会社と社員に価値あるダイバーシティ推進とは 形式的ダイバーシティを脱却し、次なるダイバーシティのステージへ

執筆者情報
ソリューション統括部
コンサルティング部
シニアパフォーマンスコンサルタント
山本 りえ

政府や社会の要請を受け、ダイバーシティの必要性や取り組みはある程度浸透してきた。
しかし、企業価値や経営課題解決といった、企業経営面でのメリットを実感・共感する段階には、至っていない企業が多い。
どのような考え方や取り組みを行うことが、企業価値を高め、経営課題の解決につながるのか。 I-deals(個別配慮)の概念も取り上げながら、会社と社員に価値のあるダイバーシティ推進について考える。


形式的ダイバーシティからの脱却

10年以上前のことになるが、ある企業の調査分析をしていたときに、数少ない女性の管理職のうちでも、特に子をもつ女性管理職が極めて少ないというデータを見て、衝撃をうけたことがある。女性が出産・育児を経ながら、企業の課長相当以上の職務を担うためには何があればいいのか、という疑問から筆者のダイバーシティ研究はスタートし、数多くの女性活躍推進やダイバーシティ推進に携わってきた。

長くこのテーマに関わってきたが、恐らくここ数年がダイバーシティ推進の過渡期であり、形式的ダイバーシティから競争戦略としてのダイバーシティに脱却できるかが企業成長にも影響すると考える。

企業のダイバーシティ推進は、政府の後押しもあり、ここ数年で劇的に進んできた。その成果として、出産・育児・介護を理由に離職する社員が減り、女性の管理職比率が向上した企業も増えている。ダイバーシティ推進について正面きって反対する経営層や管理職も少なくなってきた。

一方で、ここにきて、女性の両立支援策ばかりが目立ち、“特別扱い”としてのコストや手間に対する現場の不平・不満もあって、「ダイバーシティ」という言葉や取り組みに食傷し、以前より企業としての推進力が低下してきているようにも感じられる。

多くの企業が、「ダイバーシティ=女性活躍」という認識を超えて、さらなるダイバーシティ推進にコミットできないのはなぜだろうか。例えば、現状の組織運営でまずまず業績が上がっており事業上の必要性をはっきりと感じられない、組織の仕事の進め方を変えなければならないことに抵抗感が強い、など、企業それぞれに理由があるだろう。しかしながら、顧客の価値観が多様化し、今までのようなフルコミットメント社員(どこでも行きます・いつでも働きます・何でもしますという社員)が少なくなるなかで、年齢・性別・国籍などの属性の多様化(デモグラフィー型ダイバーシティ)だけでなく、個々人の多様な経験や能力・価値観(タスク型ダイバーシティ)を活かすことは、中長期的な視点で競合との差別化につながるはずである。また、働くことに対する価値観が多様化し、昇進昇格インセンティブが有効に機能しなくなるなかで、越境学習や副業の促進など、自社の社員が魅力と感じる施策をいかに設定できるのかが、人材の引き寄せや引き留め(A&R)、社員の会社や仕事へのコミットメントにも影響してくる。このようななか、今改めて、本質的なダイバーシティ推進の必要性は高まっている。

経営課題としてのダイバーシティ

ダイバーシティの取り組みを、経営資源の「変換過程」の図に照らして考えてみよう。図表1のように、経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報など)が投入(インプット)であり、生産された製品やサービスは産出(アウトプット)であり、この投入と産出の比率を一般的には経営効率と呼ぶ。今日、顧客要望や競合が変わり、人の質の変化(今までに求められていなかった職能など)が求められている。この人的資源の質の多様化がダイバーシティである。

人の質が変化したのであれば、今までと同じ仕事の進め方ではなく、「変換」の方法も変えなければならない。仕事のプロセス、情報共有の仕組みや意思決定の方法、アウトプットに影響しない業務の廃止や改善などである。こうした変換効率を高めていく取り組みは、経営課題であり、変換効率を高めていく方法の1つが多様な社員を活かす働き方改革であるといえよう。

会社と社員に価値あるダイバーシティの進め方

では、会社と社員に価値あるダイバーシティ推進は、具体的にどのようなポイントを押さえて行うべきだろうか。改めて、ダイバーシティを推進するステップを図表2のように整理した。ダイバーシティのメリットを享受するための施策は会社・社員の双方による取り組みが必要で、どちらか一方が頑張るものではない。各施策の関係性を明確にすることにより、ばらばらとダイバーシティの施策を実施しているように見えていたものが、全体としてどこに向かっていくのか、何のために実施しているか理解しやすく、現場の理解も引き出しやすい。

なお、企業状況により、施策の制約や経営課題から見た優先順位により、ステップの順番は変わるが、議論のたたき台として活用していただきたい。

ステップ1
会社(上司)は、多様な働き方や発想を許容する風土・仕組みを構築する

具体的には、下記の5つを実施する。

(1)事業上の必要性の明確化と経営層のコミットメント
まずは、ダイバーシティ推進が手段であるという認識のもと、何のために実施するのかという目的や事業上の必要性を明確化し、経営層で合意することである。

今回取材したデンソーの事例では、経営層と事務局が意見交換をし、自社にとってのダイバーシティの事業上の意義や必要性、そのメリットを明確にした上で、全幹部で共有し、新たな動きを作り出そうとしている。

(2)多様性を束ねる共通価値観の共有
多様性を活かす(インクルージョン)ためにも、企業として目指す方向性や大事にしている価値観を全社で共有し、フェアウェイを示す。なお、その価値観は一度決めたら不変のものではなく、時流に沿って現場に理解しやすく進化させていくことが必要である。

(3)役割・成果の明確化(生産性を重視する)
期待する役割や成果を明確にし、何をすれば評価されるのかを明確にすることである。成果(アウトプット)が明確であれば、プロセスでの無駄な迷いや手戻りなどに費やす時間を省くことができる。また、投入した時間ではなく成果や生産性を評価することで、社員が定時内(適切な時間内)で成果を上げることを意識するようになる。

(4)働き方の柔軟性向上
フルコミット社員が多い企業では、働く場所や時間の拘束性が高くても、大きな問題は生じない。しかし、今後、場所や時間の制約がある社員が増加することを考えると、優秀な人材を確保するためにも、可能な限り働く場所や時間の柔軟性を高め、働き方の選択肢を増やし、働き続けやすい環境を作る必要がある。

(5)フェアな成長機会の提供
人は、経験を通じて成長していく。時短勤務やテレワークが選択でき、働き方が多様になっても、それによって学習機会が偏らないように留意する必要がある。企業内でいうと異動・配置・研修機会などであり、職場でいうと上司から部下に付与する役割や仕事内容などがこの機会になる。会社や上司は成長機会がフェアにある状態を意識し、無意識の制限がかからないようにしなければならない。昨今では、企業外競合でない限り兼業を認めたり、ボランティアを推進したり、大学院への進学を後押しするなど、社内だけでなく、社外での成長機会をも活用する企業が増えてきている。

ステップ2
社員は、効果・効率的な働き方を実践する

社員は、決められた時間のなかで、期待される価値をいかに出すのかを考え、絶えず工夫していく。これにより、社員は仕事やプライベートを充実させていく投資の時間を捻出できる。例えば、価値に直結している時間と間接的な時間を見極め、間接的な時間をできるだけ削減すること。構想を練る時間と作業する時間を分け、作業時間を効率化すると共に、質の高い構想が練れる場所や時間を確保すること、などがある。

ステップ2まで実施すると、組織も個人も自由に使える時間が今より増えてくる。そこで、次にその時間を活用して、成長に向けた投資を行う。

ステップ3
会社(上司)は、多様性を活かす場や機会を提供する(連携・協働の促進)

ダイバーシティの醍醐味は、多様性を活かし、企業価値向上につなげることである。そのために、新たな発想を受け入れる場や機会を設定する。また、社内外を含めて、連携・協働しやすい状態を作る。例えば、新規事業や業務改善の提案制度、職場でのアイデア共有会、社外も巻き込んだハッカソンやアイデアソンなどが挙げられる。「新たな発想を出せ」と促しながらも、職場では耳を傾けられず、会社として受けとめる仕組みもない、ということは避けたい。

ステップ4
社員は「働く」ことへの自覚を持ち、研鑽し続ける

ダイバーシティ推進の抵抗として、一部の社員による制度や権利の目的外利用が挙げられる。それを「ぶら下がり社員」と呼ぶ会社もある。会社が制度や風土を整え、多様な社員が働きやすい状態を作る一方で、社員もそこに甘んじず、「働く」ことに対して賃金をもらっているという自覚を持ち、「働き続ける」ための資産を増やすべく研鑽する必要がある。具体的には、下記の2つである。

(1)役割・成果にコミットする
期待されている役割や成果に対し、真摯に応える。

(2)「働き続ける」ための資産を自律的に維持・向上させる
会社で働き続けるためにも、自分の資産である知識・スキルを自律的・継続的に高めていく必要がある。経験を通じて人は成長するため、たとえ変化がないと感じる業務であったとしても自分の糧となるような意味付けをし、意識するだけでもよい。

これらの結果、顧客への最適なソリューションが提供され、顧客価値が向上することになる。社員は、「働きがい」のある状態を実現し、会社も企業価値を高め「持続的成長」を実現することができる。

ここまで、会社と社員に価値あるダイバーシティの進め方について説明をしてきたが、グローバル化に伴う人種、民族の多様化や、社員の家庭環境の多様化が進むなか、前述の状態を実現するために、一律のルールに基づく管理では難しいのではないだろうか。

そこで、筆者は、多様な人材を活用するための具体的なマネジメントの方法として、I-deals(個別配慮)という考え方に着目している。

I-deals(個別配慮)という考え方

I-dealsとは、会社と従業員の双方にとって利益となるためになされる個々の状況に応じた雇用条件に関するアレンジメントである(服部泰宏氏のインタビュー参照)。例えば、ある会社の男性社員が、親の介護をしながら営業をしていたときに、上司の配慮で会議の時間や出張などを含めて勤務時間に融通を利かせてくれたため、何とか乗り越えて働き続けられたとか、全国転勤のある女性社員が、出産・育児期間については、出張はしたものの転居転勤せずにすんだというようなことがないだろうか。

筆者が行った日本の管理職を対象とした調査*においては、(1)I-dealsは「上司のI-deals」と「会社のI-deals」の2種類に区分された(図表3)。(2)日本企業においては、暗黙に行われているためI-dealsの実践度に対する認知は高くないが、子をもつ女性管理職はI-dealsを直に感じており、仕事の進めやすさや働きやすさなどに良い影響を与えていた。(3)上司のI-dealsは仕事の進めやすさや働きやすさを向上させ、会社のI-dealsは、葛藤があっても働き続ける環境の整備に寄与していた。

* 山本りえ(2013) 「仕事と家庭の両立における個別配慮(I-deals)の役割に関する研究〜子を持つ女性管理職に注目して〜」


つまり、日本においても古くから、就業規則などで一律に対応できない社員の個別事情について、会社や上司は個別に配慮してきたのである。昔以上に短期的な業績も求められるなかで、上司が部下の状況を個別に把握し、配慮することは、時間的にもスキル的にもすぐにできることではなくなってきているかもしれない。しかし残念ながら、社員の多様性が進むなかにおいては、すでに一律のルールに基づく人材管理では限界があることもまた事実である。今ある一律のルールを見据えながらも、ルールでは救えない事案については上司や会社がI-dealsとして対応する。そのためには、上司には関係部署への調整力が必要になり、社員は持てる能力を最大限発揮し、I-dealsに値する社員であることを示し続けることが前提となる。

また、会社(人事)としても、優秀な人材を確保するために、一律のルールでは救えない事案に対して柔軟かつ肯定的に現場を支援していくことが必要になる。それが中長期的に見て会社と社員の信頼関係の礎になり会社へのロイヤリティを高めていく。

ダイバーシティを推進していくために仕組みや風土を作ると共に、そこでは対応できないことに対しては諦めるのではなく、I-dealsとして救えることを知っていただきたい。

本稿の考え方をたたき台に、自社のダイバーシティのあり方や進め方について、経営層と議論を深めていただくことができれば幸いである。


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol. 45 特集2「会社と社員に価値あるダイバーシティ推進とは」より抜粋・一部修正したものです。
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