連載・コラム
マネジメントの本質である、人間の原動力
面談を、部下育成の突破口に
- 公開日:2007/05/01
- 更新日:2024/05/07
マネジャーが直面するさまざまなマネジメント課題の中でも、部下の育成は非常に大きなテーマとなっています。今回はマネジャー研修を担当する機会が多いトレーナーから、「FCMP(評価フィードバック面談から始める部下育成マネジメント研修)」というユニークな研修の紹介と、それを通した部下育成の現状とマネジメントの本質についての話をお届けします。
- 目次
- 部下育成がうまくいかないのは、コミュニケーションができていないから。
- 嘆いても何も変わらない。現実を受け入れながら、現実に疑問を投げかける。
- 人は何によって動くのか。そこを追求するのがマネジメントの本質。
部下育成がうまくいかないのは、コミュニケーションができていないから。
私は、研修を通して年間1500から2000人近くのマネジャーとお会いしていますが、部下の育成で悩んでいる方は非常に増えていますね。「部下に主体性がなく、自ら動き出さない」「言ったことしかやらない」…。こうした現状の背景には、この10年間の環境の変化、特に意思決定のスピードが格段に速くなってきたことがあると思います。私にもマネジャー経験がありますが、もし今マネジャーだったら「もうやっていられない」と匙を投げ出してしまうかもしれません。目の前の成果を上げようとすると、どうしても自分が前面に出て最大限の力を発揮するしかない。皆さんそれこそ身を粉にしてやっています。部下の主体性を育てようという意識はあっても、そんな余裕はなかったというのがこれまでの現実ではなかったでしょうか。しかし、自分一人で頑張ったとしても限度があります。今は部下を育成して組織として力を発揮しなければ、顧客の高い要求はクリアできないし、その課題を突破できるような新しいアイデアも生まれてこないという環境になってきています。
部下の育成というのは、マネジメントと切り離して考えることはできません。そして、部下が育成できない理由の多くは、コミュニケーションが十分にされていないという課題にたどり着きます。ある企業の事例ですが、マネジャーは元気であるにもかかわらず、部下は疲れ、組織として機能していないというケースがあります。マネジャーは自分のやりたいことがあるから非常に元気で、エネルギーも溢れている。ところが「部下が何をやりたいか」についてはさっぱりわかっていない。「部下がどんな将来を思い描いている」かもわからない。つまり自分のことや成果にしか関心がなく、コミュニケーションが成立していないのです。こうした課題を解決する手段のひとつとして私たちが行っているのが、FCMPです。なぜ面談をテーマにしているかというと、面談というのは制度の上でやらなくてはいけないものであり、コミュニケーションなくしては成立しません。だったら、その場を最大限に生かしていこうということ。またマネジメントのスタンスによってその効果が変わる非常にわかりやすい場でもあるからです。面談の場を通して自分のコミュニケーションを変え、普段のマネジメントのスタンスを変えていくことを目的にしています。
嘆いても何も変わらない。現実を受け入れながら、現実に疑問を投げかける。
私たちは、何かができない理由を、つい自分以外に求めがちです。FCMPの場では、最初に「部下へのフィードバック面談がうまくやれていない理由」をお聞きしますが、さまざまな“言い訳”が返ってきます。「そもそも制度が悪い」「目標設定の基準が曖昧。担当地域も顧客も違うのにどうやって判断するの」「人事が面談期限の設定をしていないから」「大体、上司が自分に対してやっていないじゃないか」…。私はまず受講者の皆さんのそうした現実をすべて受け入れることから始めます。これは「我々の厳しい現実を、トレーナーであるあなたは自分の身になって感じることができますか」という受講者の皆さんの問いかけに答えることであり、現実を受け入れないとお互いの信頼関係も生まれません。受講者の皆さんに不平不満を洗いざらい出していただいたあとで、問いかけます。「わかりました。私も現実はその通りだと思います。制度も基準もおかしいし、いろんな部下はいるし、ほんとに大変ですよね。でも、そう思っているだけで何かが変わるのですか?」と。そしてマネジャー自身の経験や実感を交えながら、変わらなければならないのは実は自分自身であることに気づいていただく。そういう瞬間が起これば、この研修の目的へ一歩近づいたことになります。
弊社の研修の基本は受講者の中に気づきを起こし、具体的な行動につなげていこうというものです。ただしFCMPでは気づきを促すだけではなく、どうやるかという具体的な方法論まで提示することにしています。例えば、面談の際に「将来、何をやりたいのか、何を目指しているのか」を部下に尋ね、「それだったらこんなことに取り組んだ方がいいよ」と将来像から課題を提示するフィードバックの方法があります。また、部下が目標を達成できず、厳しい評価をせざるを得ない時のフィードバックの場面では、「今期の目標は達成できなかったけれど、キミの仕事に取り組む姿勢は素晴らしい」といったふうに、部下のこだわりの部分を意識するなど部下の立場に立って考える方法もあります。こうした方法論の提示は、かつてはマネジャー自身が自分で探し出して行っていました。しかし、今はこうした余裕がなく、目の前の障害が余りにも大きいケースが多い。面談は何のために行い、課題はどこにあるのかを示すだけでは組織や人は動かない。厳しい現実ですが、解決法まで併走することでメンバーが動く可能性はより高くなっていきます。
人は何によって動くのか。そこを追求するのがマネジメントの本質。
FCMPをはじめマネジメント研修に臨むにあたって、私はいつも未来や将来を築き上げていく視点を大切にしたいと思っています。面談は、制度だからとか、メンバーの過去の結果を確認するためだからではなく、自分と本人が生き生きと成長していけるような未来や将来のために行うもの。そう思えた瞬間から大きく変わります。
この10年間、企業は組織の効率性を上げることに邁進してきた結果、みんなに元気がなくなり、右往左往している状態ではないでしょうか。組織の効率性を上げることは学んだが、組織の創造性を高めることはあまり学んでこなかった。創造性はまさしく人間そのものの力です。では、そういう人間は一体何によって動くのか。人が動くエネルギーはどこからくるのか。それは私自身が追求していきたいテーマであり、マネジメントの本質ではないかと思っています。世の中に貢献したい、新しいものを生み出したい、目立ちたいとか、個々人によって動くポイントは違いますが、組織で働くすべての人に共通しているのは、仕事で楽しみ、仕事で成長し、仕事で認められたいということではないでしょうか。でも、現実にはそうなっていない。だから今、人や組織にいろんなスポットライトが当たっているのは当然なのだと思います。
トレーナーとしての経験を通して感じることは、人に関わるコミュニケーションのテーマは、もはや人事課題ではなく経営上重要な課題であると思っています。ここに手を打たなければ経営戦略が実現できないということです。経営自らがどんな組織、どんな個になってほしいかを考え、人と組織が生き生きと自ら動き出せる環境を作り出すこと。これは施策を1回やればなんとかなるというものではなく、理想の状態になるまでやり切る覚悟が必要です。人と組織を巡る課題の解決は一筋縄ではいかないことばかりですが、嬉しいことに最近ではこうした企業が増えているように感じています。
執筆者
人材開発トレーナー
富村 興
1951年生まれ。小売業の世界で販売企画、店舗運営の責任者を通してマネジメントを経験する。1997年、リクルート(現 リクルートマネジメントソリューションズ)のトレーナーとなり現在に至る。メーカー(精密機器、自動車、食品など)、商社、交通、金融、エネルギーなど多岐にわたる業界を担当している。
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