コラムCOLUMN

THEME キャリア自律

インタビュー筑波大学 岡田昌毅氏

キャリア自律は日々の仕事や人生の発達と影響し合う

キャリア自律は日々の仕事や人生の発達と影響し合う

「社員がキャリア自律をすると、会社を辞めてしまうのではないか?」。そうした懸念を抱く人事の方が多いのではないだろうか。成人期の職業キャリア発達研究の第一人者・筑波大学教授 岡田昌毅氏に、研究成果と、ご自身の経験も踏まえたキャリア自律に対する考えについて詳しく伺った。

個人がキャリア自律をすると会社への愛着が高まる

私自身が以前、企業の人事部に勤めていましたので、人事の皆さんが「社員がキャリア自律をすると、会社を辞めてしまうのではないか?」という気持ちになることはよく理解できます。

私は2009年、当時日本電気の人事部に所属していた堀内泰利先生と共同で「キャリア自律が組織コミットメントに与える影響」を研究したのですが、堀内先生もそのとき、まさに当事者として、同様の問題意識をもっていました。

その研究結果を一言でまとめると、「社員がキャリア自律をすると、会社への愛着が高まる可能性が高い」という結論になりました。もちろん全員がそうとは限りませんが、キャリア自律した個人は会社を辞めるどころか、むしろ組織を一層好きになることが明らかになったのです。

詳しく説明すると、キャリア自律は、仕事のやりがいや充実感、自己のキャリアに対する肯定的評価につながり、今後のキャリアの見通しを高めて「キャリア充実感」を促進します。そのキャリア充実感が、組織のために進んで貢献しようとする「情緒的コミットメント」を高めるのです。

一方で、キャリア自律が進むと、辞めれば失うものが大きいので組織に残る「功利的コミットメント」が下がることも分かりました。

つまり、私たちの研究の知見では、社員のキャリア自律を高めると、仕事に一層の充実感を覚え、組織や仲間のことをもっと好きになる社員が増えて、反対に打算的に働く社員は減る、というわけです。キャリア自律を高める施策を打つと、優れた社員が多く辞めてしまうのではないか、という懸念は、実はさほど必要ないものかもしれません。

日々の仕事と悩みを起点にしたキャリア自律が多いのでは

ところで、私が最近気になっているのは「キャリア自律とは何か?」ということです。

なぜかというと、「岡田さんは、キャリア自律をしていますよね」と、何度か同じようなことを言われたからです。しかし実は、私自身は、自分がキャリア自律をしているとはあまり思っていないのです。それでは、キャリア自律とはいったいどういう状態なのでしょうか。私のキャリアを題材にして、少し考察したいと思います。

私は、大学は電気工学科出身で、新卒時には新日本製鐵(現日本製鉄)にエンジニアとして入社しました。ところが少しずつ、「自分はエンジニアに向いていない」と感じるようになってきました。そこで社内公募に手を挙げて、教育や人材育成を行う部署に移りました。

正直にいえば、当時の気持ちの半分は「人に関わる仕事に就きたい」で、もう半分は「エンジニア職から逃げたい」でした。キャリアを計画的にデザインしたわけでもなく、100%ポジティブな意思で異動したわけでもありません。

その後、新日本製鐵と新日鉄ソリューションズ(現日鉄ソリューションズ)で人材育成に関わるうちに、今度は「自分には人材育成の専門性が不足している」「私には社員を支援できるだけの力がない」といった悩みが大きくなってきました。そこで筑波大学社会人大学院のカウンセリングコース(現カウンセリング学位プログラム)に入学を決めたのです。

当時の私はキャリアカウンセリング力を身につけたい一心で、教員になろうなどとは考えていませんでした。ところが大学院入学が縁となり、私は今も筑波大学に在籍して働いています。

以上の話でお分かりのとおり、私はただ、日々の仕事のなかでその都度直面した悩みを解決するために、異動したり学んだりしてきただけなのです。また、一つひとつの仕事を丁寧に行い、顧客や仲間を大事にしながら、質の高い成果を出そうと心がけてきただけなのです。その結果、今では周囲から、キャリア自律している人と見られているようです。

実は日本には、私のようなタイプのキャリア自律が多いのではないか、と感じています。キャリアを計画的にデザインするというよりも、日々の仕事に真剣に向き合ってきた結果、キャリア形成が進み、あるときに人生が大きく変わった、というビジネスパーソンがたくさんいるのではないかと思うのです。言い換えると、キャリア自律を含む職業キャリア発達は、日々の仕事とも、人生全体の心理・社会的発達とも、相互に影響し合うものです。ですから、社員のキャリア自律を進めたいのなら、日々の仕事や人生全体の発達にも併せて関心をもつ必要があります。単に職業キャリア発達だけを進めれば、キャリア自律する、というものではないと考えます。

上司が自身のキャリアについてよく考え悩むことが先決だ

私は以上を踏まえて、社員のキャリア自律を促すには、気づきの場、手を挙げられる場、キャリア支援の3つが大切だと考えています。

「気づきの場」とは、階層別研修などで過去のキャリアを振り返り、今後のキャリアを考える時間のことです。「手を挙げられる場」とは、社内公募制度などのことです。私が社内公募でエンジニアから人材育成に移れなかったら、今のキャリアはありませんでした。最近は2つの場をすでに用意している企業が多いと感じていますが、さらなる工夫が可能かもしれません。

最後の「キャリア支援」は、上司と人事・人材育成が両輪となって行うことです。そのとき、第一に大事なことは、上司自身が自分のキャリアをよく考え、よく悩み、行動を起こして、キャリア自律を目指すことです。そうした経験を積んできた上司には、部下のキャリアについてアドバイスできることがたくさんあるはずです。仕事中のちょっとした時間に自分の考えや経験を少しずつ伝えるだけでも、十分なキャリア支援になります。

ただし、コミュニケーションが適切でなければ、上司1人で部下のキャリア自律を促すのは簡単ではありません。私は、キャリアコンサルタントを間に入れることをお勧めします。

新日鉄ソリューションズ時代、私は上司・若手社員・キャリアコンサルタントの三者面談を通じて、若手社員の早期戦力化と成長の促進、そして上司教育の両方を行う施策を実施しました。三者面談では、キャリアコンサルタントが、上司と部下が普段話さないようなことを話し合うためのツールを用意するなどして、両者の対話を円滑にしていきます。1on1がうまく機能しない場合、こうした方法が有効かもしれません。


*堀内泰利・岡田昌毅(2009). キャリア自律が組織コミットメントに与える影響. 産業・組織心理学研究, 23(1), 15-28.


【text :米川青馬】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.64 特集1「キャリア自律の意味すること」より抜粋・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。


PROFILE
岡田昌毅(おかだまさき)
筑波大学 人間系 教授
筑波大学 国際産学連携本部
働く人への心理支援開発研究センター長

名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士後期課程心理発達科学専攻修了。新日本製鐵(現日本製鉄)、新日鉄ソリューションズ(現日鉄ソリューションズ)にて電気系設備エンジニアリング、人材育成などに従事し、2010年から現職。著書に『働くひとの心理学』(ナカニシヤ出版)など。

おすすめダウンロードレポート

関連するテーマ

関連する課題