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インタビュー

青山学院大学 繁桝江里氏

フィードバックは部下との関係構築やチームづくりの好機

  • 公開日:2022/11/07
  • 更新日:2024/05/16
フィードバックは部下との関係構築やチームづくりの好機

360度評価を本人へフィードバックする際、上司は何に注意すればよいのか。望ましくない結果を返さなくてはいけない場合でも、どうしたら前向きな対話の機会にできるのか。対人コミュニケーションを研究する繁桝江里氏に、360度評価に応用できるポイントを詳しく伺った。

将来志向・問題解決志向・チーム志向がネガティブ・フィードバックの衝撃を薄める
褒め言葉もダメ出しも相手の認知とのズレを意識する
同僚からのフィードバックで成果が上がるケースもある
フィードバックの際、実は上司が「部下に評価されている」

将来志向・問題解決志向・チーム志向がネガティブ・フィードバックの衝撃を薄める

最近は、部下だけでなく上司もフィードバックの場面を恐れているのではないでしょうか。なぜなら、対応を間違えると、パワハラだ、離職だ、となりかねないからです。しかし、フィードバック場面は、部下との関係構築やチームづくりの好機です。では、どうしたらチャンスを生かせるのでしょうか。研究に基づき、ポイントをお伝えします。

上司にとって360度評価で最も難しい局面は、部下が望まないネガティブな内容のフィードバックをするときでしょう。「あなたの能力に問題があります」と返せば、部下は当然大きなショックを受けます。では、どうしたらよいのでしょうか。

私の研究では、最も効果的な上司からの言葉がけは、「これから部下が解決・改善していくことを、上司も一緒に考える」と伝えることでした。加えて、「チームへのフィードバック」の方が、対個人よりも、メンバーに肯定的な影響があるという研究結果もあります。将来志向・問題解決志向・チーム志向が、ネガティブ・フィードバックの衝撃を薄めて、プラスに転じていくのです。

つまり、「部下にネガティブ・フィードバックをする際には、チームの問題において、部下個人がこれからどのように貢献できるか、何をどう改善すればよいかを一緒になって考えるのがよい」のです。これが1つ目のポイントです。

これは対チームのフィードバックにもいえることです。フィードバック時に、上司がチーム目標に紐づけ、さらにチーム内の役割や協力体制に触れると、メンバーはチームの課題解決に視点を移しやすくなります。難しいフィードバック内容ほど、丁寧にこの紐づけをしてみてください。

褒め言葉もダメ出しも相手の認知とのズレを意識する

2つ目は、「フィードバックは事前の準備が大切だ」ということです。ポジティブ・フィードバックには、基本的に良い効果があります。ただし、「いつも頑張っていますね」のような漠然とした言葉には、たいした効果はありません。また、悪いところは目に付きやすいものです。だからこそネガティブ・フィードバックをする前には、慎重に情報を集める姿勢が必要です。部下の日常をしっかりと観察した上で言葉をかけましょう。

3つ目のポイントは、「認知のズレを意識する」ということです。褒め言葉もダメ出しも、相手のパフォーマンス認知、能力認知とズレていないか確認しましょう。いくらポジティブ・フィードバックが良いといっても、相手の自己認知と大きくズレたむやみやたらな褒め言葉は、マイナス効果になることさえあります。反対に、相手が的を射ていると感じるネガティブ・フィードバックは、モチベーションを一定程度高めます。

とはいえ、評価とは常に主観的なもので、上司・部下の間には、必ず何かしらの認知のズレがあるものです。そのズレこそ指摘すべきということもあるかもしれません。ズレが生じていたら、部下とよく話し合い、すり合わせて解消しましょう。そうすれば、良い方向に転じていきます。

同僚からのフィードバックで成果が上がるケースもある

4つ目に、欧米の研究では「フィードバックの場で、部下が自らの思いや疑問を発言することには良い効果がある」といわれています。ただ、日本では部下が自発的に発言することは少ないかもしれません。その場合、上司が部下に発言を求め、そうしやすい雰囲気を作れるとよいでしょう。

5つ目に、同僚からのフィードバックによって、凝集性が高まり、パフォーマンスが上がるケースもあります。私の研究では、工場のように相互の安全性モニタリングが必要な場合、同僚間で日常的に行うフィードバックがより安全な行動につながる、という結果が得られています。

ただし、360度評価における同僚からのフィードバックには注意も必要です。自分のパフォーマンスを良く見せるために、同僚の評価を低くする部下がいるかもしれず、最悪の場合、部下同士がお互いを貶める負のループになりかねません。

フィードバックの際、実は上司が「部下に評価されている」

6つ目に、「フィードバック探索」をチーム内に増やす工夫をお勧めします。

フィードバック探索とは、自らフィードバックをもらいにいくことです。研究では、フィードバック探索できる新入社員、自分の課題を周囲に聞いて回れる新人の方が、適応が良く、パフォーマンスも高いことが分かっています。これはあらゆる人にあてはまるはずです。誰しもネガティブ・フィードバックは脅威ですが、自ら獲得しにいけば、プラスの意味づけをしやすくなり、意義・意味を見いだすことにつながるのです。

チーム内のフィードバック探索を増やす第一歩は、「まずは上司がフィードバック探索をすること」です。上司が耳の痛い意見を知ろうとする姿を見せれば、部下も上司に意見を聞いてくるはずです。関係性が良くなったところで、部下に言いたいことをいろいろと言ってもらうのです。こうして「見せる・聞かせる・言わせる」の順で進めていけば、フィードバック探索は増えていきます。

最後に2つ。1つ目に、コミュニケーションの研究者として、「双方向的な対話こそが戦略的ゴールだ」ということをぜひ強調したいです。対話を通してお互いに学び続けるプロセスが、より良いチームや組織を形成する原動力になるのです。

もう1つお伝えしたいのは、フィードバックの際、実は上司が「部下に評価されている」ということです。部下は上司の態度や言葉をよく観察しています。だからこそ、適切なフィードバックができれば、部下との関係が良くなるのです。冒頭でもお伝えしたとおり、フィードバックは部下との関係構築やチームづくりの好機なのです。

【text:米川 青馬 photo:平山 諭】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.67 特集2「360度評価の導入と活用 ─先行研究と実践事例の両面から─」より抜粋・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
繁桝 江里(しげます えり)氏
青山学院大学
教育人間科学部 心理学科 教授

2005年東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学。博士(社会心理学)。山梨学院大学准教授、青山学院大学准教授などを経て、2022年より現職。著書に『ダメ出しの力』(中公新書)、『ダメ出しコミュニケーションの社会心理』(誠信書房)などがある。

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