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インタビュー

社会を変えるリーダー

弁護士法人東京パブリック法律事務所代表 NPO法人CALL4代表理事 谷口太規氏

  • 公開日:2022/05/16
  • 更新日:2024/05/28
弁護士法人東京パブリック法律事務所代表 NPO法人CALL4代表理事 谷口太規氏

「社会を変える手段」といわれて、すぐに思いつくのが法律だ。 新しい法律ができれば、それまでにはなかった社会の仕組みが1つ増える。 一方、同じ法律に関することだが、訴訟を通じて社会を変えることも可能だ。 国や自治体を被告とする訴訟がそれで、一般に公共訴訟といわれる。 その支援と普及に取り組んでいるのが弁護士の谷口太規氏。 司法で社会を変えるという「思い」を伺った。

社会課題の解決のために―公共訴訟を支援するということ
教員の過重労働という問題
司法の限界を感じ、アメリカ留学
プロボノにより運営されるCALL4

社会課題の解決のために―公共訴訟を支援するということ

公共訴訟の支援に特化したWEBサイト「CALL4(コールフォー)」は大きめの人物写真をふんだんに使ったつくりで、一見すると、名もなき市井の人の歩みを紹介するノンフィクション・サイトのようだ。サイト名は「呼びかける」という英語、Call forとかけており、4とは行政、司法、立法の三権に加え社会を形成する4つめの力、「市民」を意味する。

公共訴訟とは、社会課題を解決するため、国や行政を相手に起こされる訴訟のこと。例えば、同性婚や、海外在住の日本人に裁判官の国民審査が認められていない現状に対し、それぞれ起こされている訴訟が、該当する。

こうした訴訟は最高裁判所まで進むケースが多く、結審までには長い時間がかかる。勝訴を期すには専門家による意見書などの準備が欠かせず、費用もかさむ。困難な上に見返りも少ないため、訴訟活動を引き受けてくれる弁護士も限られる。

そうした現状を改善するために、このサイトが立ち上げられた。2019年2月のことである。

サイトを運営する同名のNPO法人の代表理事、谷口太規氏がその役割をこう説明する。「ここでは各訴訟の費用を寄付によってまかなうクラウドファンディングのシステムを提供しています。読み手に共感してもらえるよう、訴訟の経緯を写真と文字、あるいは漫画や動画で分かりやすく紹介し、応援メッセージも送れます。さらに主張書面や証拠、判決といった訴訟資料を共有するデータベース的機能もあります。公共訴訟では、国や自治体の重要な意思決定が露わになります。その文書を公共財として保管、公開しているわけです」

教員の過重労働という問題

どんな案件が掲載されているのか。

谷口氏が真っ先に言及したのが、38年間勤め上げ、定年退職した小学校の元教員が、公立学校の教員に適用される給特法(正式名称:公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の労働基準法違反を問う訴訟。「形式は残業代の請求訴訟なのですが、それが本来の目的ではありません。給特法は残業代を固定化させて、教員の時間外勤務をないものにしてしまう問題のある法律で、結果、学校長が効率的な教員の活用法を考えなくなり、他方で教員の過重労働が進み、子どもたちと向き合う貴重な時間を奪っています。

この事例がサイトに掲載されると、特に現役の教員から多くの声が寄せられ、多くの寄付も集まりました。『自分たちのために立ち上がってくださり、ありがとうございました』と」

教員関連では、昨今、企業でも問題になっている副業(兼業)に関する訴訟も掲載されている。

都立高校の教員が趣味で描いていた育児漫画が評判となり、出版社から単行本化のオファーが舞い込む。学校を通し都の教育委員会に兼業を申請するものの、1カ月後、書類はそのまま返却された。許可でも不許可でもなく、申請そのものがなかったことにされたのだ。その理由の開示や判断の妥当性の検証を求め、当の教員が起こした訴訟である。「まったく誰かのことを傷つけるような内容の漫画ではないですが、万一、漫画に対する批判が生じたりしたとき、責任問題となることを教育委員会が避けたのかもしれません。NOだったら理由を示さないで無条件で受け入れろ、というわけであまりにもおかしい」

他にも、性別変更時に必須の生殖腺などの除去手術を不要とするよう求める訴訟、羽田空港新ルート設定の取り消しを求める訴訟などが掲載され、公共訴訟となり得る案件の幅広さを実感する。

谷口氏は弁護士で、本職は池袋にある東京パブリック法律事務所の代表だ。同事務所は東京弁護士会がその設立や運営を支援する公設事務所の1つで、生活困窮者や高齢者、障害者、外国人といった社会的弱者が当事者となる案件を積極的に引き受ける。「依頼者として受け入れるだけではなく、ニーズをいち早く察知し、こちらから駆け付けるアウトリーチ活動にも力を入れています」

京都大学総合人間学部出身。高校時代は生徒会、大学では環境問題のNGOに所属。1997年に開催された地球温暖化防止京都会議にはその一員として参加した。「地球温暖化防止は人類にとって絶対的な善だと思っていたのに、発展途上国の代表は、『発展する権利』を掲げ、過剰な規制に反対していました。私のなかの価値観が揺らぎました。翌年、バックパッカーとしてアジアを回ったのですが、最初に訪れたバンコクで旅の資金50万円をすべて騙しとられてしまったんです。この世は別の論理で動いている人もいる。こちらも、それまでの私の価値観を揺るがす出来事でした」

卒論のテーマにはアクティビズム(積極行動主義)を選んだ。「多様な価値観が並び立つなか、果たしてそれは成立するのかと。社会を変えるべく、実際に行動を起こしている人たちにも話を聞いた。結果、結論や正解ではなく、それらを希求し、人々が議論する場こそが大切だと気づいたんです。ただし、声が小さい人もいるし、うまく話せない人もいるから、代理人が必要となる。それができるのが弁護士ではないかと思い、司法試験を受けることにしたんです」

司法の限界を感じ、アメリカ留学

2005年から弁護士活動をスタートする。最初に籍を置いたのが、現在代表を務める東京パブリック法律事務所。「借金が原因の自己破産をよく担当していました。依頼者は非正規で働く人が多く、家計簿を見ると、子どもの塾代が記載されている。自己破産が認められるためには、塾をやめてもらわないといけない。でもあるとき、気づいたんです。塾に行かなければ学力は低いままで、思うような学校に進学できず、親と同じ低賃金の仕事に就くしかないという循環が起きることも少なくない。貧困の再生産です」

司法の限界を感じた谷口氏は弁護士業務とは別に、貧困家庭の子どもに無償で勉強を教える活動を池袋で立ち上げた。「そこから、勉強に集中できない子には食事が十分にとれていない子もいる。だから子ども食堂も大切だ、勉強の場だけでなく居場所も必要だと、地域づくりに足を踏み入れます。実績も生まれ、地域づくりがどんどん面白くなりました」

その理論を本場でしっかり学ぼうと一念発起、2015年から、フルブライト奨学生としてアメリカのミシガン大学ソーシャルワーク大学院に留学する。その間、また卒業後も大学の近くのデトロイトにあった公設弁護士事務所でソーシャルワーカーとして働く。「少年時代に犯した罪で無期刑(絶対的無期刑)を科された人たちが、連邦裁判所によって当該刑が違憲と判断されたため、釈放されることになったんです。刑務所に最長50年、最短で25年いた、いわば浦島太郎状態の元少年375名を地域にうまく受け入れるプロジェクトを立ち上げ、評価されました」

当時はドナルド・トランプが選挙で当選し、大統領になった時期と重なっており、そのトランプが難民や移民の入国を制限する、通称イスラム教徒旅行禁止令と呼ばれた大統領令に署名した。

そのニュースに接した谷口氏が、アメリカでも、こういう形で人々の人権が制限されていくのかと暗澹たる気分に陥っていたところ、事態は意外な結末を迎えた。大統領令が出た翌日、たくさんの人たちが「まだ司法がある」と言い、アメリカ自由人権協会という団体に何億円という寄付が集まる、そして、その団体がその資金を使って全国の空港に弁護士を派遣し、たくさんの当事者の話を聞き取り、連邦裁判所に出した緊急申し立てが認められ、その大統領令が差し止められたのだ。

谷口氏が振り返る。「自分はサボっていた。諦めるのはまだ早い、と痛感しました。日本で地べたを這う活動を行い、頑張ってきたつもりだけど、それは既存のシステムのなかであがいていただけ。多くの人を呼び込んだり、多様な仕組みを採り入れたりすれば、日本でも司法の力を強めることができるはずだと。その具体策が、帰国後に立ち上げたCALL4というわけです」

プロボノにより運営されるCALL4

CALL4は当初4名でスタートしたものの、この3年あまりで40名近くまで増えた。全員がマーケティングやPR、コンサルティング、編集、デザイナーといった本業を別にもち、いわゆるプロボノとして活動に関わっている。居住地も東北から関西までバラバラ、ほとんどの仕事はオンラインで完結する。「社会をより良い方向に変えていくことに、自分の専門力を生かしたいという動機で参加してくれています。対価の要否に関しアンケートをとったら、無償で結構、この活動に加わり社会を良くするのが報酬というのが皆さんの答えでした」

現在、法律事務所とNPO法人という2つの組織の長である谷口氏。どちらにおいても、組織運営のコツは「エンパワメント」だと考えている。「芝居には、最初に脚本ありきで、そのとおりに役者が演じるやり方と、役者は決まっており、その役者にふさわしい脚本を後から作るというやり方があります。後者の脚本を当て書きといいますが、私はこの当て書き方式に惹かれます。それぞれがもつ自分の強みや魅力を生かせる舞台を準備する。そのことで各自はエンパワメントされ、自発的に動く。これによりこちらが予想もしていなかったようなパフォーマンスが発揮されることがあります」

当て書きは難しい。徹底的にその人を理解し、信じなければ作れない。それをやり切る自信があるのだろう。

【text:荻野 進介 photo:山崎 祥和】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.65 連載「Message from TOP 社会を変えるリーダー」より転載・一部修正したものである。
RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
谷口 太規(たにぐち もとき)氏
弁護士法人東京パブリック法律事務所 代表
NPO法人CALL4 代表理事

京都大学総合人間学部卒業。2005年弁護士登録。同年から2015年まで東京パブリック法律事務所、法テラス埼玉法律事務所。アメリカ留学を経て2018年、CALL4の運営組織である一般社団法人Citizen’s Platform for Justice(現在はNPO法人CALL4)を立ち上げる。2019年より現職。

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