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研究レポート
最も大きい変化は部長クラスへの移行
優れた経営者・経営人材を育成するニーズが高まる一方で、その手法は確立されているとは言えません。弊社では、「Transition(マネジメント階層の移行)にともなう変化と成長」でもご紹介したように、経営幹部層がより上位のマネジメントステージへ移行(トランジション)する際に直面する変化と、それを乗り越えるための要件を探る研究を行っています。
本研究では、日本の代表的な製造業6社計23名の執行役員・事業部長(副社長1名を含む)の方々にインタビューを実施し、マネジメントの階層が上がる際にどのような変化を経験され、それを乗り越えて新たな階層でパフォーマンスを上げるために、どのような知識や能力が必要となったのか、またどの階層からどの階層へのトランジションが最も大きな変化であったのかなどをお聞きしました。今回は、このインタビューから明らかになった経営幹部層の変化と成長に関して、エピソードを交えてご紹介します。
インタビューを行った結果、多くの方が、部長クラス(※1)に移行する際に最も大きい変化を感じていたことが分かりました。部長になると管轄する組織の人数が急激に増えることが多く、部下との直接のコミュニケーションがとりにくくなるために、何らかの新しいコミュニケーション・スキルを身につけなければならないことが一因と考えられます。また、日常業務の運営に当たっても自分一人ではこなせなくなるために、自らの右腕的な存在を発掘・育成せざるを得なくなるということもインタビューから明らかになりました。
※1 本研究においては典型的な日本企業のマネジメント階層をGrade1(取締役クラス)、Grade2(事業部長クラス)、Grade3(部長クラス)、Grade4(課長クラス)、Grade5(係長クラス)と区分しています。以下部長クラスとは、本研究において定義したGrade3のことです。
さらに、各マネジメント階層の移行時においては、知識面よりもスキル・能力面での苦労が多いことが分かりました。当初は、階層が上がるのにともなって、知識不足によるさまざまな困難が発生するものと想定していましたが、インタビューでは、知識面での苦労に関するエピソードは出てきませんでした。
加えて、部署や職場の異動にともなって大きな変化を経験された方も多く見られました。海外赴任や子会社へ出向などの場合には、本社でのポジションよりも高いポジションに就くことが多く、そこで高い視野・視界が求められる点で大きな転機となったという場合もあるようです。
それでは、最も大きな変化と考えられる、部長クラスにおける立場および役割行動の変化について、いくつかのエピソードをご紹介します(※2)。なお、図表01ではインタビューから明らかになった部長クラスにおける変化のうち、本稿の内容に関連する部分を抜粋してまとめています。
※2 インタビューで得られたコメントについては、意味を変えない程度に編集を行っています。
図表01 Grade3(部長クラス)における立場および期待される役割行動の変化
部長クラスになると、“管轄する組織規模が大きくなる”ことにともなって、人を動かす、調整するというような役割行動の重要性が増します。インタビューからは、大規模な人の集団をどのようにマネジメントしていくのかが、部長層になって初めて問われる変化・困難であることが浮かび上がってきました。関連するコメントとしては、
「200人という規模になってくると、自分の思った方向には、なかなか皆がついてこない」「管轄範囲が増え、メンバーが多くなればなるほど、自分の理念やビジョン、想いなどを伝えるのが難しくなる」
などがありました。また、
「見ている範囲の人数は100人ちょっと。私の守備範囲は、経理を除く管理部門、つまり、人事、法務、物流、情報システム、カスタマーサービス、施設管理……」
というコメントに見られるとおり、管理する人数が多くなるだけではなく、担当する業務も広がり、“自らがよく知らない職務機能も管轄下に入る”ことも大きな変化と考えられます。
担当する組織が大きくなると、“普段現場が何を考えているのか分からなく”なり、“現場の生の声/マイナス情報が直接入らなく”なります。そんな中で“現場で何が起きているのかを正確に把握”するためにさまざまな工夫がされていました。例えば、なるべく職場に足を運ぶ、あるいは組織の外部に情報源を持つといったことがなされていました。
「悪い情報が入ってこなくなるので非常に気になりますね。ですから絶対外から見る目を持たなければならない。外からは自分では見られないので、外部のソースを持たなければなりません」
課長クラスと部長クラスの大きな違いは、課長クラスが、与えられた現有の経営資源を最大限活用し成果を上げるのに対し、部長クラスになると“社内・他部門と折衝し、各部門を動かしたり、資源調達をしなければならない”ということです。インタビューからは、
「部長ぐらいの時から、自分の営業部隊だけではなくて、会社の中の他の部隊とのやり取りがすごく多くなる」「他の部門の部長・課長など、自分の範囲から遠い人たちとともに、自分のやりたいようにやるにはどうすればいいのかという点が、部長としての一番最初の難しさではないか」
といったコメントが得られました。
組織規模の拡大に応じて、一人ではすべての業務を把握できなくなることから、“自らの右腕・分身をつくらなければならない”ということも部長層に特徴的な事柄でした。
「自分で全部、細かくはフォローできないのです。そのため、動かせる人間を引っ張ってきて、または育てて、その人にやらせることが必要」
このように右腕や分身に仕事を任せていくことが、自らの後継者を育成していくことにもつながっているようです。
さらに、“中長期の事業戦略と連動した方向性を打ち出さなければならない”という、時間的な広がりも大きな変化と言えます。加えて、「変革」という言葉が部長では多く語られました。部長層には、時として“抵抗を乗り越えて、組織内の変革”を主導し、また、“不振・低迷組織を立て直す”ことも求められることが確認されました。
このような立場や役割行動の変化に直面する中で、どのようなスキル・能力あるいはパーソナル特性が必要となるのかについても、インタビューを行いました。
部長クラスでの特徴的な変化は、管轄する組織の規模が大きくなることでした。自分一人の力では仕事をこなせなくなるため、異質なバックグラウンド、異なる雇用形態・キャリアを持つ成員を組織として動かしていく力が必要となるというような回答が多く得られました。また、大きな組織においては、現場情報の入手や現場への意思の伝達が困難になります。あるインタビュー対象者は、
「管轄する5つの課のうち、2つの課が目に入らない所にいるため部員と直接コミュニケーションできず、課長とやりとりをするしかない」
という状況の中で、人を介してのコミュニケーション能力が必要になることを痛感したとのことです。別のインタビュー対象者は、
「鍵となる人間をおさえる」「担当する商品の売上を10年で○○億にする、といった組織の合言葉を作る」
といったことを行いつつ、大規模組織に対して自らの意思や方針を伝達し・浸透させることを試みていました。
情報収集力に関しては、フォーマルな報告ラインだけではなく、非公式な情報収集ルートを持つことが重要だと分かりました。例えば以下のようなコメントが得られています。
「ラインの報告を裏付ける、自分が確信を持てるような情報源は、いっぱい持っていましたね。そのためにキーマンになる若手とはよく話していましたし、廊下を歩いていて、『どう?』って声かけるというのは、今でもよくやっています」
最後に、パーソナル特性に関しては、孤独に耐える、他者への尊敬、意思決定に一貫性を持つ、前向きさ・楽観さなどが重要なポイントとしてあがりました。特に、経験の通用しない状況での意思決定に際しては、
「自分なりの判断軸や拠り所を持つ」
ことが重要のようです。また、ある種の前向きさ・楽観さも重要であることが示されました。あるインタビュー対象者は以下のように語っています。
「目標達成しなかったとしても、怒られるけれど、命まで取られるわけじゃない」
ちなみに、必要な知識に関しては、多くの方が事業をとりまく環境などに関する知識は必要になるとしながらも、勉強して身につけるような一般的な経営知識を身につけることはあまり意識されていないことが明らかになりました。この結果は、部長クラスにおいては前述のようなスキル・能力、パーソナル特性に比較し、一般的な知識を身につけることの重要性が低く認識されていることを示しているのかもしれません。
ここまで、多くの方が最も大きな変化と考える部長クラスへのトランジションと、それに際して必要となるスキル・能力に関して、インタビューで得られたコメントを元にご紹介してきました。今後、本研究では、アンケートを用いてのサーベイを行い、これまで得られた結果を定量的に裏付けていく予定です。
また、より意思決定の影響範囲が広くなる事業部長クラス(Grade2)や、初めて評価権のある部下を持ち、業績に責任を負うことになる課長クラス(Grade4)に関しても併せて定量調査を行っていきます。
各階層を移行する際にどのような変化が起こるのか、そして変化に対処するために必要な知識、スキル、能力、パーソナル特性を探ることは、経営層および次世代リーダー育成の手法や内容について有益な示唆を提供してくれると考えられます。今後行う定量調査において、さらにどのようなことが明確になるのか、その結果についてはあらためてご紹介します。
企業経営を担う人材として求められる、あるいは望ましい要素は何なのか、それは開発可能なのか、そしてどの段階でどのように開発されていくのか、本研究は探っていきます。
【text:シニアスタッフ 本合 暁詩】
※記事の内容および所属等は掲載時点のものとなります。
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