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互いの目的を理解し、中長期的な関係を築く

Win-Win交渉術がもたらす豊かな営業

  • 公開日:2007/04/01
  • 更新日:2024/05/07
Win-Win交渉術がもたらす豊かな営業

勝ち負けの取引から、共にハッピーになるWin-Win関係へ。経済産業省が交渉力のレベルアップの取り組みを打ち出し、リクルートが委託を受け、現場定着のためのプログラムとして開発したものが、「ビジネス交渉人材育成プログラム」です。今回はWin-Winの考え方を交渉に生かした人材育成研修を担当するトレーナーに話を聞きました。

1回限りの関係から、長く付き合える関係へ。
バイヤーと営業職におけるWin-Win感覚の違い。
Win-Winの関係づくりで、営業をもっと楽しく、実り多いものへ。

1回限りの関係から、長く付き合える関係へ。

交渉(ネゴシエーション)という言葉から、「相手を出し抜いてやろう」「相手からもぎ取ってやろう」など否定的なニュアンスをお感じになる方が多いのではないでしょうか。

私たちが売り手あるいは買い手として交渉の場に臨む時、つい自分の条件だけを考えてことを進めがちです。例えば、自動車購入の場合を考えてみます。売り手であれば「ここまでは値引きをするけれど、これ以上はできない」と考えながら駆け引きをしていく。他方、買い手も希望購入価格や他店から提示された値引き条件などを考えながら損をしないように駆け引きを行う。そこはまさしく値引き交渉の場になり、一方が勝って他方が負けるというWin or Loseの結果になりがちです。仮に商談が成立しても1回だけのお付き合いで終わってしまうことが多くなります。

しかし、そもそも売り手にも買い手にも本来の目的というものが背後にあるはずなのです。例えば、売り手であれば「次回、車を買い替える際にも自分を指名してほしい」「知人を紹介してもらいたい」「自社のファンを得たい」などです。また、買い手には「家族と快適なカーライフをエンジョイしたい」「車には詳しくないので、ちょっとしたことでも気軽に相談に乗ってもらいたい」という気持ちかもしれません。Win-Winの考え方とは、互いが相手の本来の目的を理解し、双方のメリットや利益を実現することによって、1回限りの商談で終わらせるのではなく、中長期的な関係を築いていこうとするものです。

私たちが提供している「ビジネス交渉人材育成プログラム」は、こうしたWin-Winの関係を築く交渉を行うために普遍的な交渉の考え方やフレームワークを用い、ケーススタディの分析やロールプレイを行いながら理解を深め、身に付けていただくものです。受講者の方に研修への期待をお聞きすると、「圧倒的に不利な状況をどうしたらひっくり返せるか、その方法を知りたい」「厳しい条件を言われているときにプレゼンテーションで切り抜けたいのですが・・」という声を頂戴します。こういった反応が交渉というものに対する日本人の一般的な考え方なのかもしれません。しかし、私たちがこの研修で目指しているのは短期的なスキルの習得ではありません。ビジネスシーンにおいてWin-Winの考え方が浸透していくのはまだまだこれからだと思います。

バイヤーと営業職におけるWin-Win感覚の違い。

研修は通常2日間で行いますが、プログラムの中心となるのは座学ではなく、3つのケーススタディを計7回にわたってロールプレイを行います。1回目は、日頃のビジネスコミュニケーションの振り返りとして、素のままで取り組んでいただきます。受講者同士がペアを組んで売り手と買い手になりますが、日頃、勝ち負けの交渉をされている方は、ここでもやはり勝った負けたのやり取りになりがちです。「私はこのやり方(勝ち負け)でトップセールスになりました」とおっしゃる方もいます。でも、ロールプレイの相手から「買ったけれど、じつは不満でした」という感想が出ると、あれ?という疑問がわいてきます。その疑問は自分が買い手役に回ると一層はっきりしてきます。Win or Loseの交渉は一方に不満がつのる、ということに気づきます。立場が変わるということは、非常に新鮮な体験のようです。こうして少しずつWin-Winの土壌が生まれていきます。

受講者はメーカーの営業職や流通業界のバイヤー(買い手)の方が多いです。また、最近ではスタッフ職や技術職の方の参加も増えています。交渉力はビジネス上不可欠なリテラシーであるとの認識に変わりつつあるんですね。そのなかで、どちらかというとバイヤーの方が日頃からWin-Winの関係を望んでいるようです。ある百貨店のバイヤーさんはこんなことをおっしゃっていました。「業者選定の際、相手が提示してくるのは条件面ばかりなんです。そして、提示された条件はどこも大差なく、決め手に困っています」。また、こう続けてくれました。「でも実は、私たちバイヤーでは気付かない潜在的なニーズを指摘してもらったり、他業界での成功事例などの情報提供、あるいは百貨店としてのブランドイメージが上がるようなアイデアを頂戴するなど、さまざまな価値を提示してくれると嬉しいし、そんな業者と取引したいんです」と。単なる値段交渉だけでなく、価値をお互いに交換できる、そんな交渉を有益と考えているようです。

しかし、営業職の場合は、Win-Winの関係がなかなかイメージできないようです。お客様から圧倒的に不利な条件を突きつけられ、会社に持ち帰っても上司からは許可が下りず、板ばさみになることも多いようです。ある営業職の受講者が「Win-Winの関係と言うけれど、私のお客様はそうじゃない。そんなに言うなら、Win-Winの関係になってくれるお客様を連れてきてください」と率直に気持ちをぶつけてくれました。そういう方には、まず、ロールプレイで買い手役の体験をしていただきます。次に、長いつきあいのある顧客、同僚、友人、家族との関係を想起していただきます。なぜかというと、確かに交渉者は誰でも自分の側に実質的な利益をもたらすような結論に達することを望んでいます。しかし、同時に相手との友好関係を維持することも望んでいることを実感いただきたいからです。現在樹立されている関係を維持することのほうが、一つの案件についての交渉結果よりはるかに重要である場合が多いのです。


Win-Winの関係づくりで、営業をもっと楽しく、実り多いものへ。

営業職にとって、今は大変な時代だと思います。相手のニーズがシンプルで、提案すれば売れていた時代とは違い、ニーズが潜在化しているケースが多い。そこを掴めずに悩んでいる営業担当者が多く、かといって解決するスキルも持っていない。それ以前になんのために営業をやっているのか? 営業担当者としてのスタンスがぐらついている気がします。そうした中で、この研修は、「営業とは何か?」を考える機会も提供できるのではないかと思っています。弊社にはSTARやFOCUSといった交渉場面にも有効なビジネスコミュニケーションスキルを強化するためのプログラムもありますが、これらと組み合わせることでより効果的な営業研修にして成果に結び付けている企業もいらっしゃいます。さまざまな企業で、営業を元気にする、営業のプレゼンスを高める工夫が始まっています。

今はいろいろな働き方があり、それが選択できます。中には「Win-Winの関係など必要ない。短期で売り抜いてしまえばいい」と考える人もいます。そういう方には「本当にそれでいいのですか?」「ずっとそういう仕事のやり方をされるつもりですか?」と問いかけるようにしています。そして、「すぐには無理かもしれないけれど、Win-Winの関係になりたいという気持ちを持ち続ければ必ず相手にも伝わるはずです」ということも。

営業職の皆さんにはぜひ想像してほしいのです。1回限りで終わるのではなく、中長期的な付き合いや取引が実現できた場合のことを、お客様から名指しで声をかけていただける喜びを。「他の誰でもない、あなたに」。相手からこう言っていただけることは、ものすごく嬉しいことですし、モチベーションは間違いなく上がるはずです。交渉術とは仕事を通してお互いが豊かな気持ちになっていける手段。甘いといわれるかもしれませんが、これが私がトレーナーという職業を通して得た体験のなかで実感していることです。

執筆者

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人材開発トレーナー

吉澤 仁史

1962年生まれ。総合広告代理店の販売促進を経て、コンサルティング会社に転職。現場主義の視点から「ビジョンを実現する」「状況を整理し、適切な判断を誘導する」というソリューション営業を展開。2002年、リクルート(現リクルートマネジメントソリューションズ)トレーナーとなり、現在に至る。

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