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心理学や組織行動の先行研究から見る「信頼」

職場の信頼について考える

  • 公開日:2020/12/07
  • 更新日:2024/06/03
職場の信頼について考える

「信頼」は多くの働く人にとって重要なものである。意識するとしないとにかかわらず、日々の仕事のなかで、私たちは信頼に基づく判断や行動を行う。信頼に関する研究は数多くあるが、ここでは職場での信頼を考える枠組みを提供することを目標に、関連する先行研究を紹介する。

本稿で扱う信頼とは
信頼の先行要因と結果
リスクと信頼
認知に基づく信頼と感情に基づく信頼
組織における対人関係と信頼
オンラインコミュニケーションと信頼

本稿で扱う信頼とは

「信頼」についての研究は、心理学分野にとどまらず、さまざまな分野にわたって行われている。「幸福」と同様に、「信頼」もさまざまな立場の人が、さまざまな理由で関心を寄せる概念である。このレビューでは、「職場やチームの特定の他者に対して個人がもつ信頼」に焦点を絞って、心理学や、組織行動の分野での研究に限定して話を進める。対象を特定せず、私たちが他者を信頼したりしなかったりする普遍的な現象である「対人一般信頼」(山岸)についても、数多くの研究が行われている*1。これらはこのレビューの主眼ではないものの、職場の信頼を考える際に有用な知見を提供するものとして、いくつか紹介する。

信頼の定義は、研究分野によってさまざまであるが多くの定義には、「リスクを甘んじて受け入れる」という要素が含まれる。例えば、Rousseauら(1998)は「信頼とは、他者の意図や行為に対する好意的な期待に基づき、自己の脆弱性をよしとする意図を生じさせる心理的状態のこと」と定義している*2。本レビューでは、この信頼の定義を用いることとする。

上記で定義されるように、信頼は自分にとって必要な他者に対するポジティブな行動の期待であることから、係のない場合(相互依存がない場合)や、相手が100%期待した行動をとることが分かっている場合(リスクが存在しない場合)には、信頼の出番はない。そこで、どのようなリスクや相互依存性が扱われているかを意識して、信頼の研究を見ることができる。

以降では、大きく4つのトピックについて、信頼の研究を見ていく。最初に、これまでの信頼の研究の全体像をメタ分析的手法でまとめたものを紹介する。信頼が形成される先行要因には何があるか、また信頼が高まることで期待できる効果には何があるかについて述べる。次に、リスクがどのように信頼に関係するかを考える。また、さまざまなリスクの影響を考える際に利用可能な視点の1つとして、認知に基づく信頼と感情に基づく信頼の別について紹介する。その後、相互依存関係に着目して、関係性の違いが信頼の形成や機能に与える影響についての研究を紹介する。最後に、新型コロナウイルス感染症の影響で多くの企業がテレワークの導入を進めているが、それに関連するものとしてオンラインコミュニケーションでの信頼の研究を紹介する。

信頼の先行要因と結果

数多くの研究を統計的にまとめる手法として、メタ分析が使われる。図表1は132の先行研究のメタ分析で得られた変数間の関係性をベースに、モデルを作成した結果である*3。

<図表1>信頼形成の先行要因と期待効果

<図表1>信頼形成の先行要因と期待効果

図の左側にある「能力」「善良さ」「高潔さ」は、相手が信頼に足る人物であると判断される特徴(trustworthiness)を表している(図表2)*4。

<図表2>相手が信頼に足る人物であると判断される特徴(trustworthiness)

これらの特徴から信頼への矢印は、いずれも正の有意な値であることから、相手に能力があると思うほど、相手が善良な人物であると思うほど、相手が高潔な人格者であると思うほど、その人物は信頼に足ると判断される。図の下方にある「信頼傾向」とは、他人を信頼しやすい傾向を表すが、こちらから信頼への矢印も有意な正の値を示している。信頼に足る特徴と信頼傾向は、いずれも信頼を促進する先行要因である。

一方、図の右側にある「リスクテイク」「職務遂行度」「組織市民行動」「非生産的行動」は、信頼の向上により期待される結果となる。「非生産的行動」はネガティブな内容なので、そちらへの矢印は負の値をとり、それ以外の3つの結果変数への信頼からの矢印は、いずれも有意な正の値となっている。

この図から、信頼は信頼される側と信頼する側の特徴によってその程度が影響を受け、また得られた信頼は、組織にとって望ましい結果につながることが分かる。ただし、これらの関係性の程度は状況によって異なることも示されている。例えば、上司の能力が信頼に影響する程度は、仕事や組織の特徴によって異なるかもしれない。日本の企業人を対象に行った研究では、善良さと高潔さは有意な影響があったものの、能力では信頼との間に有意な関係性が得られていない*5。また信頼が、どのように望ましい結果につながるかについても、さまざまな状況により異なることが示されている。以下では、着目すべき状況の違いとして、リスクや関係の相互依存性を中心に紹介する。

リスクと信頼

程度の違いはあれ、定義上リスクのないところには信頼は存在しない。リスクと信頼の関係に光を当てた研究る*6。この研究は仕事や職場の信頼を扱ったものではなく、信頼構築とリスクテイキングのアメリカの文化差を、ゲームを使った実験を用いて調べたものである。その結果、リスクをとって信頼構築を行う程度はアメリカの方が高かったのに対して、協力行動の程度には日米間で差がなかった。日本では、相手を信頼していなくても協力行動をとる傾向があるのかもしれない。

一方で、仕事での信頼が影響する場面を考えると、頼んだ仕事が期日までにできないリスク、期待された成果を得られないリスク、機密事項を口外されるリスク、自分への評価が下がってしまうリスクなど、数限りなくある。仕事におけるこれらの状況において、一緒に働く人は常に協力的であるわけではなく、やはりその時々のリスクを考慮した上での信頼関係を構築しているのではないだろうか。旧知の仲であり日常生活では信頼できる同僚であっても、特定の仕事を任せるかどうかは、別問題である。

組織の信頼研究のなかでは、部下の上司に対する信頼の研究が比較的多いが、これは部下の方が、上司を信頼するか否かによるリスクが大きいことと関連していると考えられる。Sniezek & Van Swol(2001)の研究では、知識がなくアドバイスを受ける立場の人が、アドバイスを行う知識のある立場の人を、より信頼することが示されている*7。上司・部下間の関係のみならず、組織の人間関係では、専門性や力に差があることが多いため、同様の現象が生じている可能性がある。

認知に基づく信頼と感情に基づく信頼

リスクと信頼の関係を考慮する際に役立つ視点が、McAllister(1995)が提案した、認知に基づく信頼と感情に基づく信頼である*8。認知に基づく信頼は、リスクを計算し、合理的に判断を行った結果の信頼である。感情に基づく信頼は、対象の人物に対する共感や同情心などによって、相手のことを信じることで生まれる信頼である。これら2種類の信頼の違いを用いた研究がその後多く行われている。

例えば、Schaubroeckら(2011)は、香港とアメリカの金融機関のチームからデータを収集し、チームレベルの分析を行った結果、図表3のモデルを支持する結果を得ている*9。ビジョンを示すトランスフォーメーショナルなタイプのリーダシップは、リーダーに対する認知に基づく信頼を高め、それはチームの能力に対する認知を高めた。一方で、メンバーの支援を中心に据えるサーバントリーダシップは、リーダーに対する感情に基づく信頼を高め、それはチームの心理的安全性を高めた。2種類の信頼は、単に信頼が何に基づくものかの違いだけでなく、信頼の機能の違いを示している点で興味深い。

<図表3>認知に基づく信頼と感情に基づく信頼の効果の違い

<図表3>認知に基づく信頼と感情に基づく信頼の効果の違い

組織における対人関係と信頼

信頼のもう1つの条件が、二者間に相互依存関係があることである。上記でリスクと信頼について触れた際の、立場の強弱の影響は相互依存の特徴ともいえる。Balliet & Van Lange
(2013)は、対人一般信頼についての実験研究のメタ分析を行った結果、対人コンフリクトが大きい方が、信頼と協力行動の関係は強まることを示している*10。対人コンフリクトが大きい場合、相手と自分の利害が一致しないため、相手の善意を信じることが重要になるからだと考えられる。また、合理的に考えると信頼しにくい状況であことから、上記で紹介した認知に基づく信頼ではなく、感情に基づく信頼との関連が想定される。対人コンフリクトの大小によって、信頼の機能に、質的な違いが生じるかについても、今後の検討課題になり得るだろう。

組織や職場において、例えば初めて担当になる営業と顧客の関係のように、人間関係が形成されるほどのやり取りがない場合でも、ある程度の信頼が存在する。組織におけるさまざまな対人関係や立場をベースとした信頼を考える際に参考になる枠組みが、Kramer & Lewicki(2010)の「仮定された信頼」(Presumptive Trust)である*11。この仮定された信頼は、相手の社会的なステータスや役割などの社会的情報を手がかりにして、私たちが相手に一定レベルの期待を有することを根拠とする。

仮定された信頼では、図表4に示したように、社会的なカテゴリや役割による期待で信頼が規定されるため、相手をよく知らない場合は信頼の一般的な水準を規定するが、相手とのやり取りが増えると相手の特徴による影響の方が大きくなると考えられる。信頼における一般的な期待と、具体的な経験の間の相互作用についても、今後の研究が待たれる。

<図表4>仮定された信頼のベースとなる4種類の期待

<図表4>仮定された信頼のベースとなる4種類の期待


オンラインコミュニケーションと信頼

バーチャルチームやテレワークの活用が増加するなか、オンラインコミュニケーションと信頼の関係がどのようなものかは、実務上も関心の高いテーマである。まだ知見を提供できるほど、研究結果が出そろっていないものの、参考になると思われる研究を紹介する。

対面のコミュニケーションとの比較で考えると、オンラインコミュニケーションでは相手の微妙な表情やどのような状況で会話を行っているのかなどの文脈情報が入ってきにくいため、信頼に足る人物であるかの評価は難しくなると考えられる。おそらくそのような理由によって、人を信頼しやすい傾向の個人差は、オンラインコミュニケーションで、より強く影響することが示されている*16。またバーチャルチームでの信頼は、「迅速な信頼(swift trust)」と呼ばれる、限定的なものにとどまることを示す研究がある*17。このような考え方は、信頼のレベルのみならず、質の違いを示唆するものであり、興味深い。

図表5は、大学生を対象とした縦断研究の結果を示したもので、オンラインでのチーム活動において、「真正な感情の表出」が信頼構築に影響を与えた*18。チームメンバーが素直に感情を表現していると互いに思っているチームほど、信頼のレベルが高くなった。ここではテキストでのやり取りのみが行われていることから、ビデオ会議のような表情を直接観察することが可能な状況で、どのような結果が得られるかは今後の検討課題であるが、信頼には感情の要素が重要であることを示している。

<図表5>オンラインでのチーム活動における感情表出と信頼

<図表5>オンラインでのチーム活動における感情表出と信頼

初対面の人に対する信頼は、相手が信頼に足る人物である程度でも、自分の信頼傾向でもなく、その場でどの程度協力することが一般的かといった規範に強く影響されることを示す研究がある。オンラインコミュニケーションの場合の協力規範の対面との違いや、オンラインコミュニケーションにおける規範形成との関連も、今後の検討課題となるだろう。

ここまで、職場や組織における信頼に関連すると思われる研究知見をいくつか紹介したが、信頼に関する研究は、さまざまな問題意識や視点で行われるため、すべてを網羅するのは難しい。信頼は、組織内の対人関係や組織コミットメントと関連するものとして研究される場合もあれば、モラルや倫理、組織市民行動を促進する要因として研究されることもある。また、今回のレビューでは対人信頼に限定したが、信頼の対象は、自組織、他のチーム、顧客企業、パートナー企業など、集団に対する信頼もある。また一時点の信頼を対象にする場合もあれば、ダイナミックに変化するものとして信頼を捉えることもできる。最後に、比較文化心理学の研究が示すように、信頼は環境によって影響を受ける。従って、組織文化の影響を受ける可能性もある。今後の研究成果が楽しみな分野である。


*1 山岸俊男(1998). 信頼の構造―こころと社会の進化ゲーム. 東京大学出版会
*2 Rousseau, D. M., Sitkin, S. B., Burt, R. S. & Camerer, C. (1998). Not so different after all: A cross-discipline view of trust. Academy of management review, 23(3), 393-404.
*3 Colquitt, J. A., Scott, B. A. & LePine, J. A. (2007). Trust, trustworthiness, and trust propensity: A meta-analytic test of their unique relationships with risk taking and job performance. Journal of applied psychology, 92(4), 909.
*4 Mayer, R. C., Davis, J. H. & Schoorman, F. D. (1995). An integrative model of organizational trust. Academy of management review, 20(3), 709-734.
*5 今城志保・繁桝江里・菅原育子(2009). 企業組織における信頼の意味を考える. 日本社会心理学会第50 回大会、日本グループ・ダイナミックス学会第56 回大会 合同大会 発表論文
*6 Cook, K. S., Yamagishi, T., Cheshire, C., Cooper, R., Matsuda, M. & Mashima, R. (2005). Trust building via risk taking: A cross-societal experiment. Social psychology quarterly, 68(2), 121-142.
*7 Sniezek, J. A. & Van Swol, L. M. (2001). Trust, confidence, and expertise in a judge- advisor system. Organizational behavior and human decision processes, 84(2), 288- 307.
*8 McAllister, D. J. (1995). Affect-and cognition-based trust as foundations for interpersonal cooperation in organizations. Academy of management journal, 38(1), 24-59.
*9 Schaubroeck, J., Lam, S. S. & Peng, A. C. (2011). Cognition-based and affect-based trust as mediators of leader behavior influences on team performance. Journal of applied psychology, 96(4), 863.
*10 Balliet, D. & Van Lange, P. A. (2013). Trust, conflict, and cooperation: a meta- analysis. Psychological Bulletin, 139(5), 1090.
*11 Kramer, R. M. & Lewicki, R. J. (2010). Repairing and enhancing trust: Approaches to reducing organizational trust deficits. Academy of Management annals, 4(1), 245-277.
*12 Brewer, M.B. (1981). Ethnocentrism and its role in interpersonal trust. In M.B. Brewer & B.E. Collins (Eds.), Scientific inquiry and the social sciences. New York: Jossey-Bass.
*13 Barber, B. (1983). The logic and limits of trust. New Brunswick, NJ: Rutgers University Press.
*14 March, J.G. & Olsen, J.P. (1989). Rediscovering institutions: The organisational basis of politics. New York: Free Press.
*15 Meyerson, D., Weick, K. & Kramer, R.M. (1996). Swift trust and temporary groups. In R.M. Kramer & T.R. Tyler (Eds.), Trust in organisations: Frontiers of theory and research. Thousand Oaks, CA: Sage.
*16 Yakovleva, M., Reilly, R. R. & Werko, R. (2010). Why do we trust? Moving beyond individual to dyadic perceptions. Journal of Applied Psychology, 95(1), 79.
*17 Jarvenpaa, S. L. & Leidner, D. E. (1999). Communication and trust in global virtual teams. Organization science, 10(6), 791-815.
*18 Connelly, C. E. & Turel, O. (2016). Effects of team emotional authenticity on virtual team performance. Frontiers in psychology, 7, 1336.
*19 Dunning, D., Anderson, J. E., Schlosser, T., Ehlebracht, D. & Fetchenhauer, D. (2014). Trust at zero acquaintance: More a matter of respect than expectation of reward. Journal of Personality and Social Psychology, 107(1), 122.

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.60 特集1「リモート時代の職場の信頼」より抜粋・一部修正したものである。
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技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
主幹研究員

今城 志保

1988年リクルート入社。ニューヨーク大学で産業組織心理学を学び修士を取得。研究開発部門で、能力や個人特性のアセスメント開発や構造化面接の設計・研究に携わる。2013年、東京大学から社会心理学で博士号を取得。現在は面接評価などの個人のアセスメントのほか、経験学習、高齢者就労、職場の心理的安全性など、多岐にわたる研究に従事。

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