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理論から見る「適材適所」

人と環境との適合(fit)について考える

  • 公開日:2018/03/05
  • 更新日:2024/03/25
人と環境との適合(fit)について考える

「適材適所」を考える視点として、人と環境の「適合(fit)」の概念は欠かせないものである。人と環境の適合(fit)に関する研究は、主に組織心理学や組織行動の分野で研究されてきた。先行研究の一端を紹介しながら、人と環境の適合について考えてみたい。

「適合(fit)」とは何か
適合を整理する3つの視点
本人が適合していると感じることの重要性
一致度が高ければ良いという単純な話ではない
適合の理論・モデルの3つの問題点
今後に向けた4つの研究課題

「適合(fit)」とは何か

人と環境の適合(person-environmental fit; PE fit)とは、人と環境が調和していたり、合致していたり、似通っている状態を指す。先行研究からは、多くの場合、人は環境と適合しているほど、良いことがあるとの知見が得られている。組織と個人の価値観が合っているほど、あるいは人と仕事の相性が良いほど、コミットメントや満足度、パフォーマンスが高まるなどの結果が報告されている。組織行動以外でも、例えば、自国の文化的価値観と合った価値観をもった人の方が、幸福感が高いことが分かっている*1

適合を整理する3つの視点

個人と環境の適合研究は、3つの視点で分類することができる;(1)適合の対象となる環境は何か、(2)どのような適合の仕方か、(3)どのような特徴において適合が見られるか*2(図表1)。

図表1 適合を整理する枠組み

適合対象には、特定の個人、職務や職業、職場やグループ、組織全体などが含まれる。

適合の仕方の違いは、個人と対象の類似度によって適合が決まるとする追補的な適合(supplementary fit)と、個人が対象によって必要とされるものを補う、あるいは、個人が必要とするものを対象が補う相補的な適合(complementary fit)の2つがある。個人と似た価値観をもつ集団への適合は前者であり、個人のもつ特定のスキルを必要とするチームへの適合は後者である。さらに、仕事との相補的な適合に関しては、個人が仕事に求めるものが満たされる程度(needs-demand fit)と個人が仕事から求められるものを提供する程度(demands-abilities fit)の2つに分けられる。

またどのような特徴における適合かについては、性格、価値観、能力、属性などの個人特徴と、それぞれに対応する適合対象の特徴が扱われる。

これらの3つの軸の組み合わせによってさまざまな適合があり得る。採用時に応募者が組織の価値観と適合する程度を評価する場合は、(1)は組織全体、(2)は追補的、(3)は価値観となる。採用時に応募者が組織が求める能力を有する程度を評価する場合は、(1)は仕事、(2)は相補的、(3)は能力となる。また、上司や同僚などの特定個人や職場やグループといった小集団への適合は、社内の異動やプロジェクトへのアサインメント、マネジメントなどを考える際には、重要な観点である。このように適合にはさまざまな種類があり、その違いによって適合が個人や組織に及ぼす影響や、影響のプロセスが異なると考えられる。

本人が適合していると感じることの重要性

適合と望ましい状態との関連性は、多くの実証研究で示されている。2005年にクリストフ・ブラウンらが行ったメタ分析のうち、主要な結果をまとめたものが図表2である*3 。組織や仕事への満足度、コミットメントなど態度に関する変数では比較的高い関係性が得られている。一方、仕事でのパフォーマンスなど行動に関する変数との間には、有意な関連性はあるものの、その程度は比較的弱い。

図表2 人と環境の適合と結果変数間の相関のメタ分析

メタ分析に含まれる実証研究では、さまざまな方法で、適合の程度を数値化している。特に、適合度の測定が主観的(個人が自分の環境の適合度を評価するもの)か、客観的(個人特徴と組織特徴の評価が別に行われ、その結果を用いて適合度を評価するもの)かによって、他の変数との関連性には違いが出る。客観的適合よりも主観的適合の方が、どの変数との関連も高くなる傾向が見られる。例えば、人と組織の適合と離職意図との関連は、主観的適合の場合は-0.43なのに対して、客観的適合の場合は-0.18となっている。客観的に見て適合していることよりも、個人が適合していると感じることの方が、良い結果をもたらしやすいといえる。

一致度が高ければ良いという単純な話ではない

前述の客観的適合を検討する際には、さまざまな適合のパターンを考慮することが必要になる。例えば、適合していないときに、個人の特徴が組織の特徴に比べて高いのか低いのかによって、影響が異なる可能性がある。あるいは個人が仕事で必要とされる能力を超えるレベルの能力がある場合と、それに満たないレベルの能力しかない場合では、発揮されるパフォーマンスに違いが生じるかもしれない。また、特徴のレベルの差ではなく、プロフィールの類似のみが問題になる場合もある。奉仕志向を重視している人が多い職業では、職業興味において奉仕志向が他の志向より相対的に高い人であれば、奉仕志向の強さの程度にかかわらず活躍が期待できるかもしれない。

適合の様相を詳細に検討するための応答局面法という分析方法が、エドワーズによって提案されている*4。図表3は、この方法を使って、適合度が中高年ホワイトカラーの転職後の適応に及ぼす影響を検証した結果の一部である*5。

図表3 応答曲面法の分析結果 適合度が中高年ホワイトカラーの転職後の適応に及ぼす影響

図表3‐1は「仕事に関する情報収集」を自分が得意であると思う程度と、転職後の仕事でそのコンピテンシーが重要である程度の適合度が、仕事の満足度に与える影響を図示したものである。一致度の状態を示す得意度=重要度の直線Aの上の局面の様子(a)を見ると、得意度と重要度が一致していて、かつ両方が高くなるほど、満足度が高いことが分かる。不一致度の状態を示す得意度=-重要度の直線Bの上の局面(b)は、上に凸の形になっていることから、得意度と重要度のどちらが高いかには関係なく、両者に乖離が生じることで、満足度が低下していることが分かる。

図表3‐2は組織の特徴の結果を評価する―プロセスを評価する」について、自分の理想と組織の現状との適合度が仕事の満足度に与える影響を図示したものである。理想=現状の直線Aの上の局面の様子(a)を見ると、理想と現状の一致は高い満足度につながっているものの、コンピテンシーのように両方が高く適合しているほど満足度が高いということはなく、理想も現状も低いレベルでも一致していることが重要であることが分かる。理想=-現状の直線Bの上の局面(b)は、上に凸の形であるが、図の右奥に行くほど大きく弧が下がっており、結果重視の人がプロセス重視の組織にいる方が、プロセス重視の人が結果重視の組織にいるよりも満足度の低下が大きいことが分かる。適合の影響は、前出の(1)~(3)の視点に加えて、どのような適合状態かを考慮することも必要である。

適合の理論・モデルの3つの問題点

エドワーズは、なぜ環境との適合が良い効果をもたらすのかについて、理論的な説明を加える試みを行っている*6。適合の概念と関連する理論分野として、以下の5つを取り上げて議論している。

1)適合の職務満足度への影響
2)適合のストレス反応への影響
3)職業との適合
4)採用や採用広報
5)組織文化や風土への適合

それぞれの理論・モデルが前述の3つの軸のどれに当たるのかをまとめたものが図表4である。

図表4 人と環境の適合と関連する理論・モデルと適合の特徴

エドワーズは、これらの理論・モデルには共通して3つの問題点があると指摘している。

1つ目は、理論で扱う「人」と「環境」の定義がなされていないことである。例えば、組織風土への適合を考える際に、個人の一般的な価値観を用いるのか、職業に関連する価値観を用いるのか、組織風土は組織成員の価値観の平均値でよいのかといったことである。

2つ目は「適合」が意味することや、「適合」がどのように他の変数に影響を与えるかのプロセスが説明されていないことである。例えば、5)組織文化や風土への適合に関する理論にシュナイダーのASA(Attraction-Selection-Attrition)フレームワークがある*7。この理論は、もともと組織の価値観と適合した価値観をもつ応募者が応募し、採用され、定着することを想定しているが、適合はそこで働く個人にとって良いものである一方、組織の均質化をもたらすことで、長期的に組織の適応力を低下させる危険性も指摘している。この場合、個人にとっての「適合」の影響の先に、組織に影響を及ぼすプロセスが存在する。

3つ目に、適合が良い結果をもたらす場合の制約条件が考慮されていないことである。例えば、前述した中高年ホワイトカラーの適応研究では、仕事の裁量が小さい場合にのみ、適合の影響が有意になる傾向が確認されている*5。つまり、自分の得意とするコンピテンシーが今の仕事で重視されていないとしても、仕事の裁量が大きい場合には自分の得意なコンピテンシーを生かす方法で仕事の遂行ができるため、適合が悪かったとしても満足度は低下しないのである。

今後に向けた4つの研究課題

人と環境が適合することの良い効果は当然のように思われ、それを示す実証研究も多く存在する。その一方で、これまでの研究では、なぜそうなのか、どのようなプロセスでそうなるのかに関する知見が得られておらず、エドワーズのレビューはその検討のための研究をよび掛けている。

加えて、これまでの研究に欠ける視点として、以下の4点が挙げられる。1 点目は、仕事への適合、組織への適合、上司との適合といったさまざまな適合の相互の関連性に関する研究である。特定の個人が接する適合の対象が複数あるということは、複数の適合が同時に生じるということである。しかし、これらの適合がそれぞれ個別に影響するものか、あるいは、相互に影響し合うものかも分かっていない。この状態だと、例えばある社員の異動を考える際に、これまでの仕事の経験から獲得したスキルを生かす仕事がよいのか、今後の社員の育成を考慮した仕事がよいのか、あるいは本人の職業興味に沿った仕事に就かせるべきなのか、という現実的な問題があったときにヒントとなるような知見が提供されにくい。

2点目は、適合の変化である。例えば仕事適応理論(Theory of Work Adjustment)は人と仕事の相互作用の結果得られる適合のレベルが、定着に影響することを理論化したものである*8。一方で、前出のシュナイダーのASA理論では、もともと組織の価値観と適合した価値観をもつ応募者の応募、採用、定着を扱っているため、個人の側の変化を前提としていない。適合の変化はどのようなときに、どういった人に、どのように生じるのかについての研究がそもそも少なく、あったとしても統一した議論になっていない。

3点目は、適合を結果変数とする研究である。これまでの議論で紹介した研究は適合の影響に着目している。しかし、少なくとも一部は客観的な適合でなく、個人がそれを感じることによってもたらされるものならば、どのような状況下で個人は適合を感じるのかを研究する必要があるだろう。2点目に挙げた適合の変化についても、客観的な適合度が変わらなかったとしても、心理的な変化によって、適合を高く感じるようになる可能性はあるだろう。

4点目は、分析のレベルの問題である。適合の良い効果はほぼ疑問をはさむ余地はないように思えるが、多くの研究が「個人」にとっての効果を扱っていることに注意が必要である。特定の価値観に適合した人が集まった集団は、一枚岩としての強さがある一方、柔軟性を欠く危険性がある。適合の「環境」にとっての効果については、ほとんど研究が行われていないのが現状である。しかし、実務場面で適合を目指して何らかの介入や施策を行う際には、それが組織や職場環境に全体としてどのような影響をもたらすかの視点は重要である。

適合の研究は、個人と環境の両側を扱うため、難しい。客観的な適合と主観的な適合も異なっており、測定や操作化の問題も解決されていない。それでも、人と環境の接点についての研究を行うことは、現実場面を理解し、適切な施策を検討するにあたっての知見に資するところが大きい。今後、個人と環境のさまざまなデータが、しかも長期に入手できることによって、適合の研究が前進することを期待してやまない。

*1 Fulmer, C. A., Gelfand, M. J., Kruglanski, A. W., Kim-Prieto, C., Diener, E., Pierro, A. & Higgins, E.T. (2010). On “feeling right” in cultural contexts: How person-culture match affects self-esteem and subjective well-being. Psychological Science, 21(11), 1563-1569.
*2 Edwards, I. R. & Shipp, A. I. (2007). The Relationship Between Person-Environment fit and Outcomes: An Integrative. Perspectives on organizational fit, 209.
*3 Kristof-Brown, A. L., Zimmerman, R. D. & Johnson, E. C. (2005). CONSEQUENCES OF INDIVIDUALS'FIT AT WORK: A META‐ANALYSIS OF PERSON-JOB, PERSON-ORGANIZATION, PERSON-GROUP, AND PERSON- SUPERVISOR FIT. Personnel psychology, 58(2), 281-342.
*4 Edwards, J. R. (1994). The study of congruence in organizational behavior research: Critique and a proposed alternative. Organizational behavior and human decision processes, 58(1), 51-100.
*5 今城志保・藤村直子 (2016) 中高年ホワイトカラーのキャリアチェンジ3 ― ポータブルスキルの発揮度と適応感の関係― 経営行動科学学会第19回大会発表論文集
*6 Edwards, J. R.(2008). 4 Person-Environment Fit in Organizations: An Assessment of Theoretical Progress. Academy of Management Annals, 2(1), 167-230.
*7 Schneider, B., Goldstiein, H. W. & Smith, D.B. (1995). The ASA framework: An update. Personnel psychology, 48(4), 747-773.
*8 Dawis, R. V. & Lofquist, L. H. (1984). A psychological theory of work adjustment: An individual-differences model and its applications. University of Minnesota Press.

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.49 特集1「適材適所 偶発をデザインする」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

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組織行動研究所
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今城 志保

1988年リクルート入社。ニューヨーク大学で産業組織心理学を学び修士を取得。研究開発部門で、能力や個人特性のアセスメント開発や構造化面接の設計・研究に携わる。2013年、東京大学から社会心理学で博士号を取得。現在は面接評価などの個人のアセスメントのほか、経験学習、高齢者就労、職場の心理的安全性など、多岐にわたる研究に従事。

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