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研修効果を高めるために

研修は「何を学び」、「何を効果とする」とよいのか?

  • 公開日:2016/11/07
  • 更新日:2024/03/25
研修は「何を学び」、「何を効果とする」とよいのか?

現在、トレーニングに関する研究は熱心に行われている。かつて「トレーニングに関する論文は、数は多いが、実証的ではなく、理論的でもない」*1と指摘される時代もあったが、現在は「トレーニングに関する研究分野は、現在のところ、安定的で興味深く、ダイナミックで積極的であり、組織にとって意味があるものである」*2と語られるまでになっている。本稿では、研修効果を捉える研究の一端を、何を学習するのか? 何を効果とするのか? どのように高めるのか? という3つの観点から触れてみたい。

何を学習するのか?
何を効果とするのか?
どのように高めるのか?─職場実践の場合
研修前・後の仕掛け

何を学習するのか?

Yelon & Ford(1999)は、学習するスキルを「オープンスキル」と「クローズドスキル」とに分類した*3。クローズドスキルとは、やり方が、ルールや手順によって1つに定められているスキルのことで、オープンスキルとは、1つの正解があるというよりも、状況に応じて適応的に発揮されるスキルである(図表1)。

図表1 スキルの分類例

リーダーシップを高めるような研修は、オープンスキルを高めようとするものが多い。やっかいなのは、オープンスキルは、クローズドスキルに比べて本当に伸びているのか、学習の効果が分かりにくいということである*3。

何を効果とするのか?

では、学習の効果とは、どのように捉えたらよいのだろうか。学術上、研修の効果は非常に幅広い視界で語られている。本人の職務遂行への影響はもちろん、所属組織への影響、経済学では社会的影響も議論される*4(図表2)。

図表2 効果の分類例

研修受講者や組織への効果を捉える観点で言えば、Jack PhilipsのROI、Robert O. Brinkerhoffのサクセスケースメソッドなど多数あるが、ここでは発表から40年経った今も、ATD(Association for Talent Development:タレント開発協会)などで活発に議論されるKirkpatrickの4段階を紹介したい。近年発表された最新のモデルでは、中心にLevel 3「行動」を配した(図表3)。研修の効果として、職場での実践度を特に強調するモデルとなったといえる。

図表3 カークパトリックモデル

どのように高めるのか?─職場実践の場合

学習した内容を、職場での行動へとつなげていく方法論として、インストラクショナル・デザインや、学習環境デザインが有名である。学習を職場で活用することは、学術上は転移(Transfer)と呼ぶ。Blume, et al.(2010)が実証研究のメタ分析を行った結果、転移の程度に影響を与える先行要因として、以下3つの観点が見られた*5。
何を学習するのか?

(1)本人特徴
動機や能力など受講者の特徴
(2)研修内容
研修プログラムや講師の特徴
(3)職場状況
学んだことを活用する機会・上司の支援など

(2)の研修内容が、効果に影響を与えることは、例えばArthur, et al.(2003)*6が行ったメタ分析でも指摘されていることだが、(1)研修に参加する受講者の状態や、(3)職場の状況も看過できないということである。また、(1)や(3)は研修中だけでなく研修の前・後の状況も大いに関係する。例えば、受講前に本人が研修に対して抱くモチベーションの度合いや、受講後に職場から得られる支援の度合いが、研修効果に影響を与え得る。さらに、先に紹介したオープンスキルの場合は特に、クローズドスキルよりも、研修の前・後の影響が強まる傾向がある*5。

研修前・後の仕掛け

このように、研修前・後の効果に関しても積極的に実践的・学術的探索が行われているが、ここでは弊社が行った実証研究を紹介したい。新任管理職向け研修の受講者データ(38社884名)を分析したところ、受講前に研修への参加意欲を高めることと、受講後の自分の意識・行動が変わったとの実感が、その後の実践の継続に影響することが示唆された(図表4)。また、周囲からの関わりの影響も確認されており、管理職といえど本人に任せきりにせず、研修前から後まで、管理職の新たな一歩を盛り立てていく仕掛けをどれだけ生み出せるかが、成否を分かつ重要なポイントになるようである。

図表4 トレーニング後の実践の継続に影響する受講前・後の要因

*1 Campbell, J. P. (1971). Personnel training and
development. Annual Review of Psychology, 22, 565‒602.
*2 Salas, E., Tannenbaum, S. I., Kraiger, K., & Smith-Jentsch, K. A. (2012). The science of training and development in organizations: What matters in practice. Psychological science in the public interest, 13(2), 74-101.
*3 Yelon, S. L., & Ford, J. K. (1999). Pursuing a
multidimensional view of transfer. Performance Improvement Quarterly, 12(3), 58-78.
*4 Aguinis, H., & Kraiger, K. (2009). Benefits oftraining and development for individuals and teams, organizations, and society. Annual review of psychology, 60, 451-474.
*5 Blume, B. D., Ford, J. K., Baldwin, T. T., & Huang, J. L. Journal of Management, 36(4), 1065-1105.
*6 Arthur Jr, W., Bennett Jr, W., Edens, P. S., & Bell, S. T. (2003). Effectiveness of training in organizations: a meta-analysis of design and evaluation features. Journal of Applied psychology, 88(2), 234.

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.43 特集1「研修効果を高める―実践につながる研修デザイン」より抜粋・一部修正したものである。
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荒井 理江

ソリューションプランナー、広報・販促・ブランドマネジメントを担当ののち、2011年より「組織行動研究所」研究員として組織・人材マネジメントの各種調査・研究、機関誌「RMS Message」の企画・編集に従事。その後、経営企画部にて人材開発を主導、またベンチャー企業向け新規事業開発、サービス開発マネジャー兼プロダクトマネジャーを経て、現職。人材開発トレーナーの養成を担う。

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