共創型リーダーシップ開発プログラムJammin’レポートvol.2 イノベーションと人事の役割を考える【後編】

今年度から始まった共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」。先が見通せない混迷の時代に活躍できる次世代リーダーを、他社の人材との交流を通じて育成する、というプログラムだ。興味深いのは、別途、人材を送り出す側である各社の人事(オーナー)向けのプログラムも組まれていることだ。

去る7月23日、東京ミッドタウン日比谷のBASE Qで行われた、第2回目のオーナーズ・セッションの模様を、前編に引き続き、レポートする。


自ら「運」を引いてくるという発想

続いてプログラムの第3部となった。大組織のなかからイノベーションをどう生み出していくか、研究者(宇田川氏)と実践者(中村氏)の対談である。宇田川氏の巧みなファシリテーションにより、参加者を交えて活発な議論が繰り広げられた。

例えば、会場から、「アスタリフトの成功には運の要素もあったのではないか」という問いが中村氏に発せられた。それに対して中村氏はこう答えた。「そのとおりだ。ただ、運は待っているだけでは呼び込めない。自ら運を引いてくるという発想が大切だ。状況が悪くても悲観しない。考え方次第だと思っていた」

この発言を宇田川氏が引き取り、「イノベーターにとって運の要素は非常に重要だ。でも中村さんがおっしゃるように、運が悪いと考えるか、そこに機会を見出すかは大きな分かれ目だろう。要は、中村さんのように、想定外のことが起きた時に、そこに何か打開策を見出そうとするかどうかが運の良し悪しを決めているのではないだろうか。最初に出した商品が売れなかった時、運が悪いとは思いませんでしたよね」と中村氏に尋ねた。

中村氏はこう答えた。「もちろんだ。その失敗を分析し、唯一売れた製品の成功要因を探ったから、今がある」

危機感はトリガーに過ぎない

また、「主力事業衰退への危機感が広く理解され、新規事業の後押しとなったのはどのタイミングだったか」との問いが参加者から投げかけられた。宇田川氏は、このように問いかけ返す。「確かに危機感は、新規事業推進のきっかけとなる。では新規事業を立ち上げられないでいる企業には危機感がないのかといえば、そうではないだろう。危機感を具体的に形にするための取り組みを積み重ねていくところが大切ではないだろうか。それがなければ、危機感が無力感へとつながってしまう。中村さん、その点はいかがですか」

「確かに経営者が危機感を語ることは追い風となった。しかし原動力は別にあったかもしれない。新しいことを全員がやる必要はない。ぜひやりたいという人間が安心してやれる環境をつくってあげるのがいいのではないかと思う」(中村氏)

新事業への追い風を吹かせる

続いて宇田川氏が中村氏にこう投げかけた。「新規事業の立ち上げには時間がかかり、収益が出るまでには赤字も覚悟しなければならない。その困難をどう乗り切りましたか」

中村氏いわく、本業消滅という危機に瀕した富士フイルムにおける、この化粧品事業の位置付けが、その困難を軽減せしめたという。「写真に代わる新しい事業を育てる。その図式はニュースバリューが抜群で、マスコミの関心を引くことができた。ライバルのイーストマン・コダックが対照的に、そうした転換を果たせていない状況も奏功した」(中村氏)

社外からそのように見られ、期待されて報じられたため、社内からの反対の声も少なかった。

そして大きかったのが、中村氏が前に触れた戸田氏の存在だという。「その戸田がやったことだが、最初の事業発表会のプレゼン役を会長の古森重隆にしたことも大きかった。それによって、経営トップがコミットする重要案件というイメージを社内外に広めることができた」

「やりたい」は最後に出てくる

宇田川氏はその戸田氏と、あるイベントで対談したことがあるという。「その時に、『やりたい(Will)』がまず先行しないと、新規事業は生まれませんよね、という僕の問いに対して、戸田さんは自分の経験からこうおっしゃった。『やれそう(Can)』『やるべき(Must)』を追求した時、はじめて『やりたい』が出てくる。富士フイルムの場合、フィルム事業の根幹である抗酸化技術をとことんまで突き詰めていった結果、それを人間の肌に応用する化粧品事業がやれるのではないかというアイディアが生まれたのだと」

人事への期待は失敗の共有財産化、そして人材供給

このエピソードに紐づけて、宇田川氏はこんな話をする。「戦略も含めた、会社のプロトコル(決まりごと)を無視したところに、企業内イノベーションは成し得ない。そうしたプロトコルや、過去の優れたイントレプレナーが試行錯誤したプロセスを言語化し、他のメンバーにも利用可能な共有財産にしておく。それを人事が担うべきではないか」

中村氏が「おっしゃるとおりで、実は新規事業開発には社内政治が一番の肝となる」と同意し、こう続けた。「失敗の共有はすごく大切だ。当事者は語りたがらない場合があるので、周辺にいた第三者に話を聞くといい」

このJammin’の企画者、井上功も中村氏への質問という形で議論に加わる。

「アスタリフトの事業開発において富士フイルムの人事部が果たした役割と、当時、さらにこんなことをしてもらえたら、もっとスムーズに開発できたということがあったら教えていただけますか」

中村氏はこう答えた。「特別扱いということはなかったが、社内公募制などを通じて必要な人材を送り込んでくれたのは感謝している。それに加え、あの人はこれに向いている、あの人はこれをやりたがっている、という情報まで提供してくれたらさらにありがたかった」

午後6時20分を過ぎ、予定時間をオーバーしているが、話はなかなかつきない。あとは懇親会で、という宇田川氏の声でようやくお開きとなった。

最初に経営学者、宇田川氏によるイノベーション論があり、次に大企業におけるイノベーションの実践者、中村氏の講話が来て、最後は両者の対談で締めくくられる。理論と実践がうまくミックスされた内容は参加者に大きなインパクトを与えたようだ。
第3回目は10月16日に行われる。

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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