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インタビュー

特定非営利活動法人キャリアカウンセリング協会 藤田真也氏

キャリア自律とは、外的/内的キャリアのバランスを自ら決めること

  • 公開日:2021/12/24
  • 更新日:2024/05/17
キャリア自律とは、外的/内的キャリアのバランスを自ら決めること

従業員のキャリア自律を推進する際、キーパーソンとなるのがキャリアコンサルタントだ。では、キャリアコンサルティングとはどのような仕事なのか。キャリアコンサルティングは今どのように変化しているのか。キャリアカウンセリング協会理事長の藤田真也氏に伺った。

求められる「個人への支援」と「組織への支援」
キャリアコンサルタントは最初からキャリア自律の推進役
キャリア自律は創造的・主体的な仕事の基礎
相談者のキャリアへの関心はどんどん高まっている
不安の強い時代だからこそ内的キャリアの納得感が必要

求められる「個人への支援」と「組織への支援」

キャリアコンサルタントといえば、以前は、履歴書・エントリーシートの書き方を教えたり、面接対策のロールプレイングをしたり、転職・異動・人間関係などの「お悩み相談」に乗ったりする仕事、という印象が強かったのではないでしょうか。

しかし、現在のキャリアコンサルタントに求められている役割は、そうしたお悩み相談も含みつつ、相談者が自分らしい仕事や生き方を選択していくための援助を行う、つまり「個人のキャリア自律」を支援していくことです。

また、そうした「個人への支援」以外にもう1つ、従業員のキャリア自律に必要な施策を人事部門と協力して企業に提案していくという「組織への支援」の役割も求められるようになっています。後ほど説明するセルフ・キャリアドックの取り組みがそれにあたります。

キャリアコンサルタントは最初からキャリア自律の推進役

ところで、「キャリアコンサルティング」という言葉が、キャリアカウンセリングに代わって日本に広まりだしたのは、2001年のことです。厚生労働省によって策定された第7次職業能力開発基本計画に初めてこの用語が記載されました。その後、キャリアコンサルティングは徐々に日本に浸透していき、2016年に「キャリアコンサルタント国家資格」ができて今に至ります。国家資格のキャリアコンサルタント登録者数は、2021年8月現在で5万9755人。そのうちの7割程度が企業に所属する方々、約1割が大学・学校関係者、2割ほどがハローワーク・転職エージェント・派遣会社などの需給調整機関に所属する皆さんです。

キャリアカウンセリングからキャリアコンサルティングに変わった背景には、労働生産性向上とキャリア転換という2つの理由があります。2001年当時、日本の人口減少はすでに大きな社会問題であり、労働生産性の向上が急務でした。また、産業構造がどんどん変化してニーズがなくなる職種が多く出るなか、伸びている職種へのキャリア転換を促す必要もありました。キャリアコンサルタントは、個人のキャリアをより良くするアドバイスをして、時にキャリア転換を勧めながら、国や組織の労働生産性を高めるために導入されるようになったのです。

この役割は今も変わっていません。最近の日本企業では、キャリアコンサルティングとキャリア研修などを組み合わせて、従業員の主体的なキャリア形成を体系的・定期的に支援する「セルフ・キャリアドック」の導入が盛んになってきています。このセルフ・キャリアドックの目的は、従業員のキャリア自律を通した従業員満足度の向上、組織の活性化、労働生産性の向上なのです。

触れてきたように、キャリア自律は、現代に働く個人に欠かせないものですが、それだけでなく現代企業にも必須だといえます。従業員のキャリア自律は、組織の活性化や労働生産性の向上につながるからです。

キャリア自律は創造的・主体的な仕事の基礎

ただ、そのように説明すると、「従業員のキャリア自律を促すと、優秀な人材が主体的に会社を辞めてしまうのでは?」と、不安を抱く経営者や人事の方が少なくありません。

結論から言えば、それは杞憂であることが多いです。なぜなら第一に、優秀な人材はすでにキャリア自律を果たしているケースが大半だからです。その会社で働くことを自ら選択して残っているのなら、少なくともすぐに辞めることはないでしょう。第二に、優秀人材はすでに高い評価を受け、良い仕事を与えられて、正当な処遇を受けていることが多いからです。その環境に不満がなければ、一層辞める可能性は低いはずです。それでも優秀人材が辞めてしまうならば、会社や仕事の魅力を高めていくことを考えるべきでしょう。

もし組織内に創造的・主体的な仕事を増やしたいのなら、多少のリスクを負ってでも、キャリア自律を推進することをお勧めします。なぜなら、従業員のキャリア自律を進めることは、自ら考えて選択できる人材を増やすことだからです。キャリア自律は、創造的・主体的な仕事の基礎となるものなのです。

相談者のキャリアへの関心はどんどん高まっている

ところで、日本のキャリアコンサルティングの形は、年々少しずつ変わっています。

図表1は2010~2017年の相談内容の変化を調査した結果です。まず一目瞭然なのは、履歴書・エントリーシート、面接、職業適性・自己分析などの基本的な相談が激減していることです。

<図表1>キャリアコンサルティングの相談内容(2017年と2010年の比較)

<図表1>キャリアコンサルティングの相談内容(2017年と2010年の比較)

反対に大きく増えたのが、「職場の人間関係」「現在の仕事・職務の内容」「今後の生活設計、能力開発計画、キャリア・プラン等」「部下の育成・キャリア形成」などの相談です。人間関係を除くと、関心の中心は、目先の転職相談のようなことから、将来に向けての自分や部下のキャリア設計へと移っています。まさにキャリア自律を促すキャリアコンサルタントの出番が来ているわけです。

ただ、2020年のコロナ禍以降、流れはまた大きく変わりつつあります。公表データはまだないのですが、オンライン相談が対面相談を上回っているといわれています。また、現場のキャリアコンサルタントたちの声をまとめると、先々のキャリアに強い不安をもつ人が増えている、メンタル不調の相談が増えている、部下支援に悩むマネジャーが多い、反対に人間関係に関する相談は減っている、といったことをよく耳にします。

不安の強い時代だからこそ内的キャリアの納得感が必要

一方、日本企業で働く個人のキャリア自律を妨げる要因は、実は長年変わっていません。それは「同調圧力」と「損害回避欲求」です。

つまり、日本企業で働く皆さんは、組織内の空気を敏感に感じ取り、忖度してしまうがゆえに、自らが進みたい方向に一歩を踏み出す決断ができないケースが多いのです。また、年功序列で40代、50代が自動的に良い待遇を受けられる会社では、途中で辞めると自分だけが損をすると考えて、思いきった決断を躊躇してしまう方も数多くいます。

さらに、私の実感では、ここ数年で、相談内容をより難しくする要因が3つ出てきました。

1つ目は、社会の先行きの見えにくさです。急速かつ継続的なビジネスの変化、新型コロナウイルス、甚大な自然災害の多発などを受けて、将来に強い不安を感じる方が増えています。

2つ目は、人生100年時代を迎えて、働く期間が長くなっていることです。自分は果たして70歳、75歳になっても通用するのだろうか、あるいは、どのような選択が自分にとって幸せなんだろうかという悩みを吐露する方が確実に多くなりました。

3つ目は、プライベートの問題がますます多様になっていることです。例えば、自身の認知症への不安、老老介護、認認介護、子どもの引きこもりなどの問題を耳にする機会が増えました。

キャリアコンサルタントが以上の5つの要因を解決するのは簡単ではありません。しかし、それでも踏みとどまって対話を続け、相談者が納得のいく形で主体的に決断することを支援するのが、プロのキャリアコンサルタントです。

その際、私が最も大切だと思うのは、「キャリア自律とは、外的キャリアと内的キャリアのバランスを自ら決めることだ」という見方をすることです。現代では、仕事内容・地位などの「外的キャリア」だけを突き詰めても、納得のいく決断をするのは難しい。ワーク・ライフ・バランスも含めた働く動機・価値観などの「内的キャリア」を加味して、どこでバランスをとるかを考えることが欠かせません。別の言い方をすれば、「生き残る」ための仕事の選択と「幸福になる」ための仕事の選択*のバランスをどこでとるのかを考え、決めなくてはならないということです。この選択に正解はなく、自分で決めるしかありません。不安の強い時代だからこそ、本人の価値観や思いやプライベートを考慮したキャリアでなければ、決して納得感を得られないのです。

ですから、相談者の外的キャリアと内的キャリアのバランスを、寄り添いながら一緒になって考えられるキャリアコンサルタントが、これからますます活躍するに違いありません。

*古野庸一(2019)『「働く」ことについての本当に大切なこと』 白桃書房

【text :米川青馬】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.64 特集1「キャリア自律の意味すること」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
藤田真也(ふじたしんや)氏
特定非営利活動法人キャリアカウンセリング協会 理事長

1983 年日本リクルートセンター入社。企業内研修の研究開発畑を歩み、リクルートマネジメントソリューションズ執行役員(管理部門担当)、リクルートエージェント(現リクルート)監査役などを経て、2014年より現職。

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