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インタビュー

社会を変えるリーダー

NPO法人 CRファクトリー 代表理事 呉 哲煥氏

  • 公開日:2023/02/06
  • 更新日:2024/05/16
NPO法人 CRファクトリー 代表理事 呉 哲煥氏

組織には機能体と共同体とがあると、社会学では教える。目的を達成するために作られた組織が前者、メンバーの安楽や心地よさを追求するのが後者だといわれるが、昨今、機能体たる企業において、心理的安全性が重視されるように、両者を隔てる壁は案外低くなっているのではないか。
良き共同体(コミュニティ)の創出を目標とするNPO法人の代表理事に話を伺った。

「CommunicationとRelationを作り出す工房」
サービスの客体を主体に
両親とボランティアサークルの影響
コミュニティから離れる力も重要

「CommunicationとRelationを作り出す工房」

名は体を表す。CRファクトリーは、「CommunicationとRelation(つながり)を作り出す工房」であり、「すべての人が居場所と仲間をもって心豊かに生きる社会」の実現を目指す。代表理事、呉哲煥氏がこう説明する。「血縁、地縁、会社縁が希薄化するなか、私たちが目を向けているのが『選択縁』『関心縁』『趣味縁』の充実です。つまり、NPOや市民活動、サークルといった、参加者が自分の関心や趣味によって主体的に選び取るという形のコミュニティの活動を支援し、参加する人たちが増えることを目指しています」

事業内容は主に4つ。「個人で参加できる、コミュニティマネジメントが学べる講座の開催」「自治体からの、同じくコミュニティマネジメントに関する講座やワークショップの受託運営」「コミュニティの状態を測定する診断ツールの提供」、さらに「具体的なコミュニティに対するコンサルティング(伴走支援と呼ぶ)」だ。寄付型、会員型ではなく、事業収入型のNPOだという。

サービスの客体を主体に

伴走支援の例として、横浜市にあるNPO法人「こまちぷらす」のケースを紹介しよう。

同法人は子育て支援を目的としており、「こまちカフェ」という飲食スペースも経営している。CRファクトリーはどんな支援を行ったのか。

「NPOや市民活動には、リーダーだけが頑張り、独走し、時には孤立してしまうという問題が起きがち。それを防ぐために、カフェ内外のイベントや取り組みを担当するコーディネーターという役職を新設、育成したのです」

コーディネーターには重要な役割がある。「こまちぷらす」の仲間を増やすことだ。「子育て期にあたるカフェの女性客に対して、複数で来ておしゃべりをしている場合はそのままにし、1人で来ている場合はさりげなく声をかけ、悩み事を聞き出し、イベントにお誘いする。カフェに偶然、『興味』をもってくれた人が、イベントに参加して、その場や関係者に『愛着』を感じ、自分も何かできるかも、という『主体』が芽生える。そうしたステップが確実になるようなノウハウを提供しました。『こまちぷらす』の代表者から、組織が劇的に変わったと、非常に喜んでいただきました」

サービスの客体が主体に変貌していく。すごい仕組みだ。「主客融合です。常連客がいつの間にか厨房で手伝っているスナックみたいな(笑)。日本は高度成長期以降この方、企業社会が発展し、何もかもがお金で買えるサービスが充実してきた。自助ですね。一方で行政と社会保障も充実してきた。こちらは公助です。しかしながら、互いに、あるいは組織を通じて助け合う、互助や共助の場面が、どんどん少なくなっています。そこを、この20年でどう編み直していくか。そこが私の一番重要な問題意識です」

両親とボランティアサークルの影響

呉氏は“社会派”の両親のもと、東京・世田谷で生まれた。両親が知り合ったのは勤務先の東映で、父はドキュメンタリー映画の製作担当だった。父母ともに社会問題に関心が深く、家族そろって休日に、娯楽大作ではなく、社会告発映画を観に行くほど。食卓の話題も、戦争から始まり、公害、家庭内暴力、いじめ等々、社会問題一辺倒。

同様の本も家に溢れていた。「戦争はどうしたらなくなるのか、どうしたら良い世の中が実現するのか、小学生の頃からずっと考えていました。高校のときは生きる意味が分からずに苦しくて、その思いを日記に綴っていました。死にたいとは思っていませんでしたが、積極的に生きたいとも思っていなかった」

大学に入り、たまたまボランティアサークルに所属することに。養護学校の生徒や難病を抱えた子どもたちに勉強を教えたり、地元の海岸を清掃したり、阪神・淡路大震災後の被災地支援に赴いたりした。「そこでの活動を通じて、私の人生が大きく転換したのです。そのサークルは個性溢れる仲間がお互いを認め合い、存在を丸ごと受け入れ合うような居心地のいいコミュニティでした。子どもたちや被災者の人たち、そしてサークルの仲間との濃密な交流を通じ、大学の4年間で、もっと生きたい、生きることには意味があるというポジティブな気持ちに切り替わることができたのです。私は単純なので、これが社会問題を解決するソリューションになり得ると。このサークルのようなコミュニティや、人と人とのあたたかなつながりを世の中に広めよう、と思ったのです」

社会勉強のため、大学卒業後、3年間だけ会社員生活を送り、2001年、26歳のときに独立。最初に取り組んだのは、公立の図書館所蔵のサークル誌を多数借り出して、記載されている連絡先に電話し、困り事を聞くことだった。そこで分かったのは、会報誌の発行や会員への連絡、名簿作成といった事務負担の過大さ。そこで、各種サークルの事務代行を引き受ける事業を立ち上げる。が、それだけで食べられるわけでもなく、他のアルバイトをしながら、何とかしのいだ。

CRファクトリーを立ち上げたのは2005年のことだ。「当時はコミュニティ支援をやっていると言っても、それって何?食べていけるの?という反応ばかりでした。それが2011年の東日本大震災を境に大きく変わった。それは大切なことですねと、異口同音に言われるようになりました」

CRファクトリーには現在20名ほどの職員が働いており、多数のボランティアスタッフもいる。組織運営で大切にしていることを聞くと、「強さとあたたかさのバランス」という言葉が返ってきた。

強さというのは、成果であり、仕事のスピードであり、推進力をいう。一方のあたたかさは、活動に参加する楽しさ、その場の居心地の良さ、充実感を指す。「成果が抜群で、推進力があるんだけれども、メンバーが疲れ切っていては駄目ですし、逆に楽しくて居心地がいいんだけれども、成果に乏しいのも問題です。その両方のバランスを心がけています」。これは企業でもあてはまるはずだ。

コミュニティから離れる力も重要

最近ではコミュニティの重要性はますます増している。前述した血縁、地縁、会社縁の減衰と共に、生涯未婚率の上昇、単身世帯の増加などにより、「つながりが希薄な人」が日本には急増している。医学的にも「孤独は喫煙よりも身体に悪い」ことが判明、政府には孤独・孤立対策担当大臣まで設置された。「特に深刻なのが、シニアの男性です。地域に友人を作るほどの時間も余裕もないなか、仕事に邁進してきたところ、引退した途端、自ら望まずとも、社会的孤立に直面してしまうのです」

呉氏はこうした状況に危機感を募らせる。その解決策として、今後20年かけてやりたいことが3つあるのだという。

1つは良いコミュニティを増やしていくことだ。「詩吟、フラダンスといった趣味のサークルや、子ども食堂などの社会派まで、とにかく人々の居場所を増やしていきたい」

もう1つはつなぐ力を強めることだ。「良いコミュニティがあり、参加したいという個人がいても、マッチングがうまくいかない。両者をうまくつなげるコーディネーターや新たな仕組みの創設を考えています」

最後に、2024年の株式会社化を目指し、コミュニティ活動力教育事業という新規事業を構想する。「これまでは、NPOやサークルといった団体支援を主にやってきたわけですが、今後は個人の支援にも乗り出したい。コミュニティ活動力、すなわち、自分にふさわしいコミュニティを見つけ、参加する力、コミュニティでうまくやっていく力、(これが意外と大切なのですが)コミュニティとうまく距離を置いたり、離れたりする力を養う支援をしたいのです。これらは年代を問わず重要で、部活動を考えると、子どもたちにとっても不可欠です。多くの人が自分に合ったコミュニティを2個、3個と増やしながら、ライフサイクルや志向の変化にともなって、時には所属するコミュニティを自在に組み替え、人生を豊かにしてほしい」

加えて、つい最近、動き始めたプロジェクトがある。今年10月、これまでの実践をもとに、研究所を立ち上げた。「幸せなコミュニティとつながり実践研究所」という。「ソーシャルキャピタル研究で明らかになっている健康や幸福感、教育などに関するコミュニティの価値を実践ベースで深めていきたい」

座右の銘は「自分1人で石を持ち上げる気がなければ、2人でも持ち上がらない」というゲーテの言葉だという。「コミュニティをテーマにしているからこそ、この言葉が響くんです。僕も40代後半に入り、挑戦のフェーズに入ってきました。まずは1人で石を持ち上げる覚悟で、チャレンジしていきたい」

強くてあたたかいCRファクトリーのメンバーがわれ先にと石に手をかけてくれるはずだ。

【text:荻野 進介 photo:山崎 祥和】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.68 連載「Message from TOP 社会を変えるリーダー」より転載・一部修正したものである。
RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
呉 哲煥(ご てつあき)氏
NPO法人 CRファクトリー 代表理事

1974年東京都生まれ。静岡大学人文学部社会学科卒業。2001年に独立・起業し、コミュニティ運営・支援事業を開始。2005年にCRファクトリーを設立し代表理事に就任する。著書に『コミュニティマネジメントの教科書』(CRファクトリー)

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