組織が戦略に沿った望ましい状態になっているか 事業推進・組織開発に向けた“攻め”の組織サーベイ活用

執筆者情報
企画開発部
特任研究員
中山 豊

「従業員満足度調査」「モラルサーベイ」をはじめとする従業員対象のアンケート調査は、古くは1960年頃から多くの企業で実施されてきた。目的に応じてさまざまな名目で実施される『組織サーベイ』だが、近年、より戦略的な目的での実施・活用が目立つようになっている。本稿では、『組織サーベイ』の新しい活用について、検討していく。


従来の労務管理

昨今、健康経営に注目が集まる以前から、『組織サーベイ』は、主に従業員の満足度やメンタルヘルスの状況を定量化するための、いわば組織の健康診断的な施策として、多くの企業で実施されてきた。私は、約10年前から研究開発や結果分析の担当として『組織サーベイ』に関わり、200社ほどの企業における導入をサポートしてきたが、近年、その実施目的と活用に変化が見られるようになってきたと感じている。従来の労務管理的な目的に加えて、より企業の事業推進や組織開発を指向する使い方が増加しているのである。「組織にネガティブな状態が生じていないか」を見るだけではなく、「組織が戦略に沿った望ましい状態になっているか」を測定することを調査目的として明確にする、すなわち“守り”だけではなく“攻め”の施策として『組織サーベイ』を位置づけているのだ(図表1)。

有効活用のカギを握る目的の明確化と項目設計

『組織サーベイ』は一般的に全従業員に対するアンケート調査の形式をとり、その質問項目は大きく2種類に分類することができる。「結果系項目」と「要因系項目」である。

「結果系項目」とは、その組織が「望ましい状態」にどれくらい達しているかを測定する質問項目である。例えば、『組織サーベイ』の目的が従業員満足度の把握であれば「今の仕事に満足しているか」というような質問項目になり、目的が組織機能度の診断であれば「この組織は効率的に機能しているか」といった質問項目になる。

一方で「要因系項目」とは、「望ましい状態」に影響を与える要因を推測するための質問項目である。その組織が「望ましい状態」であるかどうかに関係なく、その組織の状態をフラットに測定する。これらは、要因がよほど絞り込まれていない限り、網羅的かつ標準的であることが望ましく、一般的には「仕事」「職場」「上司」「会社」の4つの側面について測定される。従業員が組織の状態を考える際、これら4つの側面を複合的に捉える傾向があると考えられているからである。

『組織サーベイ』の活用では、「結果系項目」と「要因系項目」の関連を分析することが重要になる。「望ましい状態」にある(結果系項目の評価が高い)組織はどのような状態にあるかを、「要因系項目」との関連分析によって明らかにすることで、「望ましい状態」を促進するためにはどのような手を打てばよいか、示唆を得るのである(図表2)。

ところが、『組織サーベイ』を実施している企業の声を聞いてみると、その活用がうまくいっていないと感じているケースは意外に多い。その原因としては、そもそもの実施目的が曖昧なことに加えて、「結果系項目」と「要因系項目」の選定と構造化、そして実施後の分析デザインが不十分であることが挙げられる。

組織サーベイは本質的な議論を促進する

「結果系項目」を選定するには、自社の目指す「望ましい状態」をどう置くのかを決めなくてはならない。これは、人事施策の選択と集中の問題である。もちろん仕事のやりがいはある方がいいし、人間関係の良い組織で活気がある方がいい。また、高い処遇が与えられていると、従業員が感じることも必要だ。ただ、現実の経営人事にとって、すべての環境要因を同時に改善することは困難である。そのために、何から手をつけることが効果的か選択して、優先順位をつけて対応する必要がある。つまり、いろいろある「望ましい状態」のうち、戦略的に何を選択するのか決め、その優先順位をつける。

これは経営層や人事部門で議論すべき重要な論点である。『組織サーベイ』の本質的な価値の1つは、その企業にとっての「望ましい状態」を議論し、共通認識を形成することで、人事施策の戦略的な選択と集中を促進することにあるといえよう。そして、もう1つの価値は、その達成状態を測定する「結果系項目」とそれを促進する「要因系項目」の結果に基づいて、具体的な施策を議論していくのに役立つことである。定量データがあることで、主観的な意見で議論が平行線になることを防ぐことができる。

組織サーベイ活用の5つのポイント

改めて、各企業で『組織サーベイ』を活用するためのポイントを整理すると、以下の(1)〜(5)になる。

(1)事業推進や組織開発上の「望ましい状態」を測定するための「結果系項目」の設定
(2)結果に影響を与える要因を特定するための網羅的・標準的な「要因系項目」の設定
(3)「結果系項目」と「要因系項目」の関係を分析
(4)サーベイ結果のフィードバックと議論の場の設定
(5)議論により重点施策を決定

なかでも大事なのは、(4)の結果のフィードバックにあたり、単に報告を「聞く」場ではなく、事業推進や組織開発に責任のある経営層や人事部門が議論する場を設定することである。

これらのポイントを踏まえた『組織サーベイ』の活用事例として、A社グループの取り組みをご紹介したい。

A社グループでは持ち株会社制への移行により、多数の事業会社をその傘下に統括している。従来から従業員満足度を高めることを目的に『組織サーベイ』を実施していたが、グループ企業のさらなる価値向上を目指すにあたり、そのためのヒントを得られるようなサーベイを再検討することとなった。

人事部門では、利益成長や事業展開の観点から、組織の目指す「望ましい状態」を定義し、「結果系項目」の設定を行った。そして、サーベイ結果の分析にあたっては、事業会社のうち「望ましい状態」にある企業、つまり「結果系項目」の評価が高い企業をモデル企業としてベンチマーク。良い結果につながる「要因系項目」の特徴を抽出した。

分析の結果、モデル企業では、「経営層が魅力的なビジョンを打ち出している」と従業員が感じている度合いが、「望ましい状態」に最も影響を与えているということが見出された。当然、それが真の「要因」であるかは分からないが、従業員に将来像を示すことが大切であると認識し、他にもさまざまなメッセージや施策を展開していたなかで、経営層のビジョン発信が最も「望ましい状態」と関係が深いという結果は、議論を進める上で重要なファクト情報であった。

これを踏まえてA社グループは、グループ経営者会議で議論を行い、「ビジョン浸透」の重要性を再確認。このテーマに集中して施策を検討することとなった。その後、ビジョン浸透のスコアが高かった企業の取り組みを共有し横展開するなど、いくつかの具体的な施策を実行している(図表3)。

“求める人材群”に焦点をあてた分析・活用も

事業推進や組織開発を目的とした『組織サーベイ』の活用では、対象とする人材群の選択と集中を図ることも、大事な視点となる。従来の労務管理的な目的で実施される『組織サーベイ』では、通常、従業員全体に対する最大公約数的な意見集約と施策検討を行う。一方、事業推進を目的として実施する『組織サーベイ』では、「誰にとって望ましい職場を目指すのか」という問題を考慮して活用するという方法もある。

ここでも事例を紹介しよう。B社は、伝統的に個人力の高さを強みに事業を展開してきた。しかし、昨今の事業環境の変化により、個人プレーではなく組織力で顧客に向き合うことが求められるようになり、企業戦略として、チーム力の強化による市場でのシェア拡大を目指している。

その組織変革のために『組織サーベイ』を活用することになったB社では、個人の指向を判定する項目を「結果系項目」の一部として設定することにした。個人の指向によって、意欲を高める環境に違いがあることは一般的な研究からも明らかになっている。例えば、着実な業務遂行に価値を置く「維持指向」の人材は、助け合う組織風土に動機づけられ、変革や挑戦に価値を置く「変革指向」の人材は、リーダーの率先垂範に動機づけられる傾向があるといわれる。B社では、企業戦略上、「チームワークで変革を起こす」指向をもった人材を欲しており、そのような人材がどのような要因で動機づけられるのかを明らかにしたいと考えたのだ。

分析の結果、「チームワークで変革を起こす」指向をもった人材が実際に成果を上げていることが確認された。そして、こうした人材の満足度は「上司」のいくつかの行動と深い関係があることが分かった。具体的には、上司が「率先して仕事に工夫を加えている」「失敗を恐れずチャレンジする職場を作っている」「失敗したことを評価に反映させない」といった項目である。

B社ではこれらの結果を踏まえて、改めて全社的に、「変革とチームワーク」指向の人材を生かす風土への転換を図ることになり、評価基準の見直しなどを行っている。『組織サーベイ』の結果は、それまで「変革とチームワーク」という人事戦略を掲げていたものの、本当にそれが妥当なものなのか疑問に感じていた人事担当にとって、方向性に自信がもてるきっかけとなったのだ(図表4)。

おわりに

従来はいわゆる組織の健康診断としての労務管理的な実施目的が一般的であった『組織サーベイ』を、2つの事例に代表されるような、より企業戦略の推進に役立つような使い方で活用しようとする企業は増加している。

無形である組織の変革を推進するためには、その方向性を決める責任をもつ経営層や人事部門が、具体的で事実に基づく認識を共有することが重要である。その方向性を定める議論の場において、あるいはその方向性や施策の進捗を見極めるモニタリングの場において、あるいはその効果を検証する場においても、定量的なフレームは大きな力を発揮する。

『組織サーベイ』は、そうした人事施策の戦略的な選択と集中を促進するための重要なツールとして、今後さらに活用される余地があるといえるだろう。

※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.40特集2「事業推進・組織開発に向けた“攻め”の組織サーベイ活用」より抜粋・一部修正したものである。

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