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インタビュー

社会を変えるリーダー

おてつたび 代表取締役 CEO 永岡 里菜氏

  • 公開日:2025/02/10
  • 更新日:2025/02/10
おてつたび 代表取締役 CEO 永岡 里菜氏

日本の人口減少が止まらない。特に地方が深刻で、「消滅可能性自治体」が特定されるありさまだ。その解として移住の促進が掲げられているが、成果は限定的である。そうしたなか、「おてつたび」と称し、季節労働や短期のバイトと旅を結びつけたサービスが注目を集めている。それを主宰するおてつたびの代表、永岡里菜氏にサービスの現状と起業に至る話、今後の展望を聞いた。

地域のお手伝いで得るつながり 関係人口が増え地域も活性化
人生を懸けたい事業が見つかる
企業との連携を強化する

地域のお手伝いで得るつながり 関係人口が増え地域も活性化

「伊豆高原でグランピング内の調理のお手伝いをしてみませんか」「北海道津別町でじゃがいも・玉ねぎ選別のお手伝い」「レイクビューのあるカフェでのお仕事! 未経験OK!」……。これらは、「おてつたび」というサイトに登録されている求人案件である。求人といっても、正社員やパートの募集ではない。1週間から1カ月の短期バイトの募集なのだ。

おてつたびは、「お手伝い」と「旅」を掛け合わせた造語で、収穫時などに人手不足の問題を抱える農家やハイシーズン時の旅館、ホテルなどと、旅の一環としてそこで働き、地域に貢献したいと考える人をマッチングするサービスだ。2019年にサイトが立ち上がって以来、人気を集め、現在、旅をしたい登録者(「おてつびと」という)は5万2000人、彼らを受け入れる事業者は47都道府県で1600にも上る(2024年8月現在)。

※旅をしたい登録者(「おてつびと」)6万8000人、受け入れ事業者数 1700(2025年1月28日時点)

このサービスには2つの特徴があるという。おてつたびの代表取締役、永岡里菜氏はこう語る。「1つにはお手伝いをすると、最低賃金以上のアルバイト代が得られることです。それを使えば旅費が浮き、仕事の空き時間や帰途に、その周辺も含めたリーズナブルな旅行ができます。就業時の宿は先方が用意してくれます。もう1つは、お手伝いを通じて地域の人たちと交流して、その地域の魅力を知り、その地域が彼らにとっての特別な地域になる。農産物を購入してくれたり、同地を再訪してくれたりして関係人口が増加することです」

平均すると、案件を掲載後、約1.5日で1人目の希望者が現れ、募集総数に対し、約2倍の数の希望者が殺到するという。どの人を採用するかは、事業者側の判断に委ねられている。

おてつびとはどんな人たちなのか。サイト開設当初は7割が大学生を中心とした20代だったが、現在はその割合が半分にまで減り、他の世代が増えてきた。いずれも首都圏在住者が多い。「早期退職を見据えた50歳以上の男性、子育てが一段落した45歳くらいの専業主婦が増えています。これまでの最高齢は84歳の男性で、農家でトマトの収穫をお手伝いしました」

最近は大学との連携に力を入れている。2023年には大阪観光大学、流通科学大学と連携協定を結び、両大学ともに観光学を学ぶ学生がおてつたびを利用することを単位取得の条件としている。

実際、おてつたびを通して、若者の多くが得難い経験をするのだという。「岩手県のリゾート地で1週間ほど働いた東京在住の大学4年生がいました。就職先は決まっていたのですが、『これが2年時や3年時であったら、選択先が変わっていたかもしれない』と。帰るときには、事業者の人たちと涙を流しながら抱き合ったそうです。コンフォート・ゾーンを出て、自分が知らなかった世界を経験できたり、地域の人たちのさまざまな生き方を知って視野が広がったりする。それは若者にとってすごく大きな意味がある。私が大学時代に欲しかったサービスだと今では思っています」

人生を懸けたい事業が見つかる

永岡氏は漁業と林業の町、三重県尾鷲市の出身。小学校の先生を志望し、千葉大学教育学部に進んだ。ところが教育実習という場面で、子供たちを前に自分の経験不足や引き出しの少なさに愕然とし、民間企業で働き、さまざまな経験を積んでから先生になろうと考えた。「ゼロからイチを作る提案型の仕事ができること、仕事の裁量権が大きいベンチャー企業であること、この2つの軸で就職活動を行いました」

そのうち、小規模ながら制作機能と代理店機能をあわせもつ総合広告会社から内定をもらい就職。2013年のことだ。イベントの提案から当日までのスケジュール、当日の内容、現場のディレクションまで一気通貫で担当する、思い描いたような仕事ができたが、対企業、対官庁向けの仕事が多く、物足りなさを感じるようになる。3年勤務した後、食育を軸とした地域活性化を行う企業に移る。全国各地を飛び回る日々を続けるうち、日本には故郷の尾鷲市のように、有名な観光地があるわけではなく、「どこ、そこ?」と言われるけれど、魅力を備えた地域がたくさんあることを知った。「残りの人生を懸けて、そういう地域にスポットを当てるような事業がやりたいと思ったのです」

2017年、27歳のときに会社を辞めると、東京の自宅も引き払い、夜行バスを乗り継ぎ、全国を巡る。東京には戻らない覚悟だった。

最初に向かったのが、長野県上田市のトマト農家。そのときにこんな話を聞いた。「夏の農繁期には朝5時から夕方6時まで、休息時間もわずかで、ぶっ通しで働くのが当たり前、2カ月も休みをとれないのが普通だというんです。人手不足の深刻な問題を肌で感じました。一方で、こうも考えたんです。私もお手伝いに行ったのですが、農業の奥深さや仕事のやりがいを教えてもらった。人手不足というのは、人と人が出会えるチャンスに変えられるんじゃないか」と。

各地を訪ねるうち、有名な観光地がない地域であればあるほど、まずは現地に来てもらい、その地域のファンになってもらうことが肝心だということが分かった。

そのための仕組みをどうするか。「それを作るにあたり、何がハードルになっているかを都内在住の200名に調査したところ、2つのハードルがあることが分かりました。1つが金銭的なハードルです。非観光地であればあるほど、旅費の価格競争が起きにくく、高騰しがちなんです。もう1つは心理的ハードルです。『どこ、そこ?』と言われてしまう地域は情報がなく、何を楽しめばいいのか分からないので、行く動機が生まれないんです。この2つを解決する手段として思いついたのが、私が最初のトマト農家で考えた、短期的あるいは季節的な人手不足を解決するためのお手伝い旅だったのです」

最初は、長野県にある知人の実家の旅館でテストを行う。参加者は旅先で知り合った大学生やボランティアだった。参加者と旅館スタッフが意気投合し、結果は成功。これならできると、まず会社を設立する。2018年のことだ。

それから、インターン生と2人で、旅館とホテルにひたすら電話し、おてつたびの内容を説明して登録をお願いした。100軒ほどに電話し、ようやく1軒が受け入れてくれた。参加者は知り合いを通じて集め、LINEのグループ機能で事業者とマッチングしていたが、2019年からホームページによるサービスに移行する。

企業との連携を強化する

おてつたびの従業員は12名。東京・渋谷区に本社、静岡市に支社がある。事業を続けるなかで、「ウィン・ウィン・ウィン」を心がけているという。「私たちは『日本各地にある本当にいい人、いいもの、いい地域がしっかり評価される世界を創る』というビジョンをもっています。そのためには誰かにしわ寄せがいく座組みでは続かない。地域の人が助かる、参加者にとって得るものがある、私たちも存続していける。この三方よしを創業当初から意識しています」

組織の形態はトップダウン型よりボトムアップ型を目指している。「正解が分かっている事業であれば前者でいいのですが、おてつたびはまだ正解が分からない。社員一人ひとりが現場から持ち寄った声や現場で感じたことをサービスに生かしていきたい」

現在力を入れていることの1つが企業との連携だ。2022年にはKDDI、2023年には中部電力とそれぞれ連携、地域の草取りなどに参加し、地域の課題について話し合う1泊2日の研修プログラムを実施している。「企業の方々がもっと気軽に地域と関わることができる形を作ると、地域の可能性はより広がるはずです。地域のNPOや中小企業だけではやれることに限界がある。そこに、多くのアセットをもった大企業の知恵や人脈が入り込むと、新しい化学反応が期待できます。日本はこれからさらに人口が減っていきます。一人一役ではなく、二役も三役もこなせる社会を、企業を巻き込みながら作っていきたい」

そのためには、1週間から1カ月が標準というメニューも改定していく必要がある。「会社員や子育て世代の人が短期で活用できるプログラムを増やしていきたい。そこに他の会社の人はもちろん、家族での参加もOKとしたら、その地域を拠点にユニークなネットワークができるかもしれない。そんなサービスを実現できたら、真っ先に自分が参加したい(笑)」

取材中、この人は人間が好きで、その可能性を信じている、ということが強く伝わってきた。座右の銘を聞くと、「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」という二宮尊徳の言葉だという。先のウィン・ウィン・ウィンが実現すれば、おてつたびは「道徳ある経済」になり得る。

【text:荻野 進介 photo:平山 諭】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.76 連載「Message from TOP 社会を変えるリーダー」より転載・一部修正したものである。
RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
永岡 里菜(ながおか りな)氏
株式会社おてつたび 代表取締役 CEO

三重県尾鷲市生まれ。2013年、千葉大学教育学部卒業後、総合広告会社でイベントの企画提案・プランニング・運営を担当。食育を軸とした地域活性化を行う企業を経て、2018年7月、おてつたびを創業、現在に至る。

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