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インタビュー

三井物産人材開発株式会社 濱田一人氏

変化の時代だからこそ求められる自己と向き合うこと

  • 公開日:2022/08/01
  • 更新日:2024/05/16
変化の時代だからこそ求められる自己と向き合うこと

周囲からの期待が高いハイパフォーマーほど悩みが深いことがある。そうした人たちへの支援はどうあるべきか。鍵を握るのがコーチングだ。自らコーチとして公私でコーチングを実践し、自社の研修にもコーチングを取り入れている三井物産人材開発の濱田一人氏に話を伺った。

自分たちの内面への関心が不十分ではないか
レイバーからワークへ仕事の性質が変わった
EQ(感情知性)を学び感情に向き合う力を育てる

自分たちの内面への関心が不十分ではないか

先行き不透明で将来の予測が困難、いわゆるVUCA(ブーカ)の時代だとよくいわれます。そうした時代観は私も共有していますが、一方で、かくも激動する外部環境については、大いに着目するものの、最近のビジネスパーソンは内部環境、つまり自分たちの内面には十分な注意を払っていないのではないか、というのが私の感触です。

そういうと、そんなことはない、例えば、セルフアウェアネス(自己認識)が人材開発の大切なキーワードになっているじゃないか、と言う人がいるかもしれません。確かにそうですが、その自己認識は自分の内面を探ることよりも、多くの場合、360度評価などを使い、他の人からどう見えるかを探って終わってしまっている気がします。

レイバーからワークへ仕事の性質が変わった

なぜ内面を見ることが重要なのでしょうか。

それは仕事の性質が変わったからだと思います。政治哲学者ハンナ・アーレントは「レイバー」「ワーク」「アクション」という3通りの働き方が人間にはあると見なしました。レイバーは生存のためにする労働、ワークは何かを作り出す仕事、アクションは他者のために、社会に働きかける活動です。

このうち、日本をはじめとした先進国では、レイバーではなくワークの比率が高くなってきた。そのワークのなかでも、アクションにつながるような社会的意義のあるものも増えてきた。

その背景には、知識社会化の進行や株主価値至上主義の崩壊、それこそSDGs(国連による持続可能な開発目標)といった流れがあるはずです。上司から、あるいはお客様から言われたことをきちんとやり遂げればレイバーは事足りますが、ワークやアクションは違います。自分の頭で考え、内面に寄り添い、何をやりたいのかにきちんと向き合わないと、いい成果は生まれません。

問題がより切実なのは、周囲からの期待が高いハイパフォーマーではないでしょうか。外の期待に応えることに一心不乱になってしまい、肝心の内面に対するケアがおろそかになってしまう。特に転職や異動をしたばかりで、本来の強みを発揮できていない状態であれば、なおさらです。

こうしたハイパフォーマーたちに必要なのは、コーチングという利害関係のない第三者による支援だと私は思います。

私も3年ほど前、初めてコーチングを受けました。受ける前は「誰かに話を聞いてもらってどうするんだ。自分のことは自分が一番よく知っているはずだ」と思っていたのですが、不明を恥じました。自分のことを1人で悶々と考えたところで、結果は知れています。誰かと会話しながら自己認識を深めていくと、こんな創造的結論に至るんだと、私にとってセンセーショナルな経験でした。

ハイパフォーマーは自らの経験を通じて何かを学び取り、次の実践に生かす経験学習のサイクルを回すことが得意な人たちです。そういう人たちにコーチングが必要なのか、と思う人がいるかもしれない。でも、自分1人で回すサイクルと、他人の力も借りて回すサイクルとでは、後者の方がその輪が大きく、ダイナミックなものになるのではないかと。

経験学習のサイクルを回すには、現在の自分や仕事の成果をフラットに捉えることが必要です。ところが、人間は目の前の事象に対し、すぐに評価や判断を行ってしまう。本能ともいうべきその行為を封印しなければならない。これが難しい。でもコーチがいればそれが可能です。経験学習に必須の内省も手助けしてくれます。

コーチングとは(それを受けた人に)自分を取り戻させる行為だと思っています。自分自身に向き合い、ワクワクしながら、自分らしく仕事ができる状態になったら最高だと思います。

実はこのコーチングは今、各企業が行っている1on1にも有効なんです。三井物産グループでも、上司による部下の成長支援を目的とし、2018年から1on1を導入しています。

その経験からいえるのは、上司と部下との良質な1on1を実現するには、上司自身が良質な1on1を受けた経験をもつ必要があるということです。フラットな関係での対話を通じたコミュニケーションを経験したことがない上司が、いつもは命令したり叱ったりしている部下に対し、「君は本当は何がしたいのか」「何か困ったことがないか」と、1on1のマニュアルに書かれているような言葉をかけても、実感がこもっていないはずですから、部下も身構えてしまうでしょう。

EQ(感情知性)を学び感情に向き合う力を育てる

そこで、新たに、1on1の当事者となる管理職向けのコーチングサービスを試験的に導入しました。社外のコーチに加え、私自身もコーチとなり、各自に向き合う。こういう質問を投げかけられると、こういう気づきが得られるのかと、まずコーチングの価値を実感してもらうと共に、「部下育成とはあなたにとって何か」といった質問を通し、自己認識を深めてもらいます。日頃「部下育成をしなさい」と言われることはあっても、そんな問いを投げかけられることはないでしょう。そこに気づきが生まれるわけです。

さらにいえば、コーチングまではいかなくても、私はもっと人々が職場で自分の感情を素直に表現する機会が増えるべきだと考えています。他人に自分の内面を吐露したり、弱みを見せたりするのを多くの日本人は苦手としています。そういう人を弱くて情けない、と見なす文化もあり、難しいとは思いますが、レイバーではなく、ワークやアクションが求められる時代、感情を押し殺したままでは、それこそ生産性も創造性も上がらないのではないかと。

そこで提案したいのが、EQ(感情知性)について学び、日々の仕事に生かすこと。EQのスコアが高い管理職ほど、良い1on1ができているということが、われわれがとったデータからも明らかになっています。仲間に寄り添う、部下の感情に配慮するといったことは、心がけただけでは絵に描いた餅に終わってしまうもの。EQについて体系的に学ぶことが重要だと思います。

【text:荻野 進介 photo:伊藤 誠】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.66 特集2「ハイパフォーマーの孤独」より抜粋・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
濱田 一人(はまだ かずと)氏
三井物産人材開発株式会社
人材開発部 マネジメント人材開発室
シニアプランナー

2012年三井物産人材開発に中途入社。新人、グローバル、管理職まで幅広く研修の企画・開発や講師を務め、三井物産・グループ会社・海外における1on1の導入を主導。実践の場に身を置きつつ、データ分析や学会発表といったアカデミックな視点でコーチング領域を探究している。

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