると考えることができるのです。

部長職が、今後の経営人材を輩出する上で重要なステージであると考えられるにも関わらず、一般に部長に求められる役割行動や能力は必ずしも明確になっていません。関連する研究や書籍も、ミドル(課長層)の役割行動や能力に比べてわが国ではきわめて少ないのが実態です。また、任用時の能力開発支援についても同様のことがいえます。弊社が2009年に実施した、従業員1000名以上の企業160社への調査では、部長任用後に役割・能力開発研修を実施している企業は56.4%であり、課長の任用後研修の実施率83.3%に比べて大きな差があります(「昇進・昇格実態調査2009」より)。

では、部長層に求められる役割行動はどのように表現できるのでしょうか。特に、次期経営人材として活躍できるために重要な「事業経営の側面」はどのような経験から開発されるのでしょうか。次項では、私たちが現時点で考えている3つの活動について紹介します。

部長としての「真価が問われる」3つの活動~その1~

「事業経営の側面」を開発するために、特に重要なチャレンジが含まれる活動をここでは部長としての「真価が問われる」活動と表現します。言い換えれば、部長のステージで“大課長”的にならないために回避してはいけない活動です。
前出の調査研究およびその後の分析から私たちが導き出した活動は次の3つです。

1.中長期課題と足元の課題を同時実現する道筋を描
2.組織の動き方を変えていくための戦略的な介入をする
3.継続的に革新し続けられる組織力を開発する

ここからは、それぞれの内容を説明していきます。

1.中長期課題と足元の課題を同時実現する道筋を描く

調査結果にもあったように、部長のステージで求められるのは短期(当面の)業績と、事業の将来戦略からくる中長期的な課題の双方を達成することです。多くの場合、短期業績は数値目標などの明確なものであり、達成のためにやらなければならないことも具体的ですが、中長期の課題はより抽象度が高く、時には自ら課題を設定しなければならないこともあり、またその達成方法も具体的なイメージがつきにくいものです。このため、組織は具体的で分かりやすい短期業績の達成に注力しがちになります。さらに成員の評価に短期業績が占める割合が高いこともこの動きを後押します。つまり、ほうっておくと、中長期の課題は先送りにされてしまうのです。
前出の「昇進・昇格実態調査2009」では、「現在の部長層に関する問題」として「短期的な成果に注力するあまり、長期的な視点での取り組みができていない」が最上位となっています。これは、業種問わずあらゆる組織が内包し、多くの管理職が自覚している困難な問題なのです。

「中長期課題と足元の課題を同時実現する道筋を描く」とは、“事業の継続的発展に貢献するために、自組織が中長期的に達成すべきことと短期的に達成すべきことを明らかにし、それらを同時に達成していく大まかなシナリオと体制を構想する”活動です。ここでは、「シナリオの構想」が鍵となります。シナリオの構想とは、短期課題の達成と中長期課題の達成を「並列」で考えるのではなく、中長期課題が達成された時の担当組織の姿を想像し、その姿により近づいた当期の終了状態を設定し、さまざまなトレードオフを考慮したうえで、当面の業績達成活動の中に中長期につながる動き(組織行動)を組み込むという思考のプロセスです。シナリオは決して精緻なものではなく、「これならいけるかもしれない」という部長個人の非公式な目論見です。しかし、自分なりの目論見を持つことが部長職にとって非常に重要です。部長職の日常はきわめて断片化されたやり取り、会議、問題解決で支配されており、全体的な目論見があるかないかは、指示や判断の内容とタイミングに大きな影響を及ぼします。

部長としての「真価が問われる」3つの活動~その2~

2.組織の動き方を変えていくための戦略的な介入をする

当面の業績達成活動の中に、中長期につながる動きを組み込むということは、それまでの組織の動き方を変えることになります。これは組織をストレッチ(背伸び)させることに他なりません。当面の業績達成ですら多くの努力を要するのに、さらにそれまでとは異なる取り組みや動き方を要求することになるからです。しかも、現場に直接関与することができにくい部長職は、直属のミドル・マネジャーを通じて組織全体の動きを変えていかなければなりません。

「戦略的な介入」とは、“描いたシナリオに沿って組織を望ましい動き方に変えていくための打ち手を戦略的に考え、要望し、関係者の反応と状況の変化を注視しながらチャンスを逃さず働きかけていく活動”をさします。ここでのポイントは、直接指示して動かしていくだけでなく、関係者が動かざるを得なくなるような状況をどうすれば作り出せるかという発想です。そのためには、まず主要な関係者や部署を見極め、彼らを動機づける要因を探さなくてはなりません。その上で、自身の指示や判断が組織に及ぼす影響、関係者の反応を予想し、望ましい反応の連鎖をどう仕掛けていくか、数手先まで想定した打ち手を考えることが大切になります。

熟練した部長の行動からは、具体的な手段を提示せず相手に考えさせる、異なるやり方を主張するマネジャー同士をあえて競争させる、強力な抵抗者を問題解決の責任者にする、部署を超えた非公式な社内ネットワークに働きかけて新しいやり方を実験させる、といった個人や集団の心理をうまくつかんだ打ち手を見つけることができます。また、あらゆる場面で、「一石二鳥、三鳥」を考えること、予想外の変化に着目してそれをうまく活用すること、必要な時には朝令暮改を厭わないこと、なども特徴的な点です。そして、部長の介入には、人材の再配置、外部資源の調達、組織体制の変更、仕組みやルールの変更も含まれます。ミドル・マネジャーレベルでは多くは権限外だったこの種の打ち手も、部長レベルでは選択可能な手段となります。こうした介入手段の多様性とメリット・デメリットについても理解し、適切に組み合わせることが求められます。

部長としての「真価が問われる」3つの活動~その3~

3.継続的に革新し続けられる組織力を開発する

事業の継続的な発展に向けて組織の現状を変えていく過程で、組織風土の変革は避けて通れない課題です。組織風土とは、その組織の構成員の間で、暗黙のうちに共有されている行動パターンであり、知らず知らずのうちに人々の考え方や行動を規定し組織固有の秩序を作り出しているものです。組織の動き方を変えようとする時、組織風土は見えない壁のように立ちふさがることが多くあります。組織としての動き方を変えるとは、既存の組織内の秩序を壊すことでもあるのです。さらに、事業の継続的発展を考えれば、自身がその組織を離れても自走できるような組織風土を開発することは、特定の機能組織の責任者であるがゆえにできる重要な役割です。

「継続的に革新し続けられる組織力を開発する」とは、“従来のやり方や成功パターンに固執せず、変化を取り込みながら自分たちの動き方を変えていくことが常態であるという組織風土を開発する”活動です。ここでのポイントは、「混沌を作り出す」ことと「小さな新しい動きを孵化する」ことです。よく見られる誤解は、組織風土が人間関係から形成されていると考え、「風通しをよくしよう」「もっとコミュニケーションをとろう」といった関係性の改善に着手するというものです。こうした打ち手自体は悪いものではありませんが、これだけで新しい動き方の障害となっている壁を打破することはありません。組織風土の変革では、前項で述べた戦略的な介入によって、それまでのやり方を考え直さざるを得ないような状況を作りだし、組織にある種の混沌を生み出す過程が必要です。そして、その後の一時的な生産性の低下を乗り越えて発生してくる新たな動き、望ましい変化につながる小さな変化を見逃さず、組織全体に伝播させていくプロセスを繰り返すことによって初めて変化対応力のある組織風土に近づくのです。

「真価が問われる」3つの活動が要求するのは、広範囲の不確実性と相互依存性への対処能力です。それはミドル・マネジャーのステージで培ってきた経験だけでは対応が困難であり、マネジメントスタイルの変更や新しいマネジメント能力の開発が求められるものです。しかし、たいていの場合、そうしたチャレンジの存在は明確に意識されておらず、多くの部長は昇格後直面するさまざまな状況に、それまで自分が強みとしていたやり方で対処しようとし、試行錯誤を繰り返します。そうした状態が一定期間続くと組織のパフォーマンスが思うように上がらず、役割機能不全に陥ることとなります。

定量調査の考察

今回の特集では、次期経営人材の入り口としての部長職が直面するチャレンジと、それを乗り越えるための「真価が問われる活動」について論じてきました。

ここで、もう一つの興味深い調査結果をご紹介したいと思います。冒頭ご紹介した64名の現役部長への定量調査において、「部長の職位に求められる仕事の全体像を理解するのにどれくらい時間がかかりましたか?」という質問では、「1ヵ月~1年」が全体の7割を占めています。もちろんこれは回答者の主観に基づくものですが、裏を返せば、部長昇格後に未経験のチャレンジと格闘する時間は1年未満であると見ることもできます。その後は、チャレンジを乗り越えたか、乗り越えなかったかに関わらず、未知の状況に直面することはさほどない(全体像はだいたい分かった)と推測できるのです。ここで考えるべきは、部長昇格時のトランジション促進策の中身とタイミングです。私たちは現在、その促進策のひとつとして新任部長向けのサービスを開発中です。一人でも多くの経営人材を輩出し日本企業の競争力を高める一助となるよう引き続き研究を進めてまいります。

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