コラムCOLUMN

THEME キャリア自律

インタビュー成城大学 青山征彦氏

学び合いの仕組みや共通言語を作ることが自律を支える

学び合いの仕組みや共通言語を作ることが自律を支える

社員の自律を促すには、何をどのように学んでもらうのがよいのだろうか。そのために、組織はどう変わればよいのだろうか。学習心理学・教育心理学の専門家で、職場での学習や越境にも詳しい青山征彦氏に、個人の自律を支える学びの仕組みについて伺った。

組織・人事ができることは中長期的な環境づくり

社員の自律を促すなら、まずは組織トップや経営陣が率先して自律的に行動し、見本を示すことが肝要だと思います。その上で「学び合い・支え合いの仕組み」や「共通言語」を備えた組織を作っていくことが、社員の自律を支えるでしょう。

そうしたことを抜きにして「自律的に働こう」と呼びかけるだけでは、自律は進みません。そもそも、「自律的に動こう」と言われて動くことは自律的ではない。組織や人事の皆さんができることは、中長期的な環境づくりに尽きると思います。

趣味を下支えする仕組みが趣味人口を増やしている

本題に入る前に、私が最近行っている「趣味の学習」の研究を紹介します。趣味は基本的に極めて自律的で、しかも長続きする傾向が強い。職場の自律を考える上で参考になると思います。

私は今、アクセサリーづくりを趣味にしている方々が、なぜ始めたか、なぜ続けているかといったことを調査していますが、実は趣味を継続するのは、意志が強いからではないようなのです。

典型的なパターンは、もともと手芸専門店や100円ショップなどが好きな方が、たまたまYouTubeなどのSNSで「アクセサリーの簡単な作り方」動画を見て興味をもち、気軽に始めるケースです。その後、上級者のSNS動画などを参考にしながら、次第にのめり込んでいくのです。上達すると、欲しいアクセサリーを安価に自作できるようになる。そのこともモチベーションになっていきます。

もう1つ重要なのが、アクセサリーパーツ市場の存在です。実は今、手づくりアクセサリーのパーツショップが増えており、手芸専門店・100円ショップなどのパーツコーナーも大きくなっています。家や職場の近くにそうした店舗があると、ますます拍車がかかるというわけです。

趣味というと、個人的な嗜好や動機がモチベーションに直結する印象が強いと思いますが、実は一方で、SNSやパーツショップなどの「趣味を下支えする社会的な仕組み」が、アクセサリーづくりの趣味人口を増やしている側面もあるのです。

この研究を踏まえると、「自律を下支えする仕組み」を意識することが、自律を促す上で1つの大きなポイントとなります。

学び合い・支え合いの仕組みは横や斜めのつながりも作る

では、社員の自律を下支えする仕組みとは何か。私は、職場内の学び合い・支え合いの仕組みや共通言語だと考えています。

1つ目の「学び合い・支え合いの仕組み」とは、次のようなものです。ジャック・ワレンたちの研究によれば、あるコピー機の修理技術者を派遣するサービスセンターのオペレーターは、日々技術者から業務終了報告を受けるなかで、自然に技術知識を得ていました。また、私自身の研究事例では、机の島と島の間に固定電話を置いていたオフィスがありました。そうすると周囲の全員に、誰が誰といつ何を話したかを無意識に共有できるわけです。このことがチームの業務をスムーズに進め、若手社員が話し方や考え方を学ぶ上で役立っていました。この2つは、日常的に「耳勉強」するための業務・オフィスの設えです。

次に、ジュリアン・オールの研究ですが、コピー機の修理技術者たちは、昼食時・コーヒータイム・仕事終わりなどに集まって食事やトランプをして、そこで情報を提供し合ったり、問題の解決策を探ったりしていたそうです。タバコミュニケーションや飲みニケーション、研修後の懇親会なども同様の役割を果たします。こうした非公式な場でのコミュニケーションも、学び合い・支え合いの一種です。

こうした仕組みや場で自ら学ぶことは、社員の自律を促すベースとなるだけでなく、組織内の「横や斜めのつながり」づくりにも寄与します。これは短期的には役立ちませんが、あるとき突然生きることがあります。例えば他部署と協力する必要が出たとき、相手の部署に研修後の懇親会で話し込んだメンバーが1人いるだけで、協力体制の組みやすさが変わってくるはずです。

人事やマネジャーの皆さんには、こうした仕組みづくり・場づくりの試行錯誤をお勧めします。

自律的に働く第一歩はビジネスの全体像を知ること

2つ目の「共通言語」とは、ビジネスの全体像や意義を理解する上で欠かせない知識・概念のことです。最も分かりやすい共通言語は、企業のミッション・ビジョン・バリューです。

以前、私が視察したアメリカの若者支援団体では、ボランティアが「ヴィゴツキー理論」に通じており、共通言語として使っていました。しかし、ヴィゴツキー理論を教えるのは簡単ではありません。支援団体のトップに、なぜ手間暇をかけて理論を教えるのかと尋ねたところ、この理論を知っていると、ボランティア自身が何のために何をしているのかを深く理解でき、やりがいややる気が向上するからだと言っていました。

この視察で強く感じたのは、自律的に働く第一歩は、自らが関わるビジネスや業務の全体像・意義を理解することではないか、ということでした。ビジネスの全体像や業務の意義が見えなければ、誰しも自律的に動けないと思うのです。そして、それを知るには共通言語が欠かせません。

私は、「越境」の研究も行っているのですが、越境経験があると、「2つ以上の物差し」で物事を見られるようになります。例えば、A社からB社に転職した方は、B社のことをA社の視点でも考えられる。これが強みになるわけです。同様のことは、横・斜めのつながりや共通言語を得ることでも起こります。つまり、目の前の仕事から離れて、他部署や社外などに越境することで、組織全体のミッション・ビジョンやビジネスの全体像をより多角的に眺め、業務の意味や存在意義をより深く理解できるようになる。そうなればなるほど、社員は自律的になっていくはずです。

最後に、ヴィゴツキー理論について簡単に説明します。ヴィゴツキーはロシアの心理学者で、「発達の最近接領域」を唱えました。発達の最近接領域とは、子どもと親・家族が共同で行う環境づくりのことです。幼児が話したり書いたりするとき、親・家族はそれを何とか理解しようとします。例えば、子どもがクレヨンでなぐり書きした紙を持ってきたら、親は「お手紙を書いてくれたの?」などと言いながら受け取るはずです。ヴィゴツキーは、そうしたやり取りの積み重ねによって、最終的に子どもが手紙を書けるようになるのだ、と言います。子どもは親・家族の下支えによって、いろいろとできるようになるのです。

アメリカのホルツマンという研究者は近年、「大人も一緒だ」と考えています。趣味でも仕事でも、私たちは周囲の下支えの仕組みのもとで、初めて自律的に動き、新たにチャレンジできるのです。

このとき重要なのは、「場の変化と子どもの変化は同時進行だ」ということです。子どもの成長を促しながら、親・家族もある意味で成長し、子どもと一緒になって場を変えていきます。企業も同様で、社員の自律性が高まることと、社員の自律を支える方向に職場が変わることが同時並行で進むのがベストです。具体的に言うと、一部のスター社員だけが活躍していた部署が、全員が活躍できる仕組みの部署に変わっていく。そのなかで社員たちが自律的に行動を起こし、次々にスターが生まれていく。そのような組織が理想的です。

【text:米川青馬】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.59 特集1「自律的に働く」より抜粋・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
青山 征彦(あおやま まさひこ)氏
成城大学 社会イノベーション学部 心理社会学科 教授

1998年筑波大学大学院博士課程心理学研究科単位取得退学。専門は認知科学、認知心理学、科学技術社会学、教育心理学。著書に『スタンダード学習心理学』(サイエンス社・共編著)、『越境する対話と学び』(新曜社・共編著)、『状況と活動の心理学』(新曜社・共編著)など。

関連コラム

おすすめダウンロードレポート

関連する無料セミナー

セミナー
WEB:10月29日、12月17日 「ディスカバリー」プログラム説明会
  • 新人・若手層の早期戦力化
  • キャリア自律
セミナー
  • 新人・若手層の早期戦力化
  • キャリア自律
  • 営業力強化

関連するサービス

関連するテーマ

関連する課題