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先行研究から見る心理的安全性の実体

心理的安全性の要因と効用

  • 公開日:2017/11/27
  • 更新日:2024/03/25
心理的安全性の要因と効用

激しい競争にさらされる今日のビジネス環境下では、学習や変化、革新などによって組織は常に成長することが求められている。組織の成長と関連する変数として、「心理的安全性」という概念が注目されている。

心理的安全性が高まることで、組織成員は、既存のやり方への疑問や新しいアイディアを、評価を気にせず発言するようになるため、その結果として個人や組織の学習や革新が進むことが期待される。ここ20年ほどの研究では、こういった仮説を支持する結果が、数多く報告されている。またグーグル社が自社のプロジェクトチームの成功に関連する要因を探った研究で、最も影響があったのが心理的安全性であったことを発表したことで、この概念の魅力は広く知られることとなった。

本稿では、これまでの実証研究から明らかになった心理的安全性の要因と効用を紹介しながら、今後の研究課題についても考えてみたい。

「心理的安全性」の定義
心理的安全性と先行要因や結果変数との関連性
関連性の強さに影響を与える要因
これまでの研究のまとめと今後の方向性
おわりに

「心理的安全性」の定義

エドモンドソン(1999)によれば「心理的安全性」とは、チームにおいて、他のメンバーが自分が発言することを恥じたり、拒絶したり、罰をあたえるようなことをしないという確信をもっている状態であり、チームは対人リスクをとるのに安全な場所であるとの信念がメンバー間で共有された状態と定義されている。似た概念として、例えば「信頼」がある。信頼も、相手を信じてリスクをとることができるといった要素が定義に含まれている。エドモンドソンは両者の違いとして、「信頼」は2者の関係性にあるものだが、「心理的安全性」はチームや組織といった集団レベルの現象である点が異なるとしている。また、「信頼」は特定の相手に対する態度を決めるもので、相手の行動に着目するが、「心理的安全性」は状態として安全であるため、特定の相手の行動をモニタリングする必要がないといった違いがあるとしている*1。

上記の定義どおり、多くの研究では心理的安全性をチームや職場といった集団のものとして扱っているが、個人レベルの現象として扱っている研究もある。また、組織全体の風土や価値観の1つとして行われた研究もある。ただしいずれの場合も、個人がチームや組織のある種の状況認知を基にした信念であることは共通している。

心理的安全性と先行要因や結果変数との関連性

フレイザーら(2017)は、心理的安全性の先行要因や結果変数との関連性を検証した136の実証研究(22000名を超える個人と、彼らが所属する5000近くの集団)を用いて、どの程度の関連性(変数間の相関係数の平均推定値)が見られるかを統計的にまとめた*2。分析は、個人レベルで関係性を扱ったものと、グループの単位でまとめて扱ったもので分けて行われており、それをまとめたのが、図表1である。

図表1 心理的安全性と先行要因・結果変数間の相関のメタ分析

まず個人レベルの結果を見る。個人レベルの分析とは、職場の状況に関する質問への個人の回答をそのまま用いて分析を行うものである。心理的安全性に先立つ要因には、パーソナリティなど個人特性(主体性、情緒の安定性、新たな経験への開放性、学習目標志向)、リーダーとの良好な関係性、裁量性など仕事の特徴、支援的な組織風土、がある。これらの要因があると心理的安全性は高まるとの仮説のもとに、研究が行われてきたということである。相関係数の「平均の推定値」を見ると、個人特性のなかには関係性がさほど強くないものもあるが、リーダーとの良好な関係性、裁量性などの仕事の特徴、支援的な組織風土については、心理的安全性と中程度の相関があった。また、心理的安全性がもたらす結果変数との関連を見ると、創造性との関連が低いものの、その他の変数との関係性は、中からやや強い程度であった。

次に集団レベルでの結果を見る。集団レベルでの分析では、個人の回答をチームや職場といった単位にまとめて分析を行う。この場合、例えばチームメンバーの多くが高く評定しないと、リーダーとの良好な関係性は高いとみなされず、心理的安全性をより集団のものとして評価するのに妥当性の高い方法である。学習目標指向などの先行要因は、個人レベルと同様に、心理的安全性と中程度の相関があった。結果変数については、仕事の成果と創造性がやや低いものの、おおむね中からやや強い程度の相関が得られている。個人レベルの分析と似た結果が得られており、心理的安全性と望ましい結果変数との関係性はかなり頑健に示されているといえる。ただし、この研究では、心理的安全性と先行要因や結果変数との関連性は、必ずしも一意に決まらないとの結果も示されている。つまりこれらの関連性は、強い場合と、さほど強くない場合があり、それはさらに別の要因に影響されていることになる。

関連性の強さに影響を与える要因

心理的安全性は、多くの望ましい結果と関連があるために大変魅力的な概念である。しかし、例えば心理的安全性が高いことでなぜ創造性が高まるのか、なぜメンバーのコミットメントが高まるのか、またなぜ批判的な意見でも恐れず表明するようになるのか、にはそれぞれ異なるプロセスが考えられる。新たな商品開発のアイディアを求めて創造性を高めることをねらう場合と、リスク管理の観点から問題の芽を早く見つけるために社員一人ひとりから告発が出やすくなることをねらう場合では、どのように心理的安全を高めるか、またどの程度高めるかなどに違いが出ることが予想できる。そこで、これまで心理的安全性との関連が主として検討されてきた学習行動と創造性について、心理的安全性がどのように機能しているのかを検証した研究をいくつか紹介する。

学習行動

1990年代に心理的安全性が注目され始めた際には、組織学習や学習行動が主な結果変数であった。まず、個人レベルのデータを用いた研究としては、例えば、製造業とサービス業で、同僚との知識共有の程度に心理的安全性がどのように影響をしているかを検証したものがある。その結果、自分の知識に自信がある従業員は、心理的安全性とはあまり関係なく知識共有を行うが、自信のない従業員は心理的安全性が高いほど知識共有を行うことが確認された。一方でさまざまな職種の個人のデータを用いた調査からは、職場の人間関係の良さが一般に心理的安全性を高めることが認められ、直接学習行動を促進する効果も示されている*3。

集団レベルでの心理的安全性と学習についても多くの研究があり、その多くは学習の結果としてチームの業績が向上したことも示している。心理的安全性と学習をつなぐものとしては、情報共有以外にも、リスクテイク、トライアル&エラーなどの行動もある。例えば、手術チームが新たな心臓手術の技術を学ぶ際のチーム学習の研究では、その場のリーダーが、権威やステータスに関係なく気づいたことを発言するように促したことが、チームの学習を促進したことを示している。一方で、心理的安全性とチームの学習に関する先行研究を統計的にまとめた研究では、チームの仕事の性質が知識集約型であるときの方が、心理的安全性の効果が強いことを示している*4。心理的安全性がどのように学習を促進するかにはいくつかのパターンやバリエーションがあると考えられる。

ダイバーシティと創造性

心理的安全性は、創造性を高めるかを検証する研究も行われている。しかし、図表1に示すように、他の結果変数と比べて創造性との直接の関連性は弱い。近年の研究では、創造性に対して心理的安全性は直接影響するのではなく、創造性を促進する他の要因の影響を強める可能性が示されている。中規模の47のドイツの会社における業務プロセス改革と、心理的安全性、そしてその会社のROAの関連を見た研究では、心理的安全性が高い場合にのみ、業務プロセス改革の結果、会社のROAが向上する効果が見られたことを報告している。またフォーチュン100社に属するグローバル企業において、グローバルなバーチャルチームを対象とした研究でも、国籍ダイバーシティの高さは、心理的安全性が低い場合には、チームでのパフォーマンスを低めたが、心理的安全性が高い場合には、パフォーマンスが高まることを示している*5。

ダイバーシティの高いチームでは、多様な視点がもたらされることで、新たなアイディアや解決策が見出され、創造性の高いパフォーマンスが期待される。一方で、ダイバーシティは、メンバー間でのコンフリクトを生じる原因にもなる。心理的安全性はチーム内のコンフリクトのネガティブな影響を抑える効果があることが示されている。心理的安全性があれば、コンフリクトがあったとしても、パフォーマンスは阻害されず、逆にパフォーマンスを向上させることが、大学の授業の課題を遂行するチーム活動を対象とした研究で明らかにされている*6。

個人レベルの研究では、心理的安全性を感じている従業員は、仕事に対する活力が高く、結果的に創造性の高い職務への取り組み姿勢が高まることが示されている*7。コンフリクトがなく、対人関係が良好で、心理的に安全だと思えれば、状況が不透明だったり、これまでのやり方が通用せず、創造性が求められる状況であっても、前向きに課題に取り組めるということだろう。

これまでの研究のまとめと今後の方向性

最近発表されたレビュー論文では、心理的安全性にまつわる研究結果が、図表2のようにまとめられている*8。

図表2 心理的安全性と諸変数との関連

上記に紹介した研究も含めて、いかに心理的安全性がさまざまな変数と関連をもつかが分かる。一つひとつの研究は、この図の矢印のいずれかを検討しているのだが、全体を包括して説明する理論は残念ながら、まだ存在しない。現時点で考察を加えるとするならば、以下のようなことがいえるだろう。上記で紹介したさまざまな研究を見ていると、心理的安全性が高い場合に、立場が弱い人が発言しやすくなる効果はあるようである。これは、明らかに対人リスクが低下することによるものであり、言いにくいことを言ったり、上の人間の誤りを指摘することなどもこの範疇に入る。これは個人レベルでの効果である。一方で、立場の強い人間も含めて、これまでにない新しい行動や発言が必要な場合には、心理的安全性が高く、対人リスクが少ないことはどのように機能するかについては、特に集団レベルにおいて、今後の研究が待たれるところである。

上記の疑問を考える際の参考になりそうな研究を2つ、最後に紹介する。1つ目のエドモンドソンらの研究は、仕事の相互依存性と心理的安全性の関連を示すことで、集団レベルでの心理的安全性の性質をより明らかにしている。2つ目のレオンらの研究は、仕事の相互依存性が高く、しかも心理的安全性が高い場合に、集団レベルでのポジティブな結果がメンバー間の支援行動によってもたらされることを示している。心理的安全性が集団レベルでの効果をもたらすメカニズムを説明した研究であり、今後の研究の方向性の1つと考えられる。

仕事の相互依存性

エドモンドソンら(2016)は、医療の仕事に従事する人と、教育の仕事に従事する人を対象として、心理的安全性の測定と、何が両者の心理的安全性の違いをもたらすかについて研究を行った。その結果、階層が上の人やキャリアの長い人ほど心理的安全性の評価が高いことを示した。また、心理的安全性を感じる単位が、階層のある医療系と、比較的フラットな教育系では異なっており、前者はチーム単位、後者は学校全体で共有されているとの結果であった*9。 これには仕事の相互依存性が影響していると考えられる。医療系はチーム内で役割分担があって連携して仕事を行うが、教育系は授業を1人で担当するなど、仕事のなかでの連携は少ない。ただし、いずれの場合もリーダーの特徴は影響があり、仕事の内容や組織の形態にかかわらず、リーダーの行動が心理的安全性に安定して影響を及ぼすことが示されている。この研究では、心理的安全性が立場の弱い人にとって有効である点に加えて、仕事の相互依存性が高いほど集団における心理的安全性の認知が共有され、その結果効果が得られることが示唆されている。

仕事での相互作用が多いと人との距離感が近くなる可能性が高く、その結果、対人リスクが低まることで心理的安全性を感じやすくなることは、ある意味当然のように思われる。上記で紹介した学習行動や創造性に関する研究でも、心理的安全性が効果をもつことの背景に対人関係の良さが見え隠れする。レオンら(2015)が中国で行った研究では、心理的安全性は所属するチームにおいて、仕事のゴールが互いに依存しているとの認知を高めることで、他者支援行動を促進する効果が確認されている*10。 心理的安全性が高まると、チームでのコミュニケーションが増え、その結果、他のメンバーとゴールを共有する感覚が高まったのかもしれない。対人リスクをとることとは関係ない場面でも、心理的安全性の効果を示した研究であり、このようなプロセスでの効果がどの程度一般にあり得るのかは面白い研究テーマである。

おわりに

以前に中高年の転職後の適応について研究を行った。そのときに本人がもっている強みやスキルと新たな仕事が必要とするものが合っているほど適応がうまくいくのは当然の結果ともいえるが、合っていない場合でも、仕事の裁量度が高ければ適応は促進されるとの結果を得た*11。転職先での立場の弱さを考えると、仕事を行う際に自分のやり方や考えを発言できるという感覚をもってもらえるようにするのも、心理的安全性の効果といえるのかもしれない。実務へのインプリケーションを考えると、心理的安全性が高まることで期待する効果は何かに加えて、もっと自由に発言したり行動をしてほしい人はメンバー全員なのか、立場の弱い個人なのかを意識することが、自組織において心理的安全性の効果を推し量る第一歩といえるかもしれない。

*1 Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350-383.
Edmondson, A. C., Kramer, R. M. & Cook, K. S. (2004). Psychological safety, trust, and learning in organizations: A group-level lens. Trust and Distrust in Organizations: Dilemmas and Approaches, 12, 239-272.
*2 Frazier, M. L., Fainshmidt, S., Klinger, R. L., Pezeshkan, A. & Vracheva, V. (2017).
Psychological safety: A meta‐analytic review and extension. Personnel Psychology,70(1), 113-165.
*3 Siemsen, E., Roth, A. V., Balasubramanian, S. & Anand, G. (2009). The influence of psychological safety and confidence in knowledge on employee knowledge sharing. Manufacturing & Service Operations Management, 11(3), 429-447.
Carmeli, A., Brueller, D. & Dutton, J. E. (2009). Learning behaviours in the workplace: The role of high‐quality interpersonal relationships and psychological safety. Systems Research and Behavioral Science, 26(1), 81-98.
*4 Edmondson, A. C. (2003). Speaking up in the operating room: How team leaders promote learning in interdisciplinary action teams. Journal of Management Studies, 40(6), 1419-1452.
Sanner, B. & Bunderson, J. S. (2015). When feeling safe isnʼt enough: Contextualizing models of safety and learning in teams. Organizational Psychology Review, 5(3), 224-243.
*5 Baer, M. & Frese, M. (2003). Innovation is not enough: Climates for initiative and psychological safety, process innovations, and firm performance. Journal of Organizational Behavior, 24(1), 45-68.
Kirkman, B. L., Cordery, J. L., Mathieu, J., Rosen, B. & Kukenberger, M. (2013). Global organizational communities of practice: The effects of nationality diversity, psychological safety, and media richness on community performance. Human Relations, 66(3), 333-362.引用2件
*6 Bradley, B. H., Postlethwaite, B. E., Klotz, A. C., Hamdani, M. R. & Brown, K. G. (2012).
Reaping the benefits of task conflict in teams: the critical role of team psychological safety climate. Journal of Applied Psychology, 97(1), 151.
*7 Kark, R. & Carmeli, A. (2009). Alive and creating: The mediating role of vitality and aliveness in the relationship between psychological safety and creative work involvement. Journal of Organizational Behavior, 30(6), 785-804.
*8 Newman, A., Donohue, R. & Eva, N. (2017). Psychological safety: A systematic review of the literature. Human Resource Management Review, 27(3), 521-535.
*9 Edmondson, A. C., Higgins, M., Singer, S. & Weiner, J. (2016). Understanding psychological safety in health care and education organizations: a comparative perspective. Research in Human Development, 13(1), 65-83.
*10 Leung, K., Deng, H., Wang, J. & Zhou, F. (2015). Beyond risk-taking: Effects of psychological safety on cooperative goal interdependence and prosocial behavior. Group & Organization Management, 40(1), 88-115.
*11 今城・藤村 (2016). 中高年ホワイトカラーのキャリアチェンジ3―ポータブルスキルの発揮度と適応感の関係―, 経営行動科学学会第19回大会

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.48 特集1「組織の成果や学びにつながる心理的安全性のあり方」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

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技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
主幹研究員

今城 志保

1988年リクルート入社。ニューヨーク大学で産業組織心理学を学び修士を取得。研究開発部門で、能力や個人特性のアセスメント開発や構造化面接の設計・研究に携わる。2013年、東京大学から社会心理学で博士号を取得。現在は面接評価などの個人のアセスメントのほか、経験学習、高齢者就労、職場の心理的安全性など、多岐にわたる研究に従事。

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