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インタビュー

立教セカンドステージ大学 河村賢治氏 栗田和明氏

多様な50歳以上が共に学んで次のステージへ踏み出す

  • 公開日:2021/06/14
  • 更新日:2024/05/20
多様な50歳以上が共に学んで次のステージへ踏み出す

ミドル・シニアの可能性を拓く際には、既存の研修以外の学びの場が必要かもしれない。立教セカンドステージ大学は、50歳以上の「学び直し」「再チャレンジ」「異世代共学」を目的とするユニークな場だ。学長補佐で立教大学法学部教授の河村賢治氏、講師で立教大学名誉教授の栗田和明氏にお話を伺った。

人生のセカンドステージの「入り口」での学び
未知の見方、生き方、出会い、経験、問いを得られる場
若い学部生や留学生との異世代共学も盛んに行っている
受講生の思考を揺り動かし刺激を与えるのが教員の役割
修了生は同窓会で多様に活動しセカンドステージを謳歌する

人生のセカンドステージの「入り口」での学び

河村:立教セカンドステージ大学(RSSC)は、2008年4月に立教大学が50歳以上のシニアのために創設した学びの場です。当時、団塊世代が一斉に定年退職したため、そうした方々の退職後サポートが社会課題になっていました。RSSCは、人生のセカンドステージにおいて、受講生が「自由な市民」としての生き方を自らデザインできるようにサポートすることをコンセプトにスタートしました。

栗田:RSSCは、いわばセカンドステージの「入り口」です。入り口で学んだことが、今後長く続くセカンドステージで必ず役に立つ、という発想でカリキュラムを用意しています。

河村:人によっては、サードステージ、フォースステージかもしれませんが、いずれにしても、これまでと違う物の見方を身につけ、次のステージに進んでいただくための場、と定義しています。

未知の見方、生き方、出会い、経験、問いを得られる場

河村:RSSCの受講生は多様です。例えば、2019年度の本科生は最年少が50歳、最高齢が81歳でした。最も多かったのは60~64歳の方々です。約3割が現役で働きながら、23%ほどの方がボランティアをしながら受講していました。

栗田:受講生の大半は会社員・会社役員や元会社員の方ですが、専業主婦、公務員、自営業の方もいます。受講のきっかけもさまざまで、定年退職直後や退職間近の方が多いのは確かですが、それ以外の転機を迎えて入学する方も少なくありません。多方面から多様な仲間が集まっています。

河村:授業の多くは4限・5限(15:20~18:40)ですから、フルタイムで働きながらの受講はさすがに難しいですが、短時間勤務であれば十分に受講可能です。なお、2021年度からはリアル授業とオンライン授業のハイブリッドとなり、2021年度春学期の金曜日と秋学期の水曜日は1限~5限がすべてオンライン授業になります。

栗田:受講生の多くは週に2~4日、授業を受けていますが、2021年度からはオンライン授業が加わり、より柔軟な選び方が可能になりました。

河村:入学動機で多いのは、「教養・生涯学習」「これからの生き方探し」「人との出会い」の3つです。まとめると、社会で新たな行動を起こしたいのだけれど、何をしたらよいか、何を学んだらよいか、誰とどこで出会えばよいかが分からない、とモヤモヤしている方が大多数です。RSSCは実際に、未知の見方、生き方、出会い、経験、問いを得られる場ですから、選択は間違っていません。

栗田:1つ注意が必要なのは、RSSCは現職の専門性を高めるところではない、ということです。専門を極めたい方は、大学院に進んでいただくのがよいでしょう。RSSCはあくまでも、新たなステージに進もうとする方々が学ぶ場です。

河村:とはいえ、RSSCがカルチャースクールと一線を画しているのは、受講生全員がいずれかのゼミに所属し、自らテーマを決め論文を書くことが義務づけられていることです。各ゼミには栗田先生をはじめとする担当教員がつき、受講生の論文作成や授業理解などをサポートしています。

若い学部生や留学生との異世代共学も盛んに行っている

河村:カリキュラムは必修科目と選択科目に分かれています。必修科目は、ゼミ担当教員などが輪番で、それぞれ専門とする学問をその営みの意義と関連づけて語る「学問の世界A・B」と、「ゼミナール・修了論文」の2つです。選択科目は3群あり、第1群は、古今東西の知的財産に学ぶ「エイジング社会の教養科目群」、第2群はNPO/NGO活動やソーシャルビジネスなどに役立つ「コミュニティデザインとビジネス科目群」、第3群はセカンドステージを満喫するためのヒントを提供する「セカンドステージ設計科目群」です。

栗田:選りすぐりの講師たちが、バラエティーに富んだ授業を用意しています。

河村:例えば、第3群・小谷みどり先生の「最後まで自分らしく」は人気の高い授業の1つです。「死」を医学、民俗学、哲学、社会学、経済学などから多角的に俯瞰しながら、「残された時間をどう生きるか」について共に学び、考えるクラスです。

栗田:もう1つ重要なのが、必修科目・選択科目以外に、若い学部生たちが学ぶ全学共通科目を履修することもできる、ということです。

河村:私たちは、「異世代共学」を極めて重視しています。RSSC受講生が、全学共通科目で学部生に交じって学ぶことは両者にとって良い機会だと捉えています。価値観や文化が大きく異なる若者とシニアが出会うことで、お互いが刺激を受け合うからです。最近では、RSSC受講生が学部1年生の「基礎演習」に参加して、世代が異なる立場から意見を述べたり、留学生たちの「ビジネス日本語中級・上級」の授業に協力して、留学生の顧客役や上司役などに扮して、本番さながらの状況でロールプレイを行ったりもしています。社会人経験・人生経験の豊かなRSSC受講生の存在は、立教全学にさまざまな面で良い影響を与えているのです。

『ライフ・シフト』(東洋経済新報社)には、人生100年時代には異世代が交ざり合い、学校や大学は「あらゆる層の若者と中年と高齢者が互いのことを深く知り、相互の敬意と協力関係をはぐくみ、思いやりの精神を一つの社会規範として復活させるための場になりうる」という言葉が紹介されています。RSSCはそうした場の先駆けとして、異世代共学に積極的に取り組んでいます。

受講生の思考を揺り動かし刺激を与えるのが教員の役割

栗田:私たちゼミ担当者は、受講生の「思考・価値観の揺り動かし」を大事にしています。具体的なシーンをいくつか紹介します。

例えば最近は、社会貢献活動に取り組む受講生が増えたこともあって、SDGsを賞賛する論文が多くなっています。私もSDGs自体は大切な発想だと思います。しかし、正しく活用されているとは限らず、企業などがSDGsを悪用する「なんちゃってSDGs」の事例も見られます。そこで、SDGsを取り上げるなら、褒めるだけでなく、影の側面も見つめてほしい、とよくお伝えしています。

また、中国の東シナ海・南シナ海での挑発的な動きなどを受けて「中国悪者論」を書こうとする受講生がいたら、歴史上、いかに中国から日本に伝来したものが多かったか、あるいは日中戦争でいかに日本が中国を侵略したか、といったことにも注意を向けさせます。

このようにして、反対意見を投げかけて挑発したり、まったく異なる視点から問いを投げかけたりして、受講生の思考や価値観を揺さぶり、刺激を与えるのがゼミ担当者の役割です。企業では、似たような価値観の仲間と働くことが多いでしょうから、揺さぶりを受けて思考や価値観を見直す経験が、貴重な財産になるはずです。

論文を書くことで新たな気づきを得て、実際に思考や価値観が変わっていく方も少なくありません。例えば以前、ご自身の職業に関する国の制度設計に強い不満をもっている受講生がいました。その方は、他国の制度を調査して日本と比較する論文を書いたのですが、その結果、実は日本の制度には良い点も多いことに気づきました。その方は今、その職業に以前とは違う形で関わっています。日本の制度の長所を伸ばしていく発想で取り組めばいい、と気づいたからです。

修了生は同窓会で多様に活動しセカンドステージを謳歌する

河村:もう1つ、RSSCにとって極めて重要なのが、「同窓会」をはじめとする修了生の活動です。

同窓会には、20以上の「研究会・同好会」があります。読書会、茶の湯同好会など、趣味を楽しむ集まりもあれば、ウクレレ合唱団「鈴懸」、プラチナコミュニティ研究会、ソーシャルビジネス研究会など、社会との交流や社会貢献を実践する集まりもあります。

栗田:同窓会は修了生たちの自治組織ですが、私たちと密接な協力関係にあり、授業内に修了生の活動を紹介する時間を設けています。必修の「学問の世界A」のなかで、社会貢献活動を行っている修了生団体の活動報告を行う場を用意しているのです。

河村:同窓会WEBサイトには、活動報告が頻繁に掲載されています。例えば最近では、修了生が設立したNPO法人「シニアの再チャレンジを支援する会」が豊島区共催の第15回社会貢献活動見本市に参加しました。こうした自主的な活動こそ、RSSCの最大の成果と考えています。

なお、私たちは、直接的な再就職支援は行っていません。自分のセカンドステージは、学びや交流のなかで自ら切り拓いていただくことが大切だ、と考えているからです。ただ、同窓会はさらなる学びや交流の大きなチャンスの場ですから、入会を後押ししています。卒業後は、同窓会も活用しながら、ぜひ自分なりのセカンドステージを謳歌していただけたら、と願っています。

【text :米川青馬】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.62 特集1「アフターミドルの可能性を拓く」より抜粋・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
河村賢治(かわむらけんじ)氏
立教セカンドステージ大学 学長補佐
立教大学 法学部 教

早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程退学。立教大学大学院法務研究科教授などを経て、2020年度より現職。2019年度より立教セカンドステージ大学学長補佐を兼務。専門は会社法と金融商品取引法。「ソフトローによるコーポレート・ガバナンス」法律時報91巻3号など論文等多数。

栗田和明(くりたかずあき)氏
立教セカンドステージ大学 兼任講師
立教大学 名誉教授

京都大学大学院博士課程修了。立教大学教授などを経て、2019年より現職。立教セカンドステージ大学には設立当初から講師として関わっている。専門は文化人類学。『移動と移民』『アジアで出会ったアフリカ人』(ともに昭和堂)など、多数の著書・編著書がある。

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