コラムCOLUMN
公開日:2023/07/03
更新日:2023/09/22

THEME 人事制度

連載・コラム人的資本経営の実現に向けたエビデンス・ベースドHRM 第2回 座談会2

人事データの戦略的蓄積がHRBPと事業現場の対話を生み出す

人事データの戦略的蓄積がHRBPと事業現場の対話を生み出す

人事が取り組むべき新しいテーマとして、「人的資本経営の推進」、その実現に向けた「事実や根拠に基づいた人材マネジメント(エビデンス・ベースドHRM)」の重要性が高まっている。人材マネジメントに有効なエビデンスにはどのようなものがあるか、得られたエビデンスを経営や現場の課題解決に生かすとはどういうことか。3回にわたり、ご紹介していく。

第1回 経営視点から見たエビデンス・ベースドHRMの意義
エビデンスを使いこなすには対話とストーリーが欠かせない
座談会 旭化成・キリンホールディングス・富士通
第2回 ピープルアナリスト×HRBPの本音
人事データの戦略的蓄積がHRBPと事業現場の対話を生み出す
座談会 日本電気・LINE
第3回 人事の対話を豊かにするエビデンス・ベースドHRM
リクルートマネジメントソリューションズ HAT Lab所長 入江崇介

第2回では、ピープルアナリティクス(PA)先進企業の代表として、日本電気(以下、NEC)とLINEのPAチームリーダーとHRBP にお集まりいただいた。PAはエビデンスとして現場の問題解決にどれほど役立ち、経営や組織にどの程度貢献しているのか、HRBP はPA をどう活用しているのか、お話を伺った。

座談会登壇者
● 日本電気株式会社 人事総務部 ピープルアナリティクス スペシャリスト
  海老沼 貴明 氏(写真右から2人目)
● 日本電気株式会社 社会基盤BU HRBPグループ 主任
  菅崎 理功 氏(写真右)
● LINE株式会社 Organization Successセンター OS Data Managementチームマネージャー
  佐久間 祐司 氏(写真左)
● LINE株式会社 HR Business Partner室 エンジニアHR ビジネスパートナーチーム
  麻生 朋宏 氏(写真左から2人目)

※所属は取材時点のものとなります。
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.70 特集1「エビデンス・ベースドHRM─対話する人事」より抜粋・一部修正したものです。

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ピープルアナリティクス(PA)の立ち上げ



――佐久間さんも海老沼さんも、人事・人材データを活用して課題解決を行う「ピープルアナリティクス(PA)」を中途入社で一から立ち上げています。どのような経緯で入社されたのですか?

佐久間:PAをさせてもらえるなら入社する、という約束でLINEに入りました。でも、私が入社した2017年時点では、人事部門トップにやる気はあるものの、PAで何ができるかは私自身も含めてぼんやりしたイメージしかありませんでした。その状態からのスタートです。

海老沼:私も2020年にPA専業で入社しました。まだPAは何も進めていないと思って入ったのですが、調査してみるとなんと全社で36ほどのPAプロジェクトが動いていました。各事業部門やグループ会社が、人事・人材データを使って何かやろうと独自に進めていたのです。

LINEの場合、最初の3年はデータ収集と基盤構築に注力



――佐久間さんは、LINEでどのようにPAプロジェクトや組織を立ち上げてこられたのですか?

佐久間様の顔写真佐久間:最初の3年は、データ収集とデータ基盤の構築に注力しました。まずエンゲージメントサーベイを導入し、続いてパーソナリティ診断も入れました。当時の私は、社内ではサーベイ・ツールの導入担当者に見えていたと思います。

ただ一方で、社内システム部門と協力して、データ基盤も作り始めていました。データ基盤がある程度できたところで、それを人事向けタレントマネジメントシステムとして使えるようにしました。人事部の皆さんに高い評価を得てから、マネジャー向けシステムもリリースしました。

今もそうなのですが、私たちはこのように順を追って、一部で評価を得ながら徐々に全社に広めていくようにしています。そうしないと、現場の理解を得られないからです。エンゲージメントサーベイですら、当初は多くの部門から「意味ある?」と言われました。そこでまず、興味を示してくれた一部の部門にサーベイを導入して、評価の高い人材はエンゲージメントが高く、退職者はエンゲージメントが低いことを証明しました。そうして導入部門を増やしていき、最終的に全社導入の合意を得たのです。現場の発言力が強い傾向にある当社の場合、こうした信頼の積み重ねが欠かせません。

NECの場合、PAの全社Willをエンゲージメント向上に設定



――海老沼さんは、NECでどのようにPAプロジェクトや組織を立ち上げてこられたのですか?

海老沼氏の顔写真海老沼:私も佐久間さんのように、PAはデータ基盤の構築から始めるべきだ、と考えています。ただ、私が入社した2020年、NECは新たなタレントマネジメントシステムを導入している最中でした。そのタイミングでデータ基盤構築を進めると、混乱が起きてしまう可能性がありました。現在は導入も一通り落ち着いたので、2023年度からデータ基盤を構築するところです。

では、私たちが3年間で何をしたかといえば、1つ目にPAプロジェクトの全社統合を進めました。冒頭で触れた36のプロジェクトは各事業部門がそれぞれの考えで進めており、目的がバラバラでした。NECの場合、技術は総じて高く、Can(できること)は多いのですが、Will(やりたいこと)が定まっておらず、大半はMust(データを活用しなければならないという義務感)で動かしていました。それではPAはうまく機能しません。

そこで私たちは中期経営計画に照らし合わせて、「エンゲージメント向上のためにPAを活用しましょう」という目的の柱、全社のWillを設定しました。そして全社のWillを踏まえて、残すプロジェクトと終わらせるプロジェクトを判別し、全PAプロジェクトを1つに束ねてきました。

2つ目に、人事総務部内に、PA専門の部署「HRアナリティクス」を立ち上げました。NECグループ内には、データ分析能力をもつ会社やチームがいくつもありますから、HRアナリティクスがそうしたチームと連携する仕組みも構築してきました。3つ目に、経営や社内にPAの効果をアピールするために、並行していくつかの最新PAプロジェクトを進めてきました。

データをもっていくと現場は耳を傾けてくれる



――両社の現場には、データを受け入れる風土はもともとあったのですか?

佐久間:LINEらしいやり方・考え方をまとめた「LINE STYLE」で、行動指針の1つとして「Always Data-driven」と示されるくらい、データを根拠に考える傾向が根づいています。人事にもデータを求められることが比較的多いですね。特に麻生が担当する開発組織はデータが大好きです。

麻生氏の顔写真麻生:LINEでは、役員も組織長も、現場のことはHRBPよりも自分の方がよく分かっている、と考えています。ですから、私のようなHRBPが単に定性的な意見を発しても、簡単には受け入れてくれません。ところが、データ分析結果には耳を傾けてくれるケースが多いのです。

菅崎:定性的な話をしても役員や現場には伝わらないけれど、データを活用すれば意見を聞いてくれるというのは、NECも同じですね。

私は、データをコミュニケーションツールとして活用しています。なぜなら、NECのHRBPには社内営業のような側面があるからです。NECグループには、コーポレート人事、労働組合、人事シェアードサービス、キャリア開発・支援など、人事にまつわるさまざまな機能やサービスがあり、サポート体制は万全です。私たちHRBPのミッションは、全社施策を現場に落とし込むのは勿論、これらの素晴らしい機能・サービスを上手に頼りながら、担当部門と密にコミュニケーションをとって、部門の真の人事課題を発見し、解決していくことです。そのミッションを果たす上で、データは強力なコミュニケーションツールなのです。役員にデータ分析をもっていくと、真剣に話を聞いてくれます。私はデータを起点にして彼らの本音を引き出し、真の課題を発見していくようにしています。

海老沼:PAの長所の1つは、分析によって人事課題、優秀人材などを言語化できることです。言語化すると、あいまいだったことが明確になります。現場の皆さんは、それによって不安が払拭され、安心が得られるのではないでしょうか。

佐久間:当社では、ダッシュボードを用いたデータの可視化にも注力しています。データをタイムリーにとれることがHRBPと現場の対話に有益です。

定性と定量が合致したとき限りなく因果関係に近くなる



――海老沼さんはPAチームリーダーとして、NECの現場データ活用についてどう感じていますか?

海老沼:確かに、現場はデータ分析に耳を傾けてくれますが、それは怖いことでもあります。

なぜなら、統計学やデータサイエンスをあまり詳しく知らない方々は、データ分析を都合よく解釈しがちで、なおかつ相関関係を因果関係と勘違いしがちだからです。PA担当者やHRBPは、相関関係と因果関係の違いを知らない人たちがデータを安易に扱うのは危険だ、と認識すべきです。

NECでは、「定性と定量が合致したとき、限りなく因果関係に近くなる」という考え方を共有しています。データ分析だけでなく定性的調査をあわせて行い、両方で同様に考察できるようなときには、因果関係に近い関連があると考え、手を打つようにしています。

また、私たちは倫理面についても十分に注意すべきです。社員に不利益となるようなデータ活用は絶対に防がなくてはなりません。社員の信頼を失ってしまえば、PAプロジェクト全体が即座に頓挫しかねないからです。倫理面のマネジメントは、今後一層大切になるはずです。


――定量的データ分析だけでなく、定性的分析も取り入れているのですね。

海老沼:私たちは、定量的分析だけでなく、定性的分析にも力点を置いています。例えば、心理学の専門家による定性的インタビュー分析は信頼に足るものです。心理学の専門家は特殊なインタビュー技術や学術的知見を身につけており、心理学の視点から分析した優れた定性データを提供してくれます。

私たちはこの両面の分析を受けて、人事施策の意思決定や必要な研修の導入を行い、状況の改善に成功しました。

麻生:海老沼さんのおっしゃることはよく分かります。私たちは心理学的なインタビュー分析までは行っていませんが、現場インタビューや観察を重ねて得た実感値はあります。そうした実感値とデータ分析の両方をもっていると、単に組織の人事課題を指摘するだけでなく、「この点がボトルネックですから、最初にこの改善策を行いましょう」といった具体的な提案が可能になるのです。

菅崎氏の顔写真菅崎:私も定性的インタビューを大事にしています。毎月1日は社員と面談する日を必ず設け、その日は一日中ひたすら会話するようにしています。ここから得た情報を定量的データ分析と重ね合わせて、両者が合致したときが最も効果が上がるのです。「定性と定量が合致したとき、限りなく因果関係に近くなる」のは、間違いないと思います。






HRBPにはデータ分析と直感の両方が必要だ



――他に、PA分析から人事施策につながった事例を教えてください。

佐久間:LINEは中途入社者が多く、中途社員のオンボーディングが大きな人事課題の1つです。データ分析の結果、入社後1カ月時点でのアンケートへの回答がネガティブな新人は、その後低エンゲージメント状態が長く続く可能性が高いことが分かりました。さらなる調査で、その大きな原因は「入社前後のギャップ」だと判明しました。入社前に聞いていたのと違う仕事や異なる職場環境だと、最初からエンゲージメントが低くその後巻き返すのも難しいのです。この分析を踏まえて、現在はリクルーター、HRBP、現場が密に連携をとり、入社前後のギャップが起きないように気をつけています。

海老沼:NECでは、PAを活用した人材公募の仕組みを構築しています。職務経歴やスキルを登録すると、文字情報をAIが分析し、合致した公募の情報やスカウトが送られてきたりするんです。


――HRBPのお二人は、自らの実感値から得た直感をどのように活用していますか?

麻生:直感に反するデータ分析結果が出てくることはよくあります。その際はデータを重視しますね。例えば、うまくいっていると思っていた組織で退職率が突如高くなったりすると、データの結果を優先してその組織を注意深く観察するようにしています。

菅崎:私も、優れたマネジャーだと感じていたのにメンバーに休職者が多かったりすると、サーベイを細かく分析して仮説を立てるようにしています。その仮説をもって現場にインタビューを行い、原因が明らかになれば、マネジャーにフィードバックして改善を図っていきます。

麻生:直感を起点にデータを掘り下げることもあります。例えば、退職者は少ないけれど、普段現場メンバーと会話するなかで不安を感じる組織がありました。データを詳しく調べると、エンゲージメントが明らかに低かったのです。ここまで分かれば現場と議論できます。

佐久間:データ環境が整うほど、HRBPのデータ分析力が重要になってきます。なぜなら、HRBPの要望は担当組織によって千差万別で、もはやこちら側では個別のデータ分析に対応しきれないからです。麻生のように、自らデータ分析できるHRBPが欠かせません。

麻生:PAを活用できるようになってから、HRBPの仕事はずいぶん楽になりました。以前は、さまざまな問題の火消しが主な仕事でした。ところが現在はPAのデータ分析によって、問題を予見し、組織長と対話することで問題が顕在化する前に手が打てるようになったのです。火消しの仕事は減少し、そのおかげで、全体の施策を考える余裕も生まれました。PAはもはやHRBPに必須の武器です。

海老沼:最後に人事の皆さんに伝えたいのは、PA導入の際は、経営との期待値調整が欠かせないということです。佐久間さんのおっしゃるとおり、初手のデータ基盤の構築が最重要なので、PAで短期・長期的に何を実現できるのかを経営に明確に伝え、理解を得ることをお勧めします。その際、最優先すべきは、データ活用は社員の利益のために行うということだと思います。



【text:米川 青馬 photo:伊藤 誠】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.70 特集1「エビデンス・ベースドHRM─対話する人事」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。


PROFILE

海老沼 貴明(えびぬま たかあき)氏
日本電気株式会社 人事総務部 ピープルアナリティクススペシャリスト

大学卒業後、医科大学に勤めて人事を担当。次の会社で人事システム管理の経験を積み、ピープルアナリティクスにも携わる。HRBPも経験。2020年NECに入社して、ピープルアナリティクス専業の担当者に。ピープルアナリティクス組織の立ち上げなどを手がけてきた。


菅崎 理功(かんざき りく)氏
日本電気株式会社 社会基盤BU HRBPグループ 主任

大学卒業後、2014年NEC入社。大学時代には人事系ゼミに所属しており、入社してからも人事一筋。総務領域や労務・人事制度設計などにコーポレートおよびグループ内シェアードサービス会社への出向で携わった後、2017〜2018年官公庁に出向。2019年より、官公庁向けビジネスを担当する部門のHRBPを務めている。


佐久間 祐司(さくま ゆうじ)氏
LINE株式会社 Organization Successセンター OS Data Managementチーム マネージャー

大学卒業後、ワトソンワイアット(現ウイリス・タワーズワトソン)で人事コンサルタントを務め、面白法人カヤックで人事を経験。同志社大学心理学研究科前期博士課程修了後、メタップスを経て2017年LINE入社。ピープルアナリティクス環境を構築し、システム企画・分析などを担当。


麻生 朋宏(あそう ともひろ)氏
LINE株式会社 HR Business Partner室 エンジニアHR ビジネスパートナーチーム

大学卒業後、ベンチャー企業にて人事業務を幅広く経験。2016年LINE入社。当初は人事評価や全社サーベイを担当していた。開発組織向けにHRデータを活用していたところ、2018年より公式に開発組織担当のHRBPになって現在に至る。LINEでは最も早くHRBPになった1人。



人事データの戦略的蓄積がHRBPと事業現場の対話を生み出す
ピープルアナリティクス(PA)の立ち上げ
LINEの場合、最初の3年はデータ収集と基盤構築に注力
NECの場合、PAの全社Willをエンゲージメント向上に設定
データをもっていくと現場は耳を傾けてくれる
定性と定量が合致したとき限りなく因果関係に近くなる
HRBPにはデータ分析と直感の両方が必要だ
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