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インタビュー

場とつながりラボhome’s vi 嘉村賢州氏

リスクゼロを目指す官僚主義の維持は企業にとって損失だ

  • 公開日:2024/06/24
  • 更新日:2024/06/24
リスクゼロを目指す官僚主義の維持は企業にとって損失だ

2018年、『ティール組織』(英治出版)が出版され、ミドルマネジメントが存在しない「自主経営」という概念が衝撃を与えた。まさにオーバーマネジメントの真逆の存在である。ティール組織は、何がどのように優れているのか。導入する際のポイントは何か。日本にティール組織を紹介した嘉村賢州氏に詳しく伺った。

ティール組織の3つの共通項
ティール組織は分散型とトップダウンの融合型組織だ
ティール組織を表面的に真似すると痛い目に遭う
ティール組織はチャンスとリスクの両方を素早く感知する
「魂という野生動物」を解き放てるほど安全だ

ティール組織の3つの共通項

フレデリック・ラルーというベルギー人が世界中の組織を調査したら、従来の延長線上にはない新しい形の組織がいくつも見つかりました。その共通項をまとめたのが、ティール組織です。

ティール組織には、3つの共通項があります。1つ目が「自主経営」で、組織内に階層構造や上下関係を作らず、従来のようなミドルマネジメントを置かずに、皆が仲間との関係性のなかで働きます。2つ目は「全体性」で、誰もが仮面をつけることなく本来の自分をありのままに出すことができる。自分の全体性を表現しながら働くことを意味します。ティール組織は、家族や友達と過ごすように、会社の仲間たちとも気兼ねなく過ごせる場所なのです。3つ目が「存在目的」で、誰もが売上目標などの数値以上に、組織が将来どうなりたいのか、どのような目的を達成したいのかを探求し続けることを指します。儲けよりも、存在意義を大切にしているのです。

ティール組織では上記の3つが満たされていることが多いのです。同時にそれ以前の形態に比べてその具体的な姿は多種多様であることが特徴です。10社あれば、10社それぞれの経営の形となるのです。

ティール組織は分散型とトップダウンの融合型組織だ

日本で『ティール組織』が出版されたのは2018年ですが、ティール組織は今も実践例が少ないのが現状です。同時に概念が一気に広がってしまったため、表層的な理解での実践や誤解もたくさん広がっています。

第1に、「ティール組織は分散型組織だ」という誤解があります。実際には、ティール組織は「分散型とトップダウンの融合型組織」です。

ティール組織の理論では、DAO(分散型自律組織)などの分散型組織はどちらかというと「グリーン組織」の方に属します。グリーン組織は、人間性や多様性を重視することやその組織の社会的意義を大切にする部分ではティール組織に似ていますが、ある意味トップダウンを否定した上での組織づくりが行われている事例もあります。グリーン組織は、創業者などのリーダーもメンバーの1人にすぎず、リーダーの言葉も1つの意見にすぎないと考えることが多いです。そのため、従来型組織がグリーン組織に移行すると、リーダーがエネルギーを失うケースがよく見られます。

対してティール組織では、リーダーは決して一歩引く存在ではありません。リーダーがソース役(組織のエネルギーの源泉)として、組織の存在意義や未来の目指す姿を遠慮なく物語ります。その点はトップダウンなのです。しかしそこに強制力は働かず、指示命令は存在しません。リーダーの物語に共感した人たちが組織に集い、自己組織的に創造や実践をしていきます。ティール組織はこうしてリーダーとメンバーの両方の思いを生かす仕組みです。

ティール組織を表面的に真似すると痛い目に遭う

第2に、「ティール組織は、やろうと思えば簡単に実現できる」という誤解があります。

フレデリック・ラルーは組織の進化をDXになぞらえて語ります。優れたDXを実現するには、全員がリテラシーを身につけ、最適なツールを選定し、適切なシステムと組織体制を構築する必要があります。ティール組織も、皆がそれをしっかり学び、自分たちに適した組織の形を話し合って熟慮した上で試行錯誤して、初めてうまくいくのです。

この6年で、失敗のパターンがいくつか見えてきました。例えば、いきなりミドルマネジメントをなくした会社では、メンバーが混乱して失敗しました。給与のオープン化や助言プロセスなど、ティール組織の特徴や方法を安易に取り入れて失敗した会社もあります。経営陣がティール組織化すると言いながら、自分は変わらないまま具体的な変革を現場に丸投げした組織もうまくいきませんでした。このようにティール組織を「ノー階層・ノールール」のことであるなどと表面的な理解をして真似すると痛い目に遭います。ティール組織をヒントにした組織進化には学習と準備が欠かせません。

第3に、「ティール組織には完全な自由がある」という誤解がありますが、これも間違いです。自主経営とは、ミドルマネジャーではなくメンバー全員が、組織の理想状態を設定して、そのモニタリングとフィードバックを自らが行っていくマネジメントの仕組みです。

つまり、社員全員に結果への責任があり、全員が会社経営の意識をもつ必要があるのです。もちろん自由はありますが、一方で全員がビジネスを自分ごととして考え抜くことを求められます。そのため、ティール組織では誰もが適度な緊張感をもって働いており、速く成長します。

ティール組織はチャンスとリスクの両方を素早く感知する

なぜ今、ティール組織が世界で注目されているかといえば、従来型組織よりも多くのチャンスをつかめるからです。より正確にいえば、「チャンスとリスクの両方を素早く感知できる」からです。

海外では、ティール組織のメリットがよく認知されており、大企業にもティール組織のような進化型組織の形態が広まっています。例えば、ゲイリー・ハメルらは『ヒューマノクラシー』(英治出版)で、アメリカ鉄鋼業界の最大手・ニューコア、中国トップの家電メーカー・ハイアール、多国籍タイヤメーカー・ミシュランなど、組織を変革して従来の官僚型組織の打破に成功している事例を紹介しています。第4に、「大企業がティール組織を導入するのは難しい」という誤解がありますが、そんなことはないのです。導入しにくい業種などもありません。海外では、電力会社や銀行のような大規模インフラ企業にも進化した形態の組織が見られます。

ゲイリー・ハメルらが同書で訴えているのは、「官僚主義の維持は企業にとって損失だ」ということです。従来型の官僚主義組織は、リスクゼロを目指す代わりに、チャンスも減らしているからです。実は官僚主義を維持すると、かえってビジネスチャンスを逃してしまい、損失が大きくなるのです。反対に進化型の組織群は、「チャンスもリスクも素早く感知しよう。そしてリスクは早めに解消し、チャンスをできるだけ多くつかもう」と考えます。その結果、数多くのチャンスを得られるのです。

そうして劇的に進化した会社の1つが、世界的床材メーカーのインターフェイスです。創業者レイ・C・アンダーソンは、カーペット製造時の環境負荷の大きさに心を痛め、1994年に環境負荷をゼロにすることを宣言し、会社の目的や社内の仕組みを一新しました。当時は不可能といわれましたが、社員たちが社長の思いに応えて創意工夫を重ね、今では革新的なカーボンニュートラル床材のメーカーとして確固たるポジションを築いています。こうした成功例が新しい組織の潮流をさらに広めるものになっています。

「魂という野生動物」を解き放てるほど安全だ

チャンスとリスクの早期発見に欠かせないのが、共通項の1つ、「全体性」です。

全体性とは、職場でも自分らしさを失わずに働けることです。競争したり、上司に気を使ったりせずに、ガードを下ろし、自分の内側につながりながら情熱的に働くことができます。周囲とも家族や友人と同様の関係を築き、自分を自由に表現できるようになるのです。

つまり、ティール組織は極めて安心安全な職場なのです。フレデリック・ラルーは、それを「魂という野生動物」を解き放てるほど安全だ、というふうに語っています。尊敬や善意や希望のような魂のこもった心の動きは、野生動物のように臆病ですぐに隠れてしまいますが、安心安全なティール組織では皆が表に出すという意味です。

私たちは、魂という野生動物が表に出てこれるような安心安全な職場を実現すると、「弱いシグナル」に敏感になり、組織としてちょっとしたチャンスの種やリスクの芽を素早く察知できるようになります。そして、それを安心して周囲に打ち明けるようにもなります。反対に、心理的安全性がない職場だと、軽いミスや不正を隠蔽する人が増えます。それが時に世間を揺るがすような大事件や大規模不正につながるのです。

ティール組織は、多少のリスクは避けられないものと考え、リスクをコントロールせずに、リスクに早く気づき、気づいた人は恐れずに皆に告白して、リスクを早急に解消しようとします。リスクの拡大を防ぐには、結局それが一番良いのです。チャンスとリスクの両方の早期発見が最も重要で、ティール組織はその実現を目指しているのです。

【text:米川 青馬 photo:平山 諭】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.74 特集1「オーバーマネジメント─管理しすぎを考える」より抜粋・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
嘉村 賢州(かむら けんしゅう)氏
NPO法人場とつながりラボhome’s vi 代表理事

人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する。そのなかで「ティール組織」と出合い、研究・普及を始める。2023年にティール組織ラボ(teal-lab.jp)を開設、編集長を務めている。

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