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公開日:2024/04/01
更新日:2024/04/01

THEME 組織開発

インタビュー同志社女子大学 上田信行氏

夢中と俯瞰を何度も行き来すればものの見方が広がる

夢中と俯瞰を何度も行き来すればものの見方が広がる

同志社女子大学 名誉教授 上田信行氏は「プレイフル・ラーニング」や「プレイフル・シンキング」を提唱し、「楽しいことのなかに、学びがあふれている」という考え方のもと、企業向けにもさまざまなワークショップを行ってきた。上田氏は、職場の遊びや余白をどのように見ているのだろうか。

 

まずは体験してみましょう!


今日のインタビューでは、簡単な「ワークショップ」を受けてもらいます(※編集部と取材陣はこのワークショップを実際に体験した)。

どんなワークショップかというと、今日は6人だから、まずテーブルを挟んで、3対3で向き合いましょう。一方の3人は全員違う色のペンを持ってください。用意ができたところで、ルールを説明します。まず向き合っている人の顔を3秒間見てください。見終わったら、目の前に置かれたA3用紙に、3秒間で顔のパーツをサッと描いてください。描き終わったら、ペンを持っている人たちが1つ右にズレましょう。一番右の人は一番左に回ってください。これを20回ほど繰り返します。つまり、似顔絵を3人でかわるがわる協力しながら描いていくわけです。1人の顔を延べ20人で描くことになりますね。すべて描き終わった後は、みんなで「作品」をゆっくりと見て、対話型鑑賞をします。では始めましょう!

思い切って冒険に飛び込めば「不安がFUN」になる


なぜ皆さんにこのようなワークショップを受けてもらったのかというと、「新しいことは、やってみないと分からない」からです。

企業向けにワークショップをすると、「なぜこんなことをするのですか?」「このワークショップに何の意味があるのですか?」と聞かれることがよくあります。私はそんなとき、正直に「分かりません」と答えます。私は答えをもっていないからです。

私たちのワークショップでは、本人が実践して、それを振り返って味わうなかで、自分なりに意味を生成していきます。どうなるか分からないながらも、夢中になって「体験して→味わって→意味づけする」プロセスを繰り返していると、ふと何かを発見してしまうものなのです。それは、しがらみや既成概念から離れ、蓋をされていた自分の好奇心やポテンシャルが解放される経験です。

このときに大事なのが、「本気でやる」ことです。真剣だからこそプレイフルなのです。私はプレイフルという言葉の意味を定義づけしていませんが、あえて説明すれば、本気で物事に関わっているときに感じる、あのワクワク・ドキドキ感のことであり、好きなことをやっているときに感じる興奮と楽しさのことです。遊びそのものが楽しくてもっとチャレンジしたい、というプレイフル・スピリットを取り戻そうというわけです。私は「冒険しよう!」と呼びかけることもあります。思い切って冒険に飛び込めば、周りに巻き込まれて面白くなり、そのうちハマっていきます。そうやって「不安をFUNに」変えていくのです。

例えば、今回のように似顔絵をみんなで本気になって描くのです。そうすれば、余白と遊びの面白さが自分なりによく分かってきます。

「体験して→味わって→意味づけする」プロセスが大事


このような学びのプロセスを、発達心理学者エディス・アッカーマンは、デュエリング・イン&ステッピング・バックの「認知のダンス(コグニティブ・ダンス)」と表現しました。まず何かに夢中になり(dwelling in)、それから後ろに引いて、夢中で行った自分の行動を俯瞰的に見つめる(stepping back)ことを繰り返すのが、認知のダンスです。私たちは、このように夢中と俯瞰を何度も行き来することで、自分の固定的な見方を揺さぶって、理解を深めたり、新たなつながりを発見したりするのです。

先ほどのワークショップでは、3秒だけ相手の顔を見て、3秒で即興的に描き、チェックする、そしてそれを繰り返すという「認知の高速ダンス」を体験してもらったわけです。一方、みんなで作品をゆっくり味わったのは「スローなダンス」といえるでしょう。

より一般的な用語でいえば、認知のダンスとは「メタ認知」です。メタ認知は、自分の状況を俯瞰的に把握し、その気づきの言語化を通して自分の可能性を拡張していくことを指します。

しかし、メタ認知するには、まずやってみて、状況に入り込んだ上で俯瞰する必要があります。だから、「体験して→味わって→意味づけする」のプロセスが大事なのです。好奇心を発揮して思い切り冒険を楽しみ、そこでキャッチしたことを吟味する、そんな時間と場所が必要です。

we-nessを感じられる場ではみんなでメタ認知できる


もう1つのポイントは、「みんなでやる」ことです。アーティストのオラファー・エリアソンが「we-ness(私たち感)」という概念を提唱していますが、私たちは参加者にwe-nessを体感してもらおうとしています。「みんなでやったら、すばらしいものができてしまった!」と思ってほしいのです。

みんなで取り組むと、個人の結果評価やスキル評価から離れて、協力して生み出したプロセスに焦点を当てる「プロセス・プレイズ(プロセスを称賛する)」ができます。自分は絵が下手だから描くのは嫌だという人が多いですが、みんなで描けば技術はさほど気にならなくなります。そして、みんなで描いた似顔絵のどこが似ているか、どこが面白いかを前向きに話し合えるようになるのです。

we-nessを得られる場では、みんなが自信をもって楽しくメタ認知に向かっていけるようになります。個人に優劣をつけるよりも、こうして自分たちの行動プロセスを振り返って、そのプロセスから立ち現れた何かをメタ認知で捉え、もっと楽しくするにはどう工夫したらよいかを考えたりして、自分たちの可能性を拡張する方がずっと有益です。

会社でも、チーム全員がwe-nessを感じて当事者になり、自分たちの欲しい商品やサービスを生み出そうとして本気で遊んだら、そのチームはきっと新しい段階に移行できるはずです。その手始めに、例えば「余白ウィーク」を設けて、その週は全員が仕事をせず、本気で遊んでみるような取り組みをしてみてはどうでしょうか。これからの企業には、そのような考え方のシフトが求められているのではないかと思います。

私たちのワークショップは3回セットで開催する


ただし、こうしたワークショップを、いきなり社内だけで実行するのは少し難しいかもしれません。私たちのような者が外部からやってきて、ワークショップを開くから、「よく分からないけど、やってみようかな」となりやすいのです。

私たちのワークショップは、3回セットで開催することが多いです。1回目は私たちが主体的に巻き込んで、2回目は企業の皆さんと一緒にデザインし、3回目は参加者に主導してもらうのです。そうすると、私たちが離れても、企業の皆さんが自分たちだけで遊べる(冒険する)ようになっていきます。

社内だけで取り組む場合は、2〜3人の小さなグループで始めて、徐々に大きくしていけば、うまくいくかもしれません。いずれにしても、まずはやってみて、味わって、意味づけする、認知のダンスを踊ってみることです。

【text:米川 青馬 photo:平山 諭】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.73 特集1「仕事における余白と遊び」より抜粋・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
上田 信行(うえだ のぶゆき)氏
同志社女子大学名誉教授 ネオミュージアム館長

ハーバード大学教育大学院でEd.M.、Ed.D.(教育学博士)取得。プレイフル・ラーニングをキーワードに、学習環境デザインとラーニングアートの先進的かつ独創的な学びの場づくりを数多く実施。『プレイフル・シンキング』(宣伝会議)をはじめ著書・共著書多数。

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