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インタビュー

LITALICO 小野寺規子氏

障害者一人ひとりをよく見て、能力を生かしていく組織へ

  • 公開日:2023/09/15
  • 更新日:2024/05/16
障害者一人ひとりをよく見て、能力を生かしていく組織へ

LITALICOワークスは、2008年に事業を開始した大手就労移行支援サービスだ。累計1万3000人以上(就労継続支援A型への就職を含まない)の障害のある方の就職をサポートしてきた実績がある。株式会社LITALICO 執行役員 LITALICOワークス事業部長の小野寺規子氏に、LITALICOの考え方や現場の状況、実例などを伺った。

事業の始まりはLITALICOワークス
就労移行支援・就労定着支援・相談支援サービスを提供
障害は人ではなく社会の側にある
利用者は症状も状況も希望も本当に一人ひとり違う
障害者雇用がうまくいくと一般社員も働きやすくなる

事業の始まりはLITALICOワークス

私たちLITALICOは、現在はLITALICOジュニア(発達障害児教育サービス)、LITALICOワンダー(児童向けプログラミング教育)、LITALICO発達ナビ(家族向けポータルサイト)、LITALICO仕事ナビ(障害のある方の就職情報サイト)、LITALICOキャリア(障害福祉で働く人の転職支援サービス)など、「障害のない社会をつくる」ための事業を幅広く展開していますが、その始まりはLITALICOワークスでした。今日は、LITALICO仕事ナビの話題も交えながら、障害者の就労移行支援と就職・定着の現状について説明します。

就労移行支援・就労定着支援・相談支援サービスを提供

「LITALICOワークス」は、就労移行支援、就労定着支援、相談支援の3つのサービスを提供しています。障害のなかでも、精神障害・発達障害の方々が多く利用されています。

最初にサービス全体の流れを簡単に説明すると、まず相談に乗り、一人ひとりのご希望や大切にしていることによく耳を傾けます。その上で、ご本人中心の就労移行支援を行います。就労移行支援では、ビジネスマナーやパソコンスキル、事務スキル、コミュニケーションスキルなど、就職に必要なさまざまなスキルを習得するプログラムを提供しており、本人の必要に応じて受講してもらいます。また、実際の職場を知ってもらうために、企業インターン(企業での職場体験実習)も行っています。

LITALICOワークスでは就職斡旋はしていませんから、就職する際には、基本的にはハローワークや他の就職サービスを活用してもらっています。就職後は最長3年間、就労定着支援も行っています。以上が、LITALICOワークスの事業の全体像です。

障害は人ではなく社会の側にある

この事業を展開する上で、私たちが最も大切にしていることの1つが、「障害は人ではなく、社会の側にある」という考え方です。

私たちは、障害のある方を社会や職場に無理に合わせるようなことはしません。反対に、障害のある方一人ひとりが、その人らしさを生かせるような職場環境を見つけたり、作ったりすることをとても大事にしています。社会の側、企業の側といった環境に働きかけていくことがポイントなのです。

例えば、私たちは、その人の特性に合った職場環境を構築できるように働きかけることがよくあります。企業に対して、この人にはどのような特性があり、どういった合理的配慮があれば力を発揮できるのかを説明した上で、環境調整や業務設計をご相談します。本人がコミュニケーションが得意であれば、面接の練習をして準備します。面接が苦手な人の場合は、本人と一緒に書類を作って面接前に企業に送ったり、私たちが就職面接に同行して、対面で直接説明したりします。その点も、一人ひとりの特性に合わせて対応しています。

具体例として、1人の方を紹介します。Aさんは発達障害の方で、数字を扱ったり、1人で黙々と作業したりするのが得意でした。適度な休憩さえとれば、高い集中力を発揮して、パソコン入力などを速く正確に行えるのです。一方で、チームで連携する作業や、コミュニケーションが求められる業務などになると、実力をまったく発揮できなくなるという特性がありました。

LITALICOワークスに通った後、この方は、病院のレセプトコンピューターに診療情報を入力する「レセプト業務」に就きました。正確かつ大量の情報入力を求められる、まさにAさんにうってつけの仕事でした。このとき、私たちは就職先企業に対して、「Aさんには、1時間作業したら5分の休憩をお願いします。申し出があれば、休憩を10分に延ばしてください」と配慮をお願いしました。企業がこの配慮を守ってくれたため、Aさんは入社後、ほぼノーミスで数値を入力し続けて高い成果を上げています。しかも体調もコンディションも安定して、長く働き続けています。

利用者は症状も状況も希望も本当に一人ひとり違う

Aさんは比較的スムーズに就労移行支援ができましたが、当然ながら、それほど簡単にはいかないケースもあります。

だからこそ、私たちは最初に、一人ひとりのこれまでのご経験やエピソードを詳しく伺うようにしています。特に大事なのは、なぜ前職でうまくいかなかったのか、何が苦手で苦しいのか、反対に何が得意で楽しいのかを具体的に知ることです。本人の希望もできるだけ詳しく聞くようにしています。

そこに主治医の先生の見解を加えます。精神障害や発達障害といっても、うつ病と統合失調症とアスペルガー症候群とADHDではまったく異なりますから、病気の特性をよく踏まえる必要があります。同じ診断名であっても、本当に一人ひとり症状や病歴や特性、そして困り感も異なります。主治医の先生の見解を受けて、一人ひとりを注意深く丁寧に理解しなくてはなりません。

私たちは以上をすべて加味しながら、その人に合った就労支援プログラムの組み合わせを考えたり、その人に合った就職先を探したり、必要な合理的配慮をまとめたりしています。

特性や症状だけでなく、LITALICOワークスを利用するに至った経緯も多様です。子どもの頃から障害がある方、いったん就職したけれどうまくいかずに退職し、再就職を求める方ももちろん一定数いますが、われわれのサービスを利用される方のなかには、就職後に何らかの精神障害を発症したり、発達障害があることが判明したりして、治療やリハビリテーションをしてから再就職を目指す方、自分の特性を踏まえて再就職にチャレンジされたい方も数多くいらっしゃいます。

さらにここに、障害者手帳の問題が複雑に絡みます。私たちは、手帳を持っていない方々も受け入れています。手帳がなければ、障害者雇用求人では採用してもらえませんから、一般採用での就職を目指すことになります。手帳を持たない理由はさまざまで、障害や症状の状態からお持ちにならない方もいれば、自らの障害を開示したくないから持たないという方もいます。特に、人生の途中で精神障害を発症した方は、自分の障害をなかなか自己受容できず、手帳を拒むケースが少なくありません。さらにいえば、手帳を持っていても、一般就職を希望する方もいます。ゆくゆくは手帳を返納することを目指している方もいます。

つまり、症状も状況も希望も、本当に千差万別なのです。私たちはそれらを細かく踏まえた上で、できるだけ本人の希望をかなえるように就職をサポートしています。一人ひとりの望みをかなえることと、その人らしい働き場所を用意することが、私たちのミッションです。

障害者雇用がうまくいくと一般社員も働きやすくなる

私たちは就労移行支援サービスを通して、障害者雇用を行う企業を数多く見てきました。2020年にLITALICO仕事ナビを始めてからは、企業とのお付き合いがさらに深まっています。

どのような企業が障害者雇用に成功しているかを一概に語るのは難しいのですが、あえていえば、「障害のある一人ひとりをよく見て、その特性や症状に柔軟に対応し、能力を生かそうとする会社」は、全体的にうまくいく傾向があります。そうした会社では、障害のある皆さんが次第にイキイキと働くようになったり、周囲とのコミュニケーションが円滑になっていったりすることが多いのです。つまり、障害ではなくその1人の個を尊重し、多様性を生かしていけるような組織づくりや環境への働きかけが最も大切なのです。

障害者雇用がうまくいくと、結果的に一般社員も働きやすくなる、という声をよく耳にします。例えば、先ほどのAさんのような人が1人いると、他のメンバーも休憩をとりやすくなります。その結果、チーム全員の集中力が高まってミスが減った、といった変化がよく起こるのです。障害のある社員に合わせて、机や椅子や備品の配置を変えたら、皆が歩きやすくなった、備品の場所が分かりやすくなったということも聞きます。

反対に、どれだけ制度や組織が整っていても、一人ひとりの理解が浅く、特性や症状に合わせて職場環境を柔軟に変えていけない会社は、障害者雇用で問題を抱えるケースがあります。

他方、人事や経営は理解があるのですが、現場の理解をなかなか得られない職場もあります。同僚から「なぜあの人だけ特別扱いするのか」「あの人ができないことをなぜ私たちがしなくてはならないのか」といったクレームが出て、障害者雇用の継続をやめるという例は少なくありません。

私たちは、こうした企業側の悩みや問題に対しても、セミナー・研修などを開催する、個別の情報提供をするなどの支援を行っています。

さらに私たちは以前から、就労定着支援にも力を入れています。障害のある皆さんは、働き続けることで得られる喜びや楽しみによって状態が良くなったり、新しい仕事を希望するようになったり、次のキャリアを考えて転職・異動を望むようになったりすることがあります。一人ひとりの状況を確認し、細かくヒアリングしながら、これらの希望をかなえるように動くのも、私たちの仕事の1つです。就労支援サービスの提供を通して、1人でも多くの「自分らしく働く」を実現し、働くことで心を元気に、人生を豊かにできる好循環を作っていきたいと考えています。今後も私たちは、「障害のない社会をつくる」ために力を尽くしていきます。

【text:米川 青馬 photo:平山 諭】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.71 特集1「障害者雇用・就労から考えるインクルージョン」より抜粋・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
小野寺 規子(おのでら のりこ)
株式会社LITALICO 執行役員 LITALICOワークス事業部長

前職で約7年、障害者総合支援施設における就職支援に携わる。社会の側を変えなければならないという思いから2012年LITALICO入社。ジョブコーチ、サービス管理責任者、HR統括グループマネージャーなどを経験、相談支援事業の立ち上げにも関わった。2022年より現職。

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