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研究知見からのシニア活躍の視点

働くシニアの心理・高齢化する職場を考える

  • 公開日:2021/06/28
  • 更新日:2024/05/20
働くシニアの心理・高齢化する職場を考える

このレビューでは、シニア就労者の心理に焦点を当て、先行研究を紹介していく。 研究では「年齢」というものをどう扱ってきているのか。年齢とパフォーマンス、仕事に対する満足感や動機づけには、どのような関係があるのか。キャリアチェンジを促進する要因は何か。シニアの活躍に職場環境はどのように影響するのか。 これらの研究知見から、シニア層の活躍を考える際の視点をまとめたい。

はじめに
研究で扱われる「年齢」とは
年齢と仕事のパフォーマンスの関係
年齢と仕事満足の関係
年齢と仕事の動機づけの関係
シニア就労者のキャリア
高齢者を取り巻く職場環境
理論に基づく可能な介入方法

はじめに

日本では少子高齢化の影響もあり、仕事をリタイアする時機はどんどん後ろ倒しされている。一方で、世界的に見ても、日本のシニアは就労意欲が高いことが分かっている。またこれまでの研究で、働き続けることはシニア層の心身にポジティブな影響があることも確認されている。シニアが長く働き続けることは、社会にとっても、本人にとっても望ましい影響が期待される。

一方で、目の前の現実では、シニアの就労者は問題を抱えているように見える。再雇用されても、仕事が面白くないと感じる人や、やりたい仕事がないと感じる人がいる。組織も、どのような仕事をしてもらうかに頭を悩ますケースがある。このレビューでは、働くシニアの心理に関連する研究を取り上げ、シニアが自らの選択によって働き続け、組織がシニアに十分に力を発揮してもらうためのヒントを探る。

研究で扱われる「年齢」とは

通常、年齢とは暦年齢のことを指すことが多いが、研究のなかでは、自分が何歳だと思うかといった主観的年齢や、身体や認知の機能をベースとした機能的年齢などがある。働く人の能力や動機づけ、経験などの心理的変数の変化を見る際には、年齢そのものはあまり意味を成さないとの指摘もある*1。その理由の1つは、時代による、暦年齢の身体機能の違いが挙げられる。20年前の60歳と、現在の60歳では、後者の方が10歳ほど若いといわれている。また、年齢と共に個人差は拡大する。60歳の人の生活や身体機能、心理的な特性の個人差は、20歳の人のそれよりも大きい。このレビューで紹介する先行研究の多くは、暦年齢を用いているため、上記の影響が含まれていることに留意する必要がある。

年齢と仕事のパフォーマンスの関係

過去に行われた研究をまとめたメタ分析では、年齢と中核的な職務のパフォーマンスとの間には、意味のある相関は得られていない(図表1)*2。しかし、これら相関の推定値は、1つに定まらないことが分かっており、研究によって相関の値には違いがある。

<図表1>年齢と仕事のパフォーマンスとの関係(メタ分析)

<図表1>年齢と仕事のパフォーマンスとの関係

中核的な職務のパフォーマンスは、少なくとも一般的には年齢と共に低下するわけではない。一方、認知能力、特に流動性知能と呼ばれる情報の処理スピードに関わる能力については、年齢と共に低下することが分かっている。このような認知能力の変化にかかわらず、中核的な職務のパフォーマンスが低下しない理由として、下記の4つが挙げられる*3。

  1. 認知能力の衰えを経験でカバーできている*4。
  2. 認知能力の検査は最大値を見ているが、仕事で必要な認知能力においては高齢者になっても問題はない。
  3. 認知能力が大きく低下した人は、離職している。
  4. 仕事に対する動機づけや満足感が高まる傾向があることから、努力することで認知能力の不足は補える。

仕事のパフォーマンスは中核的な職務そのものの遂行以外に、複数の要素から構成されている*5。図表2は主なパフォーマンスの内容である*6。

<図表2>主なパフォーマンスの内容

<図表2>主なパフォーマンスの内容

上記のうち、例えば組織市民行動(以下、OCB)については、さほど強い傾向ではないものの、年齢と共にパフォーマンスが上昇する可能性が示されている(図表1)。OCBの個人差は、能力ではなく、意思や性格特性によって決まる部分が大きいと考えられる。加齢による性格特性の変化を見た研究では、誠実性(conscientiousness)と協調性(agreeableness)の得点が、20歳から70歳の間で高まることが示されている*7。このような性格特性の変化は、OCBを高めることに貢献するだろう。

OCBと逆の意味をもつCWB(反生産的行動)では、年齢とは、コンスタントだが弱い負の相関が確認されている(図表1)。こちらも、OCB同様に性格特性の変化を反映する可能性が考えられる。

適応的パフォーマンスと年齢の関係を直接検証した研究は少ないが、加齢による処理スピードの低下や、性格特性の変化から類推すると、高齢者の方が不利になる可能性がある。

これまでの研究から、パフォーマンスは年齢と共に一概に下がるといったことはなく、OCBのようなパフォーマンスでは、年齢が上の方が望ましいことがありそうである。また、主たる職務の遂行と年齢の関係も、仕事の内容によって異なると考えられる。加えて、冒頭に述べたように、加齢と共に、能力や性格の変化においても個人差は広がる傾向がある。今後は、主観的年齢など暦年齢以外の年齢を用いた研究や、仕事の特徴を重ね合わせた研究などが待たれる。

年齢と仕事満足の関係

年齢と仕事のパフォーマンスのメタ分析を行った2人の研究者によって、年齢と職務満足度(Job satisfaction)に関するメタ分析も行われている(図表3)*8。こちらは年齢との関係が確認されており、職務満足度は年齢と共に上昇する傾向があった。さらに、職務満足度の側面別の傾向を見たところ、仕事の条件面ではなく、内的な動機づけに関わる側面と、人間関係に関する満足度が上昇していた。

<図表3>年齢と職務満足度との関係(メタ分析)

<図表3>年齢と職務満足度との関係

シニア層の満足感が高い理由として、1)共変量の影響と、2)発達的要因が挙げられる。共変量の影響とは、 満足度と関連する変数(経験、社歴、職位、収入)の影響のことで、例えばシニアの就労者には職位や収入が高い人が多く、その結果満足度が高まっている。あるいは年齢が上の人ほど社歴が長くなるため、その人に合う仕事に従事するようになったことで、満足度が高まるのかもしれない。いずれにしても、年齢が上がることに関連する変数によるものと解釈される。

もう1つの理由である発達的要因は、年齢に伴う心理的変化を想定する。例えば、若いときの理想的な目標から、年齢が上がると現実的な目標へと変化することで、目標達成が可能になり、満足度が上昇する。あるいは、高齢になると、ネガティブ感情よりも、ポジティブな感情を多く経験するようになるが、その結果満足度が向上する。

どちらの理由も考え得るものの、U字型仮説では、職務満足度はキャリア初期から30代半ばまではいったん低下し、その後定年直前まで上昇するといわれている*9。このことからすれば、共変量の影響は無視できないといえる。

年齢と仕事の動機づけの関係

年齢と共に動機づけは低下するのではないかと思われていたが、2010年以降に報告されたメタ分析の結果を見ると、年齢に応じて低下する動機づけもあれば、逆に高まる動機づけもあることが分かってきた。例えば、出世など外的な動機づけや、能力開発への動機づけ*10、他者より有能でありたいと思う動機*11は、年齢と共に低まる傾向がある。一方で、達成、他者との関係性、自律といった内的な動機づけについては、年齢と共に上昇する*12。

近年、働くシニアの研究で注目されつつあるのが、社会情動的選択性理論(Socioemotional selectivity theory;SST) である*13。この理論では、知識の獲得と感情の制御の2つが社会的なゴールとして認められており、個人が時間を無限のものと見る場合、相対的に知識の獲得に重きが置かれるようになる。一方で、高齢者のように時間を有限のものとして認識するようになると、感情の制御のゴールが優先される。SSTにおける時間の感覚など、年齢によって異なる側面に着目することで、今後より統合的な動機づけの理論が出てくることを期待する。

シニア就労者のキャリア

シニアの就労者の多くは、シニアになって以降、仕事内容の変更や転職、雇用形態の変更などの変化を経験する。こういった変化に影響する要因にはどのようなものがあるのだろうか。欧米では若いときからさまざまな変化を経験することが多いが、それでも、キャリアチェンジを経験することはさほど多くない。キャリアチェンジとは、必要なスキル、ルーティン、仕事をする環境などが、根本的に異なる職業(occupation)へのチェンジであるといわれ、同じ職業のなかでのマイナーな仕事内容の変化や、組織の変化とは異なる。例えば、それまでオフィスワーカーだった人が農業を始めるといったドラスチックな変化のことを指す。

キャリアチェンジを促進する個人要因としては、キャリアに関する主体性や、経済状態、健康状態などがある。また仕事の要因として、ストレスや飽き、貢献感の欠如などがある。さらに職業の要因として、仕事で用いられるスキルや仕事環境の変化、雇用数の減少、年齢差別などが挙げられる。日本でも、シニアになってからのキャリアの変更に関しては、おそらく同様の要因が影響すると思われる。

日本のシニア就労者にとってのキャリアチェンジは、定年退職のタイミングで生じることが多い。ワンらは、退職を適応のプロセスとして、資源に基づく退職適応モデルを提案している*14。このなかでは、退職時の環境変化に対して、体力、認知能力、意欲、お金、友人や家族などの人間関係、メンタルタフネスのような、さまざまな資源を活用しつつ、変化に適応することを想定している。徐々に定年年齢が伸び、再雇用が義務化されるなか、日本の定年退職は、本人の意思とは無関係に外的な要因で生じる。日本における退職適応モデルの検討が必要だろう。

高齢者を取り巻く職場環境

周囲の人がどのようにシニア就労者本人に接するかも、その心理や活躍度合いに大きく影響する。通常、私たちがさまざまな人の集団や事象に対してもつ態度は、認知、行動、情動の3つの要素から構成されている。

シニア就労者に対する態度をこれらの要素から考えてみる。高齢者に一律に特定のイメージを適用するステレオタイプは、認知に関するものである。例えば、「高齢者は、物忘れが多い、変化を嫌がる、テクノロジーに無関心、賢い(wise)、経験豊富である、といったイメージをもつ」などである。行動は、仕事上のさまざまな意思決定(採用、昇進、訓練機会、評価など)において、年齢による差別が生じている場合である。情動に関しては、嫌悪や憎しみといった強い感情や、哀れみなどの感情が喚起されることが考えられる。どの要素においても、周囲の人がネガティブな態度をとることは、シニアの就労を難しくする。

フィスクは、なぜステレオタイプが生じるのかについて動機を用いて説明している*15。私たちは、物事を認知する労力を節約するために、カテゴリー化した理解をしてしまう。また、私たちは集団への所属欲求をもっているが、自分に近い集団(例えば、若者の集団)に帰属意識をもつことで、高齢者を自分とは異なる集団の成員とみなしてしまう。私たちは自分の外界をコントロールしたいという欲求をもつため、高齢者を限られた機会や資源を取り合う競争相手として見てしまう。私たちには自己高揚動機と呼ばれる、自分を優れていると思いたい気持ちがあるが、これを満たすために高齢者を下に見てしまう。いずれにしても、私たちの一般的な心理傾向からくるものであり、放っておくとシニアの就労者に対するステレオタイプは、簡単にはなくならない。

近年、女性活躍推進の一環として、無意識のバイアスの影響を軽減するためのトレーニングが行われるようになっている。一方、シニアの就労者へのバイアスについての取り組みはあまり行われていない。日本の職場では、シニアの就労者に対してどのようなステレオタイプが存在するのか、またそれは働くシニアにとってどのような影響を及ぼすのか、など、今後明らかにすべきことは多い。

理論に基づく可能な介入方法

上記で紹介したように、シニアの就労者をめぐるさまざまな現象は、少しずつ明らかになっている。一方で課題に対処するための介入方法の研究はこれからである。図表4は、シニア就労に関するレビュー論文で挙げられた介入方法である*16。いずれの方法も、ある程度の学術的根拠をベースとして提案されたものである。フィールドでの実証研究が進むことを期待したい。

<図表4>シニア就労に関する介入方法

<図表4>シニア就労に関する介入方法

*1 Bohlmann, C., Rudolph, C. W. & Zacher, H. (2018). Methodological recommendations to move research on work and aging forward. Work, Aging and Retirement, 4(3), 225-237.
*2 Ng, T. W. & Feldman, D. C. (2008). The relationship of age to ten dimensions of job performance. Journal of applied psychology, 93(2), 392.
*3 Schooler, C., Caplan, L. & Oates, G. (1998). Aging and work: An overview.Impact of work on older adults, 1-19.
*4 Kanfer, R. & Ackerman, P. L. (2004). Aging, adult development, and work motivation. Academy of management review, 29(3), 440-458.
*5 Campbell, J. P., McCloy, R. A., Oppler, S. H. & Sager, C. E. (1993). A theory of performance. In Schmitt, N. & Borman, W. C. (Eds.), Personnel selection in organizations (pp. 35-70). San Francisco: Jossey-Bass.
*6 Motowidlo, S. J. & Kell, H. J. (2012). Job performance. Handbook of Psychology,Second Edition, 12.
*7 Roberts, B. W., Walton, K. E. & Viechtbauer, W. (2006). Patterns of mean-level change in personality traits across the life course: a meta-analysis of longitudinal studies. Psychological bulletin, 132(1), 1.
*8 Ng, T. W. & Feldman, D. C. (2010). The relationships of age with job attitudes: A meta‐analysis. Personnel Psychology, 63(3), 677-718.
*9 Clark, A., Oswald, A. & Warr, P. (1996). Is job satisfaction U‐shaped in age? Journal of occupational and organizational psychology, 69(1), 57-81.
*10 Maurer, T. J., Weiss, E. M. & Barbeite, F. G. (2003). A model of involvement in work-related learning and development activity: The effects of individual, situational,motivational, and age variables. Journal of applied psychology, 88(4), 707.
*11 Kanfer, R. & Ackerman, P. (2000). Individual differences in work motivation: Further explorations of a trait framework. Applied Psychology, 49(3), 470-482.
*12 Kooij, D. T., De Lange, A. H., Jansen, P. G., Kanfer, R. & Dikkers, J. S. (2011). Age and work‐related motives: Results of a meta‐analysis. Journal of Organizational Behavior, 32(2), 197-225.
*13 Carstensen, L. L., Isaacowitz, D. M. & Charles, S. T. (1999). Taking time seriously: a theory of socioemotional selectivity. American psychologist, 54(3), 165.
*14 Wang, M., Henkens, K. & van Solinge, H. (2011). Retirement adjustment: A review of theoretical and empirical advancements. American psychologist, 66(3), 204.
*15 Fiske, S. T. (2004). Intent and ordinary bias: Unintended thought and social motivation create casual prejudice. Social Justice Research, 17(2), 117-127.
*16 Truxillo, D. M., Cadiz, D. M. & Hammer, L. B. (2015). Supporting the aging workforce: A review and recommendations for workplace intervention research.

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.62 特集1「アフターミドルの可能性を拓く」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

執筆者

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組織行動研究所
主幹研究員

今城 志保

1988年リクルート入社。ニューヨーク大学で産業組織心理学を学び修士を取得。研究開発部門で、能力や個人特性のアセスメント開発や構造化面接の設計・研究に携わる。2013年、東京大学から社会心理学で博士号を取得。現在は面接評価などの個人のアセスメントのほか、経験学習、高齢者就労、職場の心理的安全性など、多岐にわたる研究に従事。

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