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オンボーディングが目指すもの 先行研究からの視点

組織社会化を考える

  • 公開日:2021/09/17
  • 更新日:2024/05/17
組織社会化を考える

入社後の社員の定着や活躍を促進するための組織が行う一連の取り組みを「オンボーディング」という。組織社会化の成功は、「オンボーディング」が目指すものといえる。ここでは、新規参入者(入社者)側の視点も含めて、より多くの視点からの研究が蓄積されている「組織社会化」研究のレビューを行う。

組織社会化とは
組織社会化に関する主要な先行研究
組織がデザインする社会化戦略
組織社会化で新規参入者が学ぶもの
新規参入者の主体的行動
自律的なキャリアを視野に入れたこれからの組織社会化

組織社会化とは

組織社会化(organizational socialization)とは、個人が組織の一員になるために、必要な態度や行動、知識を習得するプロセスのことである*1。組織と個人の相互の働きかけから成る。組織の側は影響力を発揮して、新規参入者の変容を促そうとするし、参入者の側は、自分が受け入れることが可能な組織内役割を獲得しようとする*2。部署間異動などでも生じるプロセスであるが、組織外からの参入時に最も顕著な現象で、多くの研究は、入社時とその前後のプロセスを対象としている。

組織社会化に関する研究はこれまで数多く行われてきた。最初に、メタ分析の結果を1つ紹介する(図表1)。

<図表1>新規参入者の適応の先行要因と結果に関するメタ分析

<図表1>新規参入者の適応の先行要因と結果に関するメタ分析

70個のサンプル(n=12279)が、この分析の基になっている。新規参入者の適応を真ん中に置いて、先行要因からのパスと、結果へのパスが引かれている。適応の3つの変数は、程度が高いほど適応がうまくいっていることを示す。役割がはっきりしており、自分の遂行能力に自信をもち、既存の組織メンバーに受け入れられれば、さまざまな望ましい結果が得られる。すでに多くのことが分かっているが、まだ実務場面での課題は多い。

そこで、ここでは下記の2つのまとまりで研究知見を紹介する。最初にこれまでの組織社会化の研究を、大きく4つのカテゴリー(ステージモデル、組織の社会化戦略、新規参入者の学び、新規参入者の主体的行動)に分けて、かいつまんで紹介する。このあたりの詳細なレビューについては、尾形(2017)*4を参照いただきたい。その後、日本企業が直面するであろう今後の変化を見据えた際に、特に重要になると思われる視点に絞って、選択的レビューを行う。

組織社会化に関する主要な先行研究

組織社会化のステージモデル

組織社会化をステージモデルで捉える考え方がある。図表2はそれらを、「期待」「出会い」「適応」「安定」の4つに整理したものである。

<図表2>組織社会化のステージモデル

<図表2>組織社会化のステージモデル

統合的モデルは、提案されてきたモデルを一般性の高い記述としてまとめたものである。一方、限定的モデルは、コミュニケーションや役割変化といった特定の関心対象を前提に考えられたモデルである。組織に入る前の「期待」と、「安定」より後のステージはモデル間で違いがあるものの、おおむね4つのステージに集約される。ステージモデルは組織社会化がすべてのステージを経由することを主張するものではなく、組織社会化の時間の経過による変化を理解するための概念として用いるものである。

例えば、「リアリティショック」への対処を考える場合、「期待」と「出会い」のズレに問題があるとすると、現実的な職務予期(realistic job preview)や、導入研修の重要性が高いと考えられる。また「安定」やそれ以降のステージは、プロジェクトチームのような比較的短期的な集団への社会化を考える際には、有効だろう。

組織がデザインする社会化戦略

1970年頃の組織社会化の研究では、組織側の社会化戦略が研究の対象となっていた。そのきっかけになったのが、Van MaanenとSchein (1979)の社会化戦略の6つの特徴分類の軸である:「集合-個別」「公式-非公式」「一連-ランダム」「固定-可変」「接続-分離」「個の抑圧-個の尊重」*1。

これらの軸は、前者を制度的なもの、後者を個別のものとしたときに*6、社会化戦略が前者寄りであるほど、満足度や組織へのコミットメント、組織や仕事との適合などの望ましい結果につながることが示されている*7。その理由として、制度化された社会化戦略のもとでは、新規参入者が従うべきルールややり方が明確であるほど、不安や失敗が少ないことが挙げられる。

しかし、役割変革に関しては、制度的な社会化戦略はネガティブに影響することが示されている*8,9。どのように振る舞うべきかが明確な場合、新規参入者の個性や特徴が抑圧され、その結果変革的な行動は起きにくいと考えられる。

加えて、組織の社会化戦略は、新規学卒者に比べて中途入社者に対する効果は小さく、中途入社者では本人の主体的行動の影響の方が大きいことも報告されている。組織社会化戦略は、対象や仕事内容などによって、効果は異なる。

組織社会化で新規参入者が学ぶもの

新規参入者は、組織の仕事の進め方、人間関係、組織風土などを身につけることで組織の一員になる。組織社会化の内容に関する議論では、新規参入者が何を学習するかに着目する。新規参入者の学習こそが、前項の組織社会化戦略や、次項の新規参入者自身の主体的行動を、望ましい結果へと結びつけると考える*10。

多くの研究者が、組織社会化の内容の提案と、その妥当性の検証を行っている。それらは大きく「仕事や職務」「役割」「対人関係や集団」「組織」に分けられる。「仕事や職務」「役割」は、中心的な職務遂行に際して、まず学ぶ必要がある知識やスキルを含む。「対人関係や集団」は、上司や職場メンバーの特徴の他に、人間関係やコミュニケーションのとり方に関する知識で、人と協力して仕事を進める際に重要である。「組織」には、制度的な特徴の他に、歴史や組織風土、価値観などに関する知識が含まれる。どの知識が組織社会化のなかでより重要になるかは、仕事や組織によって異なる*11。

測定尺度が開発されていることもあり、学習の程度と望ましい結果の関連性を示す研究は多い。しかし、学習が進むプロセスについては、あまり研究が進んでいない。研究例としては、コミュニケーションの分野で、組織社会化のプロセスで行われる会話を分析したBargeとSchlueter(2004)は、さまざまな組織に新規参入した人の8割以上が、組織側からの会話を好意的と判断していたことを報告している*12。また、今後は、どの組織社会化の内容がどのような状況下でより重要になるか、学ぶ順番の影響(例えば「仕事」の前に「組織」を学ぶ)など、さらに研究を進めることで、実務への示唆の広がりも期待できる。

新規参入者の主体的行動

新規参入者は、学びを進めるための情報が必要である。ところが、組織側から公式に与えられる情報は一般的なもので、目の前の状況に合わせて翻訳が必要になる。そこで、新規参入者は、自ら情報を集める必要がある。

新規参入者の主体的行動に関する研究は、3つに分類される。1つ目は、社会的な戦略に関するものである。新規参入者は直接質問と観察を最もよく行い、情報を求める先は同僚と上司が多い。情報の取得がリスクだと思うと直接質問を控えて、密かに情報にアクセスしようとする*13。

2つ目は、どのように新規参入者がコントロール感を獲得するのかに着目したもので、情報理解や他者との関係構築、自己管理などのための行動戦略に関するものである。フィードバックを求める行動や仕事を変えるための交渉活動などが含まれる*14。

3つ目は、新規参入者の自己統制に関するもので、自ら目標や、行動する際のきっかけ、賞罰などを決めることがある。効果的な自己統制のためには、新規参入者は何をすべきか、どのくらいうまくできているかを知る必要がある*15。

新規参入者自身の主体的な行動への着目は、この後述べるアイデンティティの話と関連する。新規参入者が働きかけることで、組織社会化における力関係には変化が生じる。その変化は、旧来の個人が組織に合わせる組織社会化とは異なる、個人を生かす組織社会化へとつながっていく。

自律的なキャリアを視野に入れたこれからの組織社会化

ここからは、今後存在感を増すと思われる自律的キャリアを想定した組織社会化を考えるヒントとして、個人のアイデンティティに着目した研究と、組織全体といった大きな集団ではなく職場や小集団を対象とした組織社会化に関する研究を見ていく。

組織社会化プロセスとアイデンティティの構築

組織社会化研究の第一人者であるAshforthが、同僚のSchinoffと2016年に発表したレビュー論文のタイトルが、「アイデンティティの構築:どのように個人は組織における自分を定義するのか(筆者訳)」である*16。個人の視点からの組織社会化で、キャリア自律の流れに沿うものと考える。兼業やキャリアチェンジを経験する個人は、その時々で自分自身を何者と考えて行動するのだろうか。また異なる集団との出会いは、個人にどのような課題を突き付けるのだろうか。個人だけでなくそのような個人をマネジメントする組織にとっても重要な観点になるだろう。

ここでのアイデンティティは、「当人が自分を何者と思っているか」であると定義しておく。社会的アイデンティティには、集団に関するもの(職業、組織、チームなど)、カテゴリーに関するもの(年齢、性別、国籍など)がある。また個人のアイデンティティ(性格や価値観、記憶など)もあって、複合的である。しかも可能自己と呼ばれる、将来のなりたい自分像も含まれ、時間や環境によってダイナミックに変化するものと考えられている。

論文で紹介されていたモデルが図表3である。

<図表3>組織におけるアイデンティティの構築プロセス

<図表3>組織におけるアイデンティティの構築プロセス

私たちには自分自身を確認したり、定義したりしたいと思う動機が備わっている(アイデンティティへの動機づけ)。新しい組織に入った際に、それまで自分が行っていた解釈や意味付けが役に立たなくなる経験をする(組織による意味の破壊)。特に組織参入の場合はインパクトが大きく、自分の考えだけでなく、自分自身が何者かを問い直される経験になる。組織からの組織社会化の働きかけを通して、新たな意味が付与される(組織による意味の付与)。そして、新たな意味付けができ、アイデンティティが再構築される。その結果、環境に応じたアイデンティティが獲得され、個人は組織に適応する。

モデルの検証はこれからであるが、新規参入者が望ましい自己が実現できる(“私は自分が何者であり将来の仕事のなかでどうなりたいかが明確である”)と考える傾向が強いほど、1カ月後により主体的な適応行動をとることを報告する実証研究がある*17。

チームベースの組織社会化


もう1つの視点が、チームベースの組織社会化である。先行研究の多くが組織全体を想定してきたが、組織の価値観を本当に理解するのは、上司や先輩と会話をしたり、彼らの様子を観察することによってである。図表4は個人と組織の間に、特定の対人関係(例えば上司・部下)や、集団(例えば職場やチーム)が存在する様子を示している。

<図表4>個人レベルと組織レベルをつなぐ局在化した組織社会化

<図表4>個人レベルと組織レベルをつなぐ局在化した組織社会化

MorelandとLevine(1982)は、個人がグループに入る際のプロセスについて、グループの組織社会化モデルを提案した*18。組織への社会化モデルとの違いとして、個人とグループが互いに影響し合うことを強く前提としている点が挙げられる。グループはグループゴールの達成に向けて、個人から最大限の貢献を引き出すことを志向し、個人は自分の希望や期待の実現のためにグループを変えようとする。このモデルでは個人がグループに変革を起こす可能性を指摘している。組織全体は大きすぎるが、グループレベルであれば、新たに入ってきたメンバーの影響が大きい場合があることは想像に難くない。

最後にチームレベルの組織社会化に関する実証研究を1つ紹介する。2カ月間にわたってハイテクのプロジェクトチームで行われた研究で、70名の新規参入者、70名のチームリーダー、102名のチームメイトからデータ収集を行った。図表5はその結果である。

<図表5>チームの組織社会化プロセス

<図表5>チームの組織社会化プロセス

新規参入者の自己効力感が、自分自身のパフォーマンスへの期待を高めた。また新規参入者の職務経験が、チームからの期待を高めた。これらの期待の高まりは、動機づけや対人プロセスにポジティブな影響を及ぼすことで、新規参入者のパフォーマンスを高めた。この研究は個人とチームとの相互作用がなぜ重要なのかを示している。

組織社会化は、個人のキャリア観が変わったり、組織個人の関係性が変化したりすることで異なる様相を示す。対面で会うことが難しい状況下での新入社員の組織社会化も、新たな課題である。バーチャルチームや多国籍チームへの新たなメンバーの参入はどうだろうか。人が新しい集団に参加する際の問題として考えれば、まだまだ研究の余地が大きい領域だと思われる。

*1 Van Maanen, J. & Schein, E. H. (1979). Toward a theory of organizationalsocialization.In B.M. Staw (ed.), Research in organizational behavior (Vol. 1, pp. 209–264).Greenwich, CT: JAI Press.
*2 Fisher, C. D. (1986). Organizational socialization: An integrative review. In K. M.Rowland & G. R. Ferris (eds), Research in personnel and human resourcesmanagement(Vol. 4, pp. 101–145). Greenwich, CT: JAI Press.
*3 Bauer, T. N., Bodner, T., Erdogan, B., Truxillo, D. M. & Tucker, J. S. (2007). Newcomeradjustment during organizational socialization: A meta-analytic review ofantecedents, outcomes, and methods. Journal of applied psychology, 92(3), 707.
*4 尾形真実哉(2017).「組織社会化研究の展望と日本型組織社会化」中原淳編『人材開発研究大全』第9章(209-242頁).東京大学出版会.
*5 Ashforth, B. E., Sluss, D. M. & Harrison, S. H. (2007). Socialization in organizationalcontexts. In G. P. Hodgkinson & J. K. Ford (eds.), International Review of Industrialand Organizational Psychology 2007 (pp. 1–70). John Wiley & Sons Ltd.
*6 Jones, G. R. (1986). Socialization tactics, self-efficacy, and newcomers’ adjustmentsto organizations. Academy of Management Journal, 29, 262–279.
*7 Saks, A. M. & Ashforth, B. E. (1997). Organizational socialization: Making sense ofthe past and present as a prologue for the future. Journal of Vocational Behavior, 51,
234–279.
*8 Allen, N. J. & Meyer, J. P. (1990). Organizational socialization tactics: A longitudinalanalysis of links to newcomers’ commitment and role orientation. Academy ofManagement Journal, 33, 847–858.
*9 King, R. C. & Sethi, V. (1992). Socialization of professionals in high-technology firms.The Journal of High Technology Management Research, 3(2), 147-168.
*10 Ashforth, B. E., Sluss, D. M. & Saks, A. M. (2007). Socialization tactics, proactivebehavior, and newcomer learning: Integrating socialization models. Journal of vocational behavior, 70(3), 447-462.
*11 Klein, H. J., Fan, J. & Preacher, K. J. (2006). The effects of early socializationexperiences on content mastery and outcomes: A mediational approach. Journal ofVocational Behavior, 68, 96–115.
*12 Barge, J. K. & Schlueter, D. W. (2004). Memorable messages and newcomersocialization. Western Journal of Communication (includes Communication Reports),68(3), 233-256.
*13 Jablin, F. M. (2001). Organizational entry, assimilation, and disengagement/exit. In F.M. Jablin & L. L. Putnam (eds), The new handbook of organizational communication:Advances in theory, research, and method (pp. 732–818). Thousand Oaks, CA:Sage.
*14 Ashford, S. J. & Black, J. S. (1996). Proactivity during organizational entry: The role ofdesire for control. Journal of Applied Psychology, 81, 199–214.
*15 Ashford, S. J. & Taylor, M. S. (1990). Adaptation to work transitions: An integrativeapproach. In G.R. Ferris & K.M. Rowland (eds), Research in personnel and humanresources management (Vol. 8, pp. 1–39). Greenwich, CT: JAI Press.
*16 Ashforth, B. E. & Schinoff, B. S. (2016). Identity under construction: How individualscome to define themselves in organizations. Annual Review of OrganizationalPsychology and Organizational Behavior, 3, 111-137.
*17 Zhang, Y., Liao, J., Yan, Y.& Guo, Y. (2014). Newcomers’ future work selves, perceivedsupervisor support, and proactive socialization in Chinese organizations. Soc. Behav.Pers. 42(9):1457–72
*18 Moreland, R. L. & Levine, J. M. (1982). Socialization in small groups: Temporalchanges in individual-group relations. In Advances in experimental social psychology(Vol. 15, pp. 137-192). Academic Press.
*19 Chen, G. & Klimoski, R. J. (2003). The impact of expectations on newcomerperformance in teams as mediated by work characteristics, social exchanges, andempowerment. Academy of management Journal, 46(5), 591-607.


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.63 特集1「変わるオンボーディング」より抜粋・一部修正したものである。
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主幹研究員

今城 志保

1988年リクルート入社。ニューヨーク大学で産業組織心理学を学び修士を取得。研究開発部門で、能力や個人特性のアセスメント開発や構造化面接の設計・研究に携わる。2013年、東京大学から社会心理学で博士号を取得。現在は面接評価などの個人のアセスメントのほか、経験学習、高齢者就労、職場の心理的安全性など、多岐にわたる研究に従事。

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