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越境経験を職場での行動変容につなげる 東京海上日動火災保険

越境学習の成果を豊かにするには人事の伴走が不可欠

  • 公開日:2020/08/17
  • 更新日:2024/05/11
越境学習の成果を豊かにするには人事の伴走が不可欠

越境学習プログラムは多岐にわたるため、各社とも試行錯誤しながら組み合わせて利用しているようだ。「新価値創造リーダーを育てる越境経験のデザイン」で紹介したJammin’を含め、さまざまなプログラムを導入し実績を上げている東京海上日動火災保険株式会社(以下、東京海上日動)人事企画部 人材開発室 次長 能力開発チームの桜井武寛氏に、そのねらいや留意点、工夫していることなどを伺った。

越境学習プログラム導入のねらい
プログラムを企画・選定する際の4つの観点とは
人事が伴走して本人の行動変容を後押しする

越境学習プログラム導入のねらい

ここ数年、越境学習という言葉がよく聞かれる。所属する組織以外での学びのことだ。MBA派遣、グループ会社や官公庁への出向などもその範疇に入るが、対象者が限られてしまう。越境先の環境を、本社側でコントロールするのも難しい。

そこで、ここ数年注目されているのが、複数の企業から対象者が集まり、新規事業案の創出といった課題に取り組む研修プログラムだ。

東京海上日動も、特にここ5年ほど、そうしたプログラムを他社と組んで立ち上げたり、経済団体や人材関連企業が提供するプログラムに社員を送り込んできた。

人材開発室次長の桜井武寛氏がそのねらいについてこう話す。「当社の社員は、ロジカルで脇が固く信頼感がある、といった特徴がある半面、同質性が高く多様性を生かすことがやや苦手、という弱みもありました。経営環境の変化がますます激しくなるなか、変革を牽引する、これまでと特徴の異なる人材も育てていかなければならない。そのためには、社内とはまったく違った環境下での越境学習が役立つのではないか、と考えたのです」

プログラムを企画・選定する際の4つの観点とは

支店単位での企画や、海外派遣などを含めると、現在運用している越境学習関連のプログラムは十指に余るという。それだけの数のプログラムを運用するにあたっては、4つの観点を重視している。1つめは異業種のメンバーが集まる、非日常の 場であること。「当社社員の価値観を強烈に揺さぶるようなメンバーとフィールドが用意されていることです」

2つめは机上での学習にとどまらないリアルな題材を扱い、事業案などをアウトプットするプロセスが経験できること。「本業に直結するものに限定せず、リアルな課題を取り上げて解決策を探っていくものがいい」

3つめとして、アウトプットに対して、高いコミットメントが求められること。「提案の相手が権限のある実行当事者なら願ったりです。提案のための提案にならないことが大切」

最後が、専門性の獲得にもつながることだ。「イノベーションは専門性とコミュニケーションの掛け算で生まれると考えています。尖った専門性を強化できる越境プログラムにはさらに魅力を感じます」

もちろん、経営リーダー候補向け、若手準リーダー層向けといったように、受講生の属性に応じた選定も行っている。

こうした研修に社員を派遣する際、人事が派遣メンバーを事前に一堂に集める。そこで、派遣する目的や求める取り組み姿勢などを伝え、何を得てほしいか、職場に戻ったときにどんな影響力を発揮してほしいか、という「期待」を明確に伝えるようにしている。

同社には人材育成における「3つのK」という考え方が浸透している。「期待し、鍛え、活躍の機会と場を提供する」というものだ。「期待を伝えた上で、多様なメンバーと切磋琢磨してもらう。そうした機会、気づきの場を提供することが、こうした越境プログラムの目的だと考えています」

人事が伴走して本人の行動変容を後押しする

その際に重視するのが「越境経験を本人の具体的な行動変容につなげること」だ。そのために、人事の“伴走”を欠かさない。各プログラムの担当者が研修に同席した上で、終了後に、内省を促す問いやフィードバックを本人に投げかける。「プログラムを通じて、何に気づき、自分のなかで何が変化したか、どんな行動変容につながったのかを本人に確認します。場合によっては、上司や職場の同僚に、参加前と参加後の変化を確認し、その内容を本人にフィードバックしています」

主に多様な環境における本人の変革力やリーダーシップの変化を探る指標として、幾つかの切り口に着目している。ダイバーシティマネジメント、曖昧な状況での意思決定、対立を恐れない率直なコミュニケーションなどである。

これらに即した評価アンケートを作り、本人と職場のメンバーに事前に回答してもらう。本人の回答は、どの項目も高得点が並ぶことが多い。プログラム参加者の多くが、業務で優れた実績を上げてきたメンバーであり自負もある。当然の結果だ。ところが、同じアンケートを終了後にとると数値が異なってくる。「自信があると思っていた項目についても、社外の人材に揉まれることで『井の中の蛙』だったことに気づく。もちろん、改めて自分の強みとして再認識する項目もありますが、大抵は自分の至らなさに気づくケースが多い」

職場メンバーの回答はさまざまであり、本人に フィードバックして、内省の促進につなげている。桜井氏曰く、継続的に効果検証の方法を検討していきたいという。「参加前と後とで、その人材がどのように変化したのかを、より的確かつ定量的に測る仕組みづくりにチャレンジしたい」

こうしたプログラムでは、現状の社内環境に飽き足らなくなり、参加後に転職する人材が出ることもあるが、同社ではそうした事例はあまり起きていないという。「ただ、参加後に元の職場に戻って変革にチャレンジしたものの、問題意識を共有できないメンバーや他部門との間でギャップが生じ、うまく進まないというケースは起きています。改めて、個の育成と組織開発は別物ではなく、セットで推進するべきだと痛感しています」。実際、「共に育つ、共に育てる」というスローガンを掲げ、同社は組織開発にも力を入れている。

複数の企業が連携するプログラムにおいては、受講生同士はもちろん、人事同士の横のつながりも強くなる。桜井氏はこう力を込めた。「互いの課題を共有し、解決策を話し合える場をもっと作り、連携を強化していきたい。優れたリーダーの育成は個社ではなく、日本、いや世界の課題ですから」

【text:荻野進介】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.58 特集2「新価値創造リーダーを育てる越境経験のデザイン」より抜粋・一部修正したものである。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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