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企業事例

自律型人材の育成 東京海上日動火災保険

発意と挑戦を促すマネジメント変革で人的資本を最大化

  • 公開日:2023/05/15
  • 更新日:2024/05/16
発意と挑戦を促すマネジメント変革で人的資本を最大化

めまぐるしく環境変化する昨今では、上意下達のマネジメントは通用しにくい。自ら考え、行動する自律型人材の育成が、多くの企業で急務となっている。まさに今、マネジメント変革を通じて、自律型人材の育成に取り組んでいる東京海上日動火災保険株式会社 人事企画部 人材開発室 課長 能力開発チーム 堀 豪志氏にお話を伺った。

育成方針は「自ら考え、行動し、発信する人材」
部下の心に火をつけるマネジメント変革を推進
対話のキャッチボールを通じてWin-Winになるゴールを目指す
ステップ・バイ・ステップで個と組織の関係性を進化させる

育成方針は「自ら考え、行動し、発信する人材」

東京海上日動火災保険には「保険事業はPeople’ s Business」という共通認識がある。ものを作らない同社では、人とその人が作る信用と信頼が、社会に提供できる価値そのもの。その価値を最大化すべく、古くから人材育成を大切にする伝統がある。育成方針も一貫して「自ら考え、行動し、発信する人材」。昨今、人的資本経営という言葉が注目を集める前から、人材の価値を最大限に引き出すための試行錯誤を重ねてきた。

保険業界も事業環境の変化が激しい。保険商品においても、引き受けるリスクは広がり続けている。顧客のニーズも千差万別で、スピード感をもって変化している顧客も多い。当然、パートナーである同社にもスピードが求められる。「『自ら考え行動し発信すること』や『スピード感をもって成長し続けること』がより重要な課題に。理想はいわゆるモチベーション3.0 の状態。内発的動機に基づいて自律することは、当社のビジョンにも重なります」と人材開発室課長の堀 豪志氏は話す。

部下の心に火をつけるマネジメント変革を推進

社員の内発的動機を引き出す上で上司の役割は大きい。上司と部下の対話のなかで、発意を引き出す工夫をしている。代表的なものに「役割チャレンジ面接」がある。本人のなりたい姿や思い、挑戦を引き出す対話を、年度末の考課面接を含めて年4回実施。各期に挑戦する目標を決めて、日常的にフィードバックするというものだ。人事からも面接の進め方などを含めて手厚く発信している。

労使一体の取り組み「ディスカバリータイム」も年3回実施。まず、メンバー同士がお互いにどんな価値観で、どんなふうに働きたいかを自己開示し、相互理解を深める。そののちに、個々の目標を組織のパーパスにどうつなげるかを話し合い、共有する。個人と組織の両方が良くなるための対話を重ね、ステップ・バイ・ステップで個と組織の関係性の質を高めているのだ。

年1回実施する全管理職対象の「マネジメント研修」では、研修コンテンツを各組織の部門長に渡し、各部門、各部支店のなかで行っている。2022年のテーマは、「パフォーマンスマネジメント」「アサーティブフィードバック」「マネジメントマップ」だった。

「パフォーマンスマネジメント」では、タスク偏重のマネジメントではなく、部下をしっかりと見た上で、パフォーマンスをマネジメントするための考え方を伝えている。在宅勤務が浸透したことで、物理的距離が離れて直接顔を見る機会が減っている傾向もある。また、組織メンバーの多様性も向上している。そのため、従来以上に部下の心身の状態に気を配るねらいもあるという。

対話のキャッチボールを通じてWin-Winになるゴールを目指す

「アサーティブフィードバック」は2022年から始めた取り組みだ。同社は昔から組織の関係性の質を高め、発意を引き出す取り組みをしてきた。心理的安全性も確保できている。次のステップとして、優しいだけの組織ではなく、結果を出すチームにするため、伝えるべきことは伝える関係を目指す。

「例えば、アウトプットは良質ながら、非常に時間がかかっている部下には、そのことについて率直に『どう思っている?』と問いかけます。その上で、本人の考えをしっかりと聞き、対話のキャッチボールでWin-Winのゴールを目指すのです」

また、同社では人材育成に長けているマネジャーを研究し、そのエッセンスを「マネジメントマップ」にまとめた。このマップを全管理職が見て、自分ができている部分・できていない部分、あるいは得意な部分・得意ではない部分を振り返り、それを互いに共有して、次のステップを考えるヒントにしている。ただし、マネジメントマップは完璧なマネジメントを目指すためのチェックリストではない。「全要素を完璧にできる人なんてこの世にいません。あなたなら、どう組み合わせて、自分のマネジメント方針を作りますか? と繰り返し伝えています」

ステップ・バイ・ステップで個と組織の関係性を進化させる

同社の取り組みの根底にあるのは「組織の成功循環モデル」の考え方である。2018年頃から本格的に組織の関係の質にフォーカスし、自己開示し、相互理解を深めるところから始めた。「取り組みを重ねて、関係の質や心理的安全性、エンゲージメントの向上が見えてきました。ステップ・バイ・ステップで次のステージに進むタイミングを探っています。最高の結果を出すチームになるために必要なアプローチをすべく、現在は『良い組織が、良い結果を導く』という共通認識を広く醸成しているところです」

個人の思いと組織の思いをどう重ねるか。重なった部分をいかに広げるかというところにも、一貫してこだわってきた。組織のパーパスを意識した上で、個人の自律性を育むことに取り組んでいる。「『個人も組織も両方成長するんだ』という姿勢が大事だと考えています。すべての施策が、そこに集約されているといっても過言ではありません」

人材育成における2023年のテーマは「原点回帰」である。「そもそも当社のDNAには人材育成が深く刻まれています。だからいま一度、原点回帰しようとメッセージを発信していこうとしているところです。世の中には1on1やマネジメントのtipsが溢れています。もちろんそれも大事ですが、私たちは『相手を想って育成し、共に成長を喜び、世話をやく文化』をもう一度強めていきたいのです」

人材育成のDNAが、同社の強みである。同社には1万7000人を超える社員がいる。一人ひとりの発意と挑戦を引き出せば、それはとてつもなく大きな力となる。

新たな施策として、「Myチャレンジ」もスタートした。上司・部下でこの1年で特に力を入れて挑戦する内容をすり合わせて、上司は達成に向けて伴走する。挑戦の内容は、周囲とも共有。それが、お互いの支え合いにつながり、刺激にもなる。施策の内容はこれからさらに磨かれていく予定だ。「社員1人の力が1.1倍、1.2倍になり、それが1万7000人分になれば、より多くの価値をお客様に届けられます。まさにそれが、人材育成に携わる私自身のやりがいでもあるのです」

1万7000人の発意と挑戦を引き出し、個と組織のポテンシャルを最大限まで高めて、東京海上日動火災保険は新しい歴史を作る。

 報酬と罰則による動機付けに代わる、自分の内側から湧き出るモチベーション。ダニエル・ピンク氏が提唱。

【text:外山 武史 photo:伊藤 誠】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.69 特集2「変化の時代に求められるマネジメントと職場づくり」より抜粋・一部修正したものである。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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