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インタビュー

リクルートワークス研究所 中村天江氏

リモートワークの評価は「ジョブ型」の前に目標管理制度で解決を

  • 公開日:2021/04/12
  • 更新日:2024/05/20
リモートワークの評価は「ジョブ型」の前に目標管理制度で解決を

リモート時代に合った人事評価制度とは何か。リモートワークになって評価に困っている企業はどうしたらよいのか。また、近頃注目を集めているジョブ型人材マネジメントをどう考えたらよいのだろうか。雇用と人的資源管理に詳しいリクルートワークス研究所の中村天江氏にお話を伺った。

導入率8割の目標管理制度、良い目標を設定できれば機能する
内発的動機に基づく目標管理で部下の自律性を引き出そう
「ジョブ型人材マネジメント」が注目されているのはなぜか
日本企業には「ロール型人材マネジメント」が適している

導入率8割の目標管理制度、良い目標を設定できれば機能する

私は、リモート時代に適した評価制度は、日本企業の約8割がすでに導入している「目標管理制度」だと考えています。目標管理制度が十分に機能している会社では、コロナ禍においても特に変わることなく、適切な評価を行えているはずです。実際、私はそうした会社をいくつか知っています。

しかし、多くの企業がリモート時代になって評価に悩んでいます。部下の仕事ぶりが見えずに困っている上司や、正しく評価されるか不安な部下の話を耳にします。なぜか。答えはシンプルで、目標管理制度がよく機能していないからです。

「目標管理制度が機能していない」とはどういうことか、少し詳しく説明します。

大半の企業では、目標管理制度の手続きは比較目標管理制度が機能していればリモートでの評価も困らないはず的しっかり行われています。目標を決めて、半期や1年に1回の面談で、目標達成度を話し合うプロセスが実行されている組織は多いのです。

しかし、以上のプロセスが行われていたとしても、個人の目標と組織目標が連動していないために、個人が目標達成しても組織目標が達成できないことがあります。また、短期的な組織目標は達成できているけれど、中長期的に人材が育っていないという課題もあります。

なぜ機能不全が起きているのでしょうか。原因は、「良い目標を設定できていない」ことに尽きると、私は考えています。上司が、チームや組織のパフォーマンスを本当に高められる個人目標、部下が飛躍的に成長できる個人目標を設定できれば、目標管理制度はよく機能するのです。

しかし、ビジネスの見通しが極めて立てにくい現代では、部下はもちろん、上司が良い目標を設定するのも相当の難題です。おざなりに運用すると、目標管理制度が十分に機能しないのは自然かもしれません。

内発的動機に基づく目標管理で部下の自律性を引き出そう

良い目標を設定するために、私が最も重要だと考えているのは「内発的動機づけ(金銭や名誉などの外的報酬に基づかない、内面に湧き起こった興味・関心や意欲による動機づけ)」です。部下一人ひとりの内発的動機に基づいた目標設定と目標管理をベースにすべきだと思います。

そうしたからといって、すぐにうまくいくわけではないでしょう。しかし、内発的な動機づけに基づく人材マネジメントは、環境変化のなかでも部下たちの自律的な行動を支えます。また、自律的な部下に仕事を任せれば、上司は新たな仕事に時間を割けるようになる。次第にチームや組織のパフォーマンスが高まっていくはずです。

内発的動機に基づいた目標管理ができていれば、リモート環境によって相互不信は生まれないはずです。部下の意思を確認して目標に反映することで、部下自身も自分ごととして自律的に関われるからです。仕事ぶりが見えなくとも、目標管理制度は機能するのです。

「ジョブ型人材マネジメント」が注目されているのはなぜか

メンバーシップ型の日本企業は従来、人材の思いや持ち味を起点にマネジメントを行ってきました。

対して今、日本では欧米型の「ジョブ型人材マネジメント」が話題になっています。ジョブ型では、組織の仕事を分解し、職務を言語化して職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)を作り、その職務ができるであろう人材に職務を割り当てます。日本的雇用の企業では「人に仕事がつく」のに対し、ジョブ型は「仕事に人がつく」のです。

背景には、いくつかの潮流があります。1つ目に、ジョブ型人材マネジメントはすでに世界のスタンダードになっており、中国も含め大半の国はジョブ型です。グローバル競争に勝ち残りたい、高度なIT人材を社外や海外から採用したいと思ったら、現地法人はもちろん、日本本社も旧来型の人材マネジメントでは難しいのです。

2つ目に、多くの日本企業には年功ベースの処遇体系が今も残っており、「仕事内容と処遇の乖離が大きい」という問題があります。優れた成果を残す社員には十分に報い、そうでない社員は相応の処遇に切り替える「人件費の最適配分」のために、ジョブ型を採用したい企業も多いのです。

日本企業には「ロール型人材マネジメント」が適している

しかし、従来の日本的人材マネジメントとジョブ型人材マネジメントは対照的で、移行は決して簡単ではありません。ジョブ型の実現には大変な労力がかかるのです。

そこで私は、従来の人材マネジメントとジョブ型の中間の「ロール型(役割型)人材マネジメント」を提唱しています。ロール型は、仕事内容・成果と処遇との連動という点ではジョブ型人材マネジメントと同じです。ただし、評価基準が職務でなく役割なので、一人ひとりの期待役割を明確化・言語化して、期待役割と役割成果に応じた処遇をします。あくまで人材起点で、チームの顔ぶれを見て仕事内容や役割を決定する点がジョブ型人材マネジメントとは異なります。

ロール型人材マネジメントなら、大変革を行わずとも、グローバル化やDXに対応し、競争力のある人材獲得や人件費の最適配分が可能になるでしょう。日本の賃金制度には以前から役割等級制度があり、なじみがないわけではありません。また、私の研究ではロールが明確だと、キャリア採用で入社した転職者が適応しやすいという結果が出ています。キャリア採用を強化するときにも、ロール型人材マネジメントが適しているのです。

優れたグローバル企業は基本的にジョブ型人材マネジメントですが、実は自社を愛する社員が多く、チームワークにも優れています。チームワーク重視の日本的人材マネジメントとよく似た面もあるのです。日本型とジョブ型のいいとこどりを目指すロール型人材マネジメントは、その意味でも有望だと考えています。

【text :米川青馬】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.61 特集1「リモートが問う人事評価のあり方」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
中村天江(なかむらあきえ)氏
株式会社リクルート リクルートワークス研究所 主任研究員

1999年リクルート入社。就職転職サービスの企画を経て、2009年ワークス研究所に異動。「労働市場の高度化」をテーマに調査研究・長期予測・政策提言を行う。専門は人的資源管理論。博士(商学)。著書に『採用のストラテジー』(慶應義塾大学出版会)などがある。

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