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目標によるマネジメントの本質とは

従業員のエネルギーを高める「目標によるマネジメント」

  • 公開日:2021/09/06
  • 更新日:2024/05/17
従業員のエネルギーを高める「目標によるマネジメント」

目標を設定するということは、何に向けてエネルギーを注ぐかを決めるということである。だが職場において目標は「面倒くさいもの」「設定しなければいけないもの」「人事評価のためのもの」と認識され、逆にエネルギーを削いではいないだろうか。 本稿では、目標の本来の機能を生かし、マネジャーが自身やメンバーのエネルギーを高めていくことで、個の成長と組織の成果を実現する「目標によるマネジメント」を考察する。 (HRM-Qプロジェクト:主任研究員 深田真紀、トレーナー 津坂盛金、トレーナー 垣本桂、シニアコンサルタント 水島晶子、主任研究員 木越智彰)  

「目標によるマネジメント」の現在地
今こそ、「目標によるマネジメント」
目標によりエネルギーは高まる
「目標によるマネジメント」を実践するために
「目標によるマネジメント」を仕組みで支える

「目標によるマネジメント」の現在地

◆ MBOが果たす機能

「目標によるマネジメント」を語るには、人事管理システムとしての「MBO」(Management by objectives and self-control)、いわゆる目標管理制度をまず見ていくべきだろう。

MBOは2000年前後から日本企業での導入が相次ぎ、現在約8割の企業が導入済みといわれている。一方でさまざまな問題点が指摘されており、近年はMBOでは運用の手間に見合う効果が出せないとしてOKR(Objectives and Key Results)へと切り替える企業もある。

よくいわれるMBOの問題点は、「達成度合いで評価されるため、目標を低く設定しようとする」「MBOシートに書いた目標以外はやらない」「期中の状況変化に対応しづらい」「短期業績に目が向き中長期的な人材育成が疎かになる」などである。

その背景には、日本においてMBOは評価ツールとしての公正・公平さが重視されるあまり、組織の戦略推進、個人の成長・自律促進といった、本来的な機能を十分果たせていない現実がある。

◆ 制度改定・運用強化の動き

VUCAのうねりのさなか、さらにコロナ禍によりマネジメントのありようが変化し、人材育成や成果創出といった本来の目的をより真剣に追求すべき状況となっている。人事の立場でいうと、MBO導入当初は制度をきちんと運用することに努力が向けられたが、現在は厳しい事業環境のなかで改めて本来的な機能をMBOに求めていく、または別の呼び名の制度に改めてHRM強化を図っていく、そういうフェーズといえるだろう。

自社のMBOや評価制度の問題点を解消し効果的に運用するため、制度を改定したり、制度はそのままでも運用方法を見直したりといった各社の動きが活発化している。例えば、結果偏重を是正するために目標達成のプロセスも評価する、従業員の成長を促すために業績目標だけでなく能力開発目標を設定させる、期中の定期的な面談や1on1を義務付けるなど、目指す効果を得るための模索が続いている。

◆ 高まるマネジメントの負荷

一方、急激な環境変化は現場のマネジメントにも影響を与えている。リモートワークの急速な拡大、業績悪化による短期成果への圧力増加、事業環境の変化に対応する組織変革の必要性など、これまでのアプローチが通用しない状況に疲弊しているマネジャーも少なくない。

そこへ、人事から制度改定やMBOの運用強化が伝えられる。現場のマネジャーやメンバーは、「目標シートに書くことが増えた」「人事がまた余計なことを」「ただでさえ忙しいのに、人事制度の手続きに手間をとられるのは勘弁してほしい」といった受け止め方をしていないだろうか。

制度をより良く運用しようという人事担当者の努力は報われないばかりか、奮闘している現場の足を引っ張るという悲しい影響を与えかねない。なぜそのようなことが起きるのか。

今こそ、「目標によるマネジメント」

◆ マネジメントと制度運用を重ねる

マネジャーが、「目標設定は評価制度のための作業で、自分が進めているマネジメントとは別に行うもの」と捉えていれば、いくらフォーマットを改善したところで効果は望めない。マネジャーがそうであればなおさら、メンバーにとっては面倒な作業でしかないだろう。このことが、制度をより効果的に機能させたい人事部門と、現場のマネジメントの間に、深い溝を作っている。

しかし本来、MBOや人事制度の運用はマネジメントサイクルそのものである(図表1)。

<図表1>「目標によるマネジメント」の目的

<図表1>「目標によるマネジメント」の目的

すでにいわれてきたことであり、多くのマネジャーは頭では理解しているはずだ。だが自身のマネジメントと重なっていない。つまりマネジメントを推進する上で、「目標」というものをどう生かしていくのか実感をもてないのではないだろうか。

それはMBOを評価ツールとして公正・公平に運用することばかりを求めてきた人事の責任でもあるかもしれない。

◆ 目標の持つ力を活用する

目標シートを改定したり運用を精緻にしたりといった努力を否定はしないが、本稿ではより根本的な課題解決として「目標によるマネジメント」のあり方を提示したい。MBOを制度として導入しているかどうかにかかわらず、マネジメントにおいて「目標」は必要であり、目標の持つ力をいかに活用できるかにマネジメントの成否がかかっているといってもよいだろう。

リモートワーク下では、マネジャーはこれまで自然に行っていたメンバーとのコミュニケーションを、より意図をもって行うことが求められている。メンバーの様子を逐一観察し指示を出すわけにはいかないため、メンバーには自律的に業務推進してもらう必要がある。

そのとき目標は文字どおり、そこに向けて行動していくための目印になる。また、行動を起こすためのエネルギーを高めるものにもなり得るのである。従業員の自律促進という意味でも、目標によるマネジメントに着目していきたい。

目標によりエネルギーは高まる

◆ 目標の本質

目標とは期初にMBOシートに書くもの、という視界から一度離れてみよう。プライベートも含め自身の日常を振り返ってほしい。

例えばある場所に早足で向かうのは、約束の時間に遅れないため、あるいは目的地で楽しく過ごすため、あるいはウォーキングにより健康を保つためなど、意識的かどうかはともかく何らかのありたい状態を目指している。

それも広い意味では「目標」であり、人が生きるということは日々目まぐるしく「目標」を作り出し、それを実現していくプロセスであるともいえる。その「目標」が自分にとって切実なものや魅力的なものであればあるほど、行動を起こすために生じるエネルギーが高まることは、誰もが経験しているのではないだろうか。

つまり目標とは本来、「それがあることで頑張れる、エネルギーが出る、動き出せる」ものである。この「目標」が持つ力を、意識してマネジメントに活用できれば、マネジャーは自身のマネジメントの質を高めることができる。同時に、MBOやOKRなど自社の制度をより良く運用することにもなり、マネジメントと制度運用が重なっている実感をもつこともできるはずだ。

◆ 目標の概念を広げる

そのためにはまずマネジャーが、目標の概念を広げていく必要がある。

「目標とは期初にMBOシートに書くもの」という意識のままで、目標設定の際のハウツー(例えば上位目標からの連鎖が必要であることや、達成基準を明確にすることなど)を教えられたとしたら、頭では理解できても、「あれもそれも留意しないといけない。目標を書くのは難しい。面倒くさい」とならないだろうか。

だが「目標の持つ力を使って自分のマネジメントを良くしていこう」とエネルギーが高まっているマネジャーなら、上位目標からの連鎖も、達成基準を明確にすることも、必要性を理解し自身のために実践していけるだろう(図表2)。

<図表2>目標の概念を広げる

<図表2>目標の概念を広げる

◆ エネルギーが高まる目標とは

では、どのような目標がわれわれのエネルギーを高めるのだろうか。エネルギーが高まる目標の要素を図表3に整理した。

<図表3>エネルギーが高まる目標の3要素

<図表3>エネルギーが高まる目標の3要素

自身はどの要素を含んだ目標に対してエネルギーがより高まるか、考えてみてほしい。

このなかのどれが重要かは人によって異なる。例えば「社会に貢献できる」ことが大事な人は、その目標を達成することで社会にどんな貢献ができるか掘り下げて考えることによって、エネルギーが高まるだろう。だが自分がそうだからといって他の人にそれを強調して同じ効果が得られるとは限らない。その人は社会への貢献よりも自分の成長に関心があるかもしれない。

だからメンバーのマネジメントにおいては、その人が何によって最もエネルギーを高められるかを知る必要がある。そして目標設定やその後のマネジメントプロセスにおいて、これらの要素を含んだ対話を重ねることで、マネジメントの質を高めていくことが重要である。

「目標によるマネジメント」を実践するために

ここから、目標によるマネジメントを効果的に行うポイントを提示していきたい。目標設定の「やり方」ではなく、マネジメントサイクルの要所においてマネジャーがもつべき視界や望ましいプロセスについて述べる。

◆ マネジャー自身が意義・意味を感じられる組織目標設定のために ~組織目的~

マネジャーが自組織の目標を掲げる際には、マネジャー自身が深く納得し、自分の目標として意味付けできていることが重要である。たとえ自分で一から考えた目標ではなく上位者の意向が強いものだとしても、自組織の目標としてメンバーに伝える以上、目標の意義・意味を自分の言葉で語り、達成の道筋を示さなければ、メンバーのエネルギーを高めることは難しい。それ以前にマネジャー自身のエネルギーが高まらないだろう。

まず、マネジャー自身が「組織目的」、すなわち自組織の望ましい姿を描くことが重要である。「存在理由(何のために)」「価値基準(何を大事にして)」「方向性(どこへ行くのか)」を明らかにしていき、自らの言葉で組織目的を定める。組織目的は、組織目標設定の前提となるだけではなく、マネジメントの諸活動の出発点でもある。

組織目的を明らかにし、組織目標を設定するためには、組織の内外環境、使命、資源など、視界を広くもって偏りなく考える必要がある。図表4のようなフレームを用いて組織に関するさまざまな観点を認識・整理しながら、組織目的とそこから展開する組織目標を、意思を込めて設定することが有効である。

<図表4>組織目標を考える視界

<図表4>組織目標を考える視界

◆ メンバーのエネルギーが高まる個人目標設定のために ~期待目標~

メンバー個々人の目標は、本人が主体的に設定することが推奨される。ただし、「本人に設定させれば自己目標化されエネルギーが高まる」というほど単純ではない。

一人ひとりの仕事とは、企業が戦略を推進し業績を上げていくための「役割・機能分担」といえる。組織目的・組織目標を明らかにしたマネジャーは、次にそれらを踏まえ、個々のメンバーに対し何を期待するかを明確にする。それをここでは「期待目標」と呼ぶ。メンバーに期待をかけることは目標設定の手続きではなく、マネジャーの基本的な役割に基づくものである。

メンバー個人への期待目標は、組織目標や上位方針を踏まえるのはもちろんだが、単にブレイクダウンするのでは不十分である。メンバーのエネルギーが高まる目標を設定するには、本人の能力特徴、指向、価値観などを踏まえ、さらにマネジャー自身の「将来こうなってほしい」という思いを込める。これらの観点を含む、期待目標を考えるためのフレームを例として挙げる(図表5)。

<図表5>期待目標を考える視界

<図表5>期待目標を考える視界

◆ 組織の要請と個人の欲求の統合

マネジャーが考えた「期待目標」は、メンバー本人の「やってみたい目標」とすり合わせる必要がある。そのために期初の目標設定面談が重要な機会であることは疑いがないが、マネジャーは面談場面で初めてメンバーが何を考えているのかを知るのではなく、日頃からの理解によって、組織の要請とメンバーの欲求との統合をまずマネジャー自身で行う必要がある。そうして設定した期待目標をメンバーに投げかけ、さらに統合を図る。

統合のプロセスを積み重ねることにより、メンバーの継続的な成長に結びつく目標と、目標達成に向けた道筋とを、より明確に描くことが可能になる。このマネジメントプロセスがメンバーの本気を引き出し、エネルギーを高めるのである。

◆ 期中の対話によりエネルギーを引き出す

目標設定は重要だが、期初にすばらしい目標設定ができたとしても達成が約束されたわけではない。期を通じてメンバーと対話してエネルギーを引き出し、主体的な行動を継続的に促していくことこそ、マネジメントにおいて欠かせないプロセスである。

期中に目標をめぐってどのような対話がなされることが望ましいだろうか。図表6にポイントを整理した。現状の確認と対応に終始するのではなく、目標をより明確にイメージしたり、この後の道筋を描いたりする機会として、日常のさまざまな場面や1on1を活用してほしい。

対話によってメンバーは自ら気づき、主体性を発揮できるようになる。一方的な「伝達」ではなく「対話」が必要なのはこのためである。

<図表6>目標をめぐる対話

<図表6>目標をめぐる対話

◆ 振り返りにより経験学習を促す

期末や期中の節目で振り返りを行い、マネジャーとメンバーが対話することは、マネジメントにおいて極めて重要な場面である。特に意識したいのは、メンバーの経験やそのなかでの行動・考えに着目し、経験学習を促す対話である。

振り返りの視点を提示し問いかけることで、その人自身が内省し、経験から学べるように働きかける。加えて思考を具体化する問いを投げかけることで、課題を明確にすることができる。

目標や評価をめぐる対話は特に、経験学習のサイクルを回す大切な機会となる。メンバーの経験学習を促しながら、マネジャー自身もマネジメントの質を高め、メンバーと共に成長していくのである。

「目標によるマネジメント」を仕組みで支える

こうして見ていくと、MBOや評価制度はそもそも、経験学習サイクルを効果的に回し、マネジメント(セルフマネジメントを含む)の質を高めていくための仕組みであることが改めて理解できる。目標によるマネジメントを効果的に展開するための仕組みとして、MBOなどの各社の制度がある。制度運用が目的化し、手続きとして目標設定や評価を行うのでは従業員のエネルギーが削がれ、本末転倒である。

したがって、「制度を理解してほしい」「手続きをきちんとしてほしい」というねらいで評価者研修やMBO研修を実施することはお勧めしない。仕組みや手続きに関する情報は届けた上で、マネジャーの「目標によるマネジメント」の力を高める支援を継続することが、人事としてより生産的なエネルギーの注ぎ方ではないだろうか。

目標によりマネジャー自身とメンバーのエネルギーを高め、目標達成の可能性を高めていく「目標によるマネジメント」が各部署で推進されるならば、それは結果的に、制度がうまく運用されている状態だといえる。

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.63 特集2[従業員のエネルギーを高める 「目標によるマネジメント」]より抜粋・一部修正したものである。
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サービス統括部
HRDサービス推進部
トレーニングプログラム開発グループ
主任研究員

木越 智彰

ビジネス系出版社にて書籍の編集・企画業務に携わった後、2009年にリクルートマネジメントソリューションズに入社。海外事業の立ち上げ・専属トレーナーのマネジメント業務を経験し、現在は研修の企画開発に従事。主にマネジメント領域を担当する。

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