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THEME マネジメント/リーダーシップ

特集社会課題・異業種・新規事業という3つの越境要素

新価値創造リーダーを育てる越境経験のデザイン

執筆者情報
HR企画統括部
リサーチ&デザイン部
エグゼクティブプランナー
井上 功

プロフィール

執筆者情報
HR企画統括部
リサーチ&デザイン部
シニアコンサルタント
千秋 敦彦

プロフィール

執筆者情報
HR企画統括部
リサーチ&デザイン部
コンサルタント
山中 皓太

プロフィール

企業が顧客に必要とされ続けるためには、環境変化に対してプロアクティブに新しい価値を生み出さなければならない。しかし、新しい価値を生み出すには、企業の慣行を外れて、周囲を牽引できるリーダーの存在が不可欠だ。今回は、これまでの取り組みから見えてきた、新価値創造リーダーの特徴や、越境経験を通じたリーダー育成の方法について、論じてみたい。

慣行の外に出て新しい価値を生み出すリーダー

企業において新価値創造の重要性が高まっていることは、自明であろう。ここでいう新価値創造とは、新規事業や、新商品・サービスの開発だけでなく、環境変化に先んじて既存の組織や仕事の在り方を見直していくことも含んでいる。

しかし、これまで既存事業で活躍してきたリーダーが、新価値創造の場面でも同様に活躍するとは限らない。慣行の中と外では、求められる力に違いがあるからだ。以下、新価値創造リーダーに特に重要な3つの力について述べる。

(1)ストーリーデザイン力
企業のなかで新しいことに取り組もうとしても、既存事業の目的や提供価値の延長線上でものごとを考えてしまい、結果的に、既存のものと大差ない所に行き着いてしまうことも多い。

また、実現したいことを自社で成立させるには、多くのステークホルダーの協力を引き出さなければならない。誰もやったことがない新しい取り組みは、必ず成果が出るという論理的な確証を示すことが難しいため、提案の確からしさや論理だけでなく、自らの想いをベースに「こんな未来を実現してみたい」という共感を呼び起こすストーリーづくりが有効となる。

そこで、顧客価値を起点に実現したいこと(Why・What・How)を自ら考え、周囲の協力を引き出せるような魅力的なストーリーを描き、語る力が求められる。

(2)多様性統合力
新価値創造の場面では、新たな知識や多様なスキル・考え方をもった人材との協働が必要になる。このときリーダーに求められる行動は、関係者の状況を管理し指示を与えるマネジメント的行動ではなく、ステークホルダーとよりよく協働するためのガバナンスを形成する行動である。具体的には、対話を通じてお互いの知識・スキル・考え方の違いの認識を促したり、それを踏まえた適切な役割分担や協働ルールを作ることなどである。

このようなプロセスを妥協せずに繰り返し、多様な知識・スキル・考え方をアウトプットに結びつける力が求められる。

(3)試行学習力
既存事業で、失敗を減らすために丁寧に計画し、着実に行動してきたリーダーには、「とりあえずやってみる」ことや、「一度決めたことを変更する」ことへの心理的な抵抗は大きい。

しかし、何が成果につながるか分からない取り組みでは、緻密すぎる計画は意味をなさない。状況が常に変化するため、決定事項を見直すことも多い。ある程度の計画をしたら、試行に注力した方が、有益な情報や新たな展開に巡り合う可能性も増える。

新価値創造では、トライ&エラーを素早く繰り返し、得られた情報を柔軟に活用する力が必要なのである。

新価値創造リーダーを育てる越境経験

前述の3つの力は、慣行のなかでは求められることが少ない。実践の機会がなければ、力を伸ばしていくことができない。このような状況を打破するために、人事はリーダーに意図的に「越境経験」を積ませていくとよい。

越境とは、普段と異なるコミュニティや状況下に置かれることであり、慣行の外でものごとに取り組むことである。越境した個人は、自分と大きく異なる知識や考え方に接することで、当たり前だと思っていた自分を客観的に捉え直す。これが、自分自身の在り方を変えるきっかけになる。

越境経験は、ちょっとした異業種交流会のようなものから、プロボノ、海外留学といった本格的なものまでさまざま存在するが、企業人事の立場で、意図的にリーダーの力を伸ばしたいときには、以下のような要素を含むようデザインされた越境経験を提供できるとよいだろう。

(1)なぜ・何に・どのように取り組むのか、自分自身で覚悟をもって意思決定し、人に説明する経験が得られる
(2)知識・スキル・考え方が大きく違うメンバーとの中長期の協働経験が得られる
(3)何が成果につながるか分からない状況下で、多くのトライ&エラーを繰り返す経験が得られる

上記の要素は、先に述べた3つの力と対応している(図表1)。例えば、リーダーが越境経験を積んでも、そこに自分でものごとを決める機会がなければ、先に述べたストーリーデザイン力は磨かれない。まずは、自社で用意できる越境機会には現状どのようなものがあり、それぞれどのような経験を提供できるのかを整理した上で、各リーダーに適した越境施策を検討するとよい。

図表1 新価値創造リーダーに求められる3つの力と力を磨くために有効な経験例

人事が越境施策を企画する上での難しさ

多くの場合、越境経験を積むことは、個人にとって有益なものだ。しかし、越境施策を企画する人事にとっては、それが自社の慣行の外で実施されるゆえに、通常の人材開発施策にはない難しさがある。以下にそのポイントを記載する。

(1)コントロールのききにくさ
自社で行う人材開発施策に比べて、越境施策は、越境先の環境をコントロールできない上、変動要素も多く運営には工夫が必要である。

例えば、配置や業務アサインによる越境は、自前で用意できる有効な越境経験であるが、毎年のリーダー育成に十分な数のポストが用意できるとは限らない。副業やビジネススクールなど、個人の選択による越境活動は、機会は無数に存在するが、何にどのように取り組むか人事にはアンコントローラブルである。実践型研修やプロジェクトに派遣する場合、参画企業やテーマが開催回ごとに変化するケースが多く、派遣のたび、企画の精査が必要になりやすい。

(2)成果の見えにくさ
越境施策の多くは社外で行われるため、意図通りに施策が実行されているか、リーダーがどのような経験を積んでいるのか、不透明な部分が多い。中長期のプロジェクトであれば、長時間労働など、労務管理面での心配も増えていく。

また、越境によって磨かれる行動や能力は自社の既存のものさしでは計測しづらく、リーダーが本当に成長したのか確認しにくい。
リーダーの負荷の大きさに比して、成果を明確にしづらいところに悩ましさがある。

(3)遠心力の強さ
リーダーは、越境を通じて、外部の魅力や自身の可能性に気づく。一方で、外部と相対化することで、自社の現状に危機感や違和感をもつこともある。個人にとって刺激的で有益な越境経験であるほど、この揺さぶりは大きくなる。そうして自社で働き続けるよりも外に出る方が魅力的だと考えるようになれば、期待をかけ投資をした人材が、越境の遠心力によって社外に流出することになってしまう。個人にとって良い経験を積ませたからといって、必ずしもエンゲージメントが高まるわけではないのである。

また、リーダーが学びを自社で生かそうと思っても、組織側がこれまでの慣行に強く引き戻すアプローチをしてしまうと、リーダーのエンゲージメントを大きく下げることになりかねない。リーダーを受け入れる組織側のスタンスは重要である。

越境施策を効果的に実行するためには、これらの難しさをあらかじめ考慮して企画設計したい。越境施策のプレ・オン・ポストのリーダーの状態をイメージして、適切なフォローを考えるとよいだろう。

越境施策によって、リーダーの「自社で働き続ける」というキャリア選択に揺さぶりが発生することは、あらかじめ覚悟しておくべきだ。しかしその揺さぶりこそが、自社の慣行を変えることへのエネルギーになり得る。越境施策は、人事も相応の覚悟をもち、試行錯誤して取り組むべき施策であるといえる。

異業種共創プラットフォーム「Jammin’」

これまで述べた越境の考え方をもとに、弊社は2019年度からJammin’(ジャミン)という異業種共創プラットフォームサービスを開始した。これは、日本企業のリーダーを慣行の外に出し、新価値創造リーダーとして育てることを目的にした取り組みだ。

2019年度は、企画趣旨に賛同いただいた企業20社から、およそ150名の次世代リーダーが集合した。テーマの違う10のコースに分かれ、4名前後の異業種混成のチームを組成し、半年ほどの期間をかけて、社会課題を解決する新規事業案を考える。なお、2020年度は全12コースに拡大予定だ(図表2)。

図表2 2020年度jammin'の全体像(予定)

新規事業検討に本気で取り組んでもらいながらも、そのプロセスでの学びに徹底してフォーカスし、自社での学びの発揮を目指していることが、他の越境プログラムと比較したときの、Jammin’の最も大きな特徴である。

Jammin’には社会課題・異業種・新規事業という3つの越境要素があり、それがリーダーの考え方の変容を促し、新しい価値を生み出すリーダーとしてして必要な3つの力を磨く。

(1)社会課題に取り組み、ストーリーデザイン力を磨く
Jammin’では、社会に存在する「不*1」を事業案の種とする。お膳立てされた課題提示は行わない。リーダー自ら「不」が発生する現場に出向き、多様な関係者と会話を重ね、収益と社会課題解決を両立するストーリーを、ゼロから描くことに挑戦する。このことが、リーダーの視点を「現在・自社」から、「未来・社会」にまで引き上げる。

*1 不平・不満・不安など、世の中の誰かのお困りごと

(2)異業種で取り組み、多様性統合力を磨く
さまざまな業界の企業から受講者を集め、場の多様性を高めている。異業種で、答えがないことに取り組むからこそ、各リーダーの考え方の違いが浮き彫りになる。また、不慣れな行動に挑戦するなかで、知識・スキルの交換も行われる。

一方で、受講者のキャリアステージを、「企業の次世代を担うリーダー候補」にそろえることで、フラットな関係性のなかでの意見交換を可能にしている。キャリアの岐路に立たされる者同士だからこそ、組織を超えて、お互いの考えや悩みも共有されやすい。

(3)新規事業に取り組み、試行学習力を磨く
自社課題ではなく、新規事業に取り組むことは、既存事業のストーリーにとらわれず、大きく発想を変えて、新たなトライを生み出すきっかけになる。机上の空論ではなく、現場のヒアリングや検証行動を促し続け、最初の計画が、どんどんピボットしていく感覚をつかんでもらう。

加えてJammin’では、人事が越境施策を実行する上での難しさを考慮し、その壁を可能な限り小さくする工夫を行っている。

≪プラットフォーム化≫
開催コースごとに参加者を募るのではなく、Jammin’という座組みへの参加者を募り、参加者本人の希望をもとに参加コースを割り振ることで、クラスの多様性に偏りが生じることを防いでいる。また、クラスごとにテーマは異なるが、プログラムやトレーナーの品質の均一化を図り、企業が安定的に多くのリーダーを送り出せる状態を目指している。

≪個人報告書の作成≫
コース終了後には、受講者アンケート、受講者の発言、個人インタビューの結果をまとめて、個人報告書を作成し、各社に返却している。プロセス中の学びを言語化・可視化することを目指している。

≪トレーナーによるリフレクション支援≫
全5回の集合セッションの進行は、テーマ領域の専門家1名と、人材開発トレーナー2名が担当する。専門家は、領域の専門知識のレクチャーや事業案への専門的なアドバイスを行い、トレーナーは全体のファシリテーションや、セッションにおけるリフレクションのサポートを行う。コース終了後には、トレーナーが全受講者に個人インタビューを実施し、学びの言語化や、自社での新価値創造の実践を後押しする。

≪オーナーセッションの実施≫
自社に戻るリーダーの受け入れ体制を整えるべく、オーナーである人事同士のセッションも開催している。イノベーション創出や、組織開発の専門家を招聘し、学び合う機会としている。

Jammin’の受講後、自社の慣行と向き合おうとする受講者の動きが見えてきている。「越境経験を積む機会を社内にもっと増やせるよう上司に掛け合っている」「社内の若手を巻き込んだオープンイノベーション推進に取り組み始めた」といった声を聞けることもある。

Jammin’の取り組みは始まったばかりであり、リーダーの成長をより促進する関わり方や、プロセスの可視化については課題が残る。参画企業と覚悟を共にしながら、試行を繰り返し、日本を盛り上げていくような意志あるリーダーを増やしていきたい。

(山中皓太、千秋敦彦)

「慣行の外」を目指したこれまでの挑戦

2011年3月14日、経済産業省とリクルートの共同事業である「フロンティア人材調査事業」の成果を披露する「イノベーションの旅」と銘打ったシンポジウムが、広尾にあるJICA地球広場にて開催されることになっていた。東日本大震災によってキャンセルを余儀なくされたが、この経済産業省との事業を契機に、組織のなかからイノベーションを起こすことの研究・開発が私のテーマとなった。

イノベーションの先行研究を整理するうちに、1つのキーワードに辿り着く。「慣行の外」。イノベーションを起こすためには「慣行の外」に出る必要があると、シュンペーターが今から100年以上前に説いたのだ。この考えを頼りに、2012年から本格的に新価値創造を促すイノベーション研修「i-session(R)」を開発していった。そこであることに気づく。同じ会社の従業員同士でイノベーションを考えても、驚くようなアイディアが出なかったのだ。人はどうしても自社の事業に拘泥してしまい、そのドメインから大きく“跳ぶ”ことができなくなる。企業は組織のなかでの常識を生み出していく装置であるがゆえ、当然のことだ。

そこで、異業種の幾つかの企業が合同で行うイノベーション研修を試行的に開始した。テーマは、ヘルスケア、政策立案、産学連携、AI、IoT、地方創生。6テーマ、15クラスで研修を実施して分かったことがあった。知識・スキル・考え方が大きく異なる人たちがチームとして組成されたとき、ほとんどの人がごく自然に「慣行の外」に出ることができ、侃侃諤諤の議論の末に、新価値創造に辿り着けることが多い、ということである。

また、事業創出以外の捉え方もできた。この研修自体が「協働の場」となり、変化対応型のリーダー開発として機能するのだ。今までコミュニケーションすらしたことがない異業種・異職種のビジネスパーソンと、評価権限や指揮命令系統が存在しないなかで、今までにない事業を開発する。これまでと異なる共創の姿勢が求められることは自明である。

その経験を踏まえ、新たに生み出したのが「Jammin’」という異業種共創プラットフォームである。これは、次世代リーダーが「慣行の外」に出て、徹底してイノベーションを考え抜くことで、今までにない経験をする機会であり、新しいキャリア開発の方法でもあり、組織を外に開いていく取り組みともいえよう。

キーワードは「慣行の外」。次世代リーダーが「慣行の外」に出ることで、OPEN JAPANや、野中郁次郎氏の言う「開かれた共同体」の実現を目指している。その挑戦は、今始まったばかりである。

(井上 功)

Jammin’ Award 2019 会場風景

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.58 特集2「新価値創造リーダーを育てる越境経験のデザイン」より抜粋・一部修正したものである。
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<事例紹介>
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