研究とサービス提供から見えた人事向けのエッセンス 人事のためのイノベーション考察

執筆者情報
ビジネスフロンティア部
エグゼクティブプランナー
井上 功

現代が高度経済成長期や拡大再生産期の経済ではないことに異論を唱える人はいないでしょう。成熟期に入った日本は、少子高齢化や厳しい財政状況、環境やエネルギー問題などの課題が山積みです。そのような中で、近年多くの企業がイノベーションを実現できる人材と組織を求めて試行錯誤を重ねています。今回のコラムでは、「組織の中でのイノベーション創出」をテーマに研究とサービス提供から見えてきたことの中から、人事向けのエッセンスをお伝えします。


イノベーション≠「技術革新」

「始めた事業は、最終的には50年経たないと答えが出ないと思います」
「私がやりたいのは、大きな山を動かすこと。そのためには物事の本質を追求し続けなければならない」
「私心にとらわれず、パブリックマインドを持って仕事をすることが、自分の子供や孫たちのためになります」
「まずはお客様に、私たちの事業でハッピーになってもらうことが必要だ」

これらの言葉を聴いたのは、とある研究の一環でインタビューを実施したときのことだった。言葉だけ取り上げると少し青臭い話を、インタビュー対象者の方々はエネルギッシュに、実に楽しそうに語ってくれた。

その研究とは、弊社の組織行動研究所で、組織から新たな価値を創出した企業や団体に対して取材を開始した「組織の中でのイノベーション創出」研究というものだ。
既存の事業拡大ではなく、新しい価値を生み出してきた組織の要諦を、イノベーターや人事部の方々の気質や志向・価値観、動機や行動から炙り出そうという試みだ。

つまり、インタビュー対象者は、「組織の中でのイノベーション創出」に成功したイノベーターの方々なのだ。

●イノベーションとは何か?
「もはや戦後ではない」というフレーズで有名な1956年の経済白書から、イノベーションという言葉が徐々に知られるようになった。その中で、イノベーションは「技術革新」と翻訳された。それは大いなる間違いの始まりだろう。

厄介なのは技術という言葉だ。技術的な革新、技術を基にした新しいこと、ノーベル賞級の技術から生まれる先進的なもの……我々はイノベーションについてこのような技術に根ざしたものというイメージを持ってしまった。本当はそうではないにもかかわらず……。

イノベーションの理論や研究は、100余年前のシュンペーターに始まり枚挙にいとまがない。そこでこのテーマに取り組むにあたって、イノベーションを次のように定義した。

『経済成果をもたらす革新』

イノベーションには必ずしも最先端の技術や天才的な発明が必要ではない。そして、経済成果、すなわち社会に対してそのことが普及していかないとイノベーションとはいえない。

2010年の経済産業省や野中郁次郎・一橋大学名誉教授との共同研究を契機に、これからの日本に必要なのは、さまざまな分野・領域、業種・業界、商品・サービス、生産方法、組織、市場、社会制度、概念などのイノベーションなのではないか、という問題提起を行った。

日本企業が抱える阻害要因

21世紀の日本は成熟社会の真っ只中であり、企業をはじめとする様々な組織が置かれている外部環境は、大きく変化している。それに対して組織の環境適応状況はどう変化しているのだろう?

日本企業の三種の神器といわれた終身雇用・年功序列・企業別労働組合は、それぞれで微妙に意味解釈が変わりつつあるが、概念そのものは大きく覆っていない。加えて、効率化を推進した新卒一括採用、管理職を育てる人材開発、過去のコンピテンシーベースの評価などの人材マネジメント施策も日本企業に根付いている。

これらは高度経済成長を推進してきた頑強な装置と言ってもいいが、組織の中から新たな価値を創出するための方法として適しているだろうか?
イノベーション推進、即ち新しい価値の創出を前提にしたときにはどうだろうか?

同質人材の下では異論の掛け合わせが起きない。管理一辺倒の組織では、創発が阻害される。異能・異質の人材の評価ができない。制約が多すぎて知の交流がなされない。

日本企業において、ごく一般的で常識的な人材マネジメント自体が、イノベーション創出の阻害要因になってはいないだろうか?

「最も『強いもの』は環境に一番適応したものだ」ということは、自然界だけでなく経済にもあてはまる。適者生存のためには、外部環境の変化に対して内部組織を適応させる必要があるのだ。

「人と組織のブレークスルー」を

日本企業もただ手をこまねいているわけではない。変化に対応し、また変化を創りだすべく動いている企業があることも事実だ。そこで、取り組んだのが冒頭に紹介した研究であり、インタビューだ。

一連のインタビューを通じてはっきりしてきたことがある。それは、組織の中からイノベーションを興すためには、「人と組織のブレークスルーが必要だ」ということだ。

●「エネルギー量」×「志」×「楽しむ姿勢」
「人の側面」を見てみよう。総計10社・団体、15名のそうそうたるイノベーターや支援者へのインタビューで、彼らに幾つかの共通点があることに気づいた。

まず特徴的だったのが、「エネルギー量」の多さだ。
ひとつの質問に対して豊富な言葉と多くの時間をかけてお答えいただいたことが印象的だった。語尾は明瞭、論理は明快、ある種のウィットが込められていることも多かった。声が比較的通ることも共通項だろう。澄んだ声で、前にどんどん進んでいく感じが、インタビューからひしひしと伝わってきた。

次に、「志」の強さが挙げられる。
ある人は日本を背負い、ある人は徹底的にカスタマー利益を追求する。50年後の想定される社会から逆算し事業を創造した人がいれば、パブリックマインドをすべての判断基準におき事業を推進している人もいた。彼らに共通するのは、まさに青臭い志といってもいい。
リクルートワークス研究所が2年ほど前に、事業創造人材の研究を実施したが、そのまとめとして提示した人材像が、「青黒人材』というものだった。青臭い志と腹黒い執着心を併せ持つ人として事業創造人材をイメージした言葉で、非常に分かりやすい。その青臭さを彼らから感じた。

そして、それぞれが「楽しむ姿勢」を持っていた。
イノベーターの方々はとにかく楽しそう。イノベーションは新しいことであるが故に、成功の保証はどこにもない。加えて、新たな価値を市場に普及させる際に、資源(人・モノ・カネなど)の動員を必要とする。そのプロセスは、軋轢・誤解・矛盾・ねたみ・軽蔑・誹謗・中傷・落胆・失望の嵐といってもいいだろう。
にもかかわらず、彼らはとても楽しそうだった。厳しさを楽しんでいるようにすら思えた。自身をハグレ者と称したり、アウトローを自認したり、絶対に出世コースにはいないと豪語したり・・・。それでも自分が進めてきたイノベーションに関しては、こんなご機嫌なことはない、とでも言わんばかりだった。

エネルギーが多く、青臭い志をもち、心から仕事を楽しむ人たち。思いつくままに挙げたが、これらが組織の中からイノベーションを興す人に共通して見られた特徴といえるだろう。

●イノベーションを興す組織
このようなイノベーターさえいれば、組織の中からイノベーションが興せるのだろうか?

答えはノーだ。

組織の構成員が何か革命的な商品やサービスを思いついたとしよう。少々極端だが、こんな会話が交わされていないだろうか?

「すごいサービスを思いつきました!」
「他社がやっているのか?」
「いえ、まだやっていません」
「それじゃダメだ。やめよう」

極端だが、こんな会話が交わされていないだろうか?
また、「最高のアイデアを思いつきました!」という意気揚々とした人に対して、「コンプライアンスの問題があるからダメだ」「既存事業とのコンフリクトを避けなければならない」などと制止してはいないだろうか?

イノベーション人材がいるだけでは、組織の中から新たな価値は創出できない。だからこそ「人の側面」だけでなく、制度や評価、認知と称賛、プロセスと尺度、資源動員や意思決定の透明さといった「組織の側面」を同時に手当てしないといけない。もちろん、イノベーション戦略も必要だ。

パブリックマインドを基にした仕事の判断基準を策定・推進している国土交通省。
イノベーション創出の場に徹底的にこだわったAIU損害保険。
研究テーマ自体を探索する、戦略的で極めてフレキシブルな組織をつくった日東電工。
既存の経営資源を使いイノベーションを興す制度をつくった日本経済新聞社。
グローバルでのイノベーションリーダーを開発するプログラムを有する三菱商事。
ダイバーシティ推進組織をイノベーション創出に繋げているローソン、等々。
取材をした中で、全て組織側がイノベーション創出の仕組みを有していたことが印象的だった。

イノベーション人材とイノベーションを興す仕組み・組織。この両輪がうまく回って初めて、組織の中からイノベーションが創出されるといってもいいだろう。
図.イノベーション研究モデル

人事こそがキードライバー

では、どうすれば、組織の中からイベーション、即ち新しい価値が創出されるのか?

この非常に難しい問いに対して、前述の経済産業省などとの研究では、上図のモデルを設定した。これは、イノベーションのプロセスを表したものであり、シュンペーターのマーク競皀妊襪鮖仮箸靴得瀋蠅靴燭發里澄

注目したいのは、「思いつく」というイノベーションの始まりと、「磨く」「事業化」のプロセスだ。これらの機能の主役はまさに人以外ではありえない。「思いつく」「磨く」の巧拙は、人材マネジメントが左右する。

企業経営の根幹に「新たな価値の価値創出」を置いたとき、人材マネジメントにも変化が求められるようになるだろう。イノベーション人材の輩出とイノベーションのための人材マネジメントが必要不可欠になるのだ。採用、配置・異動、評価、報酬、育成、代謝などの古典的な人事機能も変化が求められるだろう。

そして、これはまさに人事の仕事である。
ただ、これはそう簡単ではない。イノベーション人材マネジメントでは、既存の人材マネジメントの概念と正反対のことが求められる可能性が高いからだ。

イノベーションの鍵は人材マネジメントであり、キードライバーは人事といっても過言ではない。

例えば、イノベーション人材の組織の中からの発見。イノベーターには一風変わっている人も多い。低い評価を受けたり、ひどいレッテルを貼られたりするような、既存の組織の価値判断基準でははみ出してしまう人がいるのも確かだろう。そんな人を引き上げるのは既存の組織では容易ではない。

私たちも、経済産業省などとの研究の延長で、組織の中でイノベーターを可視化することができるように努めてきた。人材開発プログラムやイノベーションマネジメント、イノベーション組織文化を可視化するツールも開発し、一部提供を開始している。

イノベーションへの挑戦は、人と組織の可能性を今までとは違う見方や方法で伸長させていく試みであると同時に、人事自体のイノベーションなのかもしれない。
(文中企業名等、敬称略)
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