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THEME 組織開発

インタビュー神戸大学 服部泰宏氏

オンライン面接では人間性や相性を伝え合う「冗長性」を注視せよ

オンライン面接では人間性や相性を伝え合う「冗長性」を注視せよ

職場の信頼を考える上で重要なキーワードの1つが、「心理的契約」だ。『採用学』で知られる服部泰宏氏は、日本企業の心理的契約にも詳しい。そこで服部氏に、日本企業の心理的契約の変遷、現在の企業動向から見た今後の心理的契約の行方について伺った。

長期雇用⇔滅私奉公という心理的契約が溶けてなくなった

経営学には「心理的契約」という概念があります。文書化された法的な契約とは別に、組織と個人の間に成立している、必ずしも文章化されない相互期待のことです。心理的契約は言葉にはなっていなくとも、裏切ると相手の信頼を失います。法的契約同様、互いに守る必要があるのです。

私は、従来の日本企業の心理的契約を「2階建て」のイメージで捉えています。1階には、企業が従業員の雇用を長期間(可能ならば定年まで)終身的に守る一方で、従業員は企業に滅私奉公して、転勤・異動・出向・昇進などの辞令に従う、という心理的契約がありました。その上の2階に、キャリア開発・能力開発・出世・昇給といった従業員から企業への具体的な期待があったのです。

つまり、以前も2階部分の期待がまったくなかったわけではないのです。しかし、1階部分の比重が大きかったため、日本企業の従業員の多くは長期的雇用さえ守られていれば、2階部分の期待をさほど強く打ち出してきませんでした。これが以前の日本企業の心理的契約のあり方でした。

しかし、1990年代の平成不況以降、1階部分の重要度が徐々に下がってきました。

そこにはいくつかの理由があります。1つ目に、大企業の倒産やリストラが増えたことで、大企業に入れば長期間雇用してもらえて、安心安泰というカテゴリ的な信頼感が失われてきたことがあります。また、企業も長期雇用をする余裕がなくなり、それを約束できなくなってきました。

2つ目に、従業員が長期的な雇用を以前よりも重視しなくなってきました。そのため、長期雇用と引き換えに滅私奉公する、という心理的契約が成り立たなくなってきたのです。

こうした理由から、1階部分の心理的契約は少しずつ溶けていきました。私は2010年頃には、ほぼ溶けてなくなったと認識しています。その結果、2階部分が前面に出てきました。日本のビジネスパーソンは、「早く成長させてほしい」「希望する職種に配置してほしい」「結果を出しているのだから、給与を上げてほしい」といったことを、よりはっきりと期待するようになったのです。

これは例えば、大学生の就職人気ランキングを見ると分かります。今、上位大学の就職人気ランキングでは、いくつかのコンサルティングファームが高順位に入っています。これなどは、長期間雇用してほしいと考える学生が減り、3年後に実力をつけたいと考える学生が増えた端的な証拠です。今の学生は、充実したキャリア教育を受けており、企業の寿命が20年ちょっとであることなどを知っています。遠い未来を心理的に漠然と約束する会社よりも、近い未来に対する期待にしっかり応えてくれる会社の方が信頼できると分かっているのです。そうした企業を選ぶ学生やビジネスパーソンが確実に増えています。

まとめると、この30年ほどで、日本企業と従業員の心理的契約の内容が変わり、長期的な雇用よりも、短期的な成長や給与がより重要になってきた、というわけです。

だからといって、学生やビジネスパーソンが安定志向でなくなったわけではありません。私が学生に聞く限り、安定した人生を送りたい気持ちは今もさほど変わりはありません。ただ彼らは、大企業に頼るよりも、若いうちに実力をつけた方が安定した人生が送れると考えているのです。

人間性や相性などはオンライン面接では見えにくい

では、今後の日本企業の心理的契約はどうなっていくのでしょうか。私の専門である新卒採用の現場で今起こっていることをお話しします。

2020年のコロナ禍によって、オンライン会議システムが普及し、採用説明会や採用面接もほとんどがオンラインに切り替わりました。最終面接だけは対面で行う会社や、採用担当者やリクルーターがカフェなどで学生の相談に乗っている会社は一定数ありますが、2020年の新卒採用は、基本的に全局面でオンライン化しています。

その結果として分かってきたことの1つは、オンライン面接でも、能力面の判断は対面面接と遜色なく行える、ということです。志望動機や大学で学んだことなどは、ビデオ会議ツール越しでもしっかりとヒアリングできるわけです。

ただ一方で、曖昧で言葉にならない人間性や相性などは、オンライン面接では見えにくいことも明らかになってきました。なぜなら、対面面接の前後に行っていた無駄話が、オンライン面接ではカットされがちだからです。「趣味は何か」「芸能人だと誰が好きか」「今どんなことに興味があるか」というような、プライベートの些末なことを話す時間が失われたのです。私はこの時間や、そこから得られる情報を「冗長性」と呼んでいます。

今、採用担当者の多くが、冗長性の重要さを噛み締めています。能力面だけが分かっても、従来の選考判断ができないからです。例えば、志望動機や大学で学んだことを話すのはそこまで上手ではないけれど、世間話をしてみると魅力的な一面が見えてくるタイプの学生もいます。果たしてこのタイプを採用しなくてよいのか。採用担当者の多くが、そうしたことで悩んでいます。

この対応策には、大きく2つの選択肢があります。1つは能力面だけを見て、冗長性を見ない採用に振り切る方向性。もう1つは、何とかしてオンライン面接に冗長性を取り入れる工夫をする方向性です。私が知る限り、前者を選ぶ会社は多くありません。大半の会社が、冗長性を取り戻そうと試行錯誤しています。例えば、面接の最初に簡単なゲームをしたりしている会社があります。

まとめると、コロナ禍は、採用コミュニケーション上で(おそらくはそれ以外の局面でも)、冗長性を排したタスクベースの心理的契約の志向を強める可能性があります。ただ、現状は劇的な移行は進んでいません。反対に、オンライン面接にゲームを取り入れるなどして、冗長性を維持した関係づくりに挑戦する企業も少なくないようです。

学生の得られる情報が減りシグナリング効果が強まった

新型コロナウイルスは、学生の就職活動も大きく変化させています。2020年は、学生が得られる情報が急減しました。リアルな会社訪問やOB・OG訪問ができなくなり、面接はオンラインになって回数が減り、合同説明会もなくなったためです。

もちろん、今はネット上に企業情報がたくさんあります。しかし、実は学生にとっても、就職先を選ぶ上では「冗長性」が重要なのです。会社のオフィスがどんな雰囲気なのか、どのような人たちがいるのか、といったことは、実際に会社を訪問したり、社員に会ったりしなければ分かりません。この会社とは何となく相性が良さそうだ、という感覚は、ネット上の情報だけではなかなか得られないのです。学生たちも悩んでいます。

その結果、私は「シグナリング効果」の影響が強くなっている、と感じています。シグナリング効果とは、情報をもつ側(企業)がもたない側(学生)に少しでも情報を開示すると、情報をもたない側は、その希少な情報をシグナルと感じ、それを基にさまざまな推測をするという効果です。

例えば、何人かの学生は、ある企業が「最終面接だけは本社で対面面接したい」と言ってきたとき、その理由を明確に伝えられなかったために企業を信用できなくなったと語っていました。情報が少ないために、こうしたちょっとした情報の量や質の違いが学生にとっては大きなシグナルとなり、信頼を上下させているのです。企業は細心の注意を払って学生と接する必要があります。

ただ私は、対面面接を止めた方がいい、と言いたいわけではありません。実際、対面面接を経て、その会社の大ファンになった学生もいます。対面の重要性をしっかりと説明し、充実した面接を行えば、大きなプラス効果になる可能性も秘めているのです。やはり、直接会うことに安心感や納得感があることは間違いありませんから。

メンテナンスマネジメントやイグジットマネジメントも重要

主に採用の話をしてきましたが、心理的契約は長く守らなくてはならないものですから、採用時に完了するわけではありません。採用を「エントリーマネジメント」だとすれば、入社後の「メンテナンスマネジメント」や、退社時の「イグジットマネジメント」もまた重要です。

例えば、多くの社員に長く働いてもらいたいと思ったら、結婚・出産・育児などのライフイベントに合わせて、会社側がキャリアの調整を行う必要があるでしょう。そのために、AOKIは「ギアチェンジパッケージ」という人事制度を導入しています。家庭事情(育児、介護、看護)などを踏まえて、社員の希望によって働き方のギアチェンジができる制度です。こうした制度がメンテナンスマネジメントに寄与します。

また、イグジットマネジメントに効果的なのはアルムナイ(OB・OG会)です。最近、出戻りや再就職が増えている会社がありますが、その多くがアルムナイを重視しています。退職後も一種の心理的契約を続けることが、会社にとってプラスになる可能性が十分にあるのです。

【text:米川青馬】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.60 特集1「リモート時代の職場の信頼」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
服部 泰宏氏
神戸大学 大学院経営学研究科 准教授

2009年、神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。滋賀大学経済学部准教授、横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授を経て、2018年より現職。『採用学』(新潮社)、『組織行動論の考え方・使い方』(有斐閣)、『組織行動』(共著・有斐閣)などの著書がある。

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