連載・コラム
プレ・オン・ポストの重要性
受講者本位の研修とは
- 公開日:2005/05/01
- 更新日:2024/05/20
受講者にとって有益な研修を企画・設計・運営するためには、「現場の状況を把握すること」が重要であると考えています。「受講者を取り巻く環境はどのような状況であるのだろうか?」、「受講者は実際の現場でどのような問題を抱え、何を必要としているのだろうか?」などの現状把握は欠かせません。
研修がお客様から高い満足をいただき、お客様にとっての成果を向上させるために、私は以下の「プレ」、「オン」、「ポスト」を常に意識しています。
「プレ」:研修の事前に、受講者の現状を正確に把握して研修の狙いや目標を設定すること
「オン」:狙いに基づいた研修を実施すること
「ポスト」:その研修を通じて新たに発見した課題を次の研修へつなげること
「プレ」~やり方を変えていく必要がある~
受講者の現場の課題を把握する際には次の2つの点に注意します。
1.思い込みや憶測ではなく、行動の観察や事実など客観的な情報をもとに把握する。
2.できるだけ多くの情報を集め、いろいろな角度から分析する。
これらの情報から、現場の方々が習得すべき知識やスキル、改善すべき行動、研修の狙いや目標を明らかにします。
A社様では、立ち上がって半年になる法人営業部隊の営業力を強化するために商品知識研修を考えていました。しかし、おうかがいしたA社様の現状は、
・営業部門のほとんどの人が、別々の部署から来ているためにやり方が統一されていない
・会社の歴史が浅いために成功事例も少ない
でした。そこで、営業現場の現状をより確実に把握するために、受講対象者である営業の方々にインタビューを実施させていただきました。すると、
1.今までは企業の総務にしか行ったことがないので、他部署に行くやり方や戦略の立て方がわからない。
2.今までは商品競争力があったためにお客様が話を聞いてくれたが、競合も価格を下げてきたので厳しくなってきている。営業のやり方が変わり戸惑っている
などの声が聞こえてきました。 これらのことから、A社様は「商品知識」ではなく、「営業のやり方」の方が優先的に取り組むべき課題ではないかと考え、営業計画立案や営業プロセスの強化を狙いとしたMATRIX研修やFOCUS研修を提案し、実施することになりました。
研修後、研修に同席いただいた取締役から「まさに我が社が求めていた研修でした」との言葉を頂き、お役に立てたことを嬉しく思いました。
「オン」~実はお互いを知らないのです~
研修を実施していると、さまざまな事態が起こります。そんなときにトレーナーの判断基準となるのは研修の狙いであり、お客様にとっての成果の向上です。狙いに基づいて最適と判断したときには、柔軟に時間変更やプログラムの修正を行うこともあります。
B社様にてFBC研修を実施していた際の出来事です。朝からグループ討議をしていましたが、あまり話が弾まないグループもありました。受講者の様子をじっと観察していると、どうやら初対面のメンバーが多く、入社直後のために過度な緊張状態にあることがわかりました。今後のグループ力を最大限引き出したいとの思いから、急遽プログラムを変更し、チームビルディングを狙いとした30分程度のアイスブレークセッションを組み込んでみたところ、各グループから明るい笑い声とやさしい笑顔が生まれました。その後のグループ討議はお互いが本音をぶつけ合う活発な意見交換がなされ、最終的には期待以上の研修成果を上げることができました。
「ポスト」~組織としての業績を高める~
研修を通じて新たな人材育成上の課題が見えてくることがあります。企業として業績向上を図るためには継続的な人材育成・強化の取り組みが重要であり、研修を通じて発見した課題に対する解決策を積極的に提案していくことは、研修トレーナーの役割の一つであると考えています。
C社様で営業スキルを強化するために『FOCUS研修』を実施していたのですが、その過程であることに気がつきました。
「受講者は、組織としての営業方針や戦略をしっかりと理解しているのだろうか?個々人によっては、その解釈内容や理解度に大きなバラツキがあり、このままでは、評価への納得感やモチベーションも下がっている可能性がある、結果として組織全体の業績向上に大きな課題を残してしまうのではないだろうか?」
研修終了後、研修中の出来事や研修成果の報告の機会をいただいた際に、営業組織としての戦略の理解浸透に関する問題提起と、今後に向けた強化施策を提案しました。
C社様はそれを重要課題として受け入れてくださり、具体的な施策を現在展開中です。
「最後に」~受講者の現場の立場で研修を考える~
受講者の抱えている要望や問題を実現、解決するため、すなわち受講者本位の研修を実現するために、研修の「プレ・オン・ポスト」を大事に考えています。
これからも、受講者が置かれている現場と研修の場面で起こっていることをしっかり見据え、受講者そしてお客様企業にとって有益な研修を提供できるよう全力を尽くしていきたいと思います。
執筆者
人材開発トレーナー
渡辺 拓二
大学卒業後、自動車メーカーに入社。販売会社出向を経て国内販売会社の営業推進や支援、能力開発に携わる。 その後、外資系通信会社に転職。トレーニング担当として孤軍奮闘しつつ、代理店担当営業を兼務する。 33歳の時にトレーナーとなり、現在に至る。
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