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THEME キャリア自律

インタビュー法政大学 小川憲彦氏

組織に適応しながら染まりきらずに自分らしさを発揮する

組織に適応しながら染まりきらずに自分らしさを発揮する

組織内で「自律的に働く」というのは、組織からの期待に応えるために、自ら積極的に考えたり、行動を起こしたりすることだ。組織行動学では、このことを「組織社会化におけるプロアクティブ行動」と呼ぶ。この研究に詳しい小川憲彦氏にお話を伺った。

受動的に組織に染まりきるのはあまり健全ではない

「組織社会化」とは、一言で言えば、組織内の役割期待や役割規範を身につけて、組織に適応していくプロセスのことです。企業でいえば、新人が仕事を覚えて職場に馴染んでいく過程が、まさしく組織社会化そのものです。

「プロアクティブ行動」とは、もともとはこの組織社会化の文脈で使われ始めた概念だと思います。企業の皆さんは毎年、新入社員に対して新人研修やOJTなどを用意して、早く一人前の企業人になれるよう彼らの社会化を促しています。古典的な組織社会化研究では、新入社員を白紙のメタファーで捉え、組織からの適応を促す働きかけ(組織社会化戦術)に従って、職務遂行スキルに加え慣習や価値観などを身につけ、その会社の色に染められる姿を前提としていました。

しかし新人は、受け身に会社の教義に染められる白紙などではなく、彼ら自身で考え行動する存在である。つまり、情報を集めたり、周囲に質問したりしながら、自ら主体的に組織に馴染もうとしている側面があります。組織社会化の研究では、このように組織社会化の渦中にいる個人が主体的・自律的に起こす適応行動を「プロアクティブ行動」といいます。マネジリアルな視点からなされていた組織社会化研究が、組織で働く個人の視点から補強されるようになったというわけです。

プロアクティブ行動は、組織社会化の文脈を離れ、個人が積極的に行動する様子、現状を変革する様子、あるいは未来志向の先取的な諸行動全般を指すようになっています。組織社会化を促す原因(説明変数)であったプロアクティブ行動の概念は、現在では、むしろ組織社会化などを通じて習得される結果(被説明変数)へとシフトしているともいえます。

しかし実は、こうした組織社会化の成果としての個人主体の行動は、古典的組織社会化研究のなかですでに指摘されていました。組織社会化戦術研究における役割変革志向(目標の遂行方法や時には目標自体を変えるような役割習得のあり方)や「創造的個人主義」といった概念がそれに当たります。

この領域の先駆者であるJ.ヴァン=マーネンやE.H.シャインなどは、組織に適応することを比較的ネガティブに考えていました。誰もが受動的に適応してしまうと、組織が同質な人材の集まりになってしまい、強い組織とはいえなくなってしまうからです。とはいえ、ある程度は染まらないと職場内で十分に実力を発揮できません。組織社会化に完全に反抗する社員では困るのです。

彼らは、「組織に適応しながら、染まりきらずに自分らしさを発揮する」ことを理想の状態と考えました。そうした状態を「創造的個人主義」と呼びます。創造的個人主義の状態であるためには、組織からの働きかけ(社会化の作用)に沿った既存ルーティンの学習と共に個人のプロアクティブ行動(主体的・自律的態度)の発揮が欠かせません。

組織・ビジネス変革も新人のプロアクティブ行動から

現代的、すなわち、より広い意味でのプロアクティブ行動を少し具体的に考えてみましょう。

新人や若手社員のプロアクティブ行動は、仕事の進め方を少し変えてみるといった職務レベルの小さな工夫が中心になります。しかし実は、そうした小さな工夫が、のちのち大きな工夫や変革を実施する訓練になります。専門的にいえば、そのような成功経験の積み重ねが変化を起こすことへの自己効力感を高めます。社員のプロアクティビティを早くから継続的に育んでいくことが大切です。若手のときには「言われたことに黙って従う」ことを期待しながら、管理職になって突然、「変革を主導せよ」と求めても難しいわけです。若い頃に形成された態度はそう簡単に変わるものではありません。組織社会化、すなわち組織参入直後の態度形成に注目がなされた理由はここにあります。

現在はリモートワークが主流の会社が増えていると思いますが、「仕方ないから、何とか対応しよう」と事態を受動的に受け止めるか、「実はチャンスかもしれないから、新たな試みを始めよう」と事態をプロアクティブに捉えるかでそのあとが変わってくるかもしれません。環境の変化にただ合わせようとするか、環境の変化に応じて自ら環境に手を加えようとするか。そうした向かい合い方の違いは、一朝一夕で身につくものではないのです。

自己イメージの学習がプロアクティブ行動を促す

今さら新人時代に戻ることができるわけではない人事やマネジャーの皆さんは、自分の、あるいはメンバーのプロアクティブ行動を促すために何ができるのでしょうか。自らプロアクティブに試行錯誤するしかないのですが、組織行動学をベースにして、4つのヒントを提示したいと思います。

1つ目は、モチベーション理論を参考にする方法です。クルト・レヴィンは、「接近欲求(対象に接近したい欲求)」と「回避欲求(対象から逃れたい欲求)」の2つの欲求を想定しました。この理論を踏まえると、接近欲求を高めて回避欲求を下げることができれば、社員の皆さんのプロアクティブ行動を促すことができるはずです。

具体的には、プロアクティブ行動を起こした社員がより高い評価やインセンティブを得られるようになれば、接近欲求を高められるでしょう。具体的な形として評価や報酬につながることが肝要だと思います。

一方、回避欲求を下げるには、プロアクティブ行動の失敗に罰を与えないことです。つまり、失敗しても評価が下がらないようにしたり、むしろ、挑戦の結果であれば褒めるような制度や風土の醸成が大切です。プロアクティブの対義語がリアクティブ(受け身)だとすれば、これを回避したくなる環境づくりも1つの手段でしょう。リアクティブのアンラーニング(学習棄却)を促すのです。何かを得るためには何かを手放すことも重要です。

2つ目は、「能力のシェアリング」や「メンバーの組み合わせ」をよく考慮することです。私が見る限り、プロアクティビティの高さには学生時代からはっきりと差があります。積極的に行動して、へこたれずにチャレンジを続ける学生もいれば、どうしても受け身になってしまう学生もいます。就職したからといって突然プロアクティブにはなりにくい。しかし、受動的な社員にも何かしら長所があるはずです。船頭を多くして、皆がプロアクティブに、というよりも、新しい方向性を示す人材と共に、その実務をサポートしたり、着実に地ならしを行ったりする人材を組み合わせる。1人ではできないことを皆で成し遂げる仕組みが組織です。複数の人間から生まれる相乗作用が組織マネジメントの醍醐味でしょう。

3つ目は「自己イメージの学習」です。私の研究では、組織個人化行動といっていますが、仕事経験のなかで学習された強みや興味、価値観といった自己イメージが、役割遂行に変化をもたらす指針として機能することが示唆されています。実は組織社会化は新人、中堅、管理職、あるいは転職など、役割変化にともなって継続的・永続的に繰り返されるプロセスで、何も新人に限った現象ではないのです。組織社会化は組織の知見を個人に内面化していくプロセスですが、自らの色(持ち味)と統合することで新しい方向性が生まれます。その意味でキャリアの振り返りや内省といった機会は重要です。

最後は、プロアクティブな上司の下に配置することです。変革志向の人材は、変革志向の人材が育てるという側面があります。役割モデルの存在やメンターは態度の学習において重要なファクターであることが知られています。

【text:米川青馬】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.59 特集1「自律的に働く」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
小川 憲彦(おがわ のりひこ)氏
法政大学 経営学部 経営学科 教授

2006年神戸大学経営学研究科修了。博士(経営学)。専門は経営組織論、組織行動論、キャリア論。著書に『日本のキャリア研究組織人のキャリア・ダイナミクス』(共著・白桃書房)、『ビジネス心理検定試験公式テキスト(1:基礎心理編)』(共著・中央経済社)など。

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