- 公開日:2023/06/16
- 更新日:2024/05/16
ビジネス環境が日々多様化・複雑化するにつれ、現場の中心的な役割を担う中堅・リーダー層の活躍がますます期待されています。中堅・リーダー層は単に現業の問題解決を担うだけでなく、「会社の変革に高い影響力を持つ、将来のマネジメント・経営・イノベーション人材の候補」でもあります。
この層に対しては「現場の業務に穴をあけられないので、Off-JTに派遣できない」「必要な知識・経験は、OJTを中心に強化されている」といった声もしばしば耳にしますが、現場の業務に最も精通しているからこそ、意図的な育成を通じてさらなる「プロフェッショナルとしての成長」が期待できると弊社は考えています。 無料セミナー「組織や事業の変革人材となる中堅・リーダー層の能力開発とは」では、中堅・リーダー層に求められる期待・役割と、それに照らした意図的・計画的な育成のありかたに関する観点を踏まえ、具体的な事例についても紹介しました。本記事では、そのセミナーの内容を端的に紹介します。
● 講師
姜 舜伊(HRD統括部 HRDサービス開発部 シニアソリューションアーキテクト)
- 目次
- 「リーディングプレイヤー層(LP層)」はマネジメント・経営幹部・イノベーション人材に最も近い候補群
- 現代のLP層は、見える問題だけでなく「見えない問題」や「つくる問題」の解決も求められる
- 事例1: 管理職業務を実際にプロセスごと体験してもらうプログラム
- 事例2: 「思考と目線合わせの両輪」で企画を動かしていくプログラム
「リーディングプレイヤー層(LP層)」はマネジメント・経営幹部・イノベーション人材に最も近い候補群
「中堅社員の育成」は、人事施策のなかでも比較的実施率が高い領域です。例えば、私たちが2021年8~10月に開催した無料セミナーのアンケート「人事施策の取組状況」(N=2391)では、51.8%の方が、中堅社員の育成に関する何らかの取り組みを実施していると回答しました。
しかし、中堅・リーダー層の育成には悩ましい点があります。経験・年次・職種のバラツキが大きいため、育成計画を立てにくいのです。そもそも中堅社員とは誰を指すのでしょうか。実は、中堅社員は一律的な定義が最も難しい階層です。最大限に広く捉えれば、スターター期の終了から管理職登用前までの人材全般を指す可能性があります。そのため、中堅社員育成を考える際には、対象者層・育成テーマ・時期・手法などをよく考え、絞り込む必要があります。
本セミナーでは、中堅社員のなかでも「リーディングプレイヤー層(LP層)」にフォーカスします。LP層とは、マネジメントの一歩手前で、組織業績と周囲のメンバーを牽引する役割を担う方々のことです(図表1)。
<図表1>「リーディングプレイヤー層(LP層)」とは
私たちがLP層にフォーカスするのは、「マネジメント・経営幹部・イノベーション人材」に最も近い候補群だからです(図表2)。各社ともこれらの人材層に慢性的な不足を感じており、それを大きな経営課題と考えています。LP層を上手に育成できれば、これらの経営課題の解決に近づくことができます。多くの企業が、中堅社員のなかでもLP層の育成を最も重視している理由はそこにあります。
LP層の育成は決して簡単ではありません。なぜなら、LP層からマネジャーに昇格した途端、仕事・人の両面で守備範囲が急拡大するからです。LP層は、メンバー指導や業務改善などの一部を担うことがあっても、基本的には「仕事の完遂」が中心となります。一方、マネジャーはそれに加えて「仕事の改善」「メンバーの協働」「メンバーの成長」も見なくてはならないのです(図表3)。そのため、LP層のうちに、マネジャーに求められるマネジメント力・経営構想力・事業構想力を幅広く伸ばすことが肝要です。
私たちの調査では、管理職層が困っていることの第1位は、2021年までは「メンバーの育成」でしたが、2022年は「業務改善」に変わりました(弊社HP「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2022年」)。今後LP層から昇格するマネジャーは、業務改善に最も苦慮するでしょう。もちろん、メンバーの育成にも困るはずです。マネジメント登用前に、業務改善やメンバー育成の方法を教えることが、彼らの悩みを軽減します。なお、多くの企業では、LP層をマネジメント層に押し上げる育成施策を「次世代リーダー育成」と呼びます。これから展開する話は、次世代リーダー育成のことだと理解していただいてもよいかもしれません。
<図表2>LP層の期待役割
<図表3>マネジャーに求められる4つの成果
もう少し具体的に言い換えれば、LP層とは「主任・係長・リーダー」などの肩書きがつく皆さんのことです。LP層は、リーダー的な立場の仕事を任されたり、担当業務外の相談を受けることが増えたり、上位層が同席する場に立ち会うことが増えたり、事業・組織の状況について意見・提言を求められたりします。部署横断プロジェクトや関係者の多い仕事にアサインされることもよくあります。業務の難度と役割責任が同時に上がり、周囲に対する影響力がぐっと高まります。
この時期には、組織の成果に向けてやるべきことを考えたり、他のメンバーを指導したり、上位者にも現場目線で率直に提言したり、メンバー同士の関係性づくりに配慮したりすることが大切です。しかし、それらの能力を伸ばすだけでは足りません。一方で、自分の担当業務に没頭すること、直接手を動かして仕事をすること、上司や先輩の方針にフォロワーシップを発揮することを、抑えなくてはなりません。「伸ばすと抑える」を両にらみで行うことがポイントです(図表4)。
なお、LP層は、ビジネスパーソンとして「プロ」を目指す時期でもあります。社外を含めたどこでも通用する専門性を身につけることを重視する傾向にあります。そうした彼らのモチベーションを上手に高めて、主体的な能力開発を推進する必要があります。
<図表4>役割変化に対応するために必要な意識・行動
現代のLP層は、見える問題だけでなく「見えない問題」や「つくる問題」の解決も求められる
LP層の能力開発テーマはいくつも考えられますが、私たちは「問題解決力」に最も注目しています。なぜなら今や世界的規模で、ビジネスパーソンに問題解決力が強く求められているからです。例えば、世界経済フォーラムの「The Future of Jobs Report 2020」によれば、「Top 10 skills of 2025」のうちの半数の5つが問題解決力に関わるものです。
問題解決力自体は、以前から重視されてきた能力です。しかし今日では、環境変化に伴う業務内容・プロセスの変化が大きく、問題の難度が高まっています。そのため、従来の問題解決のパターンでは対応できない事例が増えています。以前なら、いつもと同じ顔ぶれのなかで解決できた問題、関係性で何とか解決できた問題、上位者の一声で解決できた問題、特定業務でスペシャリストが解決できた問題、具体的な手順に従って解決できた問題が多くありました。また、未解決のまま放置しても何とかなった問題もありました。しかし現代では、こうした解決方法だけではどうにもならないことが増えています。
現代のLP層に求められるのは、以前よりも高いレベルの問題解決力です。具体的にいえば、見える問題(発生型)の解決力だけでなく、見えない問題やつくる問題の解決力も必要とされています(図表5)。
「見えない問題(目標設定型)」とは、会社や部門など上位組織の方針を踏まえて、LP層が自らの力で設定した自チームの組織課題のことです。例えば、先ほど少し触れた業務改善やメンバー育成の企画・立案・実行などは、見えない問題の解決に当たります。「つくる問題(課題設定型)」とは、会社内外の環境変化などを広く捉えて、自チームだけでなく、事業全体のあるべき姿を自ら設定して生み出す組織課題のことです。例えば、新規事業アイディアやサービス開発アイディアを企画・立案・実行することは、つくる問題の解決に当たります。
<図表5>今日のLP層が実際に取り扱う問題の種類
見えない問題やつくる問題の解決には、多種多様な能力が必要です。特に、テクニカルスキルだけでなく、「ヒューマンスキル」や「コンセプチュアルスキル」が高いレベルで求められます。なぜなら、見えない問題やつくる問題の場合は、ステークホルダーが多様だからです。自チームの顔見知りのメンバーだけで進められるケースはほとんどなく、他部門・社外など多方面のメンバーと協力したり折衝したりしながら、形のないものを創り上げていくことになります。そうした状況では、より高いヒューマンスキルやコミュニケーションスキルが欠かせません。また、全員のベクトルを合わせるためには、抽象度の高い思考のやり取りも必要となります。
つまり、現代的な問題解決のためには、そもそも問題解決力だけでは足りないのです。例えば、図表6に挙げたような能力が重要となります。もちろん、いつもこれらすべてが必要というわけではありません。実際の現場では、問題の種類に基づいて、複数の能力を組み合わせて発揮することになります。ですから、能力開発もこれらを上手に組み合わせることがポイントです。例えば、企画力を高めるには、「発想力・クリティカルシンキング」「目標設定力」「企画立案・構想力」「ステークホルダーマネジメント力」を組み合わせた研修プログラムを用意するとよいでしょう。
なお最近は、学び方のパラダイムシフトが起きています。以前は、講師から学ぶプログラムが一般的でしたが、この形式は減っています。なぜなら、正解のない世のなかでは、従来の正解をインプットするだけではあまり意味がないからです。その代わりに、実際の職場課題を題材にして「受講者同士で学び合う形式」が主流になりつつあります。ネットワークやコミュニティのなかで、お互いにアウトプットしながら理解を深め合っていくのです。
<図表6>主な能力開発テーマ例
事例1: 管理職業務を実際にプロセスごと体験してもらうプログラム
以上を踏まえて、2社の事例を紹介します。A社は、「つくる問題(課題設定型)」の問題解決力向上を求めていました。A社は経営構想力を極めて重視する社風で、次期管理職候補にもマネジメント力だけでなく、事業視点での問題解決力を強く求めていました。「経営構想力なしのマネジメントなどあり得ない」という会社なのです。
そこで私たちは、社会課題の解決に向けた事業・サービスの提案を実際にアウトプットしてもらう研修プログラムを創り上げました(図表7)。受講者数名でチームを組んでもらい、チームで社会課題解決の事業構想を立案して、全5回のうちの4回目でプレゼンテーションしてもらう仕立てにしました。1~3回目は、基本的な知識・方法をインプットしたり、グループディスカッションをしたり、講師からフィードバックを得たりする場にしました。また、研修外の時間に研修で得られた学びや成果の振り返りを投稿し合ったり、定期的にチームで集まって事業構想アウトプットの準備を進め研修外の取り組みにも工夫しました。さらに5回目には、振り返りと今後の実践について考える時間を取りました。自分たちで課題を設定し、相互の学び合いを通じてアウトプットする構成が特徴的なプログラムです。実際に管理職が求められる業務をプロセスごと体験する仕掛けを用意したのです。
<図表7>A社施策概要
事例2: 「思考と目線合わせの両輪」で企画を動かしていくプログラム
B社は、「見えない問題(目標設定型)」の問題解決力向上を求めていました。B社がLP層に最も強く求めているのは、現業の問題に対して解決策を自ら企画し、スムーズに合意形成して、成果を創出することでした。見えない問題を設定し、解決策を企画・実行するPDCAを回す力を高めたい、という要望でした。
そこで私たちは、B社のために「合意形成力強化プログラム」を用意しました。1回目では「良い企画」のゴールと行動プロセスを設定し、過去の企画でうまくいかなかった問題点を明確にしていきます。そして、企画のおおまかな原案作成と目的合意の方法を実地で学び、2回目で企画推進に向けた詳細プロセスの設計、現場インタビュー、企画案の試作・改善を体験します。3回目で、最終的な企画内容を関係者と合意形成するのです。この研修プログラムでは、実際に各現場の見えない問題の解決を目指します。そして、企画立案と合意形成のプロセスを受講者同士が見せ合い、学び合う仕掛けになっています。3回に分けて関係者と何度もすり合わせることで、合意形成のやり方を実地で学んでもらいます。また、現場インタビューや情報収集を通して、企画のリアリティを高めることの大切さも理解してもらえるようになっています。企画を動かしていくうえで、自分自身で納得性の高い内容を思考する力と、こまめに周囲と掛け合って目線合わせをするプロセスの両輪で構成したプログラムです。
<図表8>B社施策概要
私たちは、各社の要望に合わせて、このような問題解決力向上プログラムをそのつど組んでいます。また、中堅・リーダー層の教育体系づくりや具体的な施策企画・設計、また学習習慣と定着を高める「完全オンライン型コース」のパッケージもご用意しています。詳しくは弊社までご相談ください。
講師プロフィール
姜 舜伊(かん すに)
リクルートマネジメントソリューションズ
シニアソリューションアーキテクト
大学卒業後、大手半導体製造装置メーカーに入社し、サービスエンジニアとしてキャリアスタート。
その後、商品マーケティング部門に異動し、新商品開発・市場導入に向けた戦略・計画・実行までのトータルバリューチェーンに携わる。一時期、海外営業担当としてシンガポール市場を担当し、新規市場参入にも貢献。「戦略は人・組織による実行体制あってこそ」というメーカー時代の体験から、人材領域に次第に関心が高まり、人材業界へ転職。大手製造業界向けのコンサルタントとして、経営課題に紐づく人材課題の抽出および育成施策の企画立案に携わった後、2015年より現職のリクルートマネジメントソリューションズに入社。
営業経験を経て、現在は事業開発部で商品開発・営業支援・アライアンス事業に従事。
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