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組織行動研究所セミナー開催報告

自律とエンゲージメントを促進するために 変わるマネジャーの役割

  • 公開日:2022/02/14
  • 更新日:2024/05/17
自律とエンゲージメントを促進するために 変わるマネジャーの役割

テクノロジーの急激な進化や、労働期間の延長を背景に、個人にはより自律的な働き方が求められるようになっています。同時に、企業は、そうした自律的な個人のエンゲージメントと協働を促進する方法を模索しています。前回の組織行動研究所セミナー(「コロナ禍で注目される自律的な働き方とエンゲージメント」)では、自律的に働くために必要な要素、エンゲージメントを高めるための提言についてお話ししましたが、職場の自律とエンゲージメントを促進する鍵となるのは、マネジャーです。そこで、2021年12月2日に、人事・人材開発担当部門の方に向けて、「自律とエンゲージメントを促進するために 変わるマネジャーの役割」と題した組織行動研究所セミナーを開催しました。

マネジャーの負荷を減らすためにマネジャーの役割を再考する
マネジャーの最も重要な仕事は「ネットワーキング行動」と「進捗のサポート」
メンバーの自律度を高めるには「自己理解」と「将来への関心」を育むことが肝要
マネジャーになりたい社員を増やしたいなら「マネジャーの醍醐味」を伝えるべし
おわりに

マネジャーの負荷を減らすためにマネジャーの役割を再考する

古野庸一 リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 所長

講師プロフィール
古野庸一 リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 所長

1987年株式会社リクルートに入社。キャリア開発に関する事業開発、NPOキャリアカウンセリング協会設立に参画する一方で、ワークス研究所にてリーダーシップ開発、キャリア開発研究に従事。2009年より現職。著書に『「働く」ことについての本当に大切なこと』(白桃書房)、『「いい会社」とは何か』(講談社現代新書)、『リーダーになる極意』(PHP研究所)、『日本型リーダーの研究』(日経ビジネス人文庫)、訳書に『ハイ・フライヤー 次世代リーダーの育成法』(プレジデント社)など。

私たちの調査によれば、企業の人事の7割とマネジャーの6割以上が「マネジャーの負荷が過重になっている」と認識しています。特にマネジャーが困っているのは、メンバーの育成、業務改善、新価値・イノベーションの創造の3つです(図表1)。なかでもポイントとなるのは「メンバーの育成」です。なぜなら、人事はマネジャーにメンバーの育成を最も期待しており、マネジャー自身もそれが最も重要な役割だと思っているからです(図表2)。一言で言えば、今マネジャーにしわ寄せが来ているのです。このセミナーでは、マネジャーのしわ寄せを解消し、負荷を減らすために、マネジャーの役割を再考するところから始めたいと思います。

<図表1>マネジャーが困っていること

<図表1>マネジャーが困っていること

<図表2>マネジャーの役割

<図表2>マネジャーの役割

はじめに、マネジャーの役割に関する理論的系譜を辿ります。経営学黎明期にマネジャーの役割を定義したのは、ファヨールでした。彼は100年以上前の1910年代に、マネジャーの役割を「計画・組織・命令・調整・統制」の5つの要素からなると定めました。その約50年後、ドラッカーはマネジャーの5つの仕事を「目標を設定する・組織する・動機づけとコミュニケーションを図る・評価測定をする・人材を開発する」に分けました。これがマネジャーの役割の基本的な考え方です。

マネジャーには、チームのリーダーとしての行動も期待されます。そこで、ここではリーダーシップ研究も参考にしながら、マネジャーの役割をさらに考えてみたいと思います。

1950年代にオハイオ州立大学の研究チームは、リーダーは「構造づくり」(=課題達成に向けての動き)と「配慮」(=メンバーと良好な人間関係を構築する動き)の2種類の動きをしている、と見ました。構造づくりと配慮は「不動の二軸」と呼ばれており、現在でも通用する見方です。不動の二軸が業績を左右する端的な例として、低業績リーダーは詳細な指示を出してメンバーをコントロールし、処罰的な態度で接する傾向があり、高業績リーダーはメンバーの自主性を重んじて、支援的な態度で接する傾向がある、というミシガン大学の研究があります。

その後、三隅二不二が不動の二軸を発展させ、リーダーシップ行動をP(業績達成行動)とM(集団の維持・管理)に分ける「PM理論」を確立しました。さらに金井壽宏は、管理者行動を3つの上位次元と11の下位次元に整理しました(図表3)。

<図表3>管理者行動の上位・下位次元

<図表3>管理者行動の上位・下位次元

ところで、ミシガン大学の研究でもう1つ、重要な成果があります。それは「メンバーに対する支援的な態度は、リーダーの上方影響力が高いときにはポジティブな効果を持つが、上方影響力が欠如している場合にはマイナス効果となる」ということです。分かりやすい例を挙げましょう。あるチームが忙しく、メンバーが疲弊しているため、マネジャーが上司に掛け合ったとします(支援的な態度)。このときマネジャーが上司と交渉する力があれば(上方影響力が高い)、業務量を減らしたり、人材を補充したりできるでしょう。メンバーは喜び、チームの状況は好転します(ポジティブな効果を持つ)。ところが、マネジャーが上司との交渉に失敗したときは(上方影響力が欠如している)、メンバーの士気が低下し、マネジャーは信頼を失います(マイナス効果となる)。現代のビジネス現場にも、この法則はあてはまるといえるでしょう。

マネジャーの最も重要な仕事は「ネットワーキング行動」と「進捗のサポート」

次に紹介するのは、カールソンやスチュワート、ミンツバーグなどの「管理者行動論」です。管理者行動論とは、実際のマネジャー行動を観察し分析する学問です。彼らの研究を見ると、50年以上前からマネジャーが忙しかったことがよく分かります。例えば、スチュワートはこんなふうに書いています。「管理者は、多くの人々との接触で時間を費やし、対面でのコミュニケーションを好み、自部署メンバーばかりではなく他部署の人や他社の人、経営の上層部との接触にも多くの時間を割き、活動は小刻みで断片的である」。まるで現代のマネジャーの話を聞いているかのようではありませんか。

ただ、現代のマネジャーの多くは、昔以上に忙しくなっています。なぜなら、業務量の増加や部下の力量不足などによって、今やマネジャーの約9割が「プレイングマネジャー」だからです(図表4)。現場の実態として、プレイング業務をせざるを得ないという状況は理解できますが、そのことによって、マネジメント業務がおろそかになったり、マネジャー自身が忙しすぎたり、マネジャー自身の成長感を損ねたりする可能性も高くなることを考えておく必要があります(図表5)。

<図表4>プレイング業務に割いている時間  プレイング業務を行う理由

<図表4>プレイング業務に割いている時間  プレイング業務を行う理由

<図表5>プレイングマネジャーの問題

<図表5>プレイングマネジャーの問題

マネジャーの仕事は際限がありません。意識しなければ、いくらでも仕事は増えそうです。ゆえに「マネジャーの業務として最低限必要なことはいったい何なのだろうか」という発想が必要になります。マネジャーの役割は、古典的な定義では「人々を通じて、ことを成し遂げること」です。もう少し現代のビジネス場面で考えると「経営戦略を実行するにあたって、担当する部署の業績を持続的に高めること」と置けるでしょう。

ルーサンスらは248名のマネジャーを観察し、計画・コントロール関連、日常のコミュニケーション、チーム内の対人関連、ネットワーキングの4カテゴリーで行動分析を行いました。その結果、彼らは「マネジャーの成果はネットワーキングで差が出る」という結論に達しました。ネットワーキングとは、先ほどミシガン大学の研究で紹介した「上方影響力」に通ずる視点です。

また、アマビールらは、メンバーの生産性・創造性を高めるマネジャーの行動のなかで最も重要なのは「進捗のサポート」だと主張しています。進捗のサポートを行うことは、「何をやればいいのか」ということを具体的に示すと同時に、メンバー一人ひとりのコンディションを確認することを意味します。「P(業績達成行動)」と「M(集団の維持・管理)」の両方のリーダーシップ行動に通底します。つまり、持続的に業績をあげるための、マネジャーの最も重要な仕事は、「上方影響力を含めたネットワーキング行動」と「進捗のサポート(PM行動)」といえます。

マネジャーを最も重要な仕事に集中させ、負担を削減するためには、以下の3つの観点があります。

1つ目の観点は、「マネジャー自身の視点を高めること」にあります。上方影響力を高めるためには、上司あるいは上司のそのまた上司の視点、つまり経営者の視点が必要になってきます。単に自部署の人が足りないことを訴えるだけであれば、わがままだと思われる可能性がありますが、経営にとって本当に重要な業務という合意があれば、上位者を説得して、人を補充することができます。

2つ目の観点として、「マネジメント機能の組織的分担」があります。マネジャーが必ずしも自らメンバー育成をする必要はありません。教育研修部に行ってもらうこともできますし、ベテラン社員に育成をお願いすることもできます。

3つ目の観点として、「メンバーの自主性を高めること」があります。メンバーが経営の方向性を理解し、自部署の役割や自分自身の役割を認識することができ、自分の意欲を自分で喚起することができれば、マネジャーの負担は軽くなります。

メンバーの自律度を高めるには「自己理解」と「将来への関心」を育むことが肝要

そう言われても、どうしたらメンバーの自主性が高まるのかが分からない、という方が多いのではないかと思います。そこで次に、「メンバーの自律度を高めるマネジメント」についてお話しします。

前回のセミナー「コロナ禍で注目される自律的な働き方とエンゲージメント」で、自律にはHOW自律・WHAT自律・キャリア自律の3つがあることをお話ししました。今回は、3つの自律のうちで、最も深く難しい「キャリア自律の促し方」についてご説明します。キャリア自律には、さまざまな構成要素があります。ここでは、堀内らの研究に基づき、図表6にあるような7つの構成要素を取り上げます。堀内らの研究によると、キャリア自律には、心理的要因と行動要因があり、行動要因を高めるためには、心理的要因を高めることが必要になってきます。心理的要因をもう少し、平易な言葉に直すと、「自己理解」と「将来への関心」になります。

では、「自己理解」を促し、「将来への関心」を育むにはどうしたらよいのでしょうか。
1つは「仕事経験からの学び」です。日常の仕事経験から学んだことが、キャリア自律促進の資源となるのです。

<図表6>キャリア自律の要素とキャリア自律促進の資源

<図表6>キャリア自律の要素とキャリア自律促進の資源

以上を踏まえて、マネジャーがメンバーのキャリア自律行動を促進するためにできることとして、私が今考えているのは、図表7に示した6つのことです。

<図表7>マネジャーがメンバーのキャリア自律行動を促進するためにできる6つのこと

<図表7>マネジャーがメンバーのキャリア自律行動を促進するためにできる6つのこと

マネジャーになりたい社員を増やしたいなら「マネジャーの醍醐味」を伝えるべし

最後に「マネジャーの醍醐味」について語ります。なぜなら、私たちの調査によれば、マネジャーになりたくない人が増えているからです。しかし実は、マネジャー昇進にネガティブだった人のなかには、昇進後にマネジャーをやる意欲が高まっている人たちが半数程度いることが分かっています(図表8)。そのような人たちは、もともと「組織運営に関わる仕事や責任が重い仕事」に就くことが嫌ではありませんでした。マネジャーをやってみたら、その「より大きな影響力」や「現場の仕事と違う面白さ」、「自分の成長が感じられること」に魅力を感じ、マネジャーをやる意欲が高まったのです(図表9)。

<図表8>昇進前後での管理職意向の変化

<図表8>昇進前後での管理職意向の変化

<図表9>管理職意向の変化の理由

<図表9>管理職意向の変化の理由

ということは、マネジャーの醍醐味をうまく伝えられれば、「マネジャーをやってみたい」「マネジャーをやってみてもいい」と思うメンバーが増える可能性が十分にあります。マネジャーの醍醐味とは、マネジャーの仕事の面白さ(創意工夫ができること・フィードバックがあること・仕事の意味が感じられること)、人を育てる喜び、チームとしての一体感・達成感、自分が成長する喜び(視点の高さと広さ・対人関係スキル)などです。もう少し具体的な言葉にすると、例えば図表10のような表現になります。

<図表10>管理職になりたくない人へのアドバイス

<図表10>管理職になりたくない人へのアドバイス

人事としては、そうしたマネジャーの醍醐味をメンバーに伝える場を用意したり、ポータブルスキルとしてのマネジメント力を培うことを奨励したり、適正な管理スパン(1人のマネジャーが何人を管理するか)を設定したりすることができます。また、マネジャー自身の自己理解を促進して、不得手の部分は他者に任せる形にしてもらうように促すことも可能です。

おわりに

セミナー時にQ&Aコーナーを設けていましたが、たくさんの質問をいただきました。あらためて、マネジャーに対する関心が高いことを認識しました。私が話したことは、一般論です。自社にとって、この一般論の何が役に立って、何が役に立たないのか、言語化していくことが、マネジャー問題を解決していくうえで大切なことだと思っています。自社のマネジャーが今何を考えていて、何を負担に思っているのか、どのくらい負担なのか、何をすればその負担は軽減されるのか、そもそも自社にとってのマネジャーの役割は何であるのか、再度、考えるきっかけにしていただけたら幸いです。引き続き、よろしくお願いします。

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