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異動や離職など流動性がもたらす影響について考える

組織の流動性を捉える視点

  • 公開日:2024/01/15
  • 更新日:2024/05/16
組織の流動性を捉える視点

個人による仕事や働き方の選択幅の拡大などを背景に、組織における人材の流動性は高まる傾向にある。経済の生産性を高めるためにも流動性を促進すべきだという主張も盛んだが、職場環境における流動性の変化は、組織やそこで働く個人に対してどのような影響をもたらすのだろうか。本レビューでは、組織の流動性を捉える視点が多様であることを説明し、関連する研究を概観することで、その影響を理解する枠組みについて論じる。  

組織の流動性とは
組織の流動性を捉える視点
組織の流動性のマネジメントに向けて

組織の流動性とは

流動性(fluidity)とは、簡単にいえば、人の動き(出入り)のことである。なかでも、本稿では、企業組織内部での人の流動性に焦点を合わせる。

組織をめぐる人の動きには、企業間での人の出入りだけでなく、企業内での人の動きもある。前者は、「外的な移動(External Mobility)」とも呼ばれ、労働市場における雇用の流動化などの文脈のなかで念頭に置かれているものである。それに対して、後者は「内的な移動(Internal Mobility)」とも呼ばれ、組織内部の人事異動などを指すとされる *1 。

こうした区分を踏まえた上で、本稿では企業のなかで生じる人の動き、つまり「職場」を移る程度・頻度に注目する。組織の流動性が高いとは、(外的な移動か内的な移動かを問わず)職場を移る人が多いという状況であり(図表1-a)、逆に、流動性が低い状況とは、職場を動く人や頻度が少ないという状況である(図表1-b)。流動性が高い場合、人の入れ替わりが多いため、従業員はさまざまな人と仕事をする機会が相対的に多くなるのに対して、流動性が低い場合は、皆が継続的に同じ職場にいるため、固定的なメンバーで仕事をしていくことが多くなる。

<図表1>組織の流動性の高低

<図表1>組織の流動性の高低

こうした職場や協働関係への人の出入りの程度、すなわち流動性は、組織文脈を構成する重要な要因として組織論のなかで重要視されており、現代の職場を特徴づける要素の1つと考えられている *2 。

組織の流動性を捉える視点

こうした重要性にもかかわらず、組織のなかのどの視点をとるか(どの立場からの影響を見るか)によって、流動性の意味合いは異なっているように思われる。これまでの学術研究の流れを踏まえると、3つの視点に分けて考えることが重要である(図表2)。

<図表2>組織の流動性を捉える3つの視点

<図表2>組織の流動性を捉える3つの視点

a. 個人からの視点(ミクロ)

1つ目は、従業員個々人からの視点である(図表2-a)。職場を動く各人への影響に注目し、その個人が職場を移動する程度(mobility)を捉える視点であり、その意味で「ミクロ」な視点と表現することもできる。

こうした観点からの流動性の影響については、学術的な研究の蓄積が見られる。最近のメタアナリシスによれば、組織内部での職場の移動は個人の職務満足度や組織コミットメント、キャリア上の成功などの知覚にプラスの影響があるとされる *3 。また、金融機関を対象にした研究例では、人事異動を経験した従業員のパフォーマンスが高まることが報告されている *4 。否定的な効果を報告している研究例もあるが、総じていえば、流動性は、個人の人材価値を高め、キャリアにとってプラスであると考えられている *1 。

しかしながら、これらの結果を解釈する際には、「移動の自発性」(新しい職場に移るかどうかを自分の意志で決められること)について留意する必要があると考えられる。社内異動についての人事慣行は国によっても異なっており、例えば、いわゆるジョブ型雇用が中心とされるアメリカにおいては、日本と比べ定期異動など非自発的な異動が少ないと考えられている。そうした背景から、上記の研究結果は、自分で主体的に(希望して)職場を移動していることを前提としている可能性もある。組織的な要請によって行われる非自発的な職場の移動が、個人に対してどのような影響をもつのかについては未解明な部分も多いと考えられる。

移動の自発性が重要であるという点は、社会心理学分野で近年盛んになっている「関係流動性(relational mobility)」についての議論においても強調されている。関係流動性は、「社会環境のなかで、必要に応じて新しい相手と相互作用をすることができる機会の多さ」として定義され、それが高い社会環境では、新しい関係性の構築に向けて対人的な信頼や自己肯定感などの重要性が高まるのに対して、低い環境では、既存の関係の維持に向けて周囲に合わせていくような振る舞いが重要になるとされる *5 。

こうした関係流動性と、実際の流動性の高さ(つまり、人々の職場の移動の多さ)とがどのように関連するかについては不明確である。なぜなら、たとえ職場の移動が多くても、それが非自発的なもの(例えば組織要請による人事異動)であったとすれば、関係流動性が高くなるとは限らないからである。それらがどのような関係にあり、どのような影響をもつのかについては、今後の研究の蓄積を待つ必要がある。

結局のところ、個々人に対して流動性がどのように影響するのかは、各個人の受け止め方によって大きく異なる可能性が高いと思われる。実際、流動性の効果が個人の業績水準や職場内の立場などによって異なることを示唆する研究結果も見られつつある *4,6 。こうした個人間の違いの大きさは、個人視点での流動性についての理解を難しくしている原因の1つであると考えられる。

b. 企業からの視点(マクロ)

第2は、企業全体からの視点である(図表2-b)。個々の職場・チームや従業員それぞれではなく、ある企業組織のなかでの人の動きや移動の程度(mobility)と、それによる組織全体への影響を考えるという意味で、「マクロ」な視点と呼ぶこともできる。

こうした視点からの学術知見を見ると、流動性は基本的にイノベーションに対してポジティブに働くと捉えられてきた。例えば、内的な移動が知識移転に関する障壁を取り除くことによって企業の知識創造を促進させることができるという知見がある *7 。つまり、知識をもった従業員がその知識を他の職場の従業員に提供することが困難である場合にも、それを人の移動によって(知識ではなく人自体を動かすことによって)解消することができる。

また、より一般に、企業内の流動性は、組織内の人的リソースの有効活用につながり、企業の効率性を改善するという議論も行われている *8 。特に、人事異動によって企業は従業員の適性を学び、より効果的・効率的な職務アサインを行うことができるようになるという指摘もある *9 。言い換えれば、企業視点での流動性は、当該企業の人的資本の構築につながると考えられる。

このように流動性のポジティブな側面を強調する研究が多いが、企業視点からの研究は、個人視点からの研究に比べ、そもそもの量が不足しているという指摘もある *1 。企業内の流動性が人的資本につながるという議論は興味深いものの、実証的な知見が十分に蓄積されているとは言い難く、知見の一般化には留意が必要である。

c. 職場からの視点(メゾ)

第3は、企業内での協働の実際的な単位、すなわち職場やチームなどからの視点である(図表2-c)。この視点で注目しているのは、職場のメンバーが入れ替わる程度(fluidity)であり、これまでの2つの視点(個人・企業)の中間に位置するという意味で「メゾ」的ということもできるだろう。

ここで注目しているのは、「実際の協働を行う相手が変わることがどの程度あるのか」ということであり、「その度合いが職場にどのような影響をもたらすのか」ということである。同じ企業組織のなかでも、ある職場・チームではメンバーがほとんど入れ替わらずに固定的であるかもしれないし、他の職場・チームではメンバーが頻繁に入れ替わって流動的な職場となっているかもしれない。また、職場の流動性が高いとしても、自分自身はずっとその職場に居続けているという可能性もある。そうした意味で、この第3の視点は、これまでの2つの視点とは別種のものである。

職場・チームの流動性についての先行研究は、企業の流動性についての知見と同様、イノベーションや創造性については、ポジティブな影響を報告するものが多い。例えば、新しいメンバーの加入は、創造的なタスクのチームパフォーマンスを向上させるという研究知見が知られている *10 。しかし、それ以外のチームプロセスについてはネガティブな影響が多く見られ、総じて、チームのメンバー変更は、少なくとも当初は、チームの有効性を低下させると考えられている *11 。メンバーの入れ替わりは、役割分担についてのチームメンバーの知識を混乱させることを通じて、例えばチームのコーディネーションを毀損したり、メンバー間の結束を弱めたりするとされる *12 。

ただし、先行研究では、チームの流動性(メンバーの入れ替わり)のどの部分を捉えるかについて一貫していない。既存メンバーの離脱に注目する研究もあれば、新規加入のみを対象とする研究もあるし、両者を区別しない研究もある *11 。また、流動性がチームに与える影響について、時間軸を考慮した研究が必要だという指摘は根強いが、この点に関する実証的な知見は多くないのが現状である。

なお、こうした職場・チームの視点からの流動性への着目は、前述の「関係流動性」と並んで論じられている「居住地流動性(residential mobility)」と共通する点が多いことを指摘しておきたい。居住地流動性は、さまざまな定義があるが、「コミュニティのなかでの住民の入れ替わる割合」と考えられており、これまでの研究では、人々の社会的ネットワークや期待される人間関係の長さに影響を与えることが示唆されている *5 。例えば、人の入れ替わりが多い地域では、そうでない地域よりも、大きなネットワークをもつことによる社会経済的なメリットが大きいといった研究や、軽い集まりや短期的なプランが好まれやすいことなどが報告されている *13 。

こうした研究知見は、人々が暮らすコミュニティのなかでの社会的場面における相互作用相手が実際に変わる(可能性が高い)ことが、相互作用のあり様を規定しているということを示唆している。職場視点での流動性、すなわち組織のなかでの協働場面における相互作用相手(職場やチームの同僚)が変わる程度が、職場や個人に及ぼす影響について理解するためには、こうした組織外の文脈での議論を参照していくことも有用であると思われる。

ここまでの3つの視点からの議論を図表3にまとめた。

<図表3>視点による流動性の効果の違い

<図表3>視点による流動性の効果の違い

組織の流動性のマネジメントに向けて

これまで見てきたように、組織の流動性の影響は、どの視点から見るかによってその様相を異にしている。例えば、個人に対してポジティブな影響をもたらす異動(希望の職場への配置転換など)が、必ずしも職場・チームや、組織全体にとって望ましいことであるとは限らないかもしれない。また、組織全体の視点からプラスになるような試みでも(例えば適性に合わせた配置の実現による人的資本の構築)、職場・チームにとってはチーム内の調整を損なわせる結果になるかもしれない。流動性のマネジメントに際しては、複数の視点を統合的に捉えることが必要となるだろう。

職場のマネジメントの上では、個人の視点と職場の視点の接合が、特に重要だと思われる。例えば、人事異動について検討する際、ある個人の異動が当該の個人に及ぼす影響について(特に実務的には)注目しがちであるが、その異動が転出元や転出先の職場・チームにどのような影響をもたらすのかを併せて検討していくべきであろう。同時に、流動性が職場に及ぼす効果に加えて、そのなかのさまざまな個人の誰に対してどのような影響をもたらしているのかについて詳細に検討していく必要があるだろう。実際、弊社の行った研究では、チームの流動性(職場のメンバーの入れ替わり)がモチベーションに及ぼす影響は、職場内の立場が高い従業員よりも、低い従業員において強く見られることを示唆している *6 。

また、「流動性をマネジメントする」ことに加えて、「流動性に応じたマネジメントをする」ことも重要であるように思われる。流動性の効果についての先行知見は必ずしも一貫せずに正負両方向の結果が混在する状況であることを考えると、流動性に合わせたチーム設計や組織運営を行うことが重要になるだろう。実際、最近の研究では、流動性によって、重要となるチームプロセスが異なるということが明らかになりつつある。例えば、流動性が高いと、心理的安全性などの効果が働きにくくなるという研究もある *14,15 。

流動性は、個人や組織の協働のあり方を規定する、職場環境の根本要因の1つであると考えられる。社会全体の流動性の高まりとも呼応して、その影響を適切に理解し、組織運営に活用していくことが今後ますます求められるようになるだろう。

1 Ray, C. (2023). Internal Mobility: A Review and Agenda for Future Research. Journal of Management, 01492063231180826.

2 稲水伸行. (2014). 流動化する組織の意思決定: エージェント・ベース・アプローチ. 東京大学出版会.

3 Mlekus, L., & Maier, G. W. (2021). More hype than substance? A meta-analysis on job and task rotation. Frontiers in psychology, 12, 633530.

4 Kampkötter, P., Harbring, C., & Sliwka, D. (2018). Job rotation and employee performance-evidence from a longitudinal study in the financial services industry. The International Journal of Human Resource Management, 29(10), 1709-1735.

5 Oishi, S., Schug, J., Yuki, M., & Axt, J. (2015). The psychology of residential and relational mobilities. Handbook of Advances in Culture and Psychology, Volume 5.

6 仲間大輔・村本由紀子. (2023a). 能力格差と流動性は誰の協力意欲を高めるか? 集団内の個人の立ち位置に注目した企業組織データ分析. 日本社会心理学会 第64回大会発表論文集.

7 Stadler, C., Helfat, C. E., & Verona, G. (2022). Transferring knowledge by transferring individuals: Innovative technology use and organizational performance in multiunit firms. Organization Science, 33, 253-274.

8 Weller, I., Hymer, C. B., Nyberg, A. J., & Ebert, J. (2019). How matching creates value: Cogs and wheels for human capital resources research. Academy of Management Annals, 13, 188-214.

9 Ortega, J. (2001). Job rotation as a learning mechanism. Management Science, 4710, 1361-1370.

10 Choi, H. S., & Thompson, L. (2005). Old wine in a new bottle: Impact of membership change on group creativity. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 98, 121-132.

11 Li, J., & van Knippenberg, D. (2021). The team causes and consequences of team membership change: A temporal perspective. Academy of Management Annals, 15(2), 577-606.

12 van der Vegt, G. S., Bunderson, J. S., & Kuipers, B. (2010). Why turnover matters in self managing work teams: Learning, social integration, and task flexibility. Journal of Management, 36, 1168-1191.

13 Choi, H., & Oishi, S. (2020). The psychology of residential mobility: A decade of progress. Current opinion in psychology, 32, 72-75.

14 Guo,W., & Wang, D. (2017). Does joint decision making foster team creativity? Exploring the moderating and mediating effects. Personnel Review, 46, 1590-1604.

15 仲間大輔・村本由紀子. (2023b).能力格差がチームのコーディネーションに及ぼす影響:メンバーの流動性の調整効果に着目して. 産業・組織心理学会第38回大会発表論文集.

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.72 特集1「組織の流動性とマネジメント」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

執筆者

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技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
主任研究員

仲間 大輔

2006年リクルート入社。京都大学総合人間学部にて文化心理学を専攻、北海道大学にて修士号を取得(社会心理学)。米国公認会計士。 リクルートホールディングスにて、主にグローバルM&AとPMI・海外子会社マネジメントに従事し、米国駐在などを経て、2017年4月より現職。 現在は、チームと組織デザインをテーマに、メンバー間のコーディネーションや協力についての研究を行っている。主な研究手法は、心理学実験、シミュレーション、組織データ分析、職場調査など。 Advancement Prize for MSEM Nominated Prize 受賞(The 12th International Conference on Management Science and Engineering Management.)

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