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インタビュー

社会を変えるリーダー

NPO法人ETIC. 代表理事 宮城治男氏

  • 公開日:2021/02/22
  • 更新日:2024/04/10
NPO法人ETIC. 代表理事 宮城治男氏

「NPO法人ETIC.」をご存じだろうか。1993年に設立された日本のNPOの先駆けであり、現在まで日本有数のNPOでありつづけている組織だ。

ETIC.は、起業家精神(アントレプレナーシップ)溢れる人材を育むことをミッションに掲げ、これまでに1600名以上の起業家を育ててきた。その創業者・宮城治男氏は今、何を想うのか。

NPO法人ETIC. 代表理事 宮城治男氏にお話を伺った。

目次
ソーシャルグッドを志向するZ世代の若者たち
起業家精神溢れる人材を育んできた
ベンチャー経営者たちから多くを学んだ
企業に属して起業家精神をもつことも可能
日本には社会貢献を重視する風土がある

ソーシャルグッドを志向するZ世代の若者たち

「今、企業が優れた若者を採用したい、優れた若者に長く働いてほしいと思うなら、まず経営者が自己変革をする必要があると思います。社会を良くすること、地球のためになることを、何より優先する経営者になるのです。そして経営者が中心となり、組織を同じようにソーシャルグッドを大前提とした集団に変えていくのです。そのくらい大胆に経営者と組織が変わらない限り、優れた若者たちはその企業を選ばなくなるでしょう。

なぜなら、私は最近、Z世代(1996~2012年に生まれた世代)とよく接するのですが、彼らのなかではビジネスとソーシャルグッドがごく自然に融合しており、社会を良くすること、地球のためになることが、働く上での大前提となっているからです。私たちは彼らのことを『ソーシャルネイティブ』と呼んでおり、いよいよそういう世代が台頭してきていることを実感しています。

彼らは、建前や付け焼き刃で、『SDGsを大事にしている』『ソーシャルビジネスに注力している』などと語る企業には、たとえ入社しても、すぐに辞めてしまうでしょう。実際、私はそういう若者を何人も見ています。彼らは、CSRに力を入れているくらいでは納得しません。Z世代は総じて情報収集能力が高く、嘘や建前や付け焼き刃を鋭く見抜くセンスがあります。ですから、今後の日本企業は、ビジネスとソーシャルグッドを本当にしっかりと接続させる必要があると思います」

なぜ宮城氏がこうしたことを、説得力をもって語れるかといえば、「ソーシャルビジネス」や「社会起業家」という言葉ができるずっと前から、その現場を見つめてきたからだ。

起業家精神溢れる人材を育んできた

宮城氏がETIC.を立ち上げたのは、1993年のことだ。当時の日本には、ソーシャルビジネスや社会起業家という言葉はおろか、ベンチャー企業を立ち上げるという選択肢すらほぼなかった。「私は1972年生まれの団塊ジュニアです。団塊ジュニア世代は、日本史上初めて、物質的な豊かさのなかで生まれ育った世代です。もし明治維新の志士たちが現代日本にワープしたら、ユートピアだと思うはずです。私世代やそれより年下の皆さんは、人類が長らく追い求めてきた夢が成就された社会で生まれ育ったのです。

そんな私は、子どもの頃から、親や祖父母の世代の価値観に違和感を覚えていました。彼らは物質的な豊かさを成功と考え、一生懸命働いてきました。しかし、私は物質的な豊かさに囲まれながら、それを幸せや成功とは感じられなかった。親や祖父母たちと同じようなモチベーションでは生きていけないと思っていました。

早稲田大学の仲間たちも、多くは私と同じように感じているようでした。前世代に反発し、政治やメディアや社会を変えたい、好きなように音楽や演劇をやりたいと、思い思いに活動していました。ところが、就職活動の時期が来ると、みんな一斉に偏差値ゲームに戻って大企業に入っていくのです。そうした先輩方がサークルの集まりに顔を出すと、仕事の愚痴を言う。その姿を見て、私はああはなりたくないと感じていました。

ベンチャー企業の存在を知ったのは、そんなときです。起業するという生き方を知り、興味をもちました。そこで、ベンチャー企業の経営者の講演会を開きました。それ以来、私がやってきたことは大きく変わっていません。一貫して、起業家精神(アントレプレナーシップ)溢れる人材を育む活動を続けてきたのです」

ベンチャー経営者たちから多くを学んだ

「起業家精神溢れる人材を育む」というETIC.の精神は、創業以来変わっていない。しかし、そのやり方は、時代によって変遷してきた。

1990年代のキーワードは、「ベンチャー」だった。ベンチャー経営者の勉強会を開いたり、スタートアップの起業を支援したり、インターンシップとしてベンチャー企業やスタートアップに若者を送り込んだりする活動を行った。ITバブルに乗じて次々に登場したITベンチャー企業と共に、ETIC.の輪も大きくなっていった。

「ソフトバンクの孫正義さん、パソナの南部靖之さん、エイチ・アイ・エスの澤田秀雄さん、ワタミの渡邉美樹さんといった方々を勉強会にどんどんお呼びして、自由で主体的な生き方やチャレンジの仕方などを語っていただきました。

私も周囲も本当に多くの刺激を受け、たくさんのことを学びました。当時はベンチャー経営者の話す場が多くなかったこともあり、多くの経営者の方がボランティアでも喜んで参加してくださり、次の講演者を紹介してくださいました。この頃の勉強会の参加者からは、メルカリの山田進太郎さん、トレジャーファクトリーの野坂英吾さん、クックパッド創業者の佐野陽光さんなど、現在大活躍している経営者もたくさん生まれています」

やがて、ETIC.は勉強会に加えて、インターンシップ事業を始める。「仲間のなかに、急激に成長する者が出てきました。彼らは、ベンチャー経営者に弟子入りしてカバン持ちをしたり、アルバイトとして経営者の近くで働いたりしていたのです。彼らを見て、起業家やリーダーを育てるにはインターンシップを仕組み化するのが今できる一番の近道ではないかと考えました」

インターンシップ事業は、今もETIC.の一翼を担っている。「若者たちが、インターンシップでビジネスや地域の現場に入ってさまざまな人と出会い、困難に立ち向かうなかで、自ら何かに気付き開眼していく瞬間に立ち会うのは、この仕事をしていて最も嬉しいことの1つです」

企業に属して起業家精神をもつことも可能

その後、2000年代に入って、ETIC.は大きく方針を転換する。ベンチャー企業やスタートアップの支援から、新たに広まってきたソーシャルビジネスや社会起業家の支援に重心を移したのだ。「私はもともと、起業家=自分の志に生きる人と捉えていました。起業家=ベンチャー企業の社長とは思っていなかったのです。むしろ、一獲千金の成功者になろうとする若者は、日本にはさほど多くないと感じていました。例えば当時から、NPOやNGOは、インターンシップ先としてはそれなりの人気があったのです。社会を良くしたいという志をもって行動するソーシャルビジネスや社会起業家にフォーカスするのは、自然な成り行きでした。

1つ、直接的なきっかけがありました。ETIC.に来ていた、今でいう社会起業家のような人がいたのですが、彼が交通事故で亡くなったのです。彼はその仕事をしながら、夜はアルバイトを掛け持ちする日々を過ごしており、それが彼の命を縮めることになってしまった。私はそれを見て、社会を良くしたいという想いをもつ人が、内職で糊口をしのぐことなく全力でそれに向き合えるよう、社会を良くすることをもっとビジネスとして成立させられないだろうか、と真剣に考え始めたのです。そうしたら、ソーシャルビジネスや社会起業家といった概念が現れた。これだ、と思いました」

さらに、最近のETIC.は、企業内・行政内の起業家人材を育成する取り組みや、学校教育を変革する取り組みにも果敢にチャレンジしている。「繰り返しになりますが、私たちが行いたいのは、起業家精神溢れる人材を育むことです。以前から、企業や官公庁に属しながらでも、起業家精神をもって自分のやりたいことを能動的に推し進めることはできる、と考えていました。ですから、企業や行政の現場で起業家精神を広めるのは、私たちの大事な役割の1つだと捉えています。

それから、教育について言うと、今の日本の教育は、小学校から大学まで一貫して『創造性を閉じる教育』になってしまっていると思います。私は、一人ひとりが能動的に創造性を発揮できる教育、起業家精神を育める教育を実現したい。そのためには教育界の構造を変革する必要がある。そのために、文部科学省の若手官僚の有志の皆さんと連携しながら、少しずつ私たちも行動を始めています」

日本には社会貢献を重視する風土がある

そんな宮城氏が、今の日本企業に対してどのような想いをもっているのかは、冒頭で紹介した。最後に、その続きを述べて終わりたい。

「この1、2年、『SDGsバブル』『ESG投資バブル』といってよいほど、日本企業もSDGsスコアやESG投資に注目するようになってきました。私は、それは良いことだと捉えています。なぜなら、本物を生み出すには、バブルを経る必要があるからです。2000年前後、初めてITは儲かるとなり、ITバブルが起こったからこそ、玉石混交のなかから、優れたITベンチャーがいくつも生まれました。同様に、SDGsバブルやESG投資バブルは、SDGsやESG投資を本当に重視する会社を生み出し、社会を進化させていく上で必要だと思っているのです。

とはいえ、グローバル企業と比べると、日本企業の反応はやはり少し鈍いように見えます。しかしながら、日本には、『稼ぎと務め』というように、社会貢献を重視する風土があります。そもそもナチュラルに、ソーシャルグッドを大切にしてきた先人の歴史の上に、今の繁栄があると思うのです。その心を改めて思い出すタイミングではないでしょうか」

【text :米川青馬】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.60 連載「Message from TOP 経営者が語る人と組織の戦略と持論」より転載・一部修正したものである。
RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
宮城治男(みやぎはるお)氏
NPO法人ETIC. 代表理事

1993年、早稲田大学在学中に、ETIC.学生アントレプレナー連絡会議を創設。2000年にNPO法人化して代表理事に就任。以来、ETIC.の「仙人」として、ETIC.から生まれた1600名以上の起業家を見守りつづけている。

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