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THEME 理論/技術

インタビュー北海道大学 結城雅樹氏

関係流動性の高い社会では信頼を高めるためのスキルや行動が重要だ

関係流動性の高い社会では信頼を高めるためのスキルや行動が重要だ

with/afterコロナ時代の労働環境は、これまでよりも流動的で非空間共有的だ。そのなかで信頼関係を構築する上で、私たちは何に留意したらよいのだろうか。社会環境の性質と人間の心理・行動との関係について先進的な研究を進めている結城雅樹氏にお話を伺った。

日本人は相手を信頼せずにただ安心しているだけ

社会心理学では、信頼を「一般的信頼」と「個別的信頼」に分けて捉えます。個別的信頼とは、あの人やあの会社、自分など、特定対象に対する信頼です。対して一般的信頼とは、人間一般に対する信頼、つまり「人間は基本的に正直だ」と考えることです。性善説と言ってもよいでしょう。

現代日本社会の信頼について先駆的に研究してきた山岸俊男氏は、日本人とアメリカ人の一般的信頼を調べました。そうしたら実は、個人主義的なアメリカ人の方が、集団主義的な日本人よりも一般的信頼が高かった。アメリカ人の方が性善説に依っていたのです。意外ではないでしょうか。

それはなぜか。開放的社会で対人関係の選択の自由度が高いアメリカでは、新たな出会いが即チャンスにつながる可能性があるからです。見知らぬ相手を恐れていては、機会を逃してしまうかもしれません。そこでアメリカ人は、「人間は基本的に正直だ」と信じることで、未知の人物とも恐れずにコミュニケーションしようとするのです。反対に日本は、対人関係や所属集団がいったん決まると、そこから離脱することが困難な傾向があります。こうした社会では、周囲との関係を悪化させないことが最優先されます。仲間外れになるダメージが大きいからです。また、出会いがチャンスになる可能性が低く、一般的信頼を高める必要性が高くありません。簡単に言えば、日本人は相手が正直だと思っているのではなく、相手は周囲の目があるから裏切れないと思っているのです。

山岸氏は、アメリカのような社会を「信頼社会」、日本のような社会を「安心社会」と呼びました。日本人は相手を信頼せずに、ただ安心しているだけだ、というわけです。

関係流動性の高低によって対人行動のパターンが異なる

この対人関係の選択自由度を、私は「関係流動性」と名づけました。自分が相手をどう評価するか、という山岸理論が、自分をどう見せるかの違いにも適用できるのではないかと考えました。

関係流動性が高く、対人関係を自由に選べる社会に生きるアメリカ人は、総じて自己評価が高くて自信に満ち、自己プレゼンテーションが上手で専門性や強みやユニークネスを追求する傾向があり、積極的に自分を売り込みます。それによってチャンスを掴める可能性が大きいからです。

一方、関係流動性が低い日本社会の私たちは、先ほども触れたように対人関係の悪化や仲間外れを嫌い、周囲の目を気にして、失敗や批判や揉めごとを回避する傾向が顕著に見られます。また、自己利益の主張や意見の対立も避けがちです。

さらに最近では、関係流動性が他の場面でも違いとして表れることが分かってきました。例えば、アメリカ人はボランティアや人助けに積極的で、自らの援助行動をアピールしがちです。私は以前、アメリカの空港でお年寄りが転倒したところに遭遇したのですが、皆が助けようとして人だかりになっていました。こうした光景は日本ではまず見られません。日本人は、自分が目立って援助行動することに抑制的ですから、大勢が遠巻きに見るなかで近くの何人かが助けるケースが多いのです。それどころか、ボランティアや寄付を隠したがる性質すら見られます。日本では援助行動のアピールがチャンスにつながらないからでしょう。

また、アメリカ人も日本人も、相手を批判したがる面がある点は共通しているのですが、アメリカ人は批判だけでなく、賞賛や賛成のメッセージも明確に発信します。フェイスブックはつい最近まで、賛意を示す「いいね」ボタンしかつけていませんでしたが、大変アメリカ的です。対して日本人は、賞賛や賛成を表明する行為が少ない。これも関係流動性が影響しています。アメリカ社会では、相手を高く評価していることを伝えないと離れていってしまうのです。

なお、私の研究室で行った世界39カ国比較研究では、世界的に見ても、日本の関係流動性は最低レベルでした。また実は、39カ国で稲の作付面積が大きいほど、関係流動性が低いということも分かっています。どうやら稲作と関係流動性は関係しているのです。稲作は地域全員が協力して、すべての水田に同じように水を引く灌漑設備を整えなくてはなりません。そのため、どうしても地域の関係性が強固になる半面、自由度が低くなるのです。これが、稲作の国・日本の関係流動性が低い大きな要因の1つと考えられます。

個人は信頼獲得スキルを高めて、組織は褒める文化を育てよう

とはいえ、近年は日本でも関係流動性が徐々に高まってきています。核家族化が進んで離婚が増え、転職も珍しくなくなりました。

では、今後の日本の関係流動性はどうなるのでしょうか。2つのシナリオがあります。シナリオ1では、関係流動性は引き続き増えます。シナリオ2では、関係流動性は増えないか、もしくは減ります。なぜシナリオ2があり得るかといえば、第一に、文化には「固着性」という性質があり、簡単には変わらないからです。ただややこしいことに、文化にはパッと変わる点と固着する点の両方があり、関係流動性がどちらなのかははっきりしません。固着する場合、原因として考え得るのは、主体的に考え、行動するスキルの欠如です。そうしたスキルが低い日本人が多いために、転職や流動がなかなか進まない可能性があります。

第二に、周囲の意見が見えないために、多くが行動を変えず、そのために社会がなかなか変わらない可能性があります。どういうことかといえば、例えば、ある研究で「男性社員の育休をどう思いますか?」と尋ねると、男性の半数以上が「賛成」と答えました。ところが「あなたの会社の他の社員は、男性社員の育休をどう思っていると思いますか?」と尋ねると、「賛成している」と答える男性はとても少ないのです。つまり、自分は男性社員の育休に賛成だけれど、周囲は反対していると誤って思い込んでいるわけです。これが、男性の育休が増えない理由の1つと考えられます。同様の現象がさまざまな場面で起こる可能性があります。

とはいえ、日本の関係流動性が高まることも十分に考えられますから、それに各自が予め備えておく必要はあるでしょう。例えば、自己評価や自信を高め、少々の失敗にめげないようにすること。どこでも通用するような専門的な技能や能力を磨くこと。自らの強みやユニークネスを理解して深めること。自己プレゼンテーション力を上げること。今後は、こうしたスキルや行動が身を助けるはずです。

これらの「信頼獲得スキル」は、テレワーク下では特に重宝されるでしょう。なぜなら、日本でもテレワーク下では離合集散が日常的に起こるため、関係流動性が高まり、信頼がこれまで以上にものを言うからです。自らが課題達成能力をもつこと、相手に対して協力する意図があること、目標が共有されていること、これらをお互いに保証し合うことが重要になるでしょう。

一方で、日本企業に求めたいのは、「褒める文化づくり」です。先ほども触れたとおり、相手を的確に賞賛することは、高流動性社会では極めて重要で、仲間の信頼や結束を強めます。評価の高い社員をおおっぴらに褒めて、誰がなぜ褒められたかを社内で共有することは、会社−社員間や社員同士の信頼向上に間違いなくつながるはずです。

【text:米川青馬】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.60 特集1「リモート時代の職場の信頼」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
結城 雅樹(ゆうき まさき)氏
北海道大学 大学院文学研究院・社会科学実験研究センター 教授

東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。専門は社会心理学、文化心理学、社会生態心理学。著書に『よくわかる社会心理学』(共著・ミネルヴァ書房)、『文化行動の社会心理学』(共著・北大路書房)、訳書に『名誉と暴力』(共訳・北大路書房)などがある。

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