- 公開日:2020/06/22
- 更新日:2024/05/28
新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的にテレワーク(以降、リモートワーク、在宅勤務も含む)の導入がいっきに拡大した。その結果、私たちの働き方には大きな変化がもたらされ、仕事の進め方、職場コミュニケーション、マネジメントの在り方にも対応が必要になっている。
本連載では、企業としてそのような変化をどのように捉え、どのような対応をしていくべきなのか、全3回に渡り、各回別の切り口で考察していく。
【連載】
第2回 加速するテレワークの明暗を分ける、チームでのコミュニケーションとは
第3回 テレワークの広がりは企業と個人の関係性にどのような課題を投げかけたのか
1.時間と場所を共有しない働き方が進む
テレワークの導入により、職場のメンバー同士が「時間と場所を共有しない働き方」が進んできた。つまり、職場メンバー同士の働く場所が離れていて、リモートを合わせても対面時間が短く、そのためコミュニケーション量が少なくなりがちな状況での業務遂行である(図表1)。
このような働き方は一時的で、新型コロナ感染拡大が収束した後には、元の働き方に戻るのだろうか。筆者は、今後もテレワークをはじめとした「時間と場所を共有しない働き方」が定着していくと考えている。
その理由は働き手の変化である。図表2は、ある職場の構成員の現在と、5年後の働き方を例示したものである。共働き世帯の増加や、超高齢社会のため、誰もが育児・家事・介護と仕事の両立を担う可能性がある。その可能性をふまえて、5年後の構成員の働き方を例示している。今はメンバーの大多数が、いつでも・どこでも働くことができる状況であったとしても、近い将来は多くの職場で、育児・家事・介護の両立が求められるメンバーの割合が増えることが想定できる。
図表2の右側のように、組織の要請に対して「いつでも・どこでも・なんでもできる社員」のことを「フルコミットメント社員」と呼んでいる。働き手のうち、このフルコミットメント社員の割合が減っていくなかで、「時間と場所を共有しなくても活躍できる仕事の進め方」ができなければ、職場の業務遂行は立ち行かなくなっていくのである。
2.懸念される管理職の負荷増大と業務遂行の阻害リスク
しかし、急激な「時間と場所を共有しない働き方」が進むことで不具合はなかったのだろうか。今後の定着に向けた課題はどのようなことがあるだろうか。2020年3月に弊社が実施したテレワーク緊急実態調査の結果を確認したい。
調査結果では、テレワークにおける仕事生活と個人生活の向上の背景には、管理職の直接指示型・きめ細かいマネジメントが協働のハブとなり促進されていることが分かった(図表3)。裏を返せば、管理職の業務負荷が高まり続けており、管理職が機能しない状態になれば、業務の遂行は立ち行かなくなる可能性をはらんでいる状態である。
この状況を解消するためには、図表4のような、自律的な協働の進化サイクルが回っていることが望ましい。自律を促すような職務設計のもとに、管理職の自律支援型のマネジメントと、メンバーのセルフマネジメントが進み、管理職の負荷が軽減され、管理職がいないとしても組織として機能している状態である。
皆さんの職場では、組織では直接支援型と自律支援型のどちらのマネジメントが主流になっているだろうか。図表5を使ってチェックしてみてほしい。また、テレワークが導入される前と後では変化しているだろうか。もし直接支援型のマネジメントが主流で、テレワーク導入後も全く変化が起きていないとすれば、管理職の負荷が高まっており、業務遂行のボトルネックとなっている可能性がある。
3.自律的な職務遂行を促す
では、どのように図表5のような協働サイクルに移行すればよいのだろうか。移行にあたっては、管理職のスタイルを変えることだけに焦点を当てすぎないようにしたい。前述のとおり、ただでさえ管理職の負荷が高い状況下で、管理職にスタイルの変更を求めていくことは現実的ではない。管理職も含め、職場のメンバー同士が協力して仕事の進め方を変えていく必要がある。
図表5でも示されるように、「時間と場所を共有しない働き方」では、メンバーの「自律的な職務設計」と「セルフマネジメント」が前提となる。テレワーク制度の対象者を全従業員としている企業でも、「誰でも条件なく可」とはせず、「企業や上司が適切だと判断した場合」に制度利用を認めている。「適切だと判断する」視点は、主に業務遂行と労務管理のセルフマネジメントにある。メンバーが、上司や他メンバーから逐一業務指示を受けなくても、任された仕事を自分で進めていけるかどうか、誰かが見ていなくてもサボったり働きすぎたりせずに、自分の労務管理ができるかどうか。この2点を判断基準としている。これらを判断材料として、一定のグレードや在籍期間を制度利用の条件に定めている企業もある。
まず、企業はメンバーに、「時間と場所を共有しない働き方」は、誰にでも与えられる権利ではなく、セルフマネジメントを求めていること、それが伴わない場合には認められないことを明確にメッセージする必要がある(ただし、新型コロナウイルス感染拡大防止のためのテレワーク導入で全員が対象になっているのは、緊急事態措置という認識が必要である)。
次に、メンバーがセルフマネジメントしながら、自律的に行動することを促すためにはどうすればよいのか。人が自律的に行動するためには、「目標意図」と「実行意図」の2つの意図の作用が必要である(※)。目標意図とは、自分が成し遂げたいことを特定することであり(私は○○を実現したい!)、実行意図とは、ある目標を達成するための行動を「いつ、どこで、どのようにとるか」という計画をあらかじめ決めていることである(もしAという状況になったら、私はBの行動をとろう!)。より自律的な行動を促すためには、目標意図を「目標を自ら決める」ように持つこと、実行意図は「実行が阻害される状況を自ら想定して計画を決める」ように持つことが効果的である。
※参考記事
自律的行動とその意味とは~どうしたら人は自律的に動けるのか~
直接支援型マネジメントにおいて、業務目標と実行計画の立案は、仕事を与える上司の役割であり、メンバーは上司に具体的な指示をあおぎ、その都度任された業務を遂行してきた。また、上司はメンバーの業務遂行状況を目で見て確認しながら、目標と計画の修正を行ってきた。このような仕事の進め方では、メンバーは効果的な目標意図と実行意図を持ちづらい。メンバーに自律的な業務遂行を促すためには、メンバーが目標意図と実行意図を自ら設定するツールと機会を与え、トレーニングすることが必要である。
そのトレーニングツール・機会として、手前味噌ながら、弊社の一部の組織で使っているツールを例としてあげたい。図表6のような業務デザインシートをメンバー自身が作成し、グループメンバーと共有する取り組みを行っている。メンバーは仕事を任された時点で、このシートに自分の業務ごとに、「推進上の課題、半期のゴール、中間マイルストン、周囲に協力してほしいこと、KGI/KPI(定性KFS)」を記入する。記入後は月次で進捗をシートに記入し、グループミーティングで報告・相談を行う。上司や周囲はメンバーが作成したシートを参考にアドバイスをし、進め方の軌道修正を行う。
このシートを導入することで、「自らが目標と計画を決めるトレーニングができる」「シートを共有し、上司だけでなくメンバー同士のアドバイスや協働を促進できる」「シートを蓄積し、効果的な計画をたてるデータベースとなる」というメリットが得られている。
新型コロナウイルス感染拡大防止に向けて急速に進んだテレワーク。それを受けて「時間と場所を共有しない働き方」が今後も定着していくと想定される。そのカギとなるのは、管理職のマネジメントに頼らないメンバーの自律である。メンバーの自律的な職務遂行をトレーニングしていくことが求められている。
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執筆者
技術開発統括部
コンサルティング部
マネジャー
青木 麻美
2004年大手電機メーカー入社、営業担当。2007年研修会社入社、人材開発・組織開発の設計・講師を担当。2015年より現職。人事コンサルタントとして、ダイバーシティマネジメント、働き方改革の推進、組織開発や人事制度設計を担当。
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