- 公開日:2022/03/18
- 更新日:2024/05/16
1990年代後半以降に生まれた「Z世代」が、新入社員として「VUCA」の仕事・職場環境で働く時代になった。Z世代とVUCA。世代と環境の両方の変化を受けて、企業の新人・若手育成は「育てたい力」「育て方」「ニューノーマル対応」の3つのアップデートを求められている。本コラムでは、3つのアップデートについて具体的に説明しながら、今の時代の新人・若手の生かし方・育て方を紹介する。
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- 目次
- Z世代の変化に見る新しい価値観
- Z世代のトランジションの壁はかつてなく高い
- 自律学習力を高める育成の3ポイント
- リモート環境での新人育成を考える
- Z世代を生かし新たな個と組織の関係を共に創っていく
Z世代の変化に見る新しい価値観
まず、Z世代を知るところから始めよう。図表1は、「理想の職場・上司像」に関する2011年と2021年のアンケートを比較したものだ。この10年間で明らかな変化があったことが分かる。上司世代にとっては理想的だったと思われる要素(1つの目標の共有・鍛え合い・活気・厳しい指導・引っ張るリーダーシップ・情熱)の選択率が下がり、代わりに「個性の尊重・助け合い・一人ひとりへの丁寧な指導・ほめること・傾聴」を職場や上司に求める若者が増えているのだ。
<図表1>理想の職場・上司像(2021年と2011年比較)
図表2は、新入社員たちに「仕事をするうえで重視すること」を聞いたアンケート結果だ。外発的動機(承認・金銭・競争)の選択率が低く、内発的動機(貢献・成長・やりがい・仲間)の選択率が高いことが一目瞭然である。これは単なる世代間ギャップではなく、従来とは異なる価値観が生まれてきている、と考えるのが自然だろう。実は、これは日本に限ったことではない。海外でも同じような調査結果が出ている。
<図表2>仕事をするうえで重視すること
私たちは、現代に起きている価値観の変化を図表3のように捉えている。大きくいえば、これまでは「組織中心の世界」だったが、これからは「個の尊重と組織目的を両立させる世界」にシフトしていき、現在はその大転換の真っ最中である。企業においても、新たな価値の創造や人材の採用・定着のために、パーパスやWell-beingを重視した取り組みが始まっている。
ここで注目したいのが、Z世代は、生まれたときから新パラダイムで育った初めての世代ということだ。Z世代は、これまで企業の当たり前だった「組織中心の世界」には不慣れかもしれないが、これから企業が強化しようとしている環境にはむしろネイティブで、強みや生かせるものを持っている。先に見たZ世代の変化は時代の鏡ともいえ、Z世代の育て方・生かし方を考えることは、単に新人育成という枠を超えて、企業組織をアップデートする機会にもなるのである。
<図表3>Z世代を囲む価値観の変化
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Z世代のトランジションの壁はかつてなく高い
Z世代はこれからの環境に生かせる強みを持つが、彼らを育てるという観点では、どのような力を高められるとよいだろうか。
正解がなく、さまざまな試行錯誤のなかから価値を創造していくVUCA的なビジネス環境では、自律的に行動し経験から学ぶ「自律学習」の力が重要になる。ポイントは、自律の力と学習の力はセットで高めることが重要ということだ。VUCA的環境は最初から思い通りの結果を出すことは難しく、自律行動するほど思わしくない結果も増え、モチベーションダウンとなる可能性もある。そこで、経験から学び次に生かしていく力を高めることで、経験した数だけ成長する好循環をつくることができる。
ここで新入社員の入社後の実態に目を向けると、入社後1年目の悩みや壁として自律と学習に関するものが上位に挙がっている(図表4)。また、スタンス面においても、「自発」や「試行」といった自律に関するものに苦手意識がある、という傾向も出ている(図表5)。
<図表4>入社後1年目の悩み・壁[新人・若手層]
<図表5>得意なスタンス・苦手なスタンス[新人・若手層]
こうした壁や苦手意識があるなかで、どうすれば自律学習力を高めていけるだろうか。そもそも、これらの壁や苦手意識の元になっているものは、何だろうか。
私たちは、その要因として経験の変化の影響が大きいと考えている。Z世代が生まれ育った環境は上司世代と大きく異なっており、その背景には社会レベルでの生活や教育の変化がある(図表6)。特に注目したいのは、VUCA的な環境で働くうえで役立つ経験が積みにくくなっており、育成担当世代と比べても経験が減っていることである(図表7)。
例えば試行錯誤の経験の減少は、分からないことは検索すれば分かる、サービスやエンタテインメントの発達で相手が自分に合ったものを用意したりレコメンドしてくれたりする、周囲の大人や学校のサポート体制が充実している、などの環境が当たり前であったことからの影響が考えられる。これは本人の問題ではなく、社会的な変化によってもたらされた構造であり、企業規模や業種を超えて社会共通の傾向になっている。
<図表6>社会システムの変化がもたらす経験の変化
<図表7>経験の変化
このGAP構造は育てる側にとって悩ましい問題になっているが、新入社員当事者はさらに大変な思いをしているはずだ。今の仕事・職場は上司たちにとっても難しい環境であるが、そのなかで経験や練習をあまりできないまま、いきなり仕事をしていかなければならないのだ。経験の変化の影響はプラスマイナス両方あるが、入社直後は未経験の部分が求められる構造となっており、Z世代の学生からビジネスパーソンへのトランジションの壁は、かつてなく高いのである(図表8)。
このような状況から、上司世代が今まで行ってきた新人育成を同じように実施していくだけでは効果を上げにくくなっている。本人のやる気や能力の問題ではなく、VUCA的な環境での経験が足りていないことが大きな要因と捉え、そこを埋めていく育成に取り組むことが求められる。
<図表8>学生から社会人へのトランジションのGAP構造
こうした構造をふまえ、私たちはVUCA×Z世代の自律学習を効果的に進めるコンセプトとして「Try&Learnサイクル」というモデルをつくり、研修やOJTで活用していただいている(図表9)。新入社員と上司・育成担当者が共通のゴール・方法論を共有しながら取り組むことで、育成の効果を上げていくことができるのだ。
<図表9> VUCA × Z世代に最適化させた自律学習モデル「Try&Learnサイクル」
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自律学習力を高める育成の3ポイント
Z世代の新入社員の自律学習力を高めるには、どのような「育て方」が効果的だろうか。ここでは3つのポイントを紹介したい。
(1)自律的な行動を引き出すには?
Z世代の自律的な行動(Try)を引き出すには、「人の側面に関心を向け、受信型のコミュニケーションを心がける」ことをお勧めしたい。人の側面に関心を向けるとは、新人一人ひとりの強み・価値観・ありたい姿を理解したり、コンディションや頑張る姿勢を見たりすることだ。また、受信型のコミュニケーションとは傾聴である。彼らの考えや思いに耳を傾け、まずは否定せずに理解し尊重する姿勢が新人との間に安心と信頼の関係を築き、トライにつながっていく。
<図表10>安心と信頼につながる受信型コミュニケーション
この「安心と信頼」が自律性を引き出す鍵だ。入社後1年目の悩み・壁(図表4)において、「周りにどう思われているかが不安で、自分を出せなかった」とあるが、一人ひとりと接すると、多くの新入社員は自分の考えや意見をしっかり持っている。しかし、多様性尊重のなかで自分の意見は必ずしも正解ではないという思いや、ネットワーク社会のなかで素を出すリスクを感じてきたことなどから、それを表に出すことへの不安があり、結果として自律的な行動が生まれにくい。
そこで受信型コミュニケーションによって素を出す不安やリスクをなくしていくことで、さまざまなアクションが出てきやすくなる。周囲に悩みを相談することを苦手にしている新人・若手は少なくないが、「知る」や「聴く」はそこでも効果的な取り組みになる(図表11)。
<図表11>悩みを話しやすい上司・先輩像[新人・若手層]
(2)経験を学びにつなげるには?
自律的な行動を取れても最初の頃は思うような結果につながりにくい。その結果として「想定以上にできない自分にショックを受け、自信を喪失した」が入社1年目の壁になっている(図表4)ことが考えられる。そこで、新入社員にはどのような経験であっても、それを学びにつなげていく力を早期に身に付けてもらうことが大切になる。
そのためにお勧めしたいのは、「フラットな問いかけ」である(図表12)。「今回の結果の要因は何だと思いますか?」「次に生かしたいことは何ですか?」などと問いを投げかけ、本人が自ら考え学びとる経験をサポートしていく。
こうした方がよいと思うことがあってもなるべく答えを渡さずに問いかけることが肝要だ。脳は問われることで考えるようにできているという。最初の頃は選択肢を出しながら進めることもよいが、最後は必ず本人自身が自分で決めることを大事にしたい。自己決定によって次に工夫した行動が小さな成功につながったとき自己信頼が生まれ、次のトライへのエネルギーになる。
この方法は時間がかかり、育成する側はもどかしい思いをするかもしれないが、経験を積めば積むだけ自律学習の力は高まり、長い目で見れば新入社員・育てる側双方に大きな効果となって返ってくる。
<図表12>フラットな問いかけ
(3)職場ぐるみで育てるには?
新人育成は、配属先の上司と育成担当者(OJT担当)によって取り組まれることが多い。しかし、勤務時間(時間の壁)、リモート環境(見えない壁)、ジェネレーションGAP(価値観の壁)などによって、この縦ライン中心の育成だけでは難しくなっている。職場の同僚・他職場メンターなどを積極的に巻き込み、面で育成する仕組みを整えることが効果的だ(図表13)。面になることで、新人にとって直属の上司・育成担当者以外との接点が増え、何でも相談できる相手が見つかったり、幅広い知識や学びが得られたりする可能性が高まる。
育成担当者は多くの人との接点づくり、上司はそれを進めやすい環境やルールづくりが主な役割となる。例えば、育成担当者は自部署以外の知人のなかから、新人の特徴をふまえメンターとして相性がよさそうな人を紹介したり、上司は自部署全員が集まる会議で短時間の「新人コーナー」を設けたりなどの取り組みである。
<図表13>職場ぐるみの育成
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リモート環境での新人育成を考える
最後に、「新人育成のニューノーマル」を考える。コロナ禍以降、新人育成の環境にもさまざまな変化が起きている。私たちも試行錯誤中のテーマであるが、取り組むなかでポイントが少しずつ見えてきたので、紹介したい。
まずリモート環境における職場での育成であるが、今のところ5つほどポイントが見えてきた(図表14)。1つめは人の側面のコミュニケーションである。直接会えないからこそ、意識的に雑談など気軽に話せる機会を設けて、お互いの人となり・興味関心ごと・心身のコンディション・気持ちを共有することが大切だ。
2つめは見える化。直接的な接点の減少でつかみにくい新人の持ち味やコンディションを把握する方法として、ツール活用がお勧めだ。採用時の適性検査の職場用報告書や、各種の自己理解ツール、パルスサーベイなどの利用が考えられる。
3つめはルール化。リモート環境は前例もなく、どうすればよいかお互いに分からないので、進めやすくするための最低限のルールを作ってしまうのが効果的だ。朝か夕方に5分ミーティングで状況共有、週1回の相談タイム、日中に急ぎ確認や相談したい場合の方法など、報連相関係のことだけでも決めておくことと新人も安心して動ける。
4つめはシェアリング。リモート環境での仕事の仕方や育成の仕方には前例も正解もないので、お互いの工夫やノウハウをシェアしながら取り組むことが有効だ。新人同士が定期的に集まる場や、職場内で新人の育成ナレッジを共有・展開するようなことも効果がある。
5つめはオンライン活用。リモート環境の利点は移動の壁がなくなることだ。これを生かして、オンライン上で部署を超えてさまざまな人と接点が持てる場・機会をつくっていく。同じ興味を持つ人たちとの勉強会や対話の場、有志活動の場、趣味の集まりなどを通じて、自部署では得られない人間関係や異質からの学びも期待できる。
<図表14>リモート環境での育成
Z世代を生かし新たな個と組織の関係を共に創っていく
これまではZ世代を育成する話をしてきたが、最後に「Z世代の力を生かす」という視点を付け加えたい。冒頭で触れたとおり、Z世代はこれから企業が強化しようとしている方向には強みや生かせるものを持っており、彼・彼女らから学べることも多い(図表15)。
中竹竜二さん(株式会社チームボックス 代表取締役)と共同で取り組んだオトマナプロジェクトや、電通ワカモンの吉田将英さんとの対談「若者と大人の関係性を探究する」では、若者からの学びとして、大人にはできない見方や妄想力、本質的な価値への目利き、自分らしさを大切にした生き方、社会がよくなることを考えている、みんな違っていいという世界観、最新テクノロジーの知識などが挙げられた。こうした気づきは、若者に感じた違和感をきっかけに、興味を持って会話するなかで見えてきたものが多いという。
異質なものや違和感は、最初はネガティブに感じるものだが、見方を変えると、自分たちにないものを持つ存在ともいえる。新人・若手について育てるだけにとどまらず、持ち味を生かし学びながら、共に未来を創っていく関係になることで、VUCA×Well-beingの時代における、よりよい個と組織のあり方が生まれ、経営や組織をアップデートしていくこともできるだろう。
<図表15>Z世代の持ち味(代表的なもの)
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執筆者
サービス統括部
HRDサービス推進部
トレーニングプログラム開発グループ
主任研究員
桑原 正義
1992年4月人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)入社。 営業、商品開発、マーケティングマネジャー、コンサルタント職を経て2015年より現職。 探究領域:VUCA×Z世代の新人育成のアップデート、“個を生かす”生成アプローチ NPO法人青春基地(プロボノ)。立教大学経営学部BLP兼任講師
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