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インタビュー

滋賀大学 小野善生氏

リーダーシップ理論でフォロワーの存在感が増したのはなぜか?

  • 公開日:2022/12/23
  • 更新日:2024/05/16
リーダーシップ理論でフォロワーの存在感が増したのはなぜか?

滋賀大学 経済学部 教授 小野善生氏はリーダーシップ理論の専門家で、特にフォロワーの視点を重視したリーダーシップ研究に力を入れている。リーダーシップ理論におけるリーダーとフォロワーの関係性と、フォロワーの位置付けの歴史的変遷について、小野氏に詳しく伺った。

最初期、フォロワーという言葉は登場すらしなかった
ただ服従する存在から受け身で変革についていく存在に
フォロワーはリーダーと共に変革を推進して組織を支える
リーダーは自然発生的だから状況に合わせて替わり得る
アメリカ経済の事情が理論に強く反映されている
新しい理論がいつも絶対的に優れているわけではない

最初期、フォロワーという言葉は登場すらしなかった

リーダーシップの定義についての歴史を紐解くと、「リーダー」という言葉が初めて辞書に載ったのは13世紀で、「リーダーシップ」という言葉は19世紀といわれています。その間、タイムラグがありました。そして、リーダーシップ研究が始まったのは、19世紀後半から20世紀初頭にかけてです。

最初期のリーダーシップ理論は「資質アプローチ」と呼ばれるもので、資質のある者がリーダーシップを発揮できる、というシンプルな見方をします。資質アプローチでは、フォロワーは基本的に考慮されていません。今では考えられませんが、最初はフォロワーという言葉は登場すらしなかったのです。

ただ服従する存在から受け身で変革についていく存在に

次のトレンドが「行動アプローチ」です。1950~1960年代に、オハイオ研究やミシガン研究、三隅二不二氏のPM理論が出てきました。共通するのは、リーダーシップは資質ではなく行動で決まるという考え方です。行動アプローチでは、フォロワーは「リーダーの影響力を受動的に受け入れる存在」です。この時点では、フォロワーはリーダーにただ服従する者にすぎませんでした。

1960年代後半から1970年代前半にかけては、「状況アプローチ」が流行しました。コンティンジェンシー理論、SL理論、経路‒目標理論などです。やはり基本的にフォロワーは服従する存在でした。

ただ、この間に2つの例外がありました。1つは、1950年代にセルズニックが唱えた「制度的リーダーシップ」です。セルズニックは、組織の全成員に同じ使命感・価値観を共有させることがリーダーの使命だと考えました。フォロワーを同じ使命感や価値観を有する存在と捉えたのです。

もう1つは、1970年頃にグリーンリーフが打ち出した「サーバント・リーダーシップ」です。制度的リーダーシップの流れを汲んで、リーダーは組織の使命に奉仕し、フォロワーにも奉仕の姿勢で接して、組織の使命の奉仕者として成長を促していく存在だ、と捉えました。その後、サーバント・リーダーシップは形を変えながら大きく発展し、現在もおおいに注目されています。

この2つの理論では、フォロワーは「組織・リーダーの価値観を共有して、やや受動的に変革についていく存在」になりました。

フォロワーはリーダーと共に変革を推進して組織を支える

1970年代後半から、フォロワーの存在に注目するアプローチが一気に増えました。

潮流の1つが「フォロワー主体アプローチ」です。なかでも目立ったのが「暗黙のリーダーシップ論」でした。暗黙のリーダーシップ論とは、フォロワーが自らのリーダーシップのイメージに合致する言動をする人を、リーダーシップのある人と認知する、という考え方です。つまり、リーダーシップとは複数のフォロワーによって社会的に構成される現象だ、リーダーシップは幻想だと見たのです。暗黙のリーダーシップ論は他の理論にも強い影響を与え、その後はフォロワーのリーダーシップ認知が考慮されるようになりました。

もう1つの大きな流れが、「フォロワーの成長を促すリーダーシップ論」です。1960年代後半の「特異性-信頼理論」から始まって、1970年代のサーバント・リーダーシップや「LMX理論(リーダー・メンバー交換理論)」、1990年代の「アダプティブ・リーダーシップ」や「フルレンジ・リーダーシップ」、2010年代の「セキュアベース・リーダーシップ」へと連なっています。

共通するのは、フォロワーがリーダーシップの成否の鍵を握るということです。フォロワーはリーダーに主体的についていく存在であり、リーダーはフォロワーの成長を導く存在でなくてはならないという見方が基本にあります。

少し詳しく言えば、LMX理論はリーダーとフォロワーの成熟した人間関係を重視しており、アダプティブ・リーダーシップはフォロワーの困難な問題に向き合い乗り越えるように導くことに着目し、セキュアベース・リーダーシップは、心理的安全性の担保を掲げています。こうした違いはありますが、フォロワーを「リーダーと共に変革を推進して、組織を支える存在」と捉える点では、共通しているのです。ここに来て、フォロワーの存在感はいよいよリーダーに近づいてきました。

リーダーは自然発生的だから状況に合わせて替わり得る

このような経緯のもとで、シェアド・リーダーシップが登場したのが、2000年頃です。

「シェアド・リーダーシップ」にも、いくつかの源流があります。1つは、1960年代に生まれたアージリスの「未成熟・成熟理論」、1980年頃にマンツが提唱した「セルフ・リーダーシップ」、そして「ボスレスチーム論」に至る流れです。ごく簡単にまとめれば、組織の全成員が成熟した個人なら、誰もが自分なりのリーダーシップを発揮できるのだから、ボスなしのチームも作れるだろう、という考え方が出てきたのです。この川がシェアド・リーダーシップに流れ込んでいます。

別の水脈には、1970年代にハウスとバエツが唱えた「自然発生的なリーダー」があります。何か面白いことをしている誰かのもとに人が集い、やがて大きな集団になることがあります。リーダーとフォロワーが自然発生することがあるのです。自然発生的なリーダーの知見は、金井壽宏氏が重視する「フローティング・リーダーシップ」に連なっています。当然ながら、自然発生的なリーダーシップの担い手は、流動的に入れ替わる可能性があります。つまり、リーダーは状況に合わせて次々に替わり得るのです。これもシェアド・リーダーシップの考え方を支えています。

アメリカ経済の事情が理論に強く反映されている

ところで、リーダーシップ理論でフォロワーの存在感が増してきたのはなぜでしょうか?

理由の1つは、先ほどシェアド・リーダーシップの背景で語ったとおりで、誰でもリーダーシップを発揮できるのだ、リーダーは状況に応じて替わってよいのだという考え方が、フォロワーの存在を大きくしました。また、次世代リーダーが切望される世の中になると共に、良きフォロワーが良きリーダーになることが分かってきたことも、フォロワーの注目度を高めています。さらに、ビジネス環境の変化が速くなり、リーダー1人では対応できなくなった側面も大きいでしょう。

以上とは別に、「アメリカ経済の事情が強く反映されている」というのも面白い見方です。1970年代後半から、フォロワーの存在に注目するアプローチが一気に増えましたが、当時のアメリカは経済の衰退期にありました。従来のカリスマリーダーに頼っているばかりではうまくいかない、という経済界の反省が、フォロワーへの注目に向かっていった、と考えることができます。

2001年のエンロン事件や2002年のワールドコム事件が、シェアド・リーダーシップやオーセンティック・リーダーシップの登場を促したことも間違いありません。巨大不正事件が、1人に強大な権力を与えてはいけない、リーダーは倫理的であるべきだ、という反省を生んだのです。

このように、リーダーシップ理論はアメリカ経済の歴史と表裏一体です。理論の多くがアメリカ発ですから、これは当然のことです。

新しい理論がいつも絶対的に優れているわけではない

最後に、私自身の考えをいくつかお話しします。まず触れたいのは、「フォロワーの理想像は、組織や仕事の特徴によってまったく違う」ということです。例えば、シェアド・リーダーシップは、ベンチャー企業なら理想的かもしれません。しかし、軍隊や宗教団体などのヒエラルキー型組織では、若手がいきなりリーダーになることはなかなか考えにくいでしょう。新しい理論がいつも絶対的に優れているわけではありません。古い理論を参考にした方がよい組織もあるのです。

また、現在は心理的安全性がブームですが、心理的安全性を大事にしすぎると、活を入れるような「強いフィードバック」ができなくなるのではないか、と感じています。どの組織でも、強いフィードバックが必要な場面があるはずです。心理的安全性もバランスをとる必要があります。

それから、多様性の時代だからこそ、職場内の対話を通じて、リーダーとフォロワーがお互いをよく知り合い、「共通の大義・共通の価値観・信頼関係・共通認識」を“職場の土台”として作り上げることが極めて大事だ、と感じています。土台ができれば、シェアド・リーダーシップで全員がリーダーの役割、フォロワーの役割を代わる代わる担うことも難しくないはずです。また、多様な人材が一緒に働くときには、新たな人材も加えて話し合って土台を作り直し、職場のパラダイムチェンジをしていく必要もあるでしょう。

先日、ある工場を見学したのですが、現場の方々がプロアクティブに改善提案をしているのが印象的でした。職場の土台がしっかりしているからこそ、こうやって内発的動機を高めて働けるのです。そのベースには、上司・部下の話し合いの積み重ねを経た良好な関係があるはずです。良い土台さえあれば、職場や職種に関係なく、誰もがやりがいをもって主体的に働けるのです。

【text:米川 青馬 photo:角田 貴美】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.68 特集1「自律型組織を育むシェアド・リーダーシップ」より抜粋・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
小野 善生(おの よしお)氏
滋賀大学 経済学部 教授

2003年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。滋賀大学経済学部助手、関西大学商学部准教授などを経て、2017年より現職。『最強の「リーダーシップ理論」集中講義』(日本実業出版社)、『リーダーシップ徹底講座』(中央経済社)など、著書・共著書多数。

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