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共創型リーダーシップ開発プログラムJammin’レポートvol.3

続・イノベーションと人事の役割を考える

  • 公開日:2019/11/25
  • 更新日:2024/04/10
続・イノベーションと人事の役割を考える

今年度から始まった共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」。先が見通せない混迷の時代に活躍できる次世代リーダーを、他社の人材との交流を通じて育成する、というプログラムだ。興味深いのは、別途、人材を送り出す側である各社の人事(オーナー)向けのプログラムも組まれていることだ。
10月16日、東京ミッドタウン日比谷のBASE Qで午後4時から行われた、第3回目のオーナーズ・セッションの模様をレポートする。テーマは前回に引き続き、イノベーションを形にしていくための人事の役割である。

誰もがノウハウ依存症にかかっている
適応問題を対話によって解決する
ポジティブな例外をしっかり観察せよ
トップが代わり、組織文化改革が始動
組織開発の要、ローカライズとビジュアライズ
「並んでみる」だけで、組織は開発される
リフレクションで「問い」を生み出す
人事の役目はトップダウンと称賛、人員割り当て
会社は変えずに、突破する
変化した後の具体像を示させよ

誰もがノウハウ依存症にかかっている

今回も前回同様、埼玉大学大学院准教授の宇田川元一氏がナビゲーターをつとめた。最初のプログラムはその宇田川氏の講演である。題して「インサイドアウトのイノベーション推進と人事の役割」。

誰もがノウハウ依存症にかかっている1

キーワードは、インサイドアウトである。その反対がアウトサイドインだが、宇田川氏はそれを「ノウハウ依存症」と言い換えた。

ノウハウ依存症とは、ある問題に対し、どこか外に、よい解決策が眠っていないだろうかと、本や雑誌を読み、あるいはコンサルタントを雇い、ワークショップに頻繁に参加するような状態を意味する。宇田川氏いわく「そうやって、アウトサイドインで、外からの知恵を借りて解決しようとすると、安易な解決策に依存してしまう」。

そこに陥らないようにするには、どうしたらいいか。

誰もがノウハウ依存症にかかっている2

適応問題を対話によって解決する

そもそも、問題には、内容が明確で既存の方法で解決できる「技術的問題」と、それでは難しい「適応問題」とがある。解決が難しいのは後者であり、ビジネスパーソンが解決策を探して依存症に陥ってしまうのも、適応問題に他ならない。

「そうした問題は人と人、組織と組織の『関係性』のなかで生じていることが多く、それを解決するためには関係者同士の『対話』が不可欠となる。対話によって、問題の中身を観察して解釈を加え、解決策を講じて介入していくプロセスが重要になる」。これこそが、解決策を外に求めるのではなく、内から丁寧に編み出していく行為だ。

適応問題を対話によって解決する

ポジティブな例外をしっかり観察せよ

もう1つ、インサイドアウトの具体例として挙げるのが、ポジティブ・デビアンスというアプローチである。ポジティブな逸脱(例外)者を探し出し、その実践を真似て全体に広めていくやり方をいう。

宇田川氏が示したのは、ベトナムの農村での事例。子供の栄養状態が悪く、国際連合などがいくら改善の努力を重ねても状況が好転しない。試行錯誤を重ねながら、農村に深く入り込むと、数は少ないものの、栄養失調になっていない子供たちの存在を発見した。彼らは通常1日2食のところ、4回に分けて食事を取っており、そこには芋の葉など、ビタミンが豊富に含まれた、ただ同然の野菜が混ぜられていた。この子たちが「ポジティブな逸脱者」である。この食事や食べ方を広めたところ、子供の栄養状態が確かに改善した。

宇田川氏が強調する。「イノベーションを起こす場合、その種を外から見つけることに注力しがちだが、既存の資産を掘り起こしてみることが重要だ。その場合、技術の棚卸しはよく行われるが、私が勧めたいのは過去の成功体験、つまり、イノベーションプロセスの再検証だ。それによって、例えば『技術部門と営業部門の交流が大切』といった教訓が得られるはずである。その役割を人事が担うべきだろう」

トップが代わり、組織文化改革が始動

続いて、今回のメインスピーカー、ヤフーの小向洋誌氏が登壇。小向氏は同社で組織開発や人事制度設計に携わっている。

トップが代わり、組織文化改革が始動1

小向氏は地元・仙台で起業して3年後に廃業、借金を抱えながら上京し、ヤフーに入って事業部門に在籍した後、自ら手を挙げて人事に、という異色の経歴を持つ。現在、ヤフーで組織開発を担当しながら、副業という形で、他社の組織開発の支援も行っている。

まずは前者の立場からの話だ。それはヤフーの経営改革のプロセス抜きには語れない。今から10年ほど前、売上が伸び、組織が巨大化する一方、イノベーションが起きず、社員の離職が相次いだ。2012年にトップが交代し、全社を対象にした組織文化改革が始動した。小向氏が話す。「その時にトップが発したキーワードが『(社員の)才能と情熱を解き放つ』。今でも私の大好きな言葉だ」

熱心に取り組まれたのが、上司と部下が毎週1回、30分の会話を行う1on1(ワン・オン・ワン)ミーティングだ。これに対して、「物事を振り返り、考える力がついた」といったよい面ばかりが強調されがちだが、小向氏はこう明かす。「物事には必ずいい面と悪い面がある。1on1が普及すると、上意下達が働かなくなり、組織の動くスピードが鈍ったのも事実だ。また、必要もないのに、何かあると1on1を行い部下の時間を奪ってしまう上司も現われた」

トップが代わり、組織文化改革が始動2

組織開発の要、ローカライズとビジュアライズ

ただ、この1on1で個人の力が伸びたのは確かだった。次のステップとして、組織課題を抱える各部門に向けて、解決を目指した介入を開始した。「組織開発の目的は組織が成果を出す力を最大化すること。その成果は当然、事業や企業のミッションに資するものでなければいけない」(小向氏)

その際に気をつけたのが、ローカライズとビジュアライズである。ローカライズとは、既存の理論や手法をヤフーの事情に合わせて翻訳すること。ビジュアライズとは現場で起きていることを分かりやすく可視化し、全社の共有財産にすることを指す。

ローカライズでいえば、組織開発の手法を(1)事実の探索、(2)課題の設定、(3)解決策の設定・実行、(4)成果の可視化と評価、という4ステップにまとめた。

ビジュアライズに関しては、誰もが組織開発に取り組めるよう、学習コンテンツをホームページ上に掲載した。代表的コンテンツが、「メンバーと管理職の相互理解が不足」「トップダウン案件が多すぎて組織に不信感が広がっている」といった、自社ならではのよくある事例とその解決策が記されたものだ。

さて、ヤフーでは2018 年に再びトップが交代する。「2012年の改革以来、才能と情熱は解き放たれたかもしれないが、方向性がばらばらという課題が生じていた。改革期が再び訪れた。今は才能と情熱の行き先を揃え、ビジネスの成果にこだわる組織づくりに取り組んでいる」(小向氏)

「並んでみる」だけで、組織は開発される

続いて、小向氏の話は副業として行っている組織開発支援に移った。ここでも小向氏が武器としたのは、先の組織課題解決の4ステップといった各種の理論やフレームだ。

例えば、組織の課題が明確な場合はよいが、不明確な場合はどうしたらいいか。

小向氏はこんなワークショップを紹介する。
組織の経営資源はハードの3Sとソフトの4S、合計7つのSで成り立つ。前者がStrategy(戦略)、 Structure(組織構造)、 System(システム)であり、後者はShared Value(共通価値観)、Staff(人材)、Skill(スキル)、Style(スタイル)である。さらに、これらの根底にQuality Relationships(関係の質)が存在する。この7Sプラス1Qを模造紙に図示した上で、今、組織で起こっている問題をメンバーが付箋に書き出し、該当箇所に貼っていく。それらの付箋群をつながりや意味を勘案しながらグルーピングしていくと、解決すべき課題が自然に浮かび上がってくるという。

もう1つのワークショップも紹介された。題して、「並んでみる」。
同じ事業部のマネジャー数名をメンバーとし、北から南までの出身地順、1月から12月までの誕生日順、あるいは入社順に並んでもらう。「このあたりまでは、和やかだった面々が、事業に詳しい順、事業や組織に危機感を抱いている順となると、顔色が変わり真剣になってくる。最後は車座になり、危機感を払拭する手立てを話し合ってもらう」

組織開発というと、事業や仕事のことは一旦忘れ、仲間同士の親睦を深めようという活動になりがちだが、小向氏は本来の組織開発はそうではないと強調した。企業や事業のミッションに資する活動でなければならない、と繰り返した。

「並んでみる」だけで、組織は開発される

リフレクションで「問い」を生み出す

講師の話を受け、参加者が4名程度のグループになって対話を行うプログラムに移った。グループごとに、一面に模造紙が貼られ、人の背丈ほどの高さの黒いボードが用意される。司会から次のような指示があった。

模造紙の上部に「自社に取り入れるという前提で、2人に聞きたいこと」、下部に「異業種の人事同士、意見交換してみたいこと」を記載する。それを終えたら、全員がすべての模造紙を見て回り、各自、気になった事項3つにシールを貼ってください、と。

ボードを囲んで、たちまち議論の輪ができた。各グループの書記役が集約された意見をボードに書き込んでいく。この時間は休憩も兼ねており、会場端に用意されたコーヒーを手にしながら議論に花が咲く。

リフレクションで「問い」を生み出す1
リフレクションで「問い」を生み出す2
リフレクションで「問い」を生み出す3

人事の役目はトップダウンと称賛、人員割り当て

さて、午後6時過ぎにプログラムが再開する。宇田川氏と小向氏の対談である。先の模造紙ボードは、すべて2人の後ろに配置された。

まず宇田川氏が問いかける。「あらためて、イノベーション推進のために人事がやるべきことは何か」と。

小向氏はそれに対して、ボトムアップ、つまり、現場発のアイディアのみに頼ることの非効率さを指摘する。「中期経営計画にかすりもしないアイディアを黙々と磨いても、形になる可能性は限りなく小さい。その場合、イノベーションや新規事業の創出が期待される領域をトップダウンで社内に示せば、無駄打ちがなくなる。その役割を人事が担うべきではないか。もう1つ、人事がやるべきは、面白いことをやっている社員を褒め、ものになりそうな事業にしかるべき人を割り当て、支援することだ。これをやらないとイノベーションの火が消えてしまう」

人事の役目はトップダウンと称賛、人員割り当て

会社は変えずに、突破する

今度は宇田川氏が模造紙の言葉を参照しながら、小向氏に問いかける。「経営陣が信頼できない。彼らが打ち出す戦略が妥当であるとは到底思えない。そうだとしても、イノベーションを推進しなければいけないとしたらどうしたらいいか」

小向氏がすかさず、「その場合は、転職した方がいい」と言うと会場から笑いが漏れた。小向氏はこう続けた。「それはともかく、その戦略が本当に稚拙なものなのか、検証してみる必要はある」

一方の宇田川氏は、こんな話でその質問に応えた。「組織には対話が必要だ、と私が言うと、日本には上意下達という文化が根付いているから難しい、と反論する人がいる。そういう人には、『日本の文化というものを私は見たことがない。本当にあるのか』と答えるようにしている。彼・彼女らは文化という言葉に逃げ込んで、現実から目をそらしているのだ。私の知り合いはこう名言を述べている。『会社は変えなくていい。やりたいことを決めて突破すればいい』」

変化した後の具体像を示させよ

あらためて、小向氏に問いかける。「Jammin’の受講者、つまり社会課題を基点にしたイノベーションを起こすことを期待された人たちが、会社が変わらないとイノベーションなど起こらないと言ったらどうしたらいいのだろうか」

小向氏は「それは、模造紙に書かれていた、何をもって組織開発の成果とすべきなのか、という問いに似ている」と答え、言葉を継いだ。「アイディアの数を5倍にするでも、ある仕事にかかる時間を半減させるでもいい。成果、つまりKPIをこちらで決め、経営陣と握ればいい。それが組織開発で言う『契約』であり、その結び方が担当者の腕の見せ所となる。

会社が変わらないという話も同じで、何がどう変われば会社が変わったことになるのかまで言えなければ、単なる愚痴に過ぎない。その愚痴を言わせない、つまり、経営の現況を理解させ、本人がやりたいことと、経営陣が望んでいることのギャップを埋められるのは人事しかいない」

変化した後の具体像を示させよ1

個人の炎を、組織にとって意味のある炎に

ここで、参加者から以下の質問が出された。「社員がJammin’を受講し、イノベーションに前向きになって帰ってきたとしても、日常の仕事は地道なことの繰り返しだ。燃え盛る個と冷えた組織、そのギャップをうまく埋めるにはどうしたらいいだろうか」。人事としては切実な問いだ。

小向氏は「そうした越境学習の参加者のモチベーションを高く維持するのは難しい。下手をすれば、研修が転職を誘発してしまう。企業が成長軌道にあり、そうした受講者に魅力的なポジションを次々に与えることができれば別だが」と、問題の難しさを認める。

一方の宇田川氏が引き合いに出したのは、サッカー日本代表として活躍する10代の久保建英選手だ。久保選手はFC東京に在籍していた当時、横浜F・マリノスにレンタル移籍している。この時、そのサッカー技術の素晴らしさは衆目の認めるところだったが、試合に出るチャンスに恵まれなかった。「久保選手はその理由を一生懸命考えた結果、サッカーはチームプレイであり、いくら優れた技術を備えていても、監督の戦術に合致しなければ使ってもらえないことに気づいた。そこで、それをしっかり理解した上で、自らの卓越した技術をそれに合わせるようなプレーを心掛けたところ、試合に出られるようになったばかりか、大活躍もできるようになった。今では世界最高峰のスペインリーグで活躍している」

宇田川氏によれば、その人固有の「内的能力」は、関係性のなかで初めて機能する。つまり、所属する組織と切っても切れない関係にある。その関係性に働きかけることをあえて「関係能力」と呼んでもよいだろう。抜群の内的能力を備えた久保選手は関係能力の大切さにも気づいたことで、活躍の場を得ることができた。「Jammin’の受講者にも、研修によって燃え盛った心の炎を、組織にとって意味のある炎にすることが求められる。人事の役割が当然大きい」

変化した後の具体像を示させよ2

組織におけるイノベーションを大輪の花とするならば、その花をつけた茎が根を下ろす土壌が不可欠である。そこに水や肥料をやり、より豊かにするのが組織開発の目指すところだ。宇田川氏がいう関係能力の伸長である。一方で、組織開発というと、関係能力が不足するコミュニケーション不全組織をプラスの組織に変えるというイメージが強い。マイナスからプラスへ、というわけだ。

そこからさらに進んで、プラスをよりプラスへ、つまり、イノベーションや新規事業が陸続と立ち上がってくる状態に変える「攻めの組織開発」があってもいいだろう。もちろん、主役は人事だ。
次回は12月5日(木)に開催される。

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